〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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それにしても真逆居るとは思わなかった――天井の傾いた梁を見上げて、僕は身を竦めた。
ドライブの途中、山中で見付けた廃屋。棟は傾き、瓦は剥がれ落ち、板壁も所々捲れ上がっている。庭と辺りの草叢の区別も付かず、勿論人の気配など感じられなかった。
心安らぐ緑に溢れながらも単調な山道に、些か飽きが来ていた僕達は二言三言、言葉を交わすとそちらへとハンドルを切った。未だ夕方にも間があり、時間的には全くそれらしくないが、肝試しと洒落込もうと思ったのだ。
築何十年位だろう?
住人はどうして居なくなったのだろうか?
何か事件でも……?
他愛もなくそんな話をしていた僕達だったが、納戸だろうか、薄い板の破れた箇所から家の中に踏み込んだ時には、長年放置された場所特有のすえた臭いに思わず黙り込んでいた。
そして納戸から母屋に繋がっているらしき戸を開けた時、僕達は――住人と鉢合わせした。
「済みません! 本当、済みません!」
「あ、怪しい者じゃないんです! その……大変失礼なんですが、人が住んでいるとは思わなくて……。す、済みません!」
連れの二人が慌ててぺこりぺこりと何度も頭を下げている。玩具の水飲み鳥の様で、些か滑稽だ。
しかし彼等の表情は必死だった。僕にも頭を下げろと蒼い顔で囁く。
それと言うのも、そこに人が居たのもさる事ながら、その人――着物姿の、意外にも若い女性だった――が震える手で包丁を構えているからに相違なかった。
「済みません! こんな所から勝手に入り込んで、怖がられるのも解りますが、その……本当に怪しい者じゃないんで、それ、下げて頂けませんか?」そう言う仲間の声も震えている。
しかし彼女は動かない。蒼褪めた顔で唇を戦慄かせ、大きく見開いた目で僕達を――いや、正確には僕達の背後を見詰めるばかりだ。
その視線に気付いた連れの一人が釣られる様に振り返ろうとするのを、僕は止めた。
彼女が見ている者。それと目を合わせてはいけない。そう直感したのだ。
頭を下げた儘、彼女とも目を合わせるな――二人にそう囁いて、僕は彼女の傍を摺り抜けた。二人は声を上げたものの、彼女に動きはない。その様子と僕の手招きに、二人は恐る恐る足を踏み出し、やはり何事もなく彼女の横を摺り抜けて来た。
「ど、どうなってるんだよ?」尋ねる二人に、僕は小声で答えた。
「振り返って見てもいいけど、目だけは合わせるなよ」と。「気付かれなければ多分、危害は加えられない」
因みに僕の視線はずっと、下の方に向けている。
それに倣う様に二人は床に這わせた視線を徐々に延ばしていき――腰を抜かしそうになったのを辛うじて支えてやる。
そこには、納戸との仕切り戸から入って来たばかりといった風情のみすぼらしい姿をした男が一人。手には鉈を持ち、着物の女性と対峙していた。
「い……いつの間に……。俺達の直ぐ後ろに!?」
「気付かなかった……いや、誰も居なかったぞ!?」
「いや、ずぅっと居たのさ」僕は言い、二人の背中を押して、玄関と思われる方に進む。「多分、この家が放置される前から、ずぅっと……」
勿論、彼女達はもう人間じゃあない。
それは、板張りの廊下に染み付いた、赤黒い染みが物語っていた。
後日、調べた所では、件の家では五十年程前に、留守番中の若い女性が壊れた納戸から侵入したらしき男に殺害されていた。尤も、男の方も彼女に包丁で傷付けられ、動けなくなっていた所を逮捕され、数日の後に亡くなったらしい。
二人の必死の睨み合い――本当にとんでもなく場違いな場所に踏み込んでしまったものだ。
以来、僕達は二度と廃屋には近寄らない。
―了―
今日は蒸し暑い~(--;)
ドライブの途中、山中で見付けた廃屋。棟は傾き、瓦は剥がれ落ち、板壁も所々捲れ上がっている。庭と辺りの草叢の区別も付かず、勿論人の気配など感じられなかった。
心安らぐ緑に溢れながらも単調な山道に、些か飽きが来ていた僕達は二言三言、言葉を交わすとそちらへとハンドルを切った。未だ夕方にも間があり、時間的には全くそれらしくないが、肝試しと洒落込もうと思ったのだ。
築何十年位だろう?
住人はどうして居なくなったのだろうか?
何か事件でも……?
他愛もなくそんな話をしていた僕達だったが、納戸だろうか、薄い板の破れた箇所から家の中に踏み込んだ時には、長年放置された場所特有のすえた臭いに思わず黙り込んでいた。
そして納戸から母屋に繋がっているらしき戸を開けた時、僕達は――住人と鉢合わせした。
「済みません! 本当、済みません!」
「あ、怪しい者じゃないんです! その……大変失礼なんですが、人が住んでいるとは思わなくて……。す、済みません!」
連れの二人が慌ててぺこりぺこりと何度も頭を下げている。玩具の水飲み鳥の様で、些か滑稽だ。
しかし彼等の表情は必死だった。僕にも頭を下げろと蒼い顔で囁く。
それと言うのも、そこに人が居たのもさる事ながら、その人――着物姿の、意外にも若い女性だった――が震える手で包丁を構えているからに相違なかった。
「済みません! こんな所から勝手に入り込んで、怖がられるのも解りますが、その……本当に怪しい者じゃないんで、それ、下げて頂けませんか?」そう言う仲間の声も震えている。
しかし彼女は動かない。蒼褪めた顔で唇を戦慄かせ、大きく見開いた目で僕達を――いや、正確には僕達の背後を見詰めるばかりだ。
その視線に気付いた連れの一人が釣られる様に振り返ろうとするのを、僕は止めた。
彼女が見ている者。それと目を合わせてはいけない。そう直感したのだ。
頭を下げた儘、彼女とも目を合わせるな――二人にそう囁いて、僕は彼女の傍を摺り抜けた。二人は声を上げたものの、彼女に動きはない。その様子と僕の手招きに、二人は恐る恐る足を踏み出し、やはり何事もなく彼女の横を摺り抜けて来た。
「ど、どうなってるんだよ?」尋ねる二人に、僕は小声で答えた。
「振り返って見てもいいけど、目だけは合わせるなよ」と。「気付かれなければ多分、危害は加えられない」
因みに僕の視線はずっと、下の方に向けている。
それに倣う様に二人は床に這わせた視線を徐々に延ばしていき――腰を抜かしそうになったのを辛うじて支えてやる。
そこには、納戸との仕切り戸から入って来たばかりといった風情のみすぼらしい姿をした男が一人。手には鉈を持ち、着物の女性と対峙していた。
「い……いつの間に……。俺達の直ぐ後ろに!?」
「気付かなかった……いや、誰も居なかったぞ!?」
「いや、ずぅっと居たのさ」僕は言い、二人の背中を押して、玄関と思われる方に進む。「多分、この家が放置される前から、ずぅっと……」
勿論、彼女達はもう人間じゃあない。
それは、板張りの廊下に染み付いた、赤黒い染みが物語っていた。
後日、調べた所では、件の家では五十年程前に、留守番中の若い女性が壊れた納戸から侵入したらしき男に殺害されていた。尤も、男の方も彼女に包丁で傷付けられ、動けなくなっていた所を逮捕され、数日の後に亡くなったらしい。
二人の必死の睨み合い――本当にとんでもなく場違いな場所に踏み込んでしまったものだ。
以来、僕達は二度と廃屋には近寄らない。
―了―
今日は蒸し暑い~(--;)
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おはよう!
「男は、何の目的で忍び込んだんだろう?」って考えてたら、不思議に思ったのが、「何で女性は包丁を持っているんだろう?」だった。
普通、包丁って台所に仕舞われているじゃない。
忍び込んで来た相手を相手に(笑)、包丁を持って対峙しているのは、不思議じゃない?
普通、包丁って台所に仕舞われているじゃない。
忍び込んで来た相手を相手に(笑)、包丁を持って対峙しているのは、不思議じゃない?
Re:おはよう!
え? 誰も居ない筈の納戸で人の気配とかしたら、警戒して包丁持ち出しません?(笑)
因みに男は強盗目的だけど……死人に口なし?
因みに男は強盗目的だけど……死人に口なし?
付けたし
言葉足らずかと思って。
家の構造とかにも拠るけど、一般に古い日本家屋の場合、台所は母屋の裏じゃない?
あるいは、玄関入ってすぐとか?
ちょっと真面目に考えすぎたかな?(^_^;)
いや、他にコメントが思いつかなかったので。(^_^;)
家の構造とかにも拠るけど、一般に古い日本家屋の場合、台所は母屋の裏じゃない?
あるいは、玄関入ってすぐとか?
ちょっと真面目に考えすぎたかな?(^_^;)
いや、他にコメントが思いつかなかったので。(^_^;)
Re:付けたし
そんなに広い家をイメージしてなかったっす(汗)
近場に古い日本家屋を保存してる所があったけど、台所を含む土間がこっちで……あれ? 玄関何処だっけ?(^^;)
近場に古い日本家屋を保存してる所があったけど、台所を含む土間がこっちで……あれ? 玄関何処だっけ?(^^;)
Re:こんにちは♪
廃屋……崩れそうだし、現実的にも近付かない方が賢明かと(笑)
Re:こんにちは〜♪
気付かれてたら……帰れなかったかもね~( ̄ー ̄)