〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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森の外縁に住まう死霊達が騒がしい季節となって参りました。
森の外れは人の街の外れでもあり、墓地も多く、またそろそろお墓参りをする人の増える頃。浮かれるのも解りますが……。
人の点す灯が眩しくて敵わん、とお嬢様方は屋敷の奥に籠り切りになっておられます。まぁ、お食事などは、人間が寝静まった深夜にそっと忍んでお摂りの様ですが。
私、カメリアも人目には付きたくございませんので、余りそちらには近付かないようにしております。黒猫のフリューゲルには流石に言っても解っては貰えそうにもないので、適当な玩具を与えて屋敷内で遊ばせて。
この月が終われば直に厳しい冬がやって来て、森を雪で閉ざすでしょう。
それ迄の辛抱とひっそりと過ごしておりますと……ある夜、奇妙なお客様がおいでになられました。
ええ、勿論、人間ではございません。
森の外れは人の街の外れでもあり、墓地も多く、またそろそろお墓参りをする人の増える頃。浮かれるのも解りますが……。
人の点す灯が眩しくて敵わん、とお嬢様方は屋敷の奥に籠り切りになっておられます。まぁ、お食事などは、人間が寝静まった深夜にそっと忍んでお摂りの様ですが。
私、カメリアも人目には付きたくございませんので、余りそちらには近付かないようにしております。黒猫のフリューゲルには流石に言っても解っては貰えそうにもないので、適当な玩具を与えて屋敷内で遊ばせて。
この月が終われば直に厳しい冬がやって来て、森を雪で閉ざすでしょう。
それ迄の辛抱とひっそりと過ごしておりますと……ある夜、奇妙なお客様がおいでになられました。
ええ、勿論、人間ではございません。
「あちっ、熱っ……!」両手の間で、何と火の付いた炭を転がしつつ、その方は仰いました。「済まないがね、お嬢さん。これを入れる物――カブが無いだろうか?」
「カブ……でございますか?」私は呆気に取られつつ、訊き返しました。「お野菜の、でございますよね?」
「ああ、勿論だ!」熱さに堪え兼ねているのでしょう、顔は歪み、声には焦りと苛立ちが覗きます。「もしあれば早くお願いしたいのだがね」
「あの、一先ずはその炭火をどこかにお降ろしになられては……?」幸い玄関ポーチの床は石畳。降ろしても火事にはなりません。「灰皿でもお持ち致しましょうか?」
「灰皿を持って来る位ならカブを……!」悲鳴の様に、その方は叫ばれました。「普通の灰皿なんかじゃもたんよ! ああ、中を捜させて下さらんか!?」
不思議な事を仰るお客様です。灰皿は元より熱い灰を受ける物。それがもたない様な火では、植物のカブなど尚更耐えられないでしょう。大体、それ程熱いのなら、所構わず放り出してもよさそうなものですのに。
私が思わず呆気に取られておりますと、玄関ロビーの奥、階段の上から、さも可笑しそうなお嬢様の笑い声が聞こえて参りました。
「それは煉獄の炎だからな。定められた物でなければ受け切れられんよ」と、お嬢様。「嘘つきが過ぎて死して後、彼岸の聖人迄騙して生き返ったものの、二度目に死んだ時には最早天国にも地獄にも行けぬ身になり、無明の闇を彷徨う魂。地獄の悪魔にさえ哀れと炭火を貰ったはいいが……下ろす事も許されん。カブの中が唯一定められた火を託す事の出来る場所だがな」くすくすと、忍び笑いが続きます。
「あちっ……! お解りなら急がせて下さらんか、吸血族のお方」手の中で炭火を転がし転がし、お客様。「先日うっかりと、長年使っていたカブを割ってしまい、それ以来ずっとこの有様。休む事も儘なりませぬ」
「そちらこそ、吸血族の屋敷とお解りなら、何故此処へ? カブなど食す訳もないのに」
「しかし、こちらには他の妖の方々も来られるとか。もしかしてと……。ああ、本当に無いのですか!?」
懇願する様に、些か哀れを覚えておりますと、お嬢様はひょい、とフリューゲルの遊んでいた物を取り上げて、放って寄越されました。私は慌てて、ちょっと重いそれを受け止めました。
「取り敢えずそれで代用しておくがいい。今はそれが主流だそうだし」
それ、というのは片手に乗る程の、オレンジ色のカボチャでございました。
刳り抜いたカボチャに無事、炭火を収めほっと一息。
是非お礼に中で雑用でも、との申し出をお嬢様はきっぱりとお断りになりました。
「用は済んだのだから、その眩しいランタンを持って、さっさとお帰り。灯など我等には迷惑だ」と。
仕方ない、という様子で時折振り返りつつも、カボチャのランタンを持った男は森に紛れて行きました。
雑用位やって頂いてもよかったのでは――あ、いえ、決して私の仕事を減らしたいとかその様な事は……!
私が些か複雑な思いで、フリューゲルに新たな玩具を提供していると、お嬢様は苦笑を浮かべて仰せになりました。
「あれは嘘つき男だからね。信用してはいけないよ、カメリア。如何に死も許されぬ身とは言え、そう幾日もあの火を直に手にしていたなら、手は焼け爛れ、酷い有様だったろうね」
「では、ああなったのはついさっきの事だと……?」私は目を丸くしました。
「カブを割った不運は確かに事故だったのかも知れないが、それを利用してこの屋敷に入り、何かをくすねて行こうと考えたんだろうよ」
そう言えば先程も中を捜させてくれと言っていました。そしてお礼に中で雑用を、と。
「カボチャ、上げるんじゃなかったわね、フリューゲル?」黒猫の両手を取って、私は思わずそう零しました。
「なぁに」逆にお嬢様は笑みを零されました。「元々定められたカブではないのだから、あれも精々もって一年だろうよ。そうしたらまた手の中で火を転がす羽目になる」
そうしたらまた、性懲りもなく彼は此処に来るのでしょうか?
二度目が無いのは、あの世もこの世も、同じでございますよ?
ランタン持ちの男――ジャック・オ・ランタンさん。
―了―
10月といえばハロウィン! と言う程には日本では未だ認知度ないかな(笑)
とは言えカボチャのランタンはお馴染みですよね。
ところがちょこっと調べてみたら、ヨーロッパでは元はカブだったそうなんです。アメリカに入ってから、カボチャが流行り出したのだとか。
何か意外……(^^;)
「カブ……でございますか?」私は呆気に取られつつ、訊き返しました。「お野菜の、でございますよね?」
「ああ、勿論だ!」熱さに堪え兼ねているのでしょう、顔は歪み、声には焦りと苛立ちが覗きます。「もしあれば早くお願いしたいのだがね」
「あの、一先ずはその炭火をどこかにお降ろしになられては……?」幸い玄関ポーチの床は石畳。降ろしても火事にはなりません。「灰皿でもお持ち致しましょうか?」
「灰皿を持って来る位ならカブを……!」悲鳴の様に、その方は叫ばれました。「普通の灰皿なんかじゃもたんよ! ああ、中を捜させて下さらんか!?」
不思議な事を仰るお客様です。灰皿は元より熱い灰を受ける物。それがもたない様な火では、植物のカブなど尚更耐えられないでしょう。大体、それ程熱いのなら、所構わず放り出してもよさそうなものですのに。
私が思わず呆気に取られておりますと、玄関ロビーの奥、階段の上から、さも可笑しそうなお嬢様の笑い声が聞こえて参りました。
「それは煉獄の炎だからな。定められた物でなければ受け切れられんよ」と、お嬢様。「嘘つきが過ぎて死して後、彼岸の聖人迄騙して生き返ったものの、二度目に死んだ時には最早天国にも地獄にも行けぬ身になり、無明の闇を彷徨う魂。地獄の悪魔にさえ哀れと炭火を貰ったはいいが……下ろす事も許されん。カブの中が唯一定められた火を託す事の出来る場所だがな」くすくすと、忍び笑いが続きます。
「あちっ……! お解りなら急がせて下さらんか、吸血族のお方」手の中で炭火を転がし転がし、お客様。「先日うっかりと、長年使っていたカブを割ってしまい、それ以来ずっとこの有様。休む事も儘なりませぬ」
「そちらこそ、吸血族の屋敷とお解りなら、何故此処へ? カブなど食す訳もないのに」
「しかし、こちらには他の妖の方々も来られるとか。もしかしてと……。ああ、本当に無いのですか!?」
懇願する様に、些か哀れを覚えておりますと、お嬢様はひょい、とフリューゲルの遊んでいた物を取り上げて、放って寄越されました。私は慌てて、ちょっと重いそれを受け止めました。
「取り敢えずそれで代用しておくがいい。今はそれが主流だそうだし」
それ、というのは片手に乗る程の、オレンジ色のカボチャでございました。
刳り抜いたカボチャに無事、炭火を収めほっと一息。
是非お礼に中で雑用でも、との申し出をお嬢様はきっぱりとお断りになりました。
「用は済んだのだから、その眩しいランタンを持って、さっさとお帰り。灯など我等には迷惑だ」と。
仕方ない、という様子で時折振り返りつつも、カボチャのランタンを持った男は森に紛れて行きました。
雑用位やって頂いてもよかったのでは――あ、いえ、決して私の仕事を減らしたいとかその様な事は……!
私が些か複雑な思いで、フリューゲルに新たな玩具を提供していると、お嬢様は苦笑を浮かべて仰せになりました。
「あれは嘘つき男だからね。信用してはいけないよ、カメリア。如何に死も許されぬ身とは言え、そう幾日もあの火を直に手にしていたなら、手は焼け爛れ、酷い有様だったろうね」
「では、ああなったのはついさっきの事だと……?」私は目を丸くしました。
「カブを割った不運は確かに事故だったのかも知れないが、それを利用してこの屋敷に入り、何かをくすねて行こうと考えたんだろうよ」
そう言えば先程も中を捜させてくれと言っていました。そしてお礼に中で雑用を、と。
「カボチャ、上げるんじゃなかったわね、フリューゲル?」黒猫の両手を取って、私は思わずそう零しました。
「なぁに」逆にお嬢様は笑みを零されました。「元々定められたカブではないのだから、あれも精々もって一年だろうよ。そうしたらまた手の中で火を転がす羽目になる」
そうしたらまた、性懲りもなく彼は此処に来るのでしょうか?
二度目が無いのは、あの世もこの世も、同じでございますよ?
ランタン持ちの男――ジャック・オ・ランタンさん。
―了―
10月といえばハロウィン! と言う程には日本では未だ認知度ないかな(笑)
とは言えカボチャのランタンはお馴染みですよね。
ところがちょこっと調べてみたら、ヨーロッパでは元はカブだったそうなんです。アメリカに入ってから、カボチャが流行り出したのだとか。
何か意外……(^^;)
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Re:こんばんは☆
ばれますね(笑)
ハロウィンと言えばカボチャのランタンが直ぐに頭に浮かびますけど、昔はカブだったそうなんですよ。意外ですよね。
ハロウィンと言えばカボチャのランタンが直ぐに頭に浮かびますけど、昔はカブだったそうなんですよ。意外ですよね。
Re:おはよ~
うん、何かハロウィン=カボチャランタンってイメージがある所為か、カブだと何かそれっぽくないですよね(^^;)
因みにハロウィン用のカボチャは余り美味しくない品種だそうです☆
因みにハロウィン用のカボチャは余り美味しくない品種だそうです☆
Re:こんにちは♪
Trick or Treat!
おやつくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ!
……猫様は年中、ハロウィンの様な気がします(笑)
おやつくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ!
……猫様は年中、ハロウィンの様な気がします(笑)
Re:こんにちは
あの丸さが猫にジャストフィット♪ かもね(^^)
ヨーロッパのカブって一体……。
ヨーロッパのカブって一体……。