〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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昨日の月夜、蝙蝠達が余りに騒いでおりましたが、その意味は注意しないでよいと、お嬢様は仰せになられました。
それでも今日、月夜が更けての客人の身元とかを保証しなかったのは何故でしょう?
いつもなら来客が解っていれば――そして大概その報せは蝙蝠達が運んで来るのです――その身元を保証し、警戒を解く筈ですのに。今回はそれも無かった様です。
だって、危うくその方、眷属の狼達に噛み殺されそうでしたもの!
まぁ……その方も吸血一族の御様子。その位で本当に死ぬ事は無いでしょうけれど。
それでも血をだらだら流しながら笑うその方を玄関でお出迎えした時には、このカメリア、卒倒しそうでございました。
血の汚れってなかなか落ちないんですよ!? 吸血族の方々は概ねその辺り無頓着ですけれど!
あああ、玄関ロビーの絨毯が……。
ところで私の仕事を増やしてへらへら笑っておられるこの方は、どなたでしょう?
それでも今日、月夜が更けての客人の身元とかを保証しなかったのは何故でしょう?
いつもなら来客が解っていれば――そして大概その報せは蝙蝠達が運んで来るのです――その身元を保証し、警戒を解く筈ですのに。今回はそれも無かった様です。
だって、危うくその方、眷属の狼達に噛み殺されそうでしたもの!
まぁ……その方も吸血一族の御様子。その位で本当に死ぬ事は無いでしょうけれど。
それでも血をだらだら流しながら笑うその方を玄関でお出迎えした時には、このカメリア、卒倒しそうでございました。
血の汚れってなかなか落ちないんですよ!? 吸血族の方々は概ねその辺り無頓着ですけれど!
あああ、玄関ロビーの絨毯が……。
ところで私の仕事を増やしてへらへら笑っておられるこの方は、どなたでしょう?
人間の年齢的な外見に置き換えれば二十五、六といった所でしょうか。黒い髪の、整った顔付きの殿方です。流血していなければもっと魅力的なのでしょうが……。
「私はエーベルという者だが、彼女からは何も聞いていないのかね?」一見上品にハンカチで血を拭いながら、お客様――エーベル様は仰せになられました。
「フラウお嬢様の事でございましょうか」私が些か途惑いながら訊き返しますと、大仰に頷かれます。まぁ、蝙蝠からの報せを受けながら、警戒しろとも命じず、態と身元の保証もなさらなかったご様子からして、お嬢様のお知り合いには違いなさそうですが。
「そう、フィ……」言い掛けたエーベル様の顔に黒い蝙蝠がべったり。
振り返って見ればロビーを見下ろす大階段の上にお嬢様のお姿。
「他者の名を軽々しく口にするな」氷雪の様に冷たい声が降って参りました。
取り敢えず、先の事と言い、お嬢様の本名をご存知だという事は、間違いなくお知り合いの方――親しい間柄かどうかはこの際、置きますが。
名はモノを呪縛するものだとか。それが人であれ、妖であれ。
何しろ私も、お嬢様の本名は存じません、坊ちゃま方もいつも愛称の「フラウ」を用いられますし。
それにしてはエーベル様、あっさりと名乗られましたが……。こういう方なのでございましょうね。
「では、フラウ……」蝙蝠を追いやり、改めてそう呼び直して、エーベル様は大仰に一礼。「折角の月夜だ。昨日お誘いの伝令を出した通り、一夜の散歩にでも行かないかね?」
「その格好でか?」
エーベル様、申し訳ないのですが、私も内心で同じ突っ込みを入れてしまいました。お客様に対して無作法とは思いつつも。
「確かにこれはご婦人をお誘いする出で立ちではないな。仕方ない。服をディータ……」また、蝙蝠がべったり。今度の子は、坊ちゃまの眷属の様です。
「懲りないよな。エーベル?」坊ちゃまの声は二階の回廊から降ってきました。
「自分は呼んでる癖に」ぶつくさ言いながら、蝙蝠を剥がすエーベル様。
「お前は自分で名乗ってるだろうが。それより、何の用で来た? フラウを誘うにしては……時間が遅過ぎないか?」
時刻は月も傾き、午前四時近く。確かに日の出の時間を考えると遅い時間です。早起き鶏などはもう鳴き出してしまうでしょう。
エーベル様はふと、口元に笑みを刻んで、何と私を指差されました。
指差すな、と二匹の蝙蝠に襲われましたが。
「出来のいい生き人形を手に入れたそうじゃないか。どんなものかと思って見に来たんだ」屈託の無い笑顔でそう仰せになられますが……私の内心には不安感と僅かに不快感が、漂っておりました。
会いに来た、ではなく見に来た。そう仰せになられました。
確かに私は生き人形――それも名工の手になるものと自負しております。しかし……心を持った今、物の様に言われるのは……。
「人間の手による物なんだろう? それにしては上出来じゃないか。ま、中身が入ってこそなんだろうけど」
あくまで物を鑑賞する様な、眼。中身が入っていると、心があると知っていながら。
私の中に冷たい怒りの炎が湧き上がりました。
それでも相手はお客様――私は平静を装い、ぎこちない笑みを浮かべようとして……お嬢様の声に我に返りました。
「カメリア。私達が身元を保証しなかった者は……客人として扱う必要は無いぞ?」
「……」私は暫し考え……愛用の箒に仕込まれた短い槍を抜き放ち、エーベルの喉元に突きつけました。「お客様ではないという事は、侵入者……。侵入者は排除するのが私達使用人の職務です。吸血族の方にこれ位では通用しないとは存じますが……容赦は致しません」
「うわっと!」彼は慌てて身を退きました。「なるほど、動きもいいな。ま、人形は見られたし、確かに今夜はもう遅いし……帰るとするよ。フィ……ぐ」またも、蝙蝠に口を塞がれ呻くエーベル。懲りない方ですね。
それに――この期に及んでも「人形は見られた」などと言うその胸に、私の槍が突き刺さりました。
尤も、その姿はあっと思う間も無く解け、無数の蝙蝠と化して行ったのですけれど。私の予想通り。
『ちょ……! その槍、銀じゃないか! 何でそんな物持たせてるんだよ! フラウ!』無数の蝙蝠の口から文句を喚き立てながらも、エーベルは間近に迫った朝陽に追い立てられる様に、去って行きました。
「お前の様なのが居るからだ」というお嬢様のお答えは聞こえたかどうか、定かではございませんが。
朝陽から主人達を護る為に早々に玄関扉を閉め、純銀の槍を箒に戻して、私はほっと一息つきました。
「カメリア」いつしかロビーに降りて来られたお嬢様が、私の肩に手を置いて仰せになられました。「心は見ようとしない者には、態々表面に出してやらなければ見えない。そんな相手には、遠慮は無用だ」
「そうそう。況してあんな奴簡単には死なないから。尚更遠慮は要らないぞ」と、坊ちゃま。
私の抑えた怒りが、お二人にはしっかりと見えていた様です。
見ようとしない者には見えない、心。
けれど偽りの身に宿ったこの心でさえ、見ようとする方には……。
私は何やら温かくなるものを感じて、笑みを浮かべてお二人を見詰めました。
その後、お二人は睡眠時間になり、お部屋へ戻って行かれました。
私? 私は眠りませんから。肉体的には疲れもしませんし。
それよりも問題は――ロビーの絨毯、特大サイズなんですよ!?
この始末を思うと、精神的には……ちょっとだけ、疲れます。
―了―
取り敢えず頑張れ、カメリアさん(^^;)
あ、今回のネタは『長い尾』の方の月夜の
「きのう月夜が、意味は注意しないです。
それできょう月夜が客人とか保証しなかった?」からでした~。
「私はエーベルという者だが、彼女からは何も聞いていないのかね?」一見上品にハンカチで血を拭いながら、お客様――エーベル様は仰せになられました。
「フラウお嬢様の事でございましょうか」私が些か途惑いながら訊き返しますと、大仰に頷かれます。まぁ、蝙蝠からの報せを受けながら、警戒しろとも命じず、態と身元の保証もなさらなかったご様子からして、お嬢様のお知り合いには違いなさそうですが。
「そう、フィ……」言い掛けたエーベル様の顔に黒い蝙蝠がべったり。
振り返って見ればロビーを見下ろす大階段の上にお嬢様のお姿。
「他者の名を軽々しく口にするな」氷雪の様に冷たい声が降って参りました。
取り敢えず、先の事と言い、お嬢様の本名をご存知だという事は、間違いなくお知り合いの方――親しい間柄かどうかはこの際、置きますが。
名はモノを呪縛するものだとか。それが人であれ、妖であれ。
何しろ私も、お嬢様の本名は存じません、坊ちゃま方もいつも愛称の「フラウ」を用いられますし。
それにしてはエーベル様、あっさりと名乗られましたが……。こういう方なのでございましょうね。
「では、フラウ……」蝙蝠を追いやり、改めてそう呼び直して、エーベル様は大仰に一礼。「折角の月夜だ。昨日お誘いの伝令を出した通り、一夜の散歩にでも行かないかね?」
「その格好でか?」
エーベル様、申し訳ないのですが、私も内心で同じ突っ込みを入れてしまいました。お客様に対して無作法とは思いつつも。
「確かにこれはご婦人をお誘いする出で立ちではないな。仕方ない。服をディータ……」また、蝙蝠がべったり。今度の子は、坊ちゃまの眷属の様です。
「懲りないよな。エーベル?」坊ちゃまの声は二階の回廊から降ってきました。
「自分は呼んでる癖に」ぶつくさ言いながら、蝙蝠を剥がすエーベル様。
「お前は自分で名乗ってるだろうが。それより、何の用で来た? フラウを誘うにしては……時間が遅過ぎないか?」
時刻は月も傾き、午前四時近く。確かに日の出の時間を考えると遅い時間です。早起き鶏などはもう鳴き出してしまうでしょう。
エーベル様はふと、口元に笑みを刻んで、何と私を指差されました。
指差すな、と二匹の蝙蝠に襲われましたが。
「出来のいい生き人形を手に入れたそうじゃないか。どんなものかと思って見に来たんだ」屈託の無い笑顔でそう仰せになられますが……私の内心には不安感と僅かに不快感が、漂っておりました。
会いに来た、ではなく見に来た。そう仰せになられました。
確かに私は生き人形――それも名工の手になるものと自負しております。しかし……心を持った今、物の様に言われるのは……。
「人間の手による物なんだろう? それにしては上出来じゃないか。ま、中身が入ってこそなんだろうけど」
あくまで物を鑑賞する様な、眼。中身が入っていると、心があると知っていながら。
私の中に冷たい怒りの炎が湧き上がりました。
それでも相手はお客様――私は平静を装い、ぎこちない笑みを浮かべようとして……お嬢様の声に我に返りました。
「カメリア。私達が身元を保証しなかった者は……客人として扱う必要は無いぞ?」
「……」私は暫し考え……愛用の箒に仕込まれた短い槍を抜き放ち、エーベルの喉元に突きつけました。「お客様ではないという事は、侵入者……。侵入者は排除するのが私達使用人の職務です。吸血族の方にこれ位では通用しないとは存じますが……容赦は致しません」
「うわっと!」彼は慌てて身を退きました。「なるほど、動きもいいな。ま、人形は見られたし、確かに今夜はもう遅いし……帰るとするよ。フィ……ぐ」またも、蝙蝠に口を塞がれ呻くエーベル。懲りない方ですね。
それに――この期に及んでも「人形は見られた」などと言うその胸に、私の槍が突き刺さりました。
尤も、その姿はあっと思う間も無く解け、無数の蝙蝠と化して行ったのですけれど。私の予想通り。
『ちょ……! その槍、銀じゃないか! 何でそんな物持たせてるんだよ! フラウ!』無数の蝙蝠の口から文句を喚き立てながらも、エーベルは間近に迫った朝陽に追い立てられる様に、去って行きました。
「お前の様なのが居るからだ」というお嬢様のお答えは聞こえたかどうか、定かではございませんが。
朝陽から主人達を護る為に早々に玄関扉を閉め、純銀の槍を箒に戻して、私はほっと一息つきました。
「カメリア」いつしかロビーに降りて来られたお嬢様が、私の肩に手を置いて仰せになられました。「心は見ようとしない者には、態々表面に出してやらなければ見えない。そんな相手には、遠慮は無用だ」
「そうそう。況してあんな奴簡単には死なないから。尚更遠慮は要らないぞ」と、坊ちゃま。
私の抑えた怒りが、お二人にはしっかりと見えていた様です。
見ようとしない者には見えない、心。
けれど偽りの身に宿ったこの心でさえ、見ようとする方には……。
私は何やら温かくなるものを感じて、笑みを浮かべてお二人を見詰めました。
その後、お二人は睡眠時間になり、お部屋へ戻って行かれました。
私? 私は眠りませんから。肉体的には疲れもしませんし。
それよりも問題は――ロビーの絨毯、特大サイズなんですよ!?
この始末を思うと、精神的には……ちょっとだけ、疲れます。
―了―
取り敢えず頑張れ、カメリアさん(^^;)
あ、今回のネタは『長い尾』の方の月夜の
「きのう月夜が、意味は注意しないです。
それできょう月夜が客人とか保証しなかった?」からでした~。
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Re:内容よりも…
極秘事項でございます(笑)
何故かドイツの人名から拾ってきたけど……果たして明かされる日は来るのでしょうか?^^;
何故かドイツの人名から拾ってきたけど……果たして明かされる日は来るのでしょうか?^^;
こんばんは♪
このお嬢様と坊ちゃまは優しいネ♪
吸血鬼として長く生きているゆえなのかなぁ?
他者の心の痛みを判ってあげれるなんて!
しかも召使の!それも生き人形のねぇ~!
カメリアさんじゃないけど、私も温かくなるものを感じました♪
しかし絨毯についた血痕は落とすの大変そう!
頑張れ~カメリアさん♪
吸血鬼として長く生きているゆえなのかなぁ?
他者の心の痛みを判ってあげれるなんて!
しかも召使の!それも生き人形のねぇ~!
カメリアさんじゃないけど、私も温かくなるものを感じました♪
しかし絨毯についた血痕は落とすの大変そう!
頑張れ~カメリアさん♪
Re:こんばんは♪
やはりそこら辺は年の功……いえ、何歳かは極秘事項ですが(笑)
絨毯の血痕は落ちるのかなぁ?(←おい)
絨毯の血痕は落ちるのかなぁ?(←おい)
Re:こんばんはー
エーベル君はかなり失礼な奴にしてみました(笑)
大理石ですか~。それもいいかも知れませんね~。
物によっては硬度が低いので通行料の多い所に使うと擦り減り易いそうですが、お嬢様方、余り歩かない気もするし(笑)
大理石ですか~。それもいいかも知れませんね~。
物によっては硬度が低いので通行料の多い所に使うと擦り減り易いそうですが、お嬢様方、余り歩かない気もするし(笑)
Re:保証するの?
その前に鑑定してね。
無題
どもども!
カメリアさんの怒りももっともっすよね!!
こんな失礼なヤツなんて、いくらお客様でも容赦する事なんてないです
そんなヤツは丁重に客間へご案内して、「ニンニク卵黄」のカプセルでも飲ましてやれば良かったのに!(笑)
カメリアさんの怒りももっともっすよね!!
こんな失礼なヤツなんて、いくらお客様でも容赦する事なんてないです
![](/emoji/V/185.gif)
そんなヤツは丁重に客間へご案内して、「ニンニク卵黄」のカプセルでも飲ましてやれば良かったのに!(笑)
Re:無題
それは効果抜群そうですね!(爆)
カメリアさんがこっそり裏庭でニンニクの栽培を始めたとか始めないとか(笑)
カメリアさんがこっそり裏庭でニンニクの栽培を始めたとか始めないとか(笑)
Re:おはよう!
トラブルメーカーかも知れません(笑)
だからお嬢様にも保証して貰えないんだ。
意味不明投稿はいつもの事さ~( ̄▽ ̄;)
だからお嬢様にも保証して貰えないんだ。
意味不明投稿はいつもの事さ~( ̄▽ ̄;)
Re:こんいちは
なかなか難しいけどね(^^;)
況してや内面に抱え込まれると。
でも、見えないのと見ようとしないのとでは違うと思うのよ。そして見えないのとそこに無いのとも☆
況してや内面に抱え込まれると。
でも、見えないのと見ようとしないのとでは違うと思うのよ。そして見えないのとそこに無いのとも☆
Re:これで納得!
人の気持ちを察するって、なかなか出来ないけど、大事ですよね^^
思い遣りも。
それにしてもうちはつくづく妖共がヒトより優しい(苦笑)
思い遣りも。
それにしてもうちはつくづく妖共がヒトより優しい(苦笑)
Re:こんちはっ!
ヒトじゃないけどね(笑)
何故かヒトよりいい人になりがちな妖達(笑)
名前、気になりますか?^^
ドイツ系で、実は案外短いです(とだけ言っておく・笑)
その内出て来るかも?
何故かヒトよりいい人になりがちな妖達(笑)
名前、気になりますか?^^
ドイツ系で、実は案外短いです(とだけ言っておく・笑)
その内出て来るかも?
Re:無題
カメリアさん、元が人形ですからねぇ(^^;)
確かに睡眠時間は至福……zzz
こうもりさん達、気に入って頂けましたか^^
確かに睡眠時間は至福……zzz
こうもりさん達、気に入って頂けましたか^^