〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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待ちくたびれた頃に、やっとバスがきた。行く先の表示を見たら、「Xマス」となっている。
Xマス――クリスマス? そんな地名がこの辺りにあっただろうか。
ともあれ、念の為に路線図を見れば、目的地は確かに経由するらしい。それでなくても、こんな田舎道でこれ以上待たされるのは真っ平だと、私はバスに乗り込んだ。
乗客が殆ど居ないバスの中程に、私は席を得た。田舎の親類の家に久方振りの挨拶に来たはいいものの、今時これ程不便な所だったとは。やれやれ、と息をついていると、二つ前の席の老人が振り返った。
「ほれ、あんた、早く振ってくれんと先に進まんがね」些か訛りのある発音ながら、そう言っているのは解った。
解らないのは、言葉の内容の方だ。
「振る? あの、一体何を?」きょとんとして、私は尋ねた。
思わず辺りを見回せば、他の乗客も何か急かす様な目をして、私を見ている。運転手さえも、ハンドルを握った儘、しかしバスを停止させた儘で私を注視しているではないか。
途惑うばかりの私に、老人がほれ、と私の斜め後ろ辺りを指差して促した。そこには座席は無く、ぽつんと、白い立方体があるだけだった。
立って行ってみれば、その立方体には幾つかの黒い点と、たった一個の赤い点が記されていた。詰まり、これは――サイコロ? 私は目を丸くするばかりだった。
「お客さーん、早く振って頂けませんかね?」焦れた様子で、運転手が言った。「他のお客さんも待っておいでなんで……」
「あ、えーと、済みません」何だか解らないけれど、私は反射的に謝り、サイコロを手に取った。どうやらこれを振らないと、バスは発車出来ないらしい――どういう訳か。
兎も角、と私はサイコロを振った。ころころ、と転がった立方体は「3」を上にして止まった。
「えっと、『3』が出ましたけど……」
「振ったらさっさと席に着く。発車するぞ」との、老人の声に私は慌てて席に戻った。
その言葉通り、バスは滑らかに発車した。途中、混雑も殆ど無く、バスはすいすいと山道を抜け、田園風景を抜け、小さな町を抜けて行く。
途中、二つの停留所も。
「ああ、行き過ぎてしもうた」老人が些か残念そうにその停留所を振り返った。
「え? 降りるんならチャイムを……」言い掛けて、このバスに降車合図のチャイムが無い事に今更気付く。
「そんなもん無いさ」と、老人が笑う。「このバスはサイの目次第じゃからな。また回ってくるのを待つしかない」
「え? そ、それじゃ私も降りたい所では降りられない?」私は慌てた。そんな馬鹿な。「じゃ、じゃあ、行き先表示の『Xマス』って言うのは、地名じゃなくて……Xは出たマス目の数?」
そういう事だと老人は頷いた。そして自分ももう何日も降りられないでいると苦笑する。
「そ、そんな……馬鹿な!」
「お客さーん、車内ではお静かに願いまーす」運転手に注意されてしまった。
しかしこんな馬鹿げた話に付き合ってなどいられない、と私は揺れる車内を立って行き、運転手に詰め寄ろうとした。が――。
「困りますね、お客さん。私だってもうずっと車庫に行けなくて困ってるんですから。もう、何年も……」そう言って振り返った運転手の顔は、すっかり、白骨と化していた。
以来、私達は順にサイコロを振り続けている。目的地を何度通過したか……もう解らない……。
―了―
こんなバス嫌だー(--;)
ともあれ、念の為に路線図を見れば、目的地は確かに経由するらしい。それでなくても、こんな田舎道でこれ以上待たされるのは真っ平だと、私はバスに乗り込んだ。
乗客が殆ど居ないバスの中程に、私は席を得た。田舎の親類の家に久方振りの挨拶に来たはいいものの、今時これ程不便な所だったとは。やれやれ、と息をついていると、二つ前の席の老人が振り返った。
「ほれ、あんた、早く振ってくれんと先に進まんがね」些か訛りのある発音ながら、そう言っているのは解った。
解らないのは、言葉の内容の方だ。
「振る? あの、一体何を?」きょとんとして、私は尋ねた。
思わず辺りを見回せば、他の乗客も何か急かす様な目をして、私を見ている。運転手さえも、ハンドルを握った儘、しかしバスを停止させた儘で私を注視しているではないか。
途惑うばかりの私に、老人がほれ、と私の斜め後ろ辺りを指差して促した。そこには座席は無く、ぽつんと、白い立方体があるだけだった。
立って行ってみれば、その立方体には幾つかの黒い点と、たった一個の赤い点が記されていた。詰まり、これは――サイコロ? 私は目を丸くするばかりだった。
「お客さーん、早く振って頂けませんかね?」焦れた様子で、運転手が言った。「他のお客さんも待っておいでなんで……」
「あ、えーと、済みません」何だか解らないけれど、私は反射的に謝り、サイコロを手に取った。どうやらこれを振らないと、バスは発車出来ないらしい――どういう訳か。
兎も角、と私はサイコロを振った。ころころ、と転がった立方体は「3」を上にして止まった。
「えっと、『3』が出ましたけど……」
「振ったらさっさと席に着く。発車するぞ」との、老人の声に私は慌てて席に戻った。
その言葉通り、バスは滑らかに発車した。途中、混雑も殆ど無く、バスはすいすいと山道を抜け、田園風景を抜け、小さな町を抜けて行く。
途中、二つの停留所も。
「ああ、行き過ぎてしもうた」老人が些か残念そうにその停留所を振り返った。
「え? 降りるんならチャイムを……」言い掛けて、このバスに降車合図のチャイムが無い事に今更気付く。
「そんなもん無いさ」と、老人が笑う。「このバスはサイの目次第じゃからな。また回ってくるのを待つしかない」
「え? そ、それじゃ私も降りたい所では降りられない?」私は慌てた。そんな馬鹿な。「じゃ、じゃあ、行き先表示の『Xマス』って言うのは、地名じゃなくて……Xは出たマス目の数?」
そういう事だと老人は頷いた。そして自分ももう何日も降りられないでいると苦笑する。
「そ、そんな……馬鹿な!」
「お客さーん、車内ではお静かに願いまーす」運転手に注意されてしまった。
しかしこんな馬鹿げた話に付き合ってなどいられない、と私は揺れる車内を立って行き、運転手に詰め寄ろうとした。が――。
「困りますね、お客さん。私だってもうずっと車庫に行けなくて困ってるんですから。もう、何年も……」そう言って振り返った運転手の顔は、すっかり、白骨と化していた。
以来、私達は順にサイコロを振り続けている。目的地を何度通過したか……もう解らない……。
―了―
こんなバス嫌だー(--;)
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Re:こんばんは♪
あの世は取り敢えず行き着く先があるものねぇ。
このバスが目的地に着く事は、果たしてあるのか……?
このバスが目的地に着く事は、果たしてあるのか……?
Re:無題
私も乗りたくないです(^^;)
人が降りたい目に限って出なかったりして……★
人が降りたい目に限って出なかったりして……★
Re:無題
どんな仕掛けなんでしょ?(笑)
や、お題を見たら「Xマス」が「クリスマス」ではなく代数「X」の「マス」にしか見えなくて(笑)
や、お題を見たら「Xマス」が「クリスマス」ではなく代数「X」の「マス」にしか見えなくて(笑)
おはよ~
Xマス?
まだ早いやろ~って、突っ込みかけた所だったよ。
色々と疑問が湧くよね、「燃料は?」とか。(笑)
確かに、こんなバスは嫌だ。
ところで、
>「お客さーん、社内ではお静かに願いまーす」
会社だったの?(笑)
まだ早いやろ~って、突っ込みかけた所だったよ。
色々と疑問が湧くよね、「燃料は?」とか。(笑)
確かに、こんなバスは嫌だ。
ところで、
>「お客さーん、社内ではお静かに願いまーす」
会社だったの?(笑)
Re:おはよ~
うおう!∑( ̄□ ̄;)
車内だ、車内(爆)
燃料は……もしかしたら、乗客の命……だったら、尚嫌だなぁ(--;)
車内だ、車内(爆)
燃料は……もしかしたら、乗客の命……だったら、尚嫌だなぁ(--;)
Re:巽が表示したの?
ちゃうよ。
Re:なんと
確かに!(゜△゜;)
乗客増える一方やん☆
乗客増える一方やん☆
Re:うわぁ
新しく乗って来た不運な人が何か持っていれば分けて貰えるかも?(^^;)