〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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左肩に乗っていた小さな黒猫が、器用に身を丸めて右肩に移った。
それに微苦笑する黒髪、黒い目、黒い着物の青年の左側には、狭くなった街道の端、崖が川へと落ち込んでいた。大きな岩の点在する、未だ荒い上流の川。滑らかに水が流れ、岩を洗っている。未だ青い苔が、岩を彩り始めていた。
上空を覆う木々の枝葉が、濃い陰を落とし、辺り一面の緑を際立たせている。
緑の空間の中の黒い点――遠くから見れば彼と黒猫はそう見えただろう。
川の深みにさえ、藻だろうか、点々と白く慎ましい花をつけた、緑のたゆたい。
それが僅かに水の流れに逆らう動きを、見せた。
「知ってるか? 白陽」肩の黒猫に、黒い青年、至遠は言った。「この辺りの川にはな、水妖の言い伝えがあるんだ。死者の霊――幽鬼とは違うらしいが、人を惑わし、襲うんだそうだよ」
黒猫は話が解っているのかいないのか、兎に角川辺から離れるべく、右肩にしがみ付いていた。
「確かにこの崖から足を踏み外したりすれば、登るのは難しいだろうなぁ。水は足元を流し、苔は足を滑らせる。藻は足に絡み付き、深みから上がれなくする……。そんな過去の事故から生まれた話なのかも知れないが、生まれてしまった以上は……信じる者の思いでそれは真実になる」
人が通り掛かれば惑わし、襲うものの存在が。
緑のたゆたうものは、更に不自然な動きを見せた。揺らめき、水面から立ち上がり、そっと、街道を窺う。
そして相手が一人――と一匹――と見るや、その姿を見せた。
至遠の目には、それは藻の塊と見えた。
だが、他の者の目には絶世の美女と映ったかも知れないし、美男子と映ったかも知れない。人の欲を映し出し、惑わすのは妖の得意技――と伝えられている。
「私には効かないけれどね」至遠は呟き、その妖の核となる思いを探った。
* * *
水の中であの人は死んだ。泳ぎの達者な人だったのに。だからあの白く可愛らしい花を取ってと、お願いしたのに。その儘あの人は帰らなかった。藻に足を取られたのだろうと、遺体を運んで来たお役人は言った。そんな筈ないのに。だって、あの人はとっても泳ぎが達者だったのだもの。そう、とってもとっても……。
だから妖に惑わされたに決まっているわ。私という者がありながら……。
* * *
「責任転嫁だなぁ」至遠は眉を顰めた。自分の願いの為に命を落とした男の、その命の重みを背負い切れず、妖の仕業に仕立てたか。
威嚇の声を上げる白陽を宥めつつ、至遠は妖を見詰め――その思いを断ち切り、核を壊した。
ぱしゃり、と音を立てて、緑の塊は只の藻と成り果て、水に流れて行った。白い、慎ましい花と共に。
緑の街道を抜けた先、小さな村に小さな石碑。
かつての悲劇を伝える風化した文字が、雨も降らぬのに水に濡れた如く濃く浮き上がり、その天頂には鋭い何物かで断ち切られた様な痕が、いつの間にやら入っていた。
以来、その街道での水死者は激減したと言う。
―了―
夜霧はどうやら今週サボりを決め込んだ様ですな(--;)
黒猫は話が解っているのかいないのか、兎に角川辺から離れるべく、右肩にしがみ付いていた。
「確かにこの崖から足を踏み外したりすれば、登るのは難しいだろうなぁ。水は足元を流し、苔は足を滑らせる。藻は足に絡み付き、深みから上がれなくする……。そんな過去の事故から生まれた話なのかも知れないが、生まれてしまった以上は……信じる者の思いでそれは真実になる」
人が通り掛かれば惑わし、襲うものの存在が。
緑のたゆたうものは、更に不自然な動きを見せた。揺らめき、水面から立ち上がり、そっと、街道を窺う。
そして相手が一人――と一匹――と見るや、その姿を見せた。
至遠の目には、それは藻の塊と見えた。
だが、他の者の目には絶世の美女と映ったかも知れないし、美男子と映ったかも知れない。人の欲を映し出し、惑わすのは妖の得意技――と伝えられている。
「私には効かないけれどね」至遠は呟き、その妖の核となる思いを探った。
* * *
水の中であの人は死んだ。泳ぎの達者な人だったのに。だからあの白く可愛らしい花を取ってと、お願いしたのに。その儘あの人は帰らなかった。藻に足を取られたのだろうと、遺体を運んで来たお役人は言った。そんな筈ないのに。だって、あの人はとっても泳ぎが達者だったのだもの。そう、とってもとっても……。
だから妖に惑わされたに決まっているわ。私という者がありながら……。
* * *
「責任転嫁だなぁ」至遠は眉を顰めた。自分の願いの為に命を落とした男の、その命の重みを背負い切れず、妖の仕業に仕立てたか。
威嚇の声を上げる白陽を宥めつつ、至遠は妖を見詰め――その思いを断ち切り、核を壊した。
ぱしゃり、と音を立てて、緑の塊は只の藻と成り果て、水に流れて行った。白い、慎ましい花と共に。
緑の街道を抜けた先、小さな村に小さな石碑。
かつての悲劇を伝える風化した文字が、雨も降らぬのに水に濡れた如く濃く浮き上がり、その天頂には鋭い何物かで断ち切られた様な痕が、いつの間にやら入っていた。
以来、その街道での水死者は激減したと言う。
―了―
夜霧はどうやら今週サボりを決め込んだ様ですな(--;)
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Re:こんばんは♪
バッサリやりました(笑)
今回のは過去の念が核になっていたので、そりゃあもう、バッサリと♪
今回のは過去の念が核になっていたので、そりゃあもう、バッサリと♪
こんばんは~
明日辺り怪しい!夜霧が出て来るかもね~
文章の『泳ぎの達者な人だったのに。だからあの白く可愛らしい花を取ってと、お願いしたのに。』
の部分。『だから』と『あの』の間に、こそを入れて『だからこそ』にした方が良いような気がします。
…お節介です。すまねぇ
文章の『泳ぎの達者な人だったのに。だからあの白く可愛らしい花を取ってと、お願いしたのに。』
の部分。『だから』と『あの』の間に、こそを入れて『だからこそ』にした方が良いような気がします。
…お節介です。すまねぇ
Re:こんばんは~
二日ずれる事は余り無いと思うんですが……夜霧ですからねぇ(--;)
姐さん、それは表現であって例の病気ではないので却下です。そこはくどくならない様にしたかったのよ。後、問題の彼女は「だからこそ」なんて気を遣う程の女性ではなかったイメージもあります。ある意味身勝手な女性だったからこそ、妖に責任転嫁した訳で。
姐さん、それは表現であって例の病気ではないので却下です。そこはくどくならない様にしたかったのよ。後、問題の彼女は「だからこそ」なんて気を遣う程の女性ではなかったイメージもあります。ある意味身勝手な女性だったからこそ、妖に責任転嫁した訳で。
無題
夜霧ちゃんが「自分は白く慎ましい~」とかって
自分で自分を褒めちゃってますよ!
巽さんがあんまり「サボリ」とか言うからー!!(笑)
川って馬鹿にできないんですよね。。。
そういえば、さっき彼氏の知り合いの会社が火事になっちゃったみたいです。火も怖いですww
自分で自分を褒めちゃってますよ!
巽さんがあんまり「サボリ」とか言うからー!!(笑)
川って馬鹿にできないんですよね。。。
そういえば、さっき彼氏の知り合いの会社が火事になっちゃったみたいです。火も怖いですww
Re:無題
夜霧め(^^;)
本当に慎ましい子は自分で言わないのよ☆
って、火事大丈夫でした!?
本当に慎ましい子は自分で言わないのよ☆
って、火事大丈夫でした!?
Re:自分で
仕事人でも探しますか(←おい)
取り敢えず好きだったのは好きだったんだけど、それだけに自分の所為で死んだと思いたくない、みたいな? 現実逃避っすね。
取り敢えず好きだったのは好きだったんだけど、それだけに自分の所為で死んだと思いたくない、みたいな? 現実逃避っすね。
おはようございます
昨日大きな緊張が一つ終わってちょっとだけほっとしてますが、巽さんもお忙しいご様子。無理はなさらないでくださいね。
このシリーズ全体がそうですけど、今回はまた一段と読みやすかったです。
どんな人の心にもあるズルさとか思い込みとかそういうものに、共感できるからでしょうか。
それにしても、生きてても死んでしもてもエゴイストな彼女は、迷惑という意味である意味妖怪のようなものかも…(苦笑)
そうそう白陽ちゃん、肩にしがみつかれたら爪が食い込んで痛い…(涙)
このシリーズ全体がそうですけど、今回はまた一段と読みやすかったです。
どんな人の心にもあるズルさとか思い込みとかそういうものに、共感できるからでしょうか。
それにしても、生きてても死んでしもてもエゴイストな彼女は、迷惑という意味である意味妖怪のようなものかも…(苦笑)
そうそう白陽ちゃん、肩にしがみつかれたら爪が食い込んで痛い…(涙)
Re:おはようございます
お疲れ様でした!(・・)ゝ
生きてても死んでも迷惑な彼女、バッサリやっときましたんで。至遠君が^^
爪が食い込む痛み……経験者は語るのね(T-T)
女王様の爪は痛いでしょうねぇ★
生きてても死んでも迷惑な彼女、バッサリやっときましたんで。至遠君が^^
爪が食い込む痛み……経験者は語るのね(T-T)
女王様の爪は痛いでしょうねぇ★
Re:おはよう!
彼女の霊そのものと言うより、思いが核となって「この川辺は事故が多い、妖が居るのでは」という近隣の人の思念も引き寄せて本当に妖を形作ってしまったんですね。だから核を壊したので思念は散らばっちゃった。
夜霧の真似っこに怯える日々は続く……
夜霧の真似っこに怯える日々は続く……
Re:こんにちは
はい、バッサリやっときました(笑)
自分の勝手な思い込みで彼に花を取りに行かせといて、今度は勝手な思い込みで妖の核を作る。困った人ですな。
自分の勝手な思い込みで彼に花を取りに行かせといて、今度は勝手な思い込みで妖の核を作る。困った人ですな。
Re:無題
夜霧の気紛れ攻撃!
巽にクリティカル!!
そんな感じ(苦笑)
こういう迷惑な人は何処にでも居るから怖いですよね(--;)
巽にクリティカル!!
そんな感じ(苦笑)
こういう迷惑な人は何処にでも居るから怖いですよね(--;)
Re:無題
マズイっすよね!
責任おっ被せられた上に実際に妖が出現する様になった川なんか、いい迷惑(苦笑)
責任おっ被せられた上に実際に妖が出現する様になった川なんか、いい迷惑(苦笑)
Re:こんばんは~
そそ、泳ぎの得意な人でも油断なりませんよね。水辺。
今回は川の話だけど、海なんかだと離岸流があったりするし! 水難事故には気を付けないとね。
今回は川の話だけど、海なんかだと離岸流があったりするし! 水難事故には気を付けないとね。
Re:こんばんわ★
生前から既に妖が心に巣食っていたりして……。
責任転嫁は非常に遺憾であります★
責任転嫁は非常に遺憾であります★
Re:至遠さん素敵!
ははは、自分の好みが解りません(笑)
でも多分主役クラスの登場人物は某か私の好みと言うか趣味を反映しているのでしょう^^;
でも多分主役クラスの登場人物は某か私の好みと言うか趣味を反映しているのでしょう^^;