〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今日、カメリアはちゃんとそのお客様に「息はしないので大丈夫です。元は人形ですから」と申し上げました。
だけれど、鈴で飾られたローブを頭から被ったその方は、どこか後ろ髪を引かれているっぽい感じで屋敷を振り返っておられましたが……それでも漸く了解の意を示されました。
「兎に角、頼んだよ。沼の近く迄は私も一緒に行くからね」歩く度に鈴の音を立てる、そのお客様は魔女でした。御歳は例によって機密事項ですが……人間の外見に照らせば百歳は超えていそうです。実年齢は勿論、それ以上でしょうけれど。
何でも、薬を作る為に必要な薬草がこの森の中の沼に生えているのに、その沼には妖にさえ致命的な毒が充満しているのだとか。昔はご自分で、私の様な生き人形を作り上げては採集させていらしたそうなのですが、この頃では付近に厄介な妖も棲み付いていて、それらでは手に負えない。どうにかならないものかと、お屋敷の旦那様に妙案を求めていらしたのです。お屋敷には様々な妖の皆様もお立ち寄りになりますし。
なのに手を貸してやれと付けられたのは、やはり生き人形の私一人。
お客様の不安も解らないではありませんが……。
ともあれ、これもお仕事です。私は愛用の箒を握り締めて、お客様の後に続きました。
「それにしても、毒があるのに付近に棲み着いている妖が居るなんて……。一体どの様な魔物なのでしょう? やはり私の様に毒が効かない方々でしょうか」
「ゴーストだよ。身体が無いから毒も効かない。魔術ならどうにかなるかも知れないが、生憎と私は薬を扱うのが専門でね。こう見えても、白か黒かと言われたら、白魔術の方さ。あいつらに薬は効かないからねぇ……。厄介だよ」
本来、毒と薬は同じもの。例えば心臓の働きを強める薬も容量や用法を間違えれば逆に心臓に負担を掛ける事にもなるそうです。それを丁度いい具合に調合し、用いる――その知識を深める事生き甲斐だとお客様は語られました。
なのに実体が無い為にその毒も薬も効かない存在、ゴーストは大嫌いだと。
「あいつらは人が居れば何処でも沸いて出るからねぇ。本当に厄介だよ」
そんなぼやきに相槌を打っている間に、問題の沼の近くへと、私達は立ち入っていました。
「本当に大丈夫なのかねぇ。ゴーストはこの世に未練を残して迷っている存在。中には攻撃的なものも居るし……」此処からは私一人、という所で、お客様はまた、不安げに眉を顰めました。「私の生き人形は手もなくやられてしまったよ。奴等、実体は無い癖に実体に干渉する力はあるんだから、不公平だよ。旦那様も罪だねぇ。ゴーレムでもあればよいものを……」
子供の様に口を尖らせる魔女に、取って来るべき薬草の特徴を再確認し、私は一礼して背を向けました。
足元は獣道。私は注意しながら夜の森を歩きました。
この森は旦那様のお庭の様なものですが、余りの広さに全てを知る者は少ないでしょう。私もこの沼に立ち入るのは初めてです。
私には毒は効きませんが、何やら進む度に空気が澱んでくる様な気がします。辺りには何者の気配もありません。此処には流石に蝙蝠達も近寄れないのです。
問題の薬草は沼の畔に群生しているとの事でした。特徴のある葉をしているので、私でも判るでしょう。
そうして進んで行くと……前方に、酷く澱んだ沼が黒々とその広がりを見せ始めました。
薬草の採集は順調でした。
ところが、薬草をこれで充分という程、袋に詰めて、いざ戻ろうとしていると……現れました。
ゴーストが。
一応人の姿を保っているので、お一人二人と数えるべきでしょうか。何処からともなくわらわらと現れたその数は、計六人。殿方も居ればご婦人も居る、そして年代もばらばらの様です。
「それをどうするんだね?」古めかしい服装で髭を蓄えたゴーストが訊きました。
「ある方に頼まれたのです。薬の研究に使われるのだと」私は答えました。
すると、その方はふん、と鼻を鳴らし、言葉を続けました。
「研究? 研究には何が必要か知っておるかね? 金と、材料と、時間、そして実験台だ! 私の様な、な!」
「貴方様が、実験台とされたのですか?」
私もだ、自分もだと、周囲のゴーストからも声が上がりました。
「……あの、真逆とは存じますが、その実験をしていた方は、鈴を付けたローブを被った……」
「魔女だ!!」不意の大声に私は身を竦めました。「鈴の音を立てながら、薬を投与された私の周りを歩き回り、様子を窺ってはその結果を書き付けていた。ああ、あの魔女はまだ生きているのか……!?」
その嘆きに合わせる様に、周囲からも怨嗟の声。
お客様……沸いて出るも何も、貴女が原因なのでは……。私は思わず溜息をつきました。
そして同時に合点がいきました。あの方の作った生き人形が攻撃されたのは、きっとそれがゴースト達に判ったからなのでしょう。作られた物には作った者の癖が残りますから。
取り敢えず、私は今の所攻撃対象ではない様ですが、目的はその人形達と同じ。そうと知れればどうなるか。
そしてもう一つ。彼女が「ゴーレムでも居れば」と言っていた事。きっと彼女は此処での、ゴースト達の話を屋敷の者には聞かれたくはなかったのでしょう。その点ではゴーレムは使役者の言う事のみを実行する、ある意味では私以上に、人形らしいもの。余計な事など聞きも話しもしませんから。
と、すると……。私はちらりと、魔女が待つ道の先へと目を転じました。ここからは距離がありますから、この会話を聞く事は出来ないでしょうが、会話をした可能性は考慮するでしょう。
ならば、薬草を取って戻った私をその儘お屋敷に帰すでしょうか?
暫し考えて、私はゴースト達に話を持ち掛けました。私を無事に魔女の元へと返してくれと。
「おや、無事に戻ったかい。よかった、よかった」鈴を鳴らして、魔女は私を迎えました。
袋の中の薬草を確かめ、満足そうに頷きます。
そして、私に尋ねました。
「ゴースト達は現れなかったかい? 何も言っていなかったかい?」
私カメリアは正直者ですので、素直に答えました。ゴースト達が現れ、こんな事を言っていた、と。
「そう……かい。残念だねぇ……」唸りながら、魔女は荷物の中から硝子の瓶を取り出しました。「薬にもね、劇薬という物があるんだよ。実体の無いゴーストには通じないが、人形の身体が主体のあんたには……」
しかし、魔女が瓶を投げ付けるより速く、私はその手を箒の柄で突きました。慌てて握り直そうとするものの、瓶は彼女の足元に落ち、割れた中からは刺激臭のする液体。それは辺りの草や地面を侵食し、嫌な音と煙を立てました。
「無駄です。旦那様にこのお役目を任されたのは、伊達ではありませんよ?」私は箒の柄に仕込まれた短い銀の槍を抜き、魔女に突き付けました。
結局、魔女と共にお屋敷に戻った私は旦那様に一部始終をご報告申し上げました。沼で、ゴーストに話を持ち掛けた時に約束した、その通りに。
彼女をどうするかは、旦那様の裁定次第でございましょう。尤も、妖の世界の事ですから。人を殺した事はさして問題にはならないでしょうが。
只、私という、屋敷の者に危害を加えようとした事は、お怒りのご様子でした。
この分ではもう、薬草を取りに、この森には入れないでしょう。彼女の生き甲斐も、多分に制限されるという訳です。
ところで、あの薬草、一体何だったのでしょう?
「あれか? 何でも、仮死状態にした人間を操る薬の研究材料だったそうだ」そう教えて下さったのは坊ちゃまでした。
……どこが白魔術の方ですか。
―了―
覚えておられますでしょうか……。
カメリアさんが元はかめちゃんから出来たのだという事を……!(爆)
「ゴーストだよ。身体が無いから毒も効かない。魔術ならどうにかなるかも知れないが、生憎と私は薬を扱うのが専門でね。こう見えても、白か黒かと言われたら、白魔術の方さ。あいつらに薬は効かないからねぇ……。厄介だよ」
本来、毒と薬は同じもの。例えば心臓の働きを強める薬も容量や用法を間違えれば逆に心臓に負担を掛ける事にもなるそうです。それを丁度いい具合に調合し、用いる――その知識を深める事生き甲斐だとお客様は語られました。
なのに実体が無い為にその毒も薬も効かない存在、ゴーストは大嫌いだと。
「あいつらは人が居れば何処でも沸いて出るからねぇ。本当に厄介だよ」
そんなぼやきに相槌を打っている間に、問題の沼の近くへと、私達は立ち入っていました。
「本当に大丈夫なのかねぇ。ゴーストはこの世に未練を残して迷っている存在。中には攻撃的なものも居るし……」此処からは私一人、という所で、お客様はまた、不安げに眉を顰めました。「私の生き人形は手もなくやられてしまったよ。奴等、実体は無い癖に実体に干渉する力はあるんだから、不公平だよ。旦那様も罪だねぇ。ゴーレムでもあればよいものを……」
子供の様に口を尖らせる魔女に、取って来るべき薬草の特徴を再確認し、私は一礼して背を向けました。
足元は獣道。私は注意しながら夜の森を歩きました。
この森は旦那様のお庭の様なものですが、余りの広さに全てを知る者は少ないでしょう。私もこの沼に立ち入るのは初めてです。
私には毒は効きませんが、何やら進む度に空気が澱んでくる様な気がします。辺りには何者の気配もありません。此処には流石に蝙蝠達も近寄れないのです。
問題の薬草は沼の畔に群生しているとの事でした。特徴のある葉をしているので、私でも判るでしょう。
そうして進んで行くと……前方に、酷く澱んだ沼が黒々とその広がりを見せ始めました。
薬草の採集は順調でした。
ところが、薬草をこれで充分という程、袋に詰めて、いざ戻ろうとしていると……現れました。
ゴーストが。
一応人の姿を保っているので、お一人二人と数えるべきでしょうか。何処からともなくわらわらと現れたその数は、計六人。殿方も居ればご婦人も居る、そして年代もばらばらの様です。
「それをどうするんだね?」古めかしい服装で髭を蓄えたゴーストが訊きました。
「ある方に頼まれたのです。薬の研究に使われるのだと」私は答えました。
すると、その方はふん、と鼻を鳴らし、言葉を続けました。
「研究? 研究には何が必要か知っておるかね? 金と、材料と、時間、そして実験台だ! 私の様な、な!」
「貴方様が、実験台とされたのですか?」
私もだ、自分もだと、周囲のゴーストからも声が上がりました。
「……あの、真逆とは存じますが、その実験をしていた方は、鈴を付けたローブを被った……」
「魔女だ!!」不意の大声に私は身を竦めました。「鈴の音を立てながら、薬を投与された私の周りを歩き回り、様子を窺ってはその結果を書き付けていた。ああ、あの魔女はまだ生きているのか……!?」
その嘆きに合わせる様に、周囲からも怨嗟の声。
お客様……沸いて出るも何も、貴女が原因なのでは……。私は思わず溜息をつきました。
そして同時に合点がいきました。あの方の作った生き人形が攻撃されたのは、きっとそれがゴースト達に判ったからなのでしょう。作られた物には作った者の癖が残りますから。
取り敢えず、私は今の所攻撃対象ではない様ですが、目的はその人形達と同じ。そうと知れればどうなるか。
そしてもう一つ。彼女が「ゴーレムでも居れば」と言っていた事。きっと彼女は此処での、ゴースト達の話を屋敷の者には聞かれたくはなかったのでしょう。その点ではゴーレムは使役者の言う事のみを実行する、ある意味では私以上に、人形らしいもの。余計な事など聞きも話しもしませんから。
と、すると……。私はちらりと、魔女が待つ道の先へと目を転じました。ここからは距離がありますから、この会話を聞く事は出来ないでしょうが、会話をした可能性は考慮するでしょう。
ならば、薬草を取って戻った私をその儘お屋敷に帰すでしょうか?
暫し考えて、私はゴースト達に話を持ち掛けました。私を無事に魔女の元へと返してくれと。
「おや、無事に戻ったかい。よかった、よかった」鈴を鳴らして、魔女は私を迎えました。
袋の中の薬草を確かめ、満足そうに頷きます。
そして、私に尋ねました。
「ゴースト達は現れなかったかい? 何も言っていなかったかい?」
私カメリアは正直者ですので、素直に答えました。ゴースト達が現れ、こんな事を言っていた、と。
「そう……かい。残念だねぇ……」唸りながら、魔女は荷物の中から硝子の瓶を取り出しました。「薬にもね、劇薬という物があるんだよ。実体の無いゴーストには通じないが、人形の身体が主体のあんたには……」
しかし、魔女が瓶を投げ付けるより速く、私はその手を箒の柄で突きました。慌てて握り直そうとするものの、瓶は彼女の足元に落ち、割れた中からは刺激臭のする液体。それは辺りの草や地面を侵食し、嫌な音と煙を立てました。
「無駄です。旦那様にこのお役目を任されたのは、伊達ではありませんよ?」私は箒の柄に仕込まれた短い銀の槍を抜き、魔女に突き付けました。
結局、魔女と共にお屋敷に戻った私は旦那様に一部始終をご報告申し上げました。沼で、ゴーストに話を持ち掛けた時に約束した、その通りに。
彼女をどうするかは、旦那様の裁定次第でございましょう。尤も、妖の世界の事ですから。人を殺した事はさして問題にはならないでしょうが。
只、私という、屋敷の者に危害を加えようとした事は、お怒りのご様子でした。
この分ではもう、薬草を取りに、この森には入れないでしょう。彼女の生き甲斐も、多分に制限されるという訳です。
ところで、あの薬草、一体何だったのでしょう?
「あれか? 何でも、仮死状態にした人間を操る薬の研究材料だったそうだ」そう教えて下さったのは坊ちゃまでした。
……どこが白魔術の方ですか。
―了―
覚えておられますでしょうか……。
カメリアさんが元はかめちゃんから出来たのだという事を……!(爆)
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Re:無題
思いっ切り、黒ですよね(笑)
無題
予想が外れた(笑)
亀有じゃなかったカメリアさんだったか。さすが魔女だあ。自分で撒いた種じゃないか(笑)
以下、私の予想でした。
京は手のひらほどの亀を抱いて腹を立てていた。
「こんな動物を勝手に持ち込んで! 然もこの亀はちゃんと息をしてないぞ、風邪じゃないのか、無責任だ!」
毎度のことだが、僕に怒られても困るんだけどな。
その時、呼び鈴が後ろっぽい方角で鳴った。
……うーん、残念!(^_^;
亀有じゃなかったカメリアさんだったか。さすが魔女だあ。自分で撒いた種じゃないか(笑)
以下、私の予想でした。
京は手のひらほどの亀を抱いて腹を立てていた。
「こんな動物を勝手に持ち込んで! 然もこの亀はちゃんと息をしてないぞ、風邪じゃないのか、無責任だ!」
毎度のことだが、僕に怒られても困るんだけどな。
その時、呼び鈴が後ろっぽい方角で鳴った。
……うーん、残念!(^_^;
Re:無題
思いっ切り自分で撒いた種ですね、困った魔女さんです(笑)
あはは、京は動物好きだから、確かにそんな亀が寮に持ち込まれたら、例によって怒るでしょうな(^^;)
そして例によって、祥君がとばっちりを受けるのです☆
あはは、京は動物好きだから、確かにそんな亀が寮に持ち込まれたら、例によって怒るでしょうな(^^;)
そして例によって、祥君がとばっちりを受けるのです☆
こんばんは
moonさんとこのかめちゃんだよね?「だにゃ~」が口癖の(笑)
カメリアさんはカッコイイ部類に入るよね(他のペット出身登場人物が格好悪いって意味じゃないよ~)
んで、今回のもカッコイイ☆
他はキャラクター多数のメールを送るのが趣味の通称きゃらめる…関西人探偵の栗栖…月夜に夜霧…ユウキ…?後は誰だっけ??
カメリアさんはカッコイイ部類に入るよね(他のペット出身登場人物が格好悪いって意味じゃないよ~)
んで、今回のもカッコイイ☆
他はキャラクター多数のメールを送るのが趣味の通称きゃらめる…関西人探偵の栗栖…月夜に夜霧…ユウキ…?後は誰だっけ??
Re:こんばんは
後は……↓でafoolさんが紹介してくれてる(笑)
moonさんと言えば、にゃこたんの具合どうなんでしょうね?(・_・;)
moonさんと言えば、にゃこたんの具合どうなんでしょうね?(・_・;)
こんにちは
成る程、そう来ましたか。(笑)
妖シリーズを作っていたのが、見事にヒット!
かめちゃんが、助けてくれたんだねぇ~。(笑)
↑他にも一杯居るよ。
エルコとか、みぃにゃん(もう登場しないかも?(笑))とか。
因みに、ユウキは人間になれるまでに、苦労したんだよ。(笑)
↑
『妖怪人間ベム』か!
妖シリーズを作っていたのが、見事にヒット!
かめちゃんが、助けてくれたんだねぇ~。(笑)
↑他にも一杯居るよ。
エルコとか、みぃにゃん(もう登場しないかも?(笑))とか。
因みに、ユウキは人間になれるまでに、苦労したんだよ。(笑)
↑
『妖怪人間ベム』か!
Re:こんにちは
勇気だったり、有期だったり、幽鬼だったり……非常に応用が利きます、ユウキ君(笑)
名付け親に感謝です♪
カメリアさん、生き人形にしといてよかった~(笑)
名付け親に感謝です♪
カメリアさん、生き人形にしといてよかった~(笑)
Re:こんばんは☆
こういう魔女は邪道っすか!(^^;)
や、色んな魔女が居るかな~と。
や、色んな魔女が居るかな~と。