〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「自分が殺した相手が目の前に現れる事って、ある?」笑みさえ含まずに言われた言葉に、頼子は息を詰まらせた。
「……夢の中でなら……」やがて、周囲を気にしながらも、ぼそりとそう答える。実際、半年に一度はあの時の夢を見ては飛び起きる。十七歳の夜、無理心中を図った父を、揉み合う内に逆に刺してしまったあの時から。かれこれ十年間。
未成年、正当防衛――様々な理由で彼女は罪に問われなかった。身寄りも無くなった為、施設には保護されたけれど。
そして問いを発した相手、永久子(とわこ)ともそこで出会った。
彼女は十二歳の時に転校したばかりのクラスで、虐めをしていた子を殺した。十三年前の事だ。調べてみればそれ迄の学校でも、殺害迄は行かないもののそういった子供達と問題を起こし、それ故に転々としていたと言う。
お互い施設を出てからも、こうして時折会っては近況を話し合ったりしている仲だった。
「永久子は……あるの?」頼子は訊き返した。
「無いわ」永久子は答えた。「多分……」
「多分って何よ?」頼子は僅かに眉根を寄せる。こんな事を言い出して――過去の傷を抉っておいて、そんな曖昧な。
「判らないのよ」
「え?」
「何度も何度も、見掛ける顔があるの。いつ見ても小学生位の子。夢の中でも、ちょっとぼうっとした瞬間でも」
「じゃあ……それが……」永久子の殺したという虐めっ子だったのだろう、と頼子は思った。しかし、判らないとは? 自分は十年が経った今でも、襲い掛かる父の鬼の様な形相は、そして反撃に遭った彼の信じられないと言う様な、それでいて生を選び取った彼女を見るどこか安堵した様な表情は忘れられずにいる。父の顔を見て、判らないなどという事は無い。
「私の記憶の中の子に、顔が無いの」あっけらかんと、永久子は言った。「辛うじて覚えてるのは、眼だけ」
「記憶の中の子って……」
「私が殺した子よ」
「……忘れられたの?」信じられない思いで、頼子は訊いた。自分は未だに悪夢に慄いているというのに。「忘れる事が出来るの?」
「だって、元々覚えていないもの」
「覚えて……いない?」茫然と、頼子は繰り返した。「自分が殺した相手の顔を? 覚えてない程度の子を、殺したの?」
「覚える必要を感じなかったから」永久子は肩を竦めた。「友達になりたくも、したいとも思わなかったし、同じ教室に居たいとさえ思わなかったもの」
「だから……殺したの?」頼子の背筋を、寒気が走った。「確かにその子は虐めっ子だったかも知れないけど、もっと他に手が……」
「死ななきゃ治らないの。ああいう、黒い眼をした子は」
「黒い眼? ちょっと待ってよ、それじゃ日本人の殆どが……」
「そういう事じゃないわ。只の色じゃないの。塗り潰した様に真っ黒で、何の輝きも感じられない眼。とても気持ち悪いの。死んだ魚の目の方がマシな位よ」
「……そう。よく、解るわ」頼子はそう言って、席を立った。そろそろ時間だったし、本当に、彼女の言う事がよく解ったから。
鳶色の瞳――にも拘らず永久子の眼は、広がった瞳孔、感じられない輝き、何より、狂信者の様な危うさが潜んでいた。これ迄、どうして気付かなかったのだろう――そう思う程にはっきりと。
元々は正義感の強い子だった事は、施設時代から知っていた。男の子にも、少々意地の悪い子にも決して退かない子だった。悪を憎む子だった事もよく知っている。
だが、その余りに自身が憎しみという闇に囚われている事には気付かないのか……。
「次はいつ来てくれるの? 頼子」その闇の潜んだ眼で彼女を見詰めた儘、永久子は訊いた。「面会に」
施設を出てから、紆余曲折を経ながらも普通の生活に帰った頼子と、幾度か傷害事件を起こし続けた永久子の、壁に隔てられた面会は、それが最後だった。
―了―
暗い話になったー。夜霧がサボった所為だー(責任転嫁)
「多分って何よ?」頼子は僅かに眉根を寄せる。こんな事を言い出して――過去の傷を抉っておいて、そんな曖昧な。
「判らないのよ」
「え?」
「何度も何度も、見掛ける顔があるの。いつ見ても小学生位の子。夢の中でも、ちょっとぼうっとした瞬間でも」
「じゃあ……それが……」永久子の殺したという虐めっ子だったのだろう、と頼子は思った。しかし、判らないとは? 自分は十年が経った今でも、襲い掛かる父の鬼の様な形相は、そして反撃に遭った彼の信じられないと言う様な、それでいて生を選び取った彼女を見るどこか安堵した様な表情は忘れられずにいる。父の顔を見て、判らないなどという事は無い。
「私の記憶の中の子に、顔が無いの」あっけらかんと、永久子は言った。「辛うじて覚えてるのは、眼だけ」
「記憶の中の子って……」
「私が殺した子よ」
「……忘れられたの?」信じられない思いで、頼子は訊いた。自分は未だに悪夢に慄いているというのに。「忘れる事が出来るの?」
「だって、元々覚えていないもの」
「覚えて……いない?」茫然と、頼子は繰り返した。「自分が殺した相手の顔を? 覚えてない程度の子を、殺したの?」
「覚える必要を感じなかったから」永久子は肩を竦めた。「友達になりたくも、したいとも思わなかったし、同じ教室に居たいとさえ思わなかったもの」
「だから……殺したの?」頼子の背筋を、寒気が走った。「確かにその子は虐めっ子だったかも知れないけど、もっと他に手が……」
「死ななきゃ治らないの。ああいう、黒い眼をした子は」
「黒い眼? ちょっと待ってよ、それじゃ日本人の殆どが……」
「そういう事じゃないわ。只の色じゃないの。塗り潰した様に真っ黒で、何の輝きも感じられない眼。とても気持ち悪いの。死んだ魚の目の方がマシな位よ」
「……そう。よく、解るわ」頼子はそう言って、席を立った。そろそろ時間だったし、本当に、彼女の言う事がよく解ったから。
鳶色の瞳――にも拘らず永久子の眼は、広がった瞳孔、感じられない輝き、何より、狂信者の様な危うさが潜んでいた。これ迄、どうして気付かなかったのだろう――そう思う程にはっきりと。
元々は正義感の強い子だった事は、施設時代から知っていた。男の子にも、少々意地の悪い子にも決して退かない子だった。悪を憎む子だった事もよく知っている。
だが、その余りに自身が憎しみという闇に囚われている事には気付かないのか……。
「次はいつ来てくれるの? 頼子」その闇の潜んだ眼で彼女を見詰めた儘、永久子は訊いた。「面会に」
施設を出てから、紆余曲折を経ながらも普通の生活に帰った頼子と、幾度か傷害事件を起こし続けた永久子の、壁に隔てられた面会は、それが最後だった。
―了―
暗い話になったー。夜霧がサボった所為だー(責任転嫁)
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う~~ん・・・・・・
親から無理心中を仕掛けられた子供って、傷は深いだろうねぇ・・・・唯一の味方であり、拠り所である筈の親が!って考えたら・・・・
そして抵抗したはずみで殺してしまったなんて、
本当に悲劇だねぇ・・・・・・
憎しみの闇かぁ・・・・憎しみのエネルギーってのは結構強いよね、うまく浄化出来れば大成するけどねぇ・・・・・
そして抵抗したはずみで殺してしまったなんて、
本当に悲劇だねぇ・・・・・・
憎しみの闇かぁ・・・・憎しみのエネルギーってのは結構強いよね、うまく浄化出来れば大成するけどねぇ・・・・・
Re:う~~ん・・・・・・
闇の信念を抱いてしまうと、他が見えなくなってしまうのです★
実際こういう眼をした人には要注意?
実際こういう眼をした人には要注意?
こんばんはー
暗い闇の瞳ですか。ううん。一つも救いは無かったんだろうかね。正義感強いのも考えものだよね。
傍目には、善い事言ってるから、それが間違いや行き過ぎだという事に気付かない。正義感を振りかざした暴力は有るんだよね。
グピとかさ。あたしあれは大嫌い。
傍目には、善い事言ってるから、それが間違いや行き過ぎだという事に気付かない。正義感を振りかざした暴力は有るんだよね。
グピとかさ。あたしあれは大嫌い。
Re:こんばんはー
緑豆ですか。言ってる事はいいけどその行動に大きな間違いがあるという奴ですな。自分達の信念しか見えてないし、見ようとしてない。世界には色んな民族や文化、信念がある事を解ろうとしない。
元々正義なんて立場によって変わるあやふやなものだと思うし。
元々正義なんて立場によって変わるあやふやなものだと思うし。
無題
こんばんわ~(^o^)丿
ほ、ほんとに暗い話だー!!
人をあやめてしまうと、理由がなんであれ、
質のいい睡眠を得られなくなるって
聞いたことがあります。ちゃんと眠れないから
死んだ魚みたいな目になっちゃうんでしょうね。
でも、頼子ちゃんは、可哀相。
知らないだけで、彼女みたいな子、沢山いるんでしょうねw
ほ、ほんとに暗い話だー!!
人をあやめてしまうと、理由がなんであれ、
質のいい睡眠を得られなくなるって
聞いたことがあります。ちゃんと眠れないから
死んだ魚みたいな目になっちゃうんでしょうね。
でも、頼子ちゃんは、可哀相。
知らないだけで、彼女みたいな子、沢山いるんでしょうねw
Re:無題
夜霧の所為……にしてしまえ(苦笑)
まぁ、人を殺して高鼾な人間もどうかとは思いますが、頼子ちゃんの場合は本当に正当防衛なんですよね。それでもやっぱり……普通じゃおられまい、と。
永久子は別の意味で普通じゃないですね。
まぁ、人を殺して高鼾な人間もどうかとは思いますが、頼子ちゃんの場合は本当に正当防衛なんですよね。それでもやっぱり……普通じゃおられまい、と。
永久子は別の意味で普通じゃないですね。
Re:無題
陽極まれば陰に転ず。
正義感も度が過ぎれば排他的、攻撃的になる……事もありますねぇ。
モラルは当然必要ですが。
正義感も度が過ぎれば排他的、攻撃的になる……事もありますねぇ。
モラルは当然必要ですが。
Re:おはよぉ(ρ_-)ノ
それに気付ける位なら未だいいのですが……。
人間、自分の事は見えないものです。況して自分だけが正しいと思っている人は。
人間、自分の事は見えないものです。況して自分だけが正しいと思っている人は。
Re:おはよう!
そそ、刑務所の面会室。こんな話をするのってどんなシーンかな~って考えてたらこうなりました☆
元が正義感でも凝り固まり、他者を貶める様になると……やはり黒ですね。
因みに私、色としての黒は好きですが、この黒は別モノ。
元が正義感でも凝り固まり、他者を貶める様になると……やはり黒ですね。
因みに私、色としての黒は好きですが、この黒は別モノ。
Re:こんばんは
う~む、投稿拒否っすかぁ(--;)
夜霧め~★
月夜も今回はまねっこしやがりました(苦笑)
さてさて(--;)
夜霧め~★
月夜も今回はまねっこしやがりました(苦笑)
さてさて(--;)
無題
どもども!
確かに暗い話になりましたねw
頼子ちゃんは親に殺されそうになったにも拘らず、更生の道を歩き始めたって言うのに…。
片や壁を隔てての面会しか許されない環境にいるなんて。。。
正義感が強すぎるってのも、方向性を間違うとダメって事っすよね。
確かに暗い話になりましたねw
頼子ちゃんは親に殺されそうになったにも拘らず、更生の道を歩き始めたって言うのに…。
片や壁を隔てての面会しか許されない環境にいるなんて。。。
正義感が強すぎるってのも、方向性を間違うとダメって事っすよね。
Re:無題
なまじ正義感――自分は正しいんだという思いがあるだけに、修正効かないのかも。勿論、虐めは悪い事。でも、殺してしまっては自分も犯罪者ですからねぇ。
Re:おはようございます!
闇ですねぇ。
外見がどうのこうのより、その眼だけが印象に残っちゃったんでしょうね。
外見がどうのこうのより、その眼だけが印象に残っちゃったんでしょうね。
無題
んー。難しい。
元々、シンも考え方おかしいからなぁ。
殺人など悪事はめちゃくちゃ悪いことでもないって思ってるとこある危ないやつだから。いぁ、シンはしないんだけど。思想としてはね。
答えはでないけど
一般の人みたいに、しらんぷりじゃなくて
悪に立ち向かうその心意気だけは評価したいような気もする。変な意見でごめん。
元々、シンも考え方おかしいからなぁ。
殺人など悪事はめちゃくちゃ悪いことでもないって思ってるとこある危ないやつだから。いぁ、シンはしないんだけど。思想としてはね。
答えはでないけど
一般の人みたいに、しらんぷりじゃなくて
悪に立ち向かうその心意気だけは評価したいような気もする。変な意見でごめん。
Re:無題
シンさん、お久し振り!(^^)
お元気でしたか? 色々とお忙しかった様ですけど。
悪事……読んで字の如くですよね。悪い事。その全てについて犯人が極悪非道だとは思いませんが。
只、闇を抱えた人は、周囲にそれを伝染させるのではないかとも思う、今日この頃。
お元気でしたか? 色々とお忙しかった様ですけど。
悪事……読んで字の如くですよね。悪い事。その全てについて犯人が極悪非道だとは思いませんが。
只、闇を抱えた人は、周囲にそれを伝染させるのではないかとも思う、今日この頃。