〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「後、三十三回」そいつはここ数十日の慎也の苦労を嘲笑う様に今日も現れて、にやりと笑った。「三十三回――私を殺さないと」
にやり、ピエロの化粧を施された口元が笑みの形に広がる。糸の様な目は笑っているのか泣いているのか、はたまた別の感情を持っているのか、窺い知れない。赤い団子鼻は滑稽だが、この顔の中では寧ろ、グロテスクだった。
「もう、無理だ……」慎也は喘ぐ様に言った。「もう嫌だ」
「何故?」そいつは大仰に首を傾げて見せる。その動きはやはりピエロめいているが、人を楽しませるどころか苛立たせる効果がある様だった。
「何故って、もう嫌なんだよ……! お前を殺し続けるなんて!」
「なぁぜ?」上半身ごと、傾げて見せる。「二箇月前、私を殺したじゃないですか。そしてそれからも殺し続けてきた。これからもその様にすればいいのです――後、三十三回」
慎也は二箇月前の、とある放課後を回想した。いつもと変わらない、退屈な一日。いつもと変わらない放課後。
いつもと違ったのは、女子にせっつかれてごみ捨てに行った裏庭で、気味の悪い人形を拾った事位か。
何日前からそこに落ちていたものか、薄汚れた布製のピエロの人形は、拾い上げてみると丸で何かの死体の様にくったりとしていて、こんな物を学校に迄持って来る奴の気が知れないと、慎也は眉を顰めたものだった。
焼却炉に放り込むごみの中に、慎也はそれをひょい、と放り込んだ。何日も放置されて、今更誰も拾いに来やしないだろう、と。
「そうして私は焼け死んだのです」回想に割って入る様に、そいつが言った。
慎也は今更驚かない。きっとこいつには自分の考えや感情など、筒抜けなのだろう。この数十日の係わり合いで充分に、それは解っていた。
そう、そいつは死んだ――いや、焼けた……筈だった。
なのにその翌日、ピエロは彼の前に現れこう言った。
『私を殺した貴方を、私は許さない。貴方から離れはしませんよ――後、九十九回、貴方が私を殺す迄ね』
焼けた筈の――いや、それ以前に人形が目の前に現れ、動き、口を利いた事に慄きながらも、慎也はどういう意味だと問うた。
『要するに貴方は私に取り憑かれたんです。私から逃れたいと願うのなら……そう、私を殺せばいい。後、九十九回』
直後、慎也はそれを部屋の窓から、今まさに車が通行している道路に叩き付ける様に投げた。過たずピエロはタイヤの下敷きとなり、薄汚れてアスファルトに張り付いた。それは見ている間にも次々とタイヤの下敷きとなり、中の綿がはみ出し、ぼろぼろになって行った。
慎也はなかなか治まらない動悸を鎮めつつ、窓を閉め、カーテンをきつく引いた。
だのにその翌日、それは再び現れた。丸で何事もなかったかの様に。但し――。
『後、九十八回』カウントが、減っていた。
以来、そいつが現れる度に、慎也はそれを殺してきた。
とは言え、相手は薄気味が悪いとは言え、人形。大して手を煩わせる事もなかった。
川や池に放り込む、鋏で切る、火を点ける……。カウントは順調に減って行った。
だが、それとは逆に慎也の手は鈍り始めた。
始めは恐怖から。只それから逃れたい一心で、殆ど反射的にやっていた。もう現れるな! そう願いながら。
だが徐々に……。
「もう無理なんだよ! 頼むから消えてくれよ!」慎也は懇願した。「始めは只お前が怖かった。動いて、口を利いて、然も何度壊してもまた出て来る人形なんて……! でも、今は……今は、俺は自分が怖い……!」
何の苦もなく壊れる人形。執拗に現れはするものの、決して危害を加えてくる訳でもなく、彼の手一つで殺せるもの。
落ち着いてみればこんな物、怖くも何ともないじゃないか――慎也は人形と比較して、自分の手の大きさと力を知っていった。
だが、それは徐々に慎也自身の中の、何か恐ろしいものを助長していく様で……彼はそれが怖かった。
こんな弱いもの、自分の手でどうとでも出来る。ほら、ちょっと手で捻ってやれば簡単に、壊れる。
それを自覚する毎に、その対象が、攻撃的な衝動をぶつける相手がこの人形以外になってしまいそうで、慎也は怖かった。自分の中に、こんな衝動が眠っていた事が、また怖かった。
だがそんな懇願も虚しく、ピエロは、宣告した。
「後、三十三回です」と。
人形は焼かれ、水に沈められ、切り裂かれた。それからも何度も、何度も。
そして遂に――。
「後、一回です」
その言葉に、慎也は歓喜と同時に焦りを感じた。これで解放されるという思いと共に、本当にやっていいのかという不安が焦りを生む。何か、本当に越えてはいけない一線を越えてしまう様で。
「大丈夫です」と、そいつは受け合った。「貴方の中の殺意という衝動が目を覚まそうとも、貴方は誰かを傷付ける事などありません。私が保証します」
さあ、後一回です、とそいつは囁いた。
慎也は――最初と同様、その人形を学校の焼却炉に放り込んだ。その瞬間、口元に浮かんだ笑みは解放の安堵からだったのか、嗜虐的なものだったのか。ともあれ、その笑みは直ぐに凍り付いた。
ぽとり、と軽い音を立てて慎也は地に落ちた。
なん……で? 何で俺が人形になってるんだよ? 俺はどうなったんだよ?
戸惑いと焦りは声にならない。思考がぐるぐると、ループするだけだ。
「だから言ったでしょう」ピエロの声が聞こえた。「貴方は誰かを傷付ける事など、ありません、と。その有様で他者に危害を加えようなど……後、百年は早いのですよ」
私の様になるには百年ではききませんがね――そんな嘲笑を最後に、声は遠ざかって行った。
後には只、掻き立てられた殺意という衝動を抱え込んだ、今は無力な人形がぽつりと転がるばかり……。
―了―
奇妙な話風味で(^^;)
いつもと違ったのは、女子にせっつかれてごみ捨てに行った裏庭で、気味の悪い人形を拾った事位か。
何日前からそこに落ちていたものか、薄汚れた布製のピエロの人形は、拾い上げてみると丸で何かの死体の様にくったりとしていて、こんな物を学校に迄持って来る奴の気が知れないと、慎也は眉を顰めたものだった。
焼却炉に放り込むごみの中に、慎也はそれをひょい、と放り込んだ。何日も放置されて、今更誰も拾いに来やしないだろう、と。
「そうして私は焼け死んだのです」回想に割って入る様に、そいつが言った。
慎也は今更驚かない。きっとこいつには自分の考えや感情など、筒抜けなのだろう。この数十日の係わり合いで充分に、それは解っていた。
そう、そいつは死んだ――いや、焼けた……筈だった。
なのにその翌日、ピエロは彼の前に現れこう言った。
『私を殺した貴方を、私は許さない。貴方から離れはしませんよ――後、九十九回、貴方が私を殺す迄ね』
焼けた筈の――いや、それ以前に人形が目の前に現れ、動き、口を利いた事に慄きながらも、慎也はどういう意味だと問うた。
『要するに貴方は私に取り憑かれたんです。私から逃れたいと願うのなら……そう、私を殺せばいい。後、九十九回』
直後、慎也はそれを部屋の窓から、今まさに車が通行している道路に叩き付ける様に投げた。過たずピエロはタイヤの下敷きとなり、薄汚れてアスファルトに張り付いた。それは見ている間にも次々とタイヤの下敷きとなり、中の綿がはみ出し、ぼろぼろになって行った。
慎也はなかなか治まらない動悸を鎮めつつ、窓を閉め、カーテンをきつく引いた。
だのにその翌日、それは再び現れた。丸で何事もなかったかの様に。但し――。
『後、九十八回』カウントが、減っていた。
以来、そいつが現れる度に、慎也はそれを殺してきた。
とは言え、相手は薄気味が悪いとは言え、人形。大して手を煩わせる事もなかった。
川や池に放り込む、鋏で切る、火を点ける……。カウントは順調に減って行った。
だが、それとは逆に慎也の手は鈍り始めた。
始めは恐怖から。只それから逃れたい一心で、殆ど反射的にやっていた。もう現れるな! そう願いながら。
だが徐々に……。
「もう無理なんだよ! 頼むから消えてくれよ!」慎也は懇願した。「始めは只お前が怖かった。動いて、口を利いて、然も何度壊してもまた出て来る人形なんて……! でも、今は……今は、俺は自分が怖い……!」
何の苦もなく壊れる人形。執拗に現れはするものの、決して危害を加えてくる訳でもなく、彼の手一つで殺せるもの。
落ち着いてみればこんな物、怖くも何ともないじゃないか――慎也は人形と比較して、自分の手の大きさと力を知っていった。
だが、それは徐々に慎也自身の中の、何か恐ろしいものを助長していく様で……彼はそれが怖かった。
こんな弱いもの、自分の手でどうとでも出来る。ほら、ちょっと手で捻ってやれば簡単に、壊れる。
それを自覚する毎に、その対象が、攻撃的な衝動をぶつける相手がこの人形以外になってしまいそうで、慎也は怖かった。自分の中に、こんな衝動が眠っていた事が、また怖かった。
だがそんな懇願も虚しく、ピエロは、宣告した。
「後、三十三回です」と。
人形は焼かれ、水に沈められ、切り裂かれた。それからも何度も、何度も。
そして遂に――。
「後、一回です」
その言葉に、慎也は歓喜と同時に焦りを感じた。これで解放されるという思いと共に、本当にやっていいのかという不安が焦りを生む。何か、本当に越えてはいけない一線を越えてしまう様で。
「大丈夫です」と、そいつは受け合った。「貴方の中の殺意という衝動が目を覚まそうとも、貴方は誰かを傷付ける事などありません。私が保証します」
さあ、後一回です、とそいつは囁いた。
慎也は――最初と同様、その人形を学校の焼却炉に放り込んだ。その瞬間、口元に浮かんだ笑みは解放の安堵からだったのか、嗜虐的なものだったのか。ともあれ、その笑みは直ぐに凍り付いた。
ぽとり、と軽い音を立てて慎也は地に落ちた。
なん……で? 何で俺が人形になってるんだよ? 俺はどうなったんだよ?
戸惑いと焦りは声にならない。思考がぐるぐると、ループするだけだ。
「だから言ったでしょう」ピエロの声が聞こえた。「貴方は誰かを傷付ける事など、ありません、と。その有様で他者に危害を加えようなど……後、百年は早いのですよ」
私の様になるには百年ではききませんがね――そんな嘲笑を最後に、声は遠ざかって行った。
後には只、掻き立てられた殺意という衝動を抱え込んだ、今は無力な人形がぽつりと転がるばかり……。
―了―
奇妙な話風味で(^^;)
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Re:無題
こうして代々、怪しい人形が存在し続けていくのです……(爆)
おはよう
うへっ! その程度の事で取り憑かれたら溜まらないな。
じゃぁ、そのまま放置して、雨風に晒させた方が慈悲だとでも言うのか?
念仏でも唱えながら焼けば良かったのか?
何気なく焼却した代償がそれじゃあ見合わないよなぁ。
じゃぁ、そのまま放置して、雨風に晒させた方が慈悲だとでも言うのか?
念仏でも唱えながら焼けば良かったのか?
何気なく焼却した代償がそれじゃあ見合わないよなぁ。
Re:おはよう
触らぬ何とか(←この場合は悪魔かぁ?)に祟りなし(^^;)
相手が悪かったみたいですね~。
相手が悪かったみたいですね~。
Re:こんにちは♪
ピエロ、何となく気味が悪いですよね~(^^;)
スルーがベスト、かな。この人形は。
スルーがベスト、かな。この人形は。
Re:ひょえ〜
人形……何が入っているやら……くくく(←誰)
やっぱり薄汚れた人形とか落ちてたら、ねぇ(^^;)
やっぱり薄汚れた人形とか落ちてたら、ねぇ(^^;)