『夢？』

　誕生日にピエロの人形を貰った。赤ん坊程の大きさがあり、白い顔、黒い十字の目、赤く大きな口、左右非対称の派手な服装。
　友達には有難うと言ったものの、正直、気味の悪さを感じていた。
　だから捨てた。
　そうしたらその夜、刃物を持ったそのピエロ人形に追われた――夢を見た。

　冷や汗にまみれながら飛び起き、高鳴った鼓動を鎮める。反射的に時計を見れば未だ午前三時。
　常夜灯にぼんやり照らされた室内は静まり返り――傍らの椅子には平然と、ピエロが座っていた。
　私は思わずどきりとしたが、勿論その手に刃物など無い。
　だが――私は確かに捨てた筈のそれが、私を見詰める様にして座っている事に、より背筋の寒くなるものを感じた。
　それとも……捨てた事自体が夢だったと言うの？
　私はそっと――丸で猛獣の前に居る無力な人間の様に足音を忍ばせて――ベッドから降り、ピエロから目を離さない儘にクローゼットからタオルケットを取り出した。傍から見れば滑稽な有り様だろうが、私は横から回り込む様にしてピエロに近付き、一息にばさりとタオルケットをその人形の頭から掛けた。そうして姿が見えなくなった途端、私はいつしか止めていた息を大きく吐いた。
　きっと余りに気味が悪いと思っているから、あんな夢を見たんだ。友達には悪いけど、朝になったら本当に捨ててしまおう――私はそう思いつつ、安堵と共にやってきた睡魔に捕まってベッドへと戻った。

　時計ののベルの音に叩き起こされての目覚めは爽快とは言えなかった。あれからは夢も見ずに眠ったけれど、どこか頭の芯に蟠ったものが残っている様な感じだった。
　兎も角、ピエロを片付けてしまおう――そう思って椅子を見遣った私の目には、何もない椅子に無造作にかけられたタオルケット。
　どうなってるの？　真逆、あれも夢？
　顔を顰めながら、私は人形を探す。タオルケットを掛けた時に勢いで椅子から転げ落ちたのかも知れない。そうも思ったけれど、確かに昨夜はタオルケットに包まれた様を見て、ほっとしたのだ。
　どういう事？　本当は捨てていて、夜中のあの行動が夢だったの？　でも、夢で寝惚けていながらこれだけ正確な行動が取れるもの？　第一、私は夢遊病なんか……。
　
　そうして探す内、私は奇妙な事に気付いた。ピエロが入っていた箱が無い。掛けられていた包装紙も、リボンも無い。箱は……そう、あれを捨てる時に改めて収めた。夢だったのかも知れないけど。でも、包装紙やリボン迄無いなんて？　それにそう、メッセージカードも無い。
　古い友人からのメッセージカード。小さい頃、よく二人で遊んだ――あれ？　でも……誰だった？
　顔は思い出せる。目の細い、口の大きな子。けれど、何処の子だったのか、名前は何だったのか、そして今はどうしているのか？
　膝を震わせながら、私は立ち上がり、古いアルバムを本棚から抜き出し――幼い私の傍に居るものを確かめた。白い顔、黒い十字の目、赤く大きな口……左右非対称の派手な衣装。

　私は、いつから夢を見ていたのだろう？　独りで――。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　あー、眠いっす。変な夢見そうっす（笑）