〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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しとしとと雨を降らせ続ける空を見上げて、白陽はひくりと耳を動かした。
一夜の宿と決めた村外れの空き家。辛うじて使える囲炉裏端では旅の連れが火を熾し、雨に濡れた黒衣を乾かしている。
白陽はひょいと縁側から外へと身を躍らせた。
極力雨に濡れぬよう、物陰沿いにと進んで行く。雨に濡れるのはやはり好きではない。密に生えた漆黒の毛が水を含み、ぺたりと冷たく張り付く。
それでも先程聞こえた声が気になって、白陽はその方向へと脚を進める。
それは小さな子供の声だった。それも、人間と、猫の。
薄い板塀を回り込んだ時、その声の主の一人が目に入った。丈の短い着物を着た七つばかりの男の子。雨から身を守る物も持たず、時折しゃくり上げながら泣いている。
彼の目の前には小さな袋小路。板切れ等が立て掛けられ、ちょっとした雨宿りや子供の隠れ家には打って付けの場所になっている。だが、件の子供はそこには入らず、只雨の中、泣いていた。
そして、板切れの陰からは、人の赤子の声にも似た、仔猫の声――だが、それは幻だと、白陽は耳を動かして振り払う。だが、その哀しげな鳴き声はなかなか頭から離れない。
白陽は進み行き、子供の脚に濡れた身体を擦り付けた。
一夜の宿と決めた村外れの空き家。辛うじて使える囲炉裏端では旅の連れが火を熾し、雨に濡れた黒衣を乾かしている。
白陽はひょいと縁側から外へと身を躍らせた。
極力雨に濡れぬよう、物陰沿いにと進んで行く。雨に濡れるのはやはり好きではない。密に生えた漆黒の毛が水を含み、ぺたりと冷たく張り付く。
それでも先程聞こえた声が気になって、白陽はその方向へと脚を進める。
それは小さな子供の声だった。それも、人間と、猫の。
薄い板塀を回り込んだ時、その声の主の一人が目に入った。丈の短い着物を着た七つばかりの男の子。雨から身を守る物も持たず、時折しゃくり上げながら泣いている。
彼の目の前には小さな袋小路。板切れ等が立て掛けられ、ちょっとした雨宿りや子供の隠れ家には打って付けの場所になっている。だが、件の子供はそこには入らず、只雨の中、泣いていた。
そして、板切れの陰からは、人の赤子の声にも似た、仔猫の声――だが、それは幻だと、白陽は耳を動かして振り払う。だが、その哀しげな鳴き声はなかなか頭から離れない。
白陽は進み行き、子供の脚に濡れた身体を擦り付けた。
「!」一瞬、びくりと身を硬くした子供は、しかしそれが猫だと知ると、涙を拭いてしゃがみ込んだ。「何処の子?」
旅の身にそれを問われても困るが、どの途白陽にそれを伝える術も無い。
只、何事かあったのかと物問いたげな視線で、じっと子供の顔を見上げるだけだ。
と、それが通じた訳でもなかろうが、男の子はぽつりぽつりと語り始めた。誰かに聞いて欲しかっただけなのだろうが。
「あのね、昨日、小さな仔猫が居たんだ。どっかの縁の下で野良猫が産んだのかも知れないけど、未だ未だ小さな仔猫でね、でも迷子になったのか独りぼっちだったんだ。だから、家に連れて帰ったんだけど……おっかさんに怒られちまった。そんな小さな仔猫の面倒、どうせ見切れやしないし、そんな余裕もないって。俺がやるって言ったけど、無理だって……。家の手伝いもあるし。だからどっかに捨てて来いって言われたけど、俺、こっそり飼う心算で、この隠れ家に連れて来たんだ。晩御飯の残りとか、着物とか置いて、板っ切れも雨が入らないように直して……。なのに、今日来たら居ないんだ。何処にも」
男の子はどんよりとした雨雲を見上げる。
「こんな雨なのに……。あんな小さいのに……」
ひっく、とまた喉の奥でしゃくり上げる。大きな目に、雨ではない水滴が浮かぶ。
「何処行っちゃったんだよ……? 身体が冷え過ぎたら死んじゃうって、裏のお婆が言ってた……。こんな事なら、俺がおっかさんに怒られようとどうしようと、家に置いておけばよかったんだ。どうしよう……。ちび、きっとどこかで泣いてるよ。もしかしたらもう死んで、俺の事怒ってるかも……」
白陽は小首を傾げる。さては先程から聞こえる仔猫の声はこの所為か。彼の思いが幻の仔猫を作り上げているのか――してみれば、この哀しげな泣き声は彼自身のものか。
猫の身であれば、人の事に干渉する道理はないが、幻とは言え、此処でその仔猫が鳴き続けるのも不憫だ。白陽は身を翻し、連れの居る空き家へと取って返した。
「やれやれ、また濡れてしまうな」そう微苦笑しながらも白陽を出迎えた至遠は、既に出掛ける準備も整っている様だった。生乾きの黒髪を後ろで括り、黒衣を纏っている。「白陽。案内してくれるんだろう?」
そうして連れ立って戻ってみれば、子供は白陽に置いてきぼりにされた儘、雨の中に突っ立っていた。
白陽とて只の猫。連れは異様に察しがいいが、言葉迄は解してくれない。子供は至遠の問いに応じて、再び語った。
「仔猫が何処へ行ったのか……か」至遠は首を捻った。「未だ死んだとは限らないよ?」
「でも……!」
「君の所為でもないかも知れない。結論は探してからでもいいだろう?」
子供は自信なさげに頷いた。
「兎も角……」至遠は肩に乗った黒猫に声を掛けた。「白陽。幻ではない、本当の仔猫の声は聞こえないか? この雨の中、雑音も多いと思うが……」
ぴくり、ぴくりと白陽は耳の角度を変えた。幻の泣き声に用はない。本当の、子猫の鳴き声は……。
雨滴を飛ばして、白陽は地面に飛び降りた。連れを振り返り、案内する様に先に立つ。至遠は微笑むと、子供の肩に手を添えて、それに付き従った。
尤も、白陽は板塀を乗り越えようとしたので、彼等は塀沿いに回り込まなければならなかったが。
薄い板塀を回り、袋小路の反対側、小さいながらも門があった。
子供によれば此処は村一番の商家らしい。村自体が小さいので、たかが知れてはいるが。
雨の中失礼すると申し述べ、至遠は出て来た女中に尋ねた。この家に仔猫は居ないか、と。
「ああ、それでしたら今朝、塀の所で鳴いていたのをお嬢さんがお連れでしたよ」女中は気さくに答えた。「何でも、ご飯や着物はあって、誰かが隠れて飼っている様ではあったけれど、この雨ではあの板の下もずぶ濡れだろうからと仰って。何処かの子供が作った隠れ家の様だけれど、何処の誰とも判らなくて、少々お困りの様でしたよ」
男の子は無事、小さな仔猫と再会出来た。事情を話すと、この家で責任を持って飼うから、時折遊びに来てやって来れとも言ってくれた。
傘迄貸して貰い、深々と礼をしての帰り道、もう袋小路からは何ものの泣き声も、聞こえては来なかった。
―了―
お久~の至遠君と白陽っす。
旅の身にそれを問われても困るが、どの途白陽にそれを伝える術も無い。
只、何事かあったのかと物問いたげな視線で、じっと子供の顔を見上げるだけだ。
と、それが通じた訳でもなかろうが、男の子はぽつりぽつりと語り始めた。誰かに聞いて欲しかっただけなのだろうが。
「あのね、昨日、小さな仔猫が居たんだ。どっかの縁の下で野良猫が産んだのかも知れないけど、未だ未だ小さな仔猫でね、でも迷子になったのか独りぼっちだったんだ。だから、家に連れて帰ったんだけど……おっかさんに怒られちまった。そんな小さな仔猫の面倒、どうせ見切れやしないし、そんな余裕もないって。俺がやるって言ったけど、無理だって……。家の手伝いもあるし。だからどっかに捨てて来いって言われたけど、俺、こっそり飼う心算で、この隠れ家に連れて来たんだ。晩御飯の残りとか、着物とか置いて、板っ切れも雨が入らないように直して……。なのに、今日来たら居ないんだ。何処にも」
男の子はどんよりとした雨雲を見上げる。
「こんな雨なのに……。あんな小さいのに……」
ひっく、とまた喉の奥でしゃくり上げる。大きな目に、雨ではない水滴が浮かぶ。
「何処行っちゃったんだよ……? 身体が冷え過ぎたら死んじゃうって、裏のお婆が言ってた……。こんな事なら、俺がおっかさんに怒られようとどうしようと、家に置いておけばよかったんだ。どうしよう……。ちび、きっとどこかで泣いてるよ。もしかしたらもう死んで、俺の事怒ってるかも……」
白陽は小首を傾げる。さては先程から聞こえる仔猫の声はこの所為か。彼の思いが幻の仔猫を作り上げているのか――してみれば、この哀しげな泣き声は彼自身のものか。
猫の身であれば、人の事に干渉する道理はないが、幻とは言え、此処でその仔猫が鳴き続けるのも不憫だ。白陽は身を翻し、連れの居る空き家へと取って返した。
「やれやれ、また濡れてしまうな」そう微苦笑しながらも白陽を出迎えた至遠は、既に出掛ける準備も整っている様だった。生乾きの黒髪を後ろで括り、黒衣を纏っている。「白陽。案内してくれるんだろう?」
そうして連れ立って戻ってみれば、子供は白陽に置いてきぼりにされた儘、雨の中に突っ立っていた。
白陽とて只の猫。連れは異様に察しがいいが、言葉迄は解してくれない。子供は至遠の問いに応じて、再び語った。
「仔猫が何処へ行ったのか……か」至遠は首を捻った。「未だ死んだとは限らないよ?」
「でも……!」
「君の所為でもないかも知れない。結論は探してからでもいいだろう?」
子供は自信なさげに頷いた。
「兎も角……」至遠は肩に乗った黒猫に声を掛けた。「白陽。幻ではない、本当の仔猫の声は聞こえないか? この雨の中、雑音も多いと思うが……」
ぴくり、ぴくりと白陽は耳の角度を変えた。幻の泣き声に用はない。本当の、子猫の鳴き声は……。
雨滴を飛ばして、白陽は地面に飛び降りた。連れを振り返り、案内する様に先に立つ。至遠は微笑むと、子供の肩に手を添えて、それに付き従った。
尤も、白陽は板塀を乗り越えようとしたので、彼等は塀沿いに回り込まなければならなかったが。
薄い板塀を回り、袋小路の反対側、小さいながらも門があった。
子供によれば此処は村一番の商家らしい。村自体が小さいので、たかが知れてはいるが。
雨の中失礼すると申し述べ、至遠は出て来た女中に尋ねた。この家に仔猫は居ないか、と。
「ああ、それでしたら今朝、塀の所で鳴いていたのをお嬢さんがお連れでしたよ」女中は気さくに答えた。「何でも、ご飯や着物はあって、誰かが隠れて飼っている様ではあったけれど、この雨ではあの板の下もずぶ濡れだろうからと仰って。何処かの子供が作った隠れ家の様だけれど、何処の誰とも判らなくて、少々お困りの様でしたよ」
男の子は無事、小さな仔猫と再会出来た。事情を話すと、この家で責任を持って飼うから、時折遊びに来てやって来れとも言ってくれた。
傘迄貸して貰い、深々と礼をしての帰り道、もう袋小路からは何ものの泣き声も、聞こえては来なかった。
―了―
お久~の至遠君と白陽っす。
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Re:無題
FBIっすか(笑)
取り敢えず生類憐みの令(猫様限定)でも発動しますか(^^;)
もし死んでたら……そんな展開、出来ませんよぉ(:ω;)
取り敢えず生類憐みの令(猫様限定)でも発動しますか(^^;)
もし死んでたら……そんな展開、出来ませんよぉ(:ω;)
Re:こんばんは☆
やっぱり子猫には明るい未来を用意しないとね!(^^)
Re:こんばんは
何処だー!(・・=・・)きょろきょろ
白陽、雨だけどちょっと活躍してみます(笑)
白陽、雨だけどちょっと活躍してみます(笑)
Re:こんにちは
猫又(笑)
未だ尻尾は一本みたいですがその内……?
未だ尻尾は一本みたいですがその内……?
こんにちは♪
おぉ!久しぶりの至遠サマ♪
白陽君も、いつのまにか立派な成猫になったのねぇ~!今回は雨の中、大活躍だったネ♪
子猫、無事に良い人に拾われて良かったネ!
雨の中で冷たくなったなんて事になったら、
( iдi ) ワ~ンと大泣きするとこだった。
ところで白陽君もそろそろ喋れる様にはならない
ものかしら?
至遠サマのお力で!無理かな??
白陽君も、いつのまにか立派な成猫になったのねぇ~!今回は雨の中、大活躍だったネ♪
子猫、無事に良い人に拾われて良かったネ!
雨の中で冷たくなったなんて事になったら、
( iдi ) ワ~ンと大泣きするとこだった。
ところで白陽君もそろそろ喋れる様にはならない
ものかしら?
至遠サマのお力で!無理かな??
Re:こんにちは♪
喋る猫っすか。ケットシーのおっちゃんと被りそう(^^;)
どんどん妖っぽくなる~(笑)
どんどん妖っぽくなる~(笑)
Re:子猫ちゃん
こっちも降ってますよ~☆
今夜から明日に掛けて大雨の予報も出てますからね~。
ふわりぃさんも気を付けて下さいね!
今夜から明日に掛けて大雨の予報も出てますからね~。
ふわりぃさんも気を付けて下さいね!