〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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道ばたで口をぽかんと開け、空を見上げている人がいた。視線の先を追っても、変わったものはない。
彼にしか見えないUFOでも居るのかしら?――私は胡散臭げな視線を向けながらも、その横を通り過ぎた。
見た所二十代半ば、ごく普通の新米サラリーマン風。未だ草臥れても、身体に馴染んでもいなさそうなスーツから、私はそう判断した。
口の中、乾くわよ?――そんな忠告をしたくなる程、不動。実はよく出来たオブジェなんじゃないかしら、そんな事を思う程に、彼は動かず、只ぽかんと空を見上げていた。偶の瞬きが彼が生きた人間である事を教えてくれてはいたけど。
何かに驚いている様にも、呆れている様にも見えるその表情に、私はまた、その視線の先を追った。やっぱり何も無い。
そこには只、茜空が広がるばかりで、ビルの屋上から身を乗り出す人影も、編隊飛行をするUFOも、変わった形の雲さえも浮かんではいなかった。
只のおかしな人、と無視して帰ってもよかった。寧ろそれが普通の反応だろう。
だけれど、私は彼の見る“何か”が気になり、思わず足を止めていた。じっと空を見上げる人を、更にじっと観察する私――傍から見たら私もおかしな人かも知れない。幸い、街角には夕方には不思議な程人が居ない。
暇人? それは間違いないかも。でもそれは昨夜うっかり夜更かししてしまったのと、目覚まし時計が壊れて、未明に仕掛けた筈のベルの音で起こされたのが今さっきだったから。大学の講義には完全に間に合わないし、予定も無い。それ程お腹が空いてもいないけれど何か食べ物と、新しい目覚まし時計を買いに行く以外は。それにしても……私ってこんなに寝汚かったっけ?
それでも話し掛けて訊こうとしなかったのは、やはりおかしな人だった場合、係わり合いになりたくなかったのと、このささやかな謎を自分で解いてすっきりしたい、そんなちょっとした意地もあったのだろうか。
それにしても退屈な空模様だった。一面の赤い色。それでも僅かには薄い雲でもあるのか、時折カーテンが捲れる様に、その濃さを変えて行く。
綺麗……ではある。
でも、夕焼け空なんて天気が良ければ毎日でも見られるし、そんなに口を開けて見入る程のものじゃないと思うんだけど?
私がやはり疑問の視線を上空から彼に戻すと、何と彼はわなわなと身を震わせていた。
ちょっと、大丈夫なの?――私はその様に茫然とする。そして遂に声を掛けた。だって、具合が悪いのかも知れないじゃない! もしそうなら放っては置けないわよ。
「大丈夫、ですか? あの、失礼ですけど一体何を見て……」それでも好奇心がさり気なく混ざる。
「大丈夫? 大丈夫じゃないですよ!」彼は捲し立てた。「この緯度でこんな大規模なオーロラが観測されるなんて! 太陽の活動がどれ程活発になっている事か……! これが一時的なものなら未だいいが……」
「え……?」私は茫然としつつ、目覚まし時計の表示を思い出し、慌てて携帯を取り出して時間を見た。午前五時十分。夕方どころか未だ真っ暗な時間の筈だ。「あれが……オーロラ?」
極地法に発生する、赤や緑の光の帯。太陽から吹き付けられる荷電粒子が地球の磁場にぶつかって爆発的な発光現象を起こすのだと、聞いた覚えがある。その電子の量が多いと、低緯度地方でも起こる事がある、とも……。
詰まり、目覚まし時計は狂ってなどいなくて――もしかしたら狂ったのは……。
私はいずれ太陽が昇る筈の空を、口をぽかんと開けて見上げ、立ち尽くした。
―了―
ちょい長くなった(--;)
見た所二十代半ば、ごく普通の新米サラリーマン風。未だ草臥れても、身体に馴染んでもいなさそうなスーツから、私はそう判断した。
口の中、乾くわよ?――そんな忠告をしたくなる程、不動。実はよく出来たオブジェなんじゃないかしら、そんな事を思う程に、彼は動かず、只ぽかんと空を見上げていた。偶の瞬きが彼が生きた人間である事を教えてくれてはいたけど。
何かに驚いている様にも、呆れている様にも見えるその表情に、私はまた、その視線の先を追った。やっぱり何も無い。
そこには只、茜空が広がるばかりで、ビルの屋上から身を乗り出す人影も、編隊飛行をするUFOも、変わった形の雲さえも浮かんではいなかった。
只のおかしな人、と無視して帰ってもよかった。寧ろそれが普通の反応だろう。
だけれど、私は彼の見る“何か”が気になり、思わず足を止めていた。じっと空を見上げる人を、更にじっと観察する私――傍から見たら私もおかしな人かも知れない。幸い、街角には夕方には不思議な程人が居ない。
暇人? それは間違いないかも。でもそれは昨夜うっかり夜更かししてしまったのと、目覚まし時計が壊れて、未明に仕掛けた筈のベルの音で起こされたのが今さっきだったから。大学の講義には完全に間に合わないし、予定も無い。それ程お腹が空いてもいないけれど何か食べ物と、新しい目覚まし時計を買いに行く以外は。それにしても……私ってこんなに寝汚かったっけ?
それでも話し掛けて訊こうとしなかったのは、やはりおかしな人だった場合、係わり合いになりたくなかったのと、このささやかな謎を自分で解いてすっきりしたい、そんなちょっとした意地もあったのだろうか。
それにしても退屈な空模様だった。一面の赤い色。それでも僅かには薄い雲でもあるのか、時折カーテンが捲れる様に、その濃さを変えて行く。
綺麗……ではある。
でも、夕焼け空なんて天気が良ければ毎日でも見られるし、そんなに口を開けて見入る程のものじゃないと思うんだけど?
私がやはり疑問の視線を上空から彼に戻すと、何と彼はわなわなと身を震わせていた。
ちょっと、大丈夫なの?――私はその様に茫然とする。そして遂に声を掛けた。だって、具合が悪いのかも知れないじゃない! もしそうなら放っては置けないわよ。
「大丈夫、ですか? あの、失礼ですけど一体何を見て……」それでも好奇心がさり気なく混ざる。
「大丈夫? 大丈夫じゃないですよ!」彼は捲し立てた。「この緯度でこんな大規模なオーロラが観測されるなんて! 太陽の活動がどれ程活発になっている事か……! これが一時的なものなら未だいいが……」
「え……?」私は茫然としつつ、目覚まし時計の表示を思い出し、慌てて携帯を取り出して時間を見た。午前五時十分。夕方どころか未だ真っ暗な時間の筈だ。「あれが……オーロラ?」
極地法に発生する、赤や緑の光の帯。太陽から吹き付けられる荷電粒子が地球の磁場にぶつかって爆発的な発光現象を起こすのだと、聞いた覚えがある。その電子の量が多いと、低緯度地方でも起こる事がある、とも……。
詰まり、目覚まし時計は狂ってなどいなくて――もしかしたら狂ったのは……。
私はいずれ太陽が昇る筈の空を、口をぽかんと開けて見上げ、立ち尽くした。
―了―
ちょい長くなった(--;)
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こんばんは
意味が解らなくて二回読み直しちゃったー
夜更かしして午前5時に起きたのね?私なら、もう夕方!!と勘違いしても、起き出さないで二度寝しちゃうよ~(笑)
上を見上げる人。小学生の頃、劇でやったよ。
その劇では、周りの人間がUFOとか鳥とか勝手に言い合ってね。上を見るのよ。でも、始めにいた上を見上げてた人間は鼻血で上を向いてただけ…って笑い話。
今回のこれは、ちよっぴり怖いね~~~環境問題?って奴?
そうそう。
『幸い、街角には夕方には不思議な程人が居ない。』
………にはには?
夜更かしして午前5時に起きたのね?私なら、もう夕方!!と勘違いしても、起き出さないで二度寝しちゃうよ~(笑)
上を見上げる人。小学生の頃、劇でやったよ。
その劇では、周りの人間がUFOとか鳥とか勝手に言い合ってね。上を見るのよ。でも、始めにいた上を見上げてた人間は鼻血で上を向いてただけ…って笑い話。
今回のこれは、ちよっぴり怖いね~~~環境問題?って奴?
そうそう。
『幸い、街角には夕方には不思議な程人が居ない。』
………にはには?
Re:こんばんは
未明に起きたのに夕方みたいな赤い空だった、というお話☆
環境問題と言うより、太陽の恒星としての活動の所為だから、どうしようもないわね~。
環境問題と言うより、太陽の恒星としての活動の所為だから、どうしようもないわね~。
そして道ばたで口をぽかんと開け、空を見上げている人がまた増えた。
オーロラを見に行こうツアーは、今後は安上がりになりますね(違)
面白かったですよ。何だ?何だ!?って、次々と読み入ってしまいました。こういう話で引き込むのがお上手ですよねー^^;
面白かったですよ。何だ?何だ!?って、次々と読み入ってしまいました。こういう話で引き込むのがお上手ですよねー^^;
Re:そして道ばたで口をぽかんと開け、空を見上げている人がまた増えた。
有難うございます~(^^)
寒い所迄行かなくても大丈夫!(じゃないな・汗)
そうして連鎖的に道端で口をぽかんと開け、空を見上げている人が増えて行くのです(笑)
寒い所迄行かなくても大丈夫!(じゃないな・汗)
そうして連鎖的に道端で口をぽかんと開け、空を見上げている人が増えて行くのです(笑)
無題
あるあるー!
私も不規則なので、どっちの5時か分からなくなる時があります。滅多にみない朝やけを夕焼けと勘違いしたりして・・・^^;おまけに月まで出てると、余計にわけがわかりませんね。
オーロラ・・・じゃないけど、子供の時、よく坂道で蜃気楼を見て遊んだことを思い出しました(^-^)
私も不規則なので、どっちの5時か分からなくなる時があります。滅多にみない朝やけを夕焼けと勘違いしたりして・・・^^;おまけに月まで出てると、余計にわけがわかりませんね。
オーロラ・・・じゃないけど、子供の時、よく坂道で蜃気楼を見て遊んだことを思い出しました(^-^)
Re:無題
蜃気楼! それも何だか幻想的でいいですね~(^-^)
昼寝して、いつの間にか曇り空になっていて夜と間違ったり……(^^;)
昼寝して、いつの間にか曇り空になっていて夜と間違ったり……(^^;)
Re:こんにちは
今回のは異常規模の太陽風の影響という事で!
活動が活発化するとごくごく稀に東京辺りでも観測された事があるそうですよ。オーロラ。
活動が活発化するとごくごく稀に東京辺りでも観測された事があるそうですよ。オーロラ。
こんにちは♪
いやぁ~オーロラなんて生で見たことないから、
もし現実に我が家の近くで生で見れたら!
すごい感動しちゃうだろうなぁ・・・・
でも、同時に恐怖!
これで地球もついに・・・・・・
なんて思ってしまうかもデス。
もし現実に我が家の近くで生で見れたら!
すごい感動しちゃうだろうなぁ・・・・
でも、同時に恐怖!
これで地球もついに・・・・・・
なんて思ってしまうかもデス。
Re:こんにちは♪
綺麗なんだけど、やっぱり日本辺りでこれだけの規模のものが現れると……地球どころか太陽もヤバイ?(^^;)
Re:こんばんわっ
幻想的で綺麗なんだけど……ある意味太陽から吹き付けて来る太陽風や荷電粒子と、地球の磁場との鬩ぎ合い?
まともにそんな物吹き付けて来たらかなりヤバイ……。
まともにそんな物吹き付けて来たらかなりヤバイ……。
Re:無題
やっぱり普通の状態じゃないですもんね~。
強力な電子や磁場が影響したら、コンピュータ及びそれで制御されてる物なんてアウトでしょうね。コワ(--;)
強力な電子や磁場が影響したら、コンピュータ及びそれで制御されてる物なんてアウトでしょうね。コワ(--;)
出遅れた…
こんばんは。
確か最近、太陽の黒点がゼロになったでエライこっちゃ!ってニュースがありましたよね。
地球が日々変化するように太陽だって毎日同じじゃないから、電磁波どばーとか赤外線ぐわっしゃーみたいなカンジで未知の何かを放出してるのかも。で、それは人間以外の生き物はみんな知ってるとしたら……にゃんこが時々宙を見上げてるのって、霊体じゃなくて…。
私としては、いっそのことワームホールとか見てみたいです。
確か最近、太陽の黒点がゼロになったでエライこっちゃ!ってニュースがありましたよね。
地球が日々変化するように太陽だって毎日同じじゃないから、電磁波どばーとか赤外線ぐわっしゃーみたいなカンジで未知の何かを放出してるのかも。で、それは人間以外の生き物はみんな知ってるとしたら……にゃんこが時々宙を見上げてるのって、霊体じゃなくて…。
私としては、いっそのことワームホールとか見てみたいです。
Re:出遅れた…
にゃんこに外出時の紫外線予報して貰いますか(^^)
黒点って太陽表面で温度が低い所でしたっけ。という事はそれだけ温度が↑↑……?(・・;)
ワームホール……先ずブラックホールの特異点を無事に通過する術を開発しないとね☆
黒点って太陽表面で温度が低い所でしたっけ。という事はそれだけ温度が↑↑……?(・・;)
ワームホール……先ずブラックホールの特異点を無事に通過する術を開発しないとね☆
Re:こんばんは
うんうん、オーロラツアーとかでも、なかなか見られないらしいし。
粘ればいつかは……って、時間的にも資金的にも一般人がそんな長期滞在していられるかい。
粘ればいつかは……って、時間的にも資金的にも一般人がそんな長期滞在していられるかい。