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夜、日本間の、木の天井板を見上げて寝ていて、その木目や染みが気になった――そんな事は多分、誰でも一度はあるんじゃないだろうか。
特に木目がおかしな風に並んでいたりすると、見れば見る程にそれが人の顔に見えてきたりする。そんな時、僕は暑い最中でも布団を頭迄被って、その顔からのある筈もない視線を避けてみたりしたものだ。
でも、今、僕はその天井をじっと、睨み据えている。
その天井に浮かんだ、紛れもない、人の顔を――決して、負けないように。
僕の部屋は安普請のアパートの一階で、上の階には二十代後半の女性が一人、住んでいた。大人しそうな女性だったけれど、時折友人が訪ねて来ては馬鹿騒ぎをして、隣の人に大家さんを介して注意される事もあった様だ。確かにそんな日は、僕も天井からの騒音に悩まされた。流石に、怒鳴り込んでは行かなかったけれど、テレビのボリュームを上げて、対抗した気になっていた。
その彼女の部屋から、一切の生活音が消えたのは三週間前だったろうか。
人が騒ぐ声は勿論、洗濯機の稼動音も、足音もせず、何の気配も感じない。
旅行にでも行ったのだろう。暫くは静かでいいや――階上の静けさに気付いた当初はそう思っていた。
けれど、それが一週間を過ぎると、長過ぎやしないかと気になり出した。もしかして引っ越したのだろうかとも思った。が、それにしては荷物を運び出した様子もない。何気なく話をした大家さんも、知らないと言った。引っ越したなら僕に挨拶する義理はなくとも、大家さんに告げない訳はない。
嫌な予感がし始めたのと、アパート全体に嫌な臭気が立ち込め始めたのは、ほぼ同時期だった。
どうしても気になった僕は、もしもの事があったら……と大家さんを脅して、鍵を開けて貰った。
そして実際、もしもの事――彼女の遺体――を発見し、慌てふためいて通報したのだった。
結局、彼女の部屋から生活音が消えた途端に一切訪ねて来なくなった友人が、発見から数日後には逮捕された。
だから、これらは終わった事なのだ。
遺体は発見され、犯人は逮捕された。発見前ならば話も解るが、何故今になって出て来るのだろう? この上何を望むのと言うのだ? 彼女は。
それとも、これは階上に無残な死体を発見した僕の、臆病な心が作り出した幻影なのだろうか?
天井一杯に浮かんだ、無念そうな女の顔を、僕はじっと睨み据える。
と、その唇が動いている事に、気付いた。声は聞こえない。僕は読唇術なんてやった事はなかったけれど、どうにかそれを読み取った。
アナタガキヅカナケレバ、カレハツカマラナカッタノニ……。
僕は睨むのを止めて、目を閉じた。
馬鹿馬鹿しい、と。殺されても、相手の男を庇うなんて。それだけ、彼に依存していたのか……。
負けまいと気を張る程のものでもない。
「前から言いたかったんだけど……近所迷惑だよ。あんたら」
僕の呟きに、返る言葉もなく、気配はいつしか、消えて行った。
―了―
幽霊を残留思念と捉えたら、思念=気の強い方が勝つかと(^^;)
取り敢えず、近所迷惑だとは思う(←おい)
私なら当然犯人に取り憑きますが(笑)
まぁ、何にしても近所迷惑かと(^^;)