〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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秋の日は釣瓶落としとはよく言ったものだ。紅葉色から薄闇に変わり行く空を見上げて、私は思った――釣瓶なんて実際に使われてるのを見た事は無いけれど。
まぁ、イメージ位は解るわよ。井戸の水を汲むアレでしょ?
田舎のお祖母ちゃんの家に井戸があったもの。行ったのは幼稚園に上がる前の小さい頃だったからか、近付いちゃ駄目って言われて、縁側から見てただけだったけど。
でも、二つ上のお兄ちゃんは好奇心旺盛で……街では珍しい井戸を無視出来る筈もなかった。
「おい! みい、来てみろよ!」十二年前のあの日、井戸の傍で兄は何度も私を呼んでいた。私が嫌々と首を振っても、幾度も。
私の名前は美紀だけど、兄はいつも、みい、と呼ぶ。
それは私だって好奇心はあったわよ? でもお祖母ちゃんは厳しい人だったもの。井戸の傍で遊んでる所なんて見付かったら、此処に居る間はもうお外に出して貰えない。幼い私は本気でそう思っていた。
「何だよ、詰まらない奴だなぁ」不満そうに口を尖らせて、兄は私を無視する事に決めた様だった。石造りの円形の井戸の縁に手を掛け、身を乗り出す様にして覗き込んでいる。
危ないよ――そんな私の声も耳に入らない様子で、井戸の奥をじっと見詰めて。
私は、兄がその穴に引き込まれそうな気がして、誰かを呼びに行くべきか迷った。お祖母ちゃんに知れれば兄は怒られるだろうけど。だって、見ていると今にも兄の足がふわりと浮きそうな気がして……。
「お兄ちゃん!」私はもう一度だけ、呼んだ。これで来てくれなければ本当に大人を呼びに行く心算で。「危ないってば! お祖母ちゃんに怒られるよ!?」
「馬鹿、大声出すなよ」口の前に指を一本立てながら、仕方ないなという表情で兄は井戸を離れた。
その兄が数歩、こちらに向かって歩いた時、井戸の中からじゃぽん、と大きな水音が聞こえた。
「……」思わず振り返った兄と、ずっと庭の光景を見ていた私。兄はまた私に向き直って、何かあったか? と視線で尋ねる。私は黙って頭を振った。
井戸の釣瓶は固定された儘だったし、風で飛んで来た何かが落ちたりもしなかった。風で飛ばされる程度の物が落ちた様な音でもなかったけれど。
兄がまた振り返り、確かめに行こうとするのを、私は必死に止めた。その大声にお祖母ちゃんが気付いて、結局兄は家に引き戻された。その後は、二人共庭に出る事を禁じられたのは言う迄もない。
「何だったんだろうね?」夜中、並んだ布団の中で小声で呟く私に、兄は暫し黙った後、言った。
「井戸の中に何だか解らないものが浮いてた。魚みたいな、人みたいな……動かなかったから何かの死体かも知れないけど。。だから見せてやろうと思って呼んだのに、お前、来ないから……。でも、アレが立てた音だったとしたら、生きてたのかな?」
「そんなもの見たくないよ」言って、私は布団を頭から被って、寝てしまった。
翌朝目覚めた時、兄の姿は無かった。
先に起きたのかと思ったけれど、家の何処を捜しても居ない。私は怖くなって昨夜兄が言っていた事をお祖母ちゃん達に話した。勿論、魚みたいな人みたいな、死んでるのか生きてるのか解らないもの、なんてお祖母ちゃん達は信じなかったけれど。私を怖がらせる為の作り話だろうって。
でも、結局兄の死体はあの井戸の中から見付かった。
玄関も窓も閉まっていて、いつ、何処から外に出たのかも解らなかったけれど。
それ以来、私はお祖母ちゃんの所には行っていない。
兄が死んだのは、あの井戸の中のものの事を、私に話してしまったからの様な気がしているから。
そして私もお祖母ちゃん達に話してしまった。両親もお祖母ちゃんも、健在だけど。
時々、背後に冷たい足音を聞く事がある――それはあの井戸の中のものなのか、それとも……。
みい――すっかり日暮れた川の傍を通る道、そう呼ぶ声が聞こえた気がした。
―了―
何とはなしにホラー系。
うちの田舎の家の井戸はポンプ式だった☆(だからどーした)
まぁ、イメージ位は解るわよ。井戸の水を汲むアレでしょ?
田舎のお祖母ちゃんの家に井戸があったもの。行ったのは幼稚園に上がる前の小さい頃だったからか、近付いちゃ駄目って言われて、縁側から見てただけだったけど。
でも、二つ上のお兄ちゃんは好奇心旺盛で……街では珍しい井戸を無視出来る筈もなかった。
「おい! みい、来てみろよ!」十二年前のあの日、井戸の傍で兄は何度も私を呼んでいた。私が嫌々と首を振っても、幾度も。
私の名前は美紀だけど、兄はいつも、みい、と呼ぶ。
それは私だって好奇心はあったわよ? でもお祖母ちゃんは厳しい人だったもの。井戸の傍で遊んでる所なんて見付かったら、此処に居る間はもうお外に出して貰えない。幼い私は本気でそう思っていた。
「何だよ、詰まらない奴だなぁ」不満そうに口を尖らせて、兄は私を無視する事に決めた様だった。石造りの円形の井戸の縁に手を掛け、身を乗り出す様にして覗き込んでいる。
危ないよ――そんな私の声も耳に入らない様子で、井戸の奥をじっと見詰めて。
私は、兄がその穴に引き込まれそうな気がして、誰かを呼びに行くべきか迷った。お祖母ちゃんに知れれば兄は怒られるだろうけど。だって、見ていると今にも兄の足がふわりと浮きそうな気がして……。
「お兄ちゃん!」私はもう一度だけ、呼んだ。これで来てくれなければ本当に大人を呼びに行く心算で。「危ないってば! お祖母ちゃんに怒られるよ!?」
「馬鹿、大声出すなよ」口の前に指を一本立てながら、仕方ないなという表情で兄は井戸を離れた。
その兄が数歩、こちらに向かって歩いた時、井戸の中からじゃぽん、と大きな水音が聞こえた。
「……」思わず振り返った兄と、ずっと庭の光景を見ていた私。兄はまた私に向き直って、何かあったか? と視線で尋ねる。私は黙って頭を振った。
井戸の釣瓶は固定された儘だったし、風で飛んで来た何かが落ちたりもしなかった。風で飛ばされる程度の物が落ちた様な音でもなかったけれど。
兄がまた振り返り、確かめに行こうとするのを、私は必死に止めた。その大声にお祖母ちゃんが気付いて、結局兄は家に引き戻された。その後は、二人共庭に出る事を禁じられたのは言う迄もない。
「何だったんだろうね?」夜中、並んだ布団の中で小声で呟く私に、兄は暫し黙った後、言った。
「井戸の中に何だか解らないものが浮いてた。魚みたいな、人みたいな……動かなかったから何かの死体かも知れないけど。。だから見せてやろうと思って呼んだのに、お前、来ないから……。でも、アレが立てた音だったとしたら、生きてたのかな?」
「そんなもの見たくないよ」言って、私は布団を頭から被って、寝てしまった。
翌朝目覚めた時、兄の姿は無かった。
先に起きたのかと思ったけれど、家の何処を捜しても居ない。私は怖くなって昨夜兄が言っていた事をお祖母ちゃん達に話した。勿論、魚みたいな人みたいな、死んでるのか生きてるのか解らないもの、なんてお祖母ちゃん達は信じなかったけれど。私を怖がらせる為の作り話だろうって。
でも、結局兄の死体はあの井戸の中から見付かった。
玄関も窓も閉まっていて、いつ、何処から外に出たのかも解らなかったけれど。
それ以来、私はお祖母ちゃんの所には行っていない。
兄が死んだのは、あの井戸の中のものの事を、私に話してしまったからの様な気がしているから。
そして私もお祖母ちゃん達に話してしまった。両親もお祖母ちゃんも、健在だけど。
時々、背後に冷たい足音を聞く事がある――それはあの井戸の中のものなのか、それとも……。
みい――すっかり日暮れた川の傍を通る道、そう呼ぶ声が聞こえた気がした。
―了―
何とはなしにホラー系。
うちの田舎の家の井戸はポンプ式だった☆(だからどーした)
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Re:水辺
古井戸と言えば○子……(←おい)
水場には集まるって言いますからねぇ。
井戸って見下ろすと闇だものねぇ。そして見上げると空は狭く遠く……(>_<)
水場には集まるって言いますからねぇ。
井戸って見下ろすと闇だものねぇ。そして見上げると空は狭く遠く……(>_<)
こんばんは♪
いやぁ~母の実家、大昔(私が幼稚園に行ってた頃)は井戸に釣瓶だったよぉ~!
よくスイカを冷やしてたっけなぁ!
それにしても、何だったんだろう?
井戸の中でジャボンなんて音をたてたものは!
こわぁ~~~!
よくスイカを冷やしてたっけなぁ!
それにしても、何だったんだろう?
井戸の中でジャボンなんて音をたてたものは!
こわぁ~~~!
Re:こんばんは♪
井戸水で西瓜! それは何だか楽しそうな夏の風景ですね(^^)
その横でじゃぼん……! とか言ったり(((・・∥)))
その横でじゃぼん……! とか言ったり(((・・∥)))
こんばんわ!
水は霊を引き寄せ易いですからねぇ^^;
面白かったけど、恐いかったです。。
御兄さんは最期に一体何を見たんでしょうか?あまり聞きたくもないですが←
とまれ。
秋の夜長に、と夏だけではなく秋もホラーの季節ですよね♪
面白かったけど、恐いかったです。。
御兄さんは最期に一体何を見たんでしょうか?あまり聞きたくもないですが←
とまれ。
秋の夜長に、と夏だけではなく秋もホラーの季節ですよね♪
Re:こんばんわ!
春夏秋冬いつでもホラー♪
何を見たのか……知らない方がいいものでしょうね、きっと。
何を見たのか……知らない方がいいものでしょうね、きっと。
Re:こんにちは
ポンプだと……ちっこい人とか小鬼が夜になるとうじゃうじゃ這い出て来たりとか(^^;)
それはそれでヤダ。
それはそれでヤダ。
無題
読んでいて、きっとこの兄は、井戸に落ちて死ぬんだろうなって思ってたら、落ちなくて、あれっ外れたと思ったらやっぱり落ちて死んだ。(笑)
ちょっと恐い話だね。
あっ、そうそう、偶然にも今日ねぇ、有栖川有栖さんの『黒鳥亭殺人事件』(知ってる?)を読んだところなの。
古井戸から見つかった死体の原因を探求するやつ。
ビックリしちゃった。(笑)
それはそうと、いつもBPのRSSリーダーから飛んでいるんだけど、今日は巽さんの更新記録が載って無かったよ。←なんでだろう?
確か、巽さんを訪問してないぞって思って、まさか初めての完全休業って思って、覗くだけ覗いてみたんだけど、もうちょっとで見逃す所だった。
ちょっと恐い話だね。
あっ、そうそう、偶然にも今日ねぇ、有栖川有栖さんの『黒鳥亭殺人事件』(知ってる?)を読んだところなの。
古井戸から見つかった死体の原因を探求するやつ。
ビックリしちゃった。(笑)
それはそうと、いつもBPのRSSリーダーから飛んでいるんだけど、今日は巽さんの更新記録が載って無かったよ。←なんでだろう?
確か、巽さんを訪問してないぞって思って、まさか初めての完全休業って思って、覗くだけ覗いてみたんだけど、もうちょっとで見逃す所だった。
Re:無題
ちぃっ、またも読まれたか!(^^;)
『黒鳥亭』読まれましたか。何故か時々来客の皆様にタイムリーネタかまします(笑)
RSS? 何でだろ? 時々BPのリーダーに『設定が間違っています』とか出るの。でもチェックしたら間違ってないし。???
『黒鳥亭』読まれましたか。何故か時々来客の皆様にタイムリーネタかまします(笑)
RSS? 何でだろ? 時々BPのリーダーに『設定が間違っています』とか出るの。でもチェックしたら間違ってないし。???
Re:怖っ
O-157! それはそれで別の恐怖が……!
やっぱり気にし出すとついつい、気になっちゃいますよねぇ。
地下水は基本、冷たくて綺麗なんだけど。
やっぱり気にし出すとついつい、気になっちゃいますよねぇ。
地下水は基本、冷たくて綺麗なんだけど。
Re:井戸!
井戸って何かと想像を掻き立てますよね~。
暗い水面がたゆたっているのは只、釣瓶が落ちた名残りか、それとも……。
きゃっ♪
暗い水面がたゆたっているのは只、釣瓶が落ちた名残りか、それとも……。
きゃっ♪