〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
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「追儺式は速やかに執り行われねばならん」老祭司はしわがれた声でそう言った。
そうは言っても……と祭司見習い、峰泉(ほうせん)は眉根を寄せる。老司祭は歳を老い過ぎて、とても式を勤められそうにはない。然もここ数日の寒さで体調を崩し、床に伏せっているのだ。
追儺(ついな)、鬼遣(おにやらい)……この国中の社(やしろ)が参加せねばならない難事だが、この小さな村の社には、彼等二人を置いて他、居ない。峰泉は未だ、とても勤められる力量ではないと言うのに。
然も此処は都の北東――鬼門。これ以上の要所は無い。
そしてこれ程守りの薄い社も無い――峰泉は溜め息をついた。雪に染まった白い景色の中、なお白い吐息が散る。
せめて術者でも居てくれれば足しになろうものを。
しかし、彼等の背後には村人達が居るのだ。彼等が逃げればこの村を幽鬼から護る盾は無い。及ばずながらもやるしかないかと、峰泉は腹を決めた。
そうは言っても……と祭司見習い、峰泉(ほうせん)は眉根を寄せる。老司祭は歳を老い過ぎて、とても式を勤められそうにはない。然もここ数日の寒さで体調を崩し、床に伏せっているのだ。
追儺(ついな)、鬼遣(おにやらい)……この国中の社(やしろ)が参加せねばならない難事だが、この小さな村の社には、彼等二人を置いて他、居ない。峰泉は未だ、とても勤められる力量ではないと言うのに。
然も此処は都の北東――鬼門。これ以上の要所は無い。
そしてこれ程守りの薄い社も無い――峰泉は溜め息をついた。雪に染まった白い景色の中、なお白い吐息が散る。
せめて術者でも居てくれれば足しになろうものを。
しかし、彼等の背後には村人達が居るのだ。彼等が逃げればこの村を幽鬼から護る盾は無い。及ばずながらもやるしかないかと、峰泉は腹を決めた。
冷水で身を清め、白い着物を着込み、この三日、都に向けて供えていた五穀を、この村外れに立地する社の、更に外界との狭間に壇を据え、並べる。
命を繋ぐ五穀は生を意味する物。
死者の魂である幽鬼とは対照を為すものだった。
更にやはり都に向けて供えた神水をその外側に撒き、結界とする。
とは言え、見習いの彼が造ったもの。自分でも、心許無い。手付きも危うく、その働きを見守る村人達も、どこか心配げだった。
「峰泉様、大丈夫……ですか?」村の子供や娘達に迄、そう言われる始末。
安心させようとする笑みさえも、どこか引き攣っていた。
さて、そんな小さな社を下に見て、黒い髪、黒い眼、そして黒い着物の青年が崖の上に佇んでいた。些か呆れ顔だ。
「都の北東の護りが薄いっていうのはどうなんだ?」その青年、至遠(しおん)は苦笑いを浮かべて言った。「都自体は詞維和(しいな)が居るから大丈夫だろうけど。と言うか、こんな時位仕事しなきゃなぁ、あいつも」
問題なのは、あの頼りなさそうな見習い祭司と、心配げな村人達だ。あれではとても、均衡は取れない。
仕方ない、出て行くか、と至遠は踵を返す。但し、此処は都にも近過ぎる。至遠が関与した事は知られない方がいい。
だから――此処は一つ、あの見習いに頑張って貰おうじゃないか。
夜の闇を待たずして、数匹の幽鬼が結界に近付くのを、峰泉は目にした。
慌てて、背後に控えた村人共々、臨戦態勢に入る。五穀の枡に手を掛け、凍らんばかりの神水の樽にも柄杓を突っ込んでいる。
ゆっくりとした動きで這い寄る、霧の様な幽鬼達。それは広がり、交じり合い、たゆたう。それでいて着実に、生者へと近付くのだった。
「峰泉様……!」その緊張に耐え兼ねたか、村人の一人が声を上げる。するとそれが波紋の様に、村人の群れに波及していく。
それは恐怖となり、更に峰泉の焦りと変じる。
駄目だ、とても自分には護れない――彼がそう思った途端、幽鬼の一体が突出してその白い腕を伸ばした。
「!」反射的に、五穀の一つ、豆を投げ付けていた。
途端、白い腕は怯み、退いて行った。
それを見て勢い付いたか、村人達も次々、五穀や神水を投じる。
白い霧は千切れ、溶け、消えて行った。
峰泉を始めとする村人達の歓声と共に。
「あれで大丈夫だろう」またも村を見下ろす崖の上、至遠は苦笑を浮かべて言った。「あの見習いも村人も、自信を得た。幽鬼が出たとしても、あれで撃退出来ると」
幽鬼は闇に紛れて、黒衣の青年が見せた幻影だった。
村人達の恐れが強い儘では、その恐れが生んだ幽鬼を、あの見習い祭司が退治する事は不可能だっただろう。実在しない筈の幽鬼が人の思いを得て力を持ち、現実に迄干渉してしまう、この国では。
「都の方は……心配なさそうだな」やはり追儺の式に賑わう都の方角を見遣って、至遠は苦笑いする。「ま、私には関係無い事だ」
都には都の護り人が居る。
詞(ことば)を維(つなぎ)和(なごませる)――詞維和が。
「だから私は……」呟きながら、至遠は都に背を向けた。
遠くに至れ――その名を背負って。
「鬼は外……福は内……か」
都の誰かさんにとっては、自分こそが鬼子なのだろう、と苦い笑いを頬に刻みながら。
―了―
『湖水奇譚』の至遠君、再登場です。
今回ちょっと裏事情が出てしまった気がする。
続くのか? またシリーズが増えるのか!?
命を繋ぐ五穀は生を意味する物。
死者の魂である幽鬼とは対照を為すものだった。
更にやはり都に向けて供えた神水をその外側に撒き、結界とする。
とは言え、見習いの彼が造ったもの。自分でも、心許無い。手付きも危うく、その働きを見守る村人達も、どこか心配げだった。
「峰泉様、大丈夫……ですか?」村の子供や娘達に迄、そう言われる始末。
安心させようとする笑みさえも、どこか引き攣っていた。
さて、そんな小さな社を下に見て、黒い髪、黒い眼、そして黒い着物の青年が崖の上に佇んでいた。些か呆れ顔だ。
「都の北東の護りが薄いっていうのはどうなんだ?」その青年、至遠(しおん)は苦笑いを浮かべて言った。「都自体は詞維和(しいな)が居るから大丈夫だろうけど。と言うか、こんな時位仕事しなきゃなぁ、あいつも」
問題なのは、あの頼りなさそうな見習い祭司と、心配げな村人達だ。あれではとても、均衡は取れない。
仕方ない、出て行くか、と至遠は踵を返す。但し、此処は都にも近過ぎる。至遠が関与した事は知られない方がいい。
だから――此処は一つ、あの見習いに頑張って貰おうじゃないか。
夜の闇を待たずして、数匹の幽鬼が結界に近付くのを、峰泉は目にした。
慌てて、背後に控えた村人共々、臨戦態勢に入る。五穀の枡に手を掛け、凍らんばかりの神水の樽にも柄杓を突っ込んでいる。
ゆっくりとした動きで這い寄る、霧の様な幽鬼達。それは広がり、交じり合い、たゆたう。それでいて着実に、生者へと近付くのだった。
「峰泉様……!」その緊張に耐え兼ねたか、村人の一人が声を上げる。するとそれが波紋の様に、村人の群れに波及していく。
それは恐怖となり、更に峰泉の焦りと変じる。
駄目だ、とても自分には護れない――彼がそう思った途端、幽鬼の一体が突出してその白い腕を伸ばした。
「!」反射的に、五穀の一つ、豆を投げ付けていた。
途端、白い腕は怯み、退いて行った。
それを見て勢い付いたか、村人達も次々、五穀や神水を投じる。
白い霧は千切れ、溶け、消えて行った。
峰泉を始めとする村人達の歓声と共に。
「あれで大丈夫だろう」またも村を見下ろす崖の上、至遠は苦笑を浮かべて言った。「あの見習いも村人も、自信を得た。幽鬼が出たとしても、あれで撃退出来ると」
幽鬼は闇に紛れて、黒衣の青年が見せた幻影だった。
村人達の恐れが強い儘では、その恐れが生んだ幽鬼を、あの見習い祭司が退治する事は不可能だっただろう。実在しない筈の幽鬼が人の思いを得て力を持ち、現実に迄干渉してしまう、この国では。
「都の方は……心配なさそうだな」やはり追儺の式に賑わう都の方角を見遣って、至遠は苦笑いする。「ま、私には関係無い事だ」
都には都の護り人が居る。
詞(ことば)を維(つなぎ)和(なごませる)――詞維和が。
「だから私は……」呟きながら、至遠は都に背を向けた。
遠くに至れ――その名を背負って。
「鬼は外……福は内……か」
都の誰かさんにとっては、自分こそが鬼子なのだろう、と苦い笑いを頬に刻みながら。
―了―
『湖水奇譚』の至遠君、再登場です。
今回ちょっと裏事情が出てしまった気がする。
続くのか? またシリーズが増えるのか!?
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おお!
至遠様(←いつの間にか様付け/笑)、再登場v何やらいわくありげな御身分のかたでしょうか。チョー有名な、かの陰陽師みたいな人?
節分にふさわしい、ファンタジーで良いですね♪
それにしても寒い…。
節分にふさわしい、ファンタジーで良いですね♪
それにしても寒い…。
Re:おお!
様が付いた!?(笑)
元々は長編用ファンタジーの曰くありげな主人公のやっぱり曰くありげな親戚という、脇役の彼です(苦笑)
寒いですねぇ。お風邪を召されませんように~。
元々は長編用ファンタジーの曰くありげな主人公のやっぱり曰くありげな親戚という、脇役の彼です(苦笑)
寒いですねぇ。お風邪を召されませんように~。
無題
こんばんわ(^o^)丿
至遠君・・なにやら辛い過去でも!?
いい男と暗い過去かぁ・・・
素敵☆
豆まきの豆って、美味しくないですね^^;
お面につられて買ってきちゃったけど、
落花生の方がよかった~。
至遠君・・なにやら辛い過去でも!?
いい男と暗い過去かぁ・・・
素敵☆
豆まきの豆って、美味しくないですね^^;
お面につられて買ってきちゃったけど、
落花生の方がよかった~。
Re:無題
まぁ、炒り大豆ですからねぇ。取り敢えず歳の数、食べましたが(^^)
食べるんならカシュー・ナッツがいいな♪
至遠君は……微妙な立場っぽい☆
食べるんならカシュー・ナッツがいいな♪
至遠君は……微妙な立場っぽい☆
Re:無題
有難うございます(^^)
えーと、カテゴリーは「小話」に入ってますね。
未だこれで二作目なので、増えたらカテゴリー分けするかも知れません。
前作のタイトルでブログ内検索掛ければ出るのではないかと^^
えーと、カテゴリーは「小話」に入ってますね。
未だこれで二作目なので、増えたらカテゴリー分けするかも知れません。
前作のタイトルでブログ内検索掛ければ出るのではないかと^^
こんばんは♪
追儺なんて節分の日にピッタリのお話ですネ♪
至遠さんは、晴明さんみたいな方なのかなぁ?
狐と皇子の間に生まれた皇位継承者だったりして!う~~ん何か良いなぁ♪
早く、この続きが読みたいなぁ・・・・(笑)
至遠さんは、晴明さんみたいな方なのかなぁ?
狐と皇子の間に生まれた皇位継承者だったりして!う~~ん何か良いなぁ♪
早く、この続きが読みたいなぁ・・・・(笑)
Re:こんばんは♪
やっぱり節分ですから(^^)
至遠君、やはりシリーズ化しそうな感じ……(^^;)
が、頑張ろう☆
至遠君、やはりシリーズ化しそうな感じ……(^^;)
が、頑張ろう☆
Re:こんばんはっ
居るんですか、しおんさん^^;
ファンタジーとか、HNとしては結構居るかとは思ってましたが。
色々設定はあるんですが……元々の主人公達とは一緒に出せない訳がある(笑)
ファンタジーとか、HNとしては結構居るかとは思ってましたが。
色々設定はあるんですが……元々の主人公達とは一緒に出せない訳がある(笑)
Re:こんばんは
至遠君の過去が気になりますか?(^^;)
いずれその内……(←おい)
いずれその内……(←おい)
Re:雅な世界
心の鬼ですか~(^^;)
それもお豆で「鬼は外~」☆
古典物とか見てると普通に鬼が闊歩していて、楽しいですね♪(!?)
それもお豆で「鬼は外~」☆
古典物とか見てると普通に鬼が闊歩していて、楽しいですね♪(!?)
忌憚じゃなくて奇憚?
携帯ですんなり出なかったよ…
忌憚は忌む憚る…
奇は奇怪を憚る?
何にしてもシリーズ名は、奇憚シリーズかな?頑張って下さいね。
でも体調が無理な時は遠慮せずに休みなよ?
悪魔の囁きに聞こえるかも解らないけど、やっぱり身体は大事だよー
忌憚は忌む憚る…
奇は奇怪を憚る?
何にしてもシリーズ名は、奇憚シリーズかな?頑張って下さいね。
でも体調が無理な時は遠慮せずに休みなよ?
悪魔の囁きに聞こえるかも解らないけど、やっぱり身体は大事だよー
Re:忌憚じゃなくて奇憚?
うにゃっ! 字間違った(笑)
奇譚だわ!(爆)
これの元の長編も纏めたい所……う~む(--;)
そっちに至遠が出て来るのはかなり後になりそうなのだけど……今の儘だと。と言うか、だらだらし過ぎかも。
今の所風邪もひかずに元気です~♪有難う(^^)
奇譚だわ!(爆)
これの元の長編も纏めたい所……う~む(--;)
そっちに至遠が出て来るのはかなり後になりそうなのだけど……今の儘だと。と言うか、だらだらし過ぎかも。
今の所風邪もひかずに元気です~♪有難う(^^)
ありゃりゃ?
直しましたね?(笑)
どうせなら起端から、お願いします。とか言ってみる♪(^^)
珍しく面白い物語…言い伝え~だからね。
敵対関係?とかいろいろ裏の話しの想像が頭の中駆け巡りまする。
のんびり待ちますが、他のシリーズもお忘れ無きように…
以上、忌憚のない意見でした(笑)
どうせなら起端から、お願いします。とか言ってみる♪(^^)
珍しく面白い物語…言い伝え~だからね。
敵対関係?とかいろいろ裏の話しの想像が頭の中駆け巡りまする。
のんびり待ちますが、他のシリーズもお忘れ無きように…
以上、忌憚のない意見でした(笑)
Re:ありゃりゃ?
あれからまた来たん?(笑)
敵対関係? う~ん。その辺はぼちぼちと……(^^;)
シリーズ増え過ぎてきた感が(笑)
敵対関係? う~ん。その辺はぼちぼちと……(^^;)
シリーズ増え過ぎてきた感が(笑)
Re:こんばんわ★
至遠君イラストですか(^^;)
では、次のキリぺたの時にでも……頑張ってみます(汗)
では、次のキリぺたの時にでも……頑張ってみます(汗)
Re:お気に入り?
お気に入りと言うか、元の話から単独で持ってこられそうなのが、彼位だったり……(^^;)
Re:嘘も方便?
有難うございます(^^)
至遠が妙に受けている……脇役なのに(苦笑)
至遠が妙に受けている……脇役なのに(苦笑)
こんにちは
うむむ、シリーズ化するのか。
そうすると、ユウキは準レギュラー?
いや、雑魚かぁ?
エキストラってヤツだな。
シリーズ化するなら、言葉の説明とかして頂きたい、難しい言葉、読めない漢字、多すぎるwww。(^_^;)
そうすると、ユウキは準レギュラー?
いや、雑魚かぁ?
エキストラってヤツだな。
シリーズ化するなら、言葉の説明とかして頂きたい、難しい言葉、読めない漢字、多すぎるwww。(^_^;)
Re:こんにちは
あはは、幽鬼は元々の長編用の設定にあったのが、丁度よかった(←おい)ので、引っ張り出しちゃいました(^^;)
ユウキ君は雑魚じゃないよ~☆
確かにこの話、漢字が多い。然も未だ短編用に使える設定だけ持って来てるから、裏設定はもっと難しい漢字、多い(笑)
ユウキ君は雑魚じゃないよ~☆
確かにこの話、漢字が多い。然も未だ短編用に使える設定だけ持って来てるから、裏設定はもっと難しい漢字、多い(笑)
こんばんは
その内…を期待しております
afoolさんのコメント読んで勇気がわきました
便乗させて頂いて、暴露します(大袈裟)
あたしも実は漢字の読み方がよく解らなかったんです友達に『本読むわりには漢字知らなすぎ』と的確な突っ込み入れられてます
afoolさんのコメント読んで勇気がわきました
便乗させて頂いて、暴露します(大袈裟)
あたしも実は漢字の読み方がよく解らなかったんです友達に『本読むわりには漢字知らなすぎ』と的確な突っ込み入れられてます
Re:こんばんは
読み仮名が付けられればいいんだけどね(^^;)
なるべく()で括って仮名付けるか、用語集作るかしますね☆
なるべく()で括って仮名付けるか、用語集作るかしますね☆