〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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その夜霧は、妙に有機的な動きで市街を埋め尽くし、近所のコンビニ迄が、休業の張り紙をされていた。
「何で霧位で……」いつもなら灯の乏しい街を皓々と照らしている筈の店が闇に沈んでいるのを見て、俺はぶつくさと文句を垂れた。「店の中には関係ないじゃんか」
寧ろこんな時こそ開いていて欲しい――仕方なく真っ白な中、店の裏手に回りながら俺はちょっと、身を震わせた。
目の前を一段と濃い霧が過ぎる。
それは丸で何ものからか抜け出た魂の様で、気温以上に、涼しくさせてくれる。
変な事を考えるな、馬鹿馬鹿しい――俺は視界の悪い狭い路地に入り、上空、二階の窓の辺りに小石を投げた。
コンビニとは言っても田舎町のチェーンの委託店。住居の一階が店で、その住居に住んでいるのは友人の家族だった。そしてこの上辺りがその友人の部屋。折角来たんだ。店の店員でもある、奴に頼めば何か売ってくれるかも知れない。
少しして、窓の開く音が降ってきた。
「何で霧位で……」いつもなら灯の乏しい街を皓々と照らしている筈の店が闇に沈んでいるのを見て、俺はぶつくさと文句を垂れた。「店の中には関係ないじゃんか」
寧ろこんな時こそ開いていて欲しい――仕方なく真っ白な中、店の裏手に回りながら俺はちょっと、身を震わせた。
目の前を一段と濃い霧が過ぎる。
それは丸で何ものからか抜け出た魂の様で、気温以上に、涼しくさせてくれる。
変な事を考えるな、馬鹿馬鹿しい――俺は視界の悪い狭い路地に入り、上空、二階の窓の辺りに小石を投げた。
コンビニとは言っても田舎町のチェーンの委託店。住居の一階が店で、その住居に住んでいるのは友人の家族だった。そしてこの上辺りがその友人の部屋。折角来たんだ。店の店員でもある、奴に頼めば何か売ってくれるかも知れない。
少しして、窓の開く音が降ってきた。
「悪いな、拓」家に上げて貰いながら、俺は言った。「けど、コンビニが霧で休むとは思わなかったぞ?」
「それが今日は両親共、昔の友達の法事とかで居なくて……」と、拓は困惑顔で言った。「まぁ、それでもバイトも入ってたし、大丈夫の筈だったんだけど、一度掛かってきた電話に『霧が出てきた』って言ったら、店を閉めろって……。慌ててバイトの子にもキャンセル出して、店仕舞いして……二人もなるべく早く帰るって」
「何だそりゃ?」俺は肩を竦めた。確かに濃い霧だが、何をそんなに慌てる事があるんだろう。「まぁ、いいや。何か買い物出来るか? 夕方からバイク走らせてたんだが、家に帰っても食い物が無い事を思い出してな。腹減ってるんだよ」
「いいよ。僕が何か作るよりは出来合いの方が美味いだろうし」苦笑しつつ、拓は家から店のバックヤードに出るドアの鍵を開けた。
先ず見る事が無いだろう、電気を落としたコンビニは、当然だが暗くて、異様に静まり返っていて、緑の灯に照らされた非常口付近を除いては、丸で墓場の様だった。厚いガラスの壁の向こうには白い闇が広がっている。
「暗いな……灯は?」
差し出されたのは懐中電灯。いや、俺は店の灯の事を言ったんだが……。
「悪い。灯も点けるなって言われてるんだ」
「はぁ? それって確かに親父さん達からだったのか?」俺は疑わしくなって訊く。「泥棒とか強盗がやり易いようにって、芝居して……」
「真逆」拓は笑い飛ばす。「確かに二人の声だったし、大体霧は自然現象なんだ。二人が出掛けるのだって前もって知ってたのは僕と従業員数人。どっちにしても霧に乗じる事なんて出来なかっただろ?」
「それはそうだが……。まぁ、いいや、兎に角腹ごしらえだ」俺はおにぎりとカップラーメンを手に取り、レジはもう作動していないと言うので拓に確認して貰って丁度の金額を預けた。
そうして住居部分に戻り、ラーメンに湯を注いで待っていると、ふと、店の方から物音が聞こえた気がした。
丸で鍵の掛けられた自動ドアを開けようとして引っ掛かったみたいなガチッという音……。
拓も気付いた様で、怪訝な顔をしている。当然だろう。あの店内の闇では、例え張り紙が無くとも開いていないのは一目瞭然。例えおじさん達が戻って来たのだとしても、住居側から入るだろうし。
「真逆本当に泥棒……?」拓は少々蒼褪めている。
しようがないな――ラーメンの待ち時間がてらとばかりに、俺は席を立った。やはり気にはなるし。
懐中電灯を手に取り、店へ入った俺は、自動ドアを照らし――そこに、白い手を見た。
ドアにぺたりと張り付く様にして、白い手はあった。大きさや指の太さからすると男性のものと思われる、がっしりした手。右の掌に、何かで擦れた様な傷が痛々しく刻まれていた。
だが、問題なのは、それだけだという事だ。
丸でこの濃い夜霧が実体化したかの様な、白い、手だけ。
その先には腕も何も、見えなかった。幾ら霧が濃いとは言っても、余りに不自然に、手だけが、あった。
手だけの存在で灯を感じる訳も無いと思うが、そいつは懐中電灯の灯に照らされた途端、更に力を得た様だった。
開いてるんだろう、誰か居るんだろう!?――そんな、どこか必死な思いが加わったと感じられる。
ガチッ、ガチッと繰り返しドアが音を立てる。この儘では鍵が壊されてしまうのではないか。
その思いに心臓が高鳴りだした時、不意に外を掠めたライトが急ブレーキの音と共にこちらに向き直り、眩い灯が差し込み、俺は思わず目を瞑ってしまった。
その灯――車のヘッドライトが弱まった時、そこにはもう白い手はありはしなかった。
「私は昔――拓や君が生まれるずっと前の事だが――山岳部に居てね……。今日はその当時、山で亡くした友人の法事だったんだ。今夜みたいな霧に巻かれて、滑落……発見してロープを延ばしたが、しがみ付いていられたのは、僅かの間だった。それ以来、命日や月命日といった日と、濃い霧が重なると、現れるんだ。灯を目印に」
そう語ったのは車で間一髪帰宅した、拓の親父さんだった。
因みに俺のラーメンが伸び切っていた事は言う迄もない。
―了―
夜霧、名前の所為かどうしても夜の話が増える……自業自得?
「それが今日は両親共、昔の友達の法事とかで居なくて……」と、拓は困惑顔で言った。「まぁ、それでもバイトも入ってたし、大丈夫の筈だったんだけど、一度掛かってきた電話に『霧が出てきた』って言ったら、店を閉めろって……。慌ててバイトの子にもキャンセル出して、店仕舞いして……二人もなるべく早く帰るって」
「何だそりゃ?」俺は肩を竦めた。確かに濃い霧だが、何をそんなに慌てる事があるんだろう。「まぁ、いいや。何か買い物出来るか? 夕方からバイク走らせてたんだが、家に帰っても食い物が無い事を思い出してな。腹減ってるんだよ」
「いいよ。僕が何か作るよりは出来合いの方が美味いだろうし」苦笑しつつ、拓は家から店のバックヤードに出るドアの鍵を開けた。
先ず見る事が無いだろう、電気を落としたコンビニは、当然だが暗くて、異様に静まり返っていて、緑の灯に照らされた非常口付近を除いては、丸で墓場の様だった。厚いガラスの壁の向こうには白い闇が広がっている。
「暗いな……灯は?」
差し出されたのは懐中電灯。いや、俺は店の灯の事を言ったんだが……。
「悪い。灯も点けるなって言われてるんだ」
「はぁ? それって確かに親父さん達からだったのか?」俺は疑わしくなって訊く。「泥棒とか強盗がやり易いようにって、芝居して……」
「真逆」拓は笑い飛ばす。「確かに二人の声だったし、大体霧は自然現象なんだ。二人が出掛けるのだって前もって知ってたのは僕と従業員数人。どっちにしても霧に乗じる事なんて出来なかっただろ?」
「それはそうだが……。まぁ、いいや、兎に角腹ごしらえだ」俺はおにぎりとカップラーメンを手に取り、レジはもう作動していないと言うので拓に確認して貰って丁度の金額を預けた。
そうして住居部分に戻り、ラーメンに湯を注いで待っていると、ふと、店の方から物音が聞こえた気がした。
丸で鍵の掛けられた自動ドアを開けようとして引っ掛かったみたいなガチッという音……。
拓も気付いた様で、怪訝な顔をしている。当然だろう。あの店内の闇では、例え張り紙が無くとも開いていないのは一目瞭然。例えおじさん達が戻って来たのだとしても、住居側から入るだろうし。
「真逆本当に泥棒……?」拓は少々蒼褪めている。
しようがないな――ラーメンの待ち時間がてらとばかりに、俺は席を立った。やはり気にはなるし。
懐中電灯を手に取り、店へ入った俺は、自動ドアを照らし――そこに、白い手を見た。
ドアにぺたりと張り付く様にして、白い手はあった。大きさや指の太さからすると男性のものと思われる、がっしりした手。右の掌に、何かで擦れた様な傷が痛々しく刻まれていた。
だが、問題なのは、それだけだという事だ。
丸でこの濃い夜霧が実体化したかの様な、白い、手だけ。
その先には腕も何も、見えなかった。幾ら霧が濃いとは言っても、余りに不自然に、手だけが、あった。
手だけの存在で灯を感じる訳も無いと思うが、そいつは懐中電灯の灯に照らされた途端、更に力を得た様だった。
開いてるんだろう、誰か居るんだろう!?――そんな、どこか必死な思いが加わったと感じられる。
ガチッ、ガチッと繰り返しドアが音を立てる。この儘では鍵が壊されてしまうのではないか。
その思いに心臓が高鳴りだした時、不意に外を掠めたライトが急ブレーキの音と共にこちらに向き直り、眩い灯が差し込み、俺は思わず目を瞑ってしまった。
その灯――車のヘッドライトが弱まった時、そこにはもう白い手はありはしなかった。
「私は昔――拓や君が生まれるずっと前の事だが――山岳部に居てね……。今日はその当時、山で亡くした友人の法事だったんだ。今夜みたいな霧に巻かれて、滑落……発見してロープを延ばしたが、しがみ付いていられたのは、僅かの間だった。それ以来、命日や月命日といった日と、濃い霧が重なると、現れるんだ。灯を目印に」
そう語ったのは車で間一髪帰宅した、拓の親父さんだった。
因みに俺のラーメンが伸び切っていた事は言う迄もない。
―了―
夜霧、名前の所為かどうしても夜の話が増える……自業自得?
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Re:うーん
未練でしょうな……。
霧の夜になると何かが繋がってしまう……とか☆
霧の夜になると何かが繋がってしまう……とか☆
Re:無題
場所に現れるのか、親しい人の元に現れるのか……彼の場合は人の元だった様ですな。
お母さんがお夜食作ってくれましたとさ(笑)
お母さんがお夜食作ってくれましたとさ(笑)
無題
おやホラーですね。暑くなってきて怪談話も一入といったところですか。
場所よりも現象の自縛霊、ですね。ある意味浮遊霊とも呼べるんでしょうけど。
もしかしたらドアの隙間の線がロープにでも見えたのかな?
何だか浮かばれないですね^^;ちゃんと供養してあげてー!><
場所よりも現象の自縛霊、ですね。ある意味浮遊霊とも呼べるんでしょうけど。
もしかしたらドアの隙間の線がロープにでも見えたのかな?
何だか浮かばれないですね^^;ちゃんと供養してあげてー!><
Re:無題
今日は雨も降って蒸し蒸しと……怪談日和も近付いて参りました(笑)
浮遊霊……考えてみたら法事の会場に行けよって気も……^^;
浮遊霊……考えてみたら法事の会場に行けよって気も……^^;
こんばんは♪
いやぁ~ゾクゾクとしました!
手だけがって想像したら気味悪いよぉ~!
それにしても早く成仏して欲しいよねぇ~!
よほどの執着心?それとも・・・死んだ事に気が付いていないとか?
うぅ~~こわぁ~!
手だけがって想像したら気味悪いよぉ~!
それにしても早く成仏して欲しいよねぇ~!
よほどの執着心?それとも・・・死んだ事に気が付いていないとか?
うぅ~~こわぁ~!
Re:こんばんは♪
夏の風物詩という事で、怪談です(笑)
本人、未だ霧に迷ってるのかも知れません。
本人、未だ霧に迷ってるのかも知れません。
夜霧よ~~今夜も~~♪
恐いから思わず歌っちゃうよ。ゆうじろうだよ(笑)
霊を鎮める為の法事も役に立たないんだね。白い手は恨んでいるのかしらね?晴れた日の朝から法事…なんて事は、法事だけに日にちが決定してるから無理なのか。
明日お葬式に行ってきますので、明日の訪問コメントも遅くなるねー
霊を鎮める為の法事も役に立たないんだね。白い手は恨んでいるのかしらね?晴れた日の朝から法事…なんて事は、法事だけに日にちが決定してるから無理なのか。
明日お葬式に行ってきますので、明日の訪問コメントも遅くなるねー
Re:夜霧よ~~今夜も~~♪
恨んではいないだろうけれど……迷ってるんだろうね。
色々とお忙しいですね、姐さん。お身体はお大事にね~☆
色々とお忙しいですね、姐さん。お身体はお大事にね~☆
Re:未練?
実はうちの夜霧も霧が集まって……んな訳ないです(苦笑)
Re:怖いよ~^^;
野生人さん、そんなハードな山登り迄!?
それは気を付けて欲しいですねー。待ってる方も堪ったもんじゃない!
幽霊さん、敢えて手だけ。ビジュアル的に面白い(?)かと^^;
それは気を付けて欲しいですねー。待ってる方も堪ったもんじゃない!
幽霊さん、敢えて手だけ。ビジュアル的に面白い(?)かと^^;
おはよう!
恐いよ~。
手は中に入ってどうしたかったんだろう?
お父さんは、正体を知っているって事は、自分も経験したって事だよねぇ。
さ迷ってるだけなのかなぁ。
それにしても、霧が良く出ますねぇ。(笑)
手は中に入ってどうしたかったんだろう?
お父さんは、正体を知っているって事は、自分も経験したって事だよねぇ。
さ迷ってるだけなのかなぁ。
それにしても、霧が良く出ますねぇ。(笑)
Re:おはよう!
それは夜霧の所為さっ☆
霧は惑わせるもの……なイメージ。
霧は惑わせるもの……なイメージ。
Re:無題
別府は霧多いですね~。高速道路、湯布院との分かれ道の辺りなんかも凄いですよ。防霧ネットも整備されてきましたけど。
霧は色々と要注意?
霧は色々と要注意?