〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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今日夜霧は、犯した罪とその重さについて、美術部二年の瀬尾麻由美が理解出来る迄とことん教育したかったらしい。
ところが彼女は夜霧の姿を見るなり逃走を図り、捕まらないのだと、夜霧は顔を顰める。
「一体何をやらかしたんですか?」例によって、京は単刀直入に訊く。
「流石にそれは……」愚痴っておきながら、珍しく夜霧は言い淀んだ。「プライバシーにも関わる事だから」
本当に珍しい、と僕は目を丸くした。夜霧――夜原霧枝先生が生徒のプライバシーを気にするなんて。麻由美に対して、女同士の配慮という事だろうか。
それとも……。
「我々男子には言えない様な事でも?」
うん。僕もそうは思ったよ、京。でも、そう思ったなら追求から手を引いてもいいんじゃないかなぁ。
流石に夜霧も頬を引き攣らせてるじゃないか。
「真田君、そういう邪推をする子が居るから、尚更彼女の件に関しては黙っていてくれない? 情報が何処から漏れるかも解らないし」それでも夜霧にしては精一杯穏便に、京の関与を断る。「真田弟も、いいわね?」
僕迄念を押されてしまった。
仕方なく兄弟二人して頷くと、夜霧はそそくさと行ってしまった。また、彼女を捜しに行くらしい。
僕達はそっくりな顔を見合わせて、互いに首を捻った。
ところが彼女は夜霧の姿を見るなり逃走を図り、捕まらないのだと、夜霧は顔を顰める。
「一体何をやらかしたんですか?」例によって、京は単刀直入に訊く。
「流石にそれは……」愚痴っておきながら、珍しく夜霧は言い淀んだ。「プライバシーにも関わる事だから」
本当に珍しい、と僕は目を丸くした。夜霧――夜原霧枝先生が生徒のプライバシーを気にするなんて。麻由美に対して、女同士の配慮という事だろうか。
それとも……。
「我々男子には言えない様な事でも?」
うん。僕もそうは思ったよ、京。でも、そう思ったなら追求から手を引いてもいいんじゃないかなぁ。
流石に夜霧も頬を引き攣らせてるじゃないか。
「真田君、そういう邪推をする子が居るから、尚更彼女の件に関しては黙っていてくれない? 情報が何処から漏れるかも解らないし」それでも夜霧にしては精一杯穏便に、京の関与を断る。「真田弟も、いいわね?」
僕迄念を押されてしまった。
仕方なく兄弟二人して頷くと、夜霧はそそくさと行ってしまった。また、彼女を捜しに行くらしい。
僕達はそっくりな顔を見合わせて、互いに首を捻った。
「それにしても夜霧があんなに教育熱心だったとは思わなかったな」寮の僕達の部屋に戻って、京がそう言って苦笑を浮かべた。
「いつもの気紛れじゃないのかな」僕もそう言って失笑する。
それにしても、本当に何をやらかした言うのだろう? 瀬尾麻由美は。
「でも、全寮制の学校で、いつ迄も逃げていられる訳もないのにね。周りは結構山の中程だし、流石に校外に迄は出ないよねぇ?」
「そこ迄逃げなきゃならんとしたら、本当に何を仕出かしたのやら、だ。しかし、夜霧以外の教師は動いてないみたいだぞ」
流石京と言うべきか、他の教師達の動きも見ていたらしい。僕は呆れつつも首を傾げる。
「……とすると、偶々彼女のやらかした事に気付いた夜霧が、彼女を諭しつつ内々に処理しようとしているのかな?」
「そんないい先生に見えるか? 夜霧が」疑わしげに、京は眉を顰める。
「いや、そこ迄言わなくても……って、やっぱり見えないか」僕は頭を振った。「あ、でも、プライバシーを配慮していた辺り、意外に夜霧も……?」
うーむ、と京は唸ってしまう。夜霧がいい先生ではいけないらしい。
そんな他愛ない話をしている間に夕食の時間となり、僕達は食堂へと赴いた。
「夜霧がなぁ……」夕食の席でそんな単語が耳に付き、僕は思わず声のした方を振り向いた。
と、目が合ったのは間宮栗栖だった。思えば先程の声は関西風の発音だった。
「どないしたんや? 祥」屈託のない笑みで、そう尋ねてくる。
「何でもない」噛み付く様にそう答えたのは、しかし僕ではなく隣の席の京だった。何故、栗栖相手だとそう喧嘩腰なんだ? 我が兄よ。
「何でもないんだけどね、夜霧がどうしたのかなぁって」慌ててフォローする僕。
「ああ、夜霧がなぁ」気にした風もなく、栗栖は話を続けた。「帰り際に見たんやけど、二年生かな? 女子捕まえてえらい剣幕やったわ。何や、やっと見付けた! とか、早く返しなさい! とか……。まぁ、直ぐ引っ張って行ったから、詳しい事は解らへんかったけどな」
僕は京と顔を見合わせた。
学年が違う事もあって、瀬尾麻由美という生徒とは直接の面識はない。だから確かめ様もないが、あの夜霧が捜していたのだから、恐らくはその彼女なのだろう。
「どないしたんや?」またも屈託のない笑みで、しかし巧妙に好奇心を隠し、栗栖は訊いてきた。
しかしここでは壁に耳どころか耳の壁だ。夜霧が気を遣う様な問題ならば、これ以上他の生徒に聞かせない方がいいだろう。
後で、とだけ言って僕達は食事に専念した。
夕食後、栗栖は只世間話をしに来ただけといった風情で、僕達の部屋を訪れた。
互いの情報を交換すると、栗栖は肩を竦めた。
「何や、問題の女子は美術部やったんやな」
「それがどうかしたか?」京、話を促すなら穏便にしようよ。
「いや、普段夜霧がおったり、私物置いたりしてる美術準備室にも入り易いなぁ、と思うて。美術室や準備室におっても夜霧に質問があって来たんや、言うたら怪しまれへんし」
「……それは、詰まり、良からぬ目的があって美術準備室に出入りしていた、という事か?」京の目が険しくなる。
「まぁ、何かを盗る心算やったんか、ほんの悪戯の心算やったんか解らへんけどな。夜霧は罪や言うたんやろ? そして夕方彼女を捕まえて何かを返せと言うてた。せやったら彼女が何かを盗んで行ったんやないかと……」
僕と京は顔を見合わせた。男子寮の纏め役たる京も女子は管轄外とは言え、同じ学校の生徒が盗みなど……。
「只なぁ」栗栖の声は僕達の深刻な表情とは打って変わって軽妙だった。「夜霧は表沙汰にせずに一人で捜してたんやろ? あの夜霧が騒ぎもせずに、一人で」
「確かに、もし金品だったらもっと大騒ぎしていたかも知れないな」京が唸る。「そうなったらプライバシーだの何だのといった大人としての配慮は頭からすっぽ抜けそうだからな、夜霧は」
同感だけど、酷い言い草だね、京。
「という事は、彼女が盗って行った物があったとして、金品ではない?」僕は首を傾げる。「でも夜霧は懸命に捜してた。という事は一体……?」
「プライバシーにも関わる事、言うたんやったな、夜霧は」と、栗栖。「その瀬尾麻由美のプライバシーやのうて、夜霧自身のプライバシーに関わる事やったんやないか? 写真とか、手紙とか、携帯のメールとか」
「……確かに彼女のプライバシーとは言ってなかったな」京は目を眇める。「夜霧……やはりいい所があるなどと思ったのは間違いだったか」
うーむ、と僕達は唸ってしまった。
後日、風の噂では問題の瀬尾麻由美はほぼ連日美術室に呼び出され、懇々と説教を受ける羽目となったらしい。
その原因となった物が何だったのかは未だに不明で、僕達も好奇心を刺激されはするのだが……。
取り敢えず、彼女と同じ目には遭いたくない、という思いの方が強かった。
それでも京は何と、麻由美に訊こうとしたらしいのだが――話を持ち出した途端に、ごめんなさいを連呼された挙句に泣き出され、流石に話にならなかったそうだ。
夜霧の教育……個人的には受けたくはないものだと、僕達は身を震わせた。
―了―
怖いよ~、怖いよ~☆
「いつもの気紛れじゃないのかな」僕もそう言って失笑する。
それにしても、本当に何をやらかした言うのだろう? 瀬尾麻由美は。
「でも、全寮制の学校で、いつ迄も逃げていられる訳もないのにね。周りは結構山の中程だし、流石に校外に迄は出ないよねぇ?」
「そこ迄逃げなきゃならんとしたら、本当に何を仕出かしたのやら、だ。しかし、夜霧以外の教師は動いてないみたいだぞ」
流石京と言うべきか、他の教師達の動きも見ていたらしい。僕は呆れつつも首を傾げる。
「……とすると、偶々彼女のやらかした事に気付いた夜霧が、彼女を諭しつつ内々に処理しようとしているのかな?」
「そんないい先生に見えるか? 夜霧が」疑わしげに、京は眉を顰める。
「いや、そこ迄言わなくても……って、やっぱり見えないか」僕は頭を振った。「あ、でも、プライバシーを配慮していた辺り、意外に夜霧も……?」
うーむ、と京は唸ってしまう。夜霧がいい先生ではいけないらしい。
そんな他愛ない話をしている間に夕食の時間となり、僕達は食堂へと赴いた。
「夜霧がなぁ……」夕食の席でそんな単語が耳に付き、僕は思わず声のした方を振り向いた。
と、目が合ったのは間宮栗栖だった。思えば先程の声は関西風の発音だった。
「どないしたんや? 祥」屈託のない笑みで、そう尋ねてくる。
「何でもない」噛み付く様にそう答えたのは、しかし僕ではなく隣の席の京だった。何故、栗栖相手だとそう喧嘩腰なんだ? 我が兄よ。
「何でもないんだけどね、夜霧がどうしたのかなぁって」慌ててフォローする僕。
「ああ、夜霧がなぁ」気にした風もなく、栗栖は話を続けた。「帰り際に見たんやけど、二年生かな? 女子捕まえてえらい剣幕やったわ。何や、やっと見付けた! とか、早く返しなさい! とか……。まぁ、直ぐ引っ張って行ったから、詳しい事は解らへんかったけどな」
僕は京と顔を見合わせた。
学年が違う事もあって、瀬尾麻由美という生徒とは直接の面識はない。だから確かめ様もないが、あの夜霧が捜していたのだから、恐らくはその彼女なのだろう。
「どないしたんや?」またも屈託のない笑みで、しかし巧妙に好奇心を隠し、栗栖は訊いてきた。
しかしここでは壁に耳どころか耳の壁だ。夜霧が気を遣う様な問題ならば、これ以上他の生徒に聞かせない方がいいだろう。
後で、とだけ言って僕達は食事に専念した。
夕食後、栗栖は只世間話をしに来ただけといった風情で、僕達の部屋を訪れた。
互いの情報を交換すると、栗栖は肩を竦めた。
「何や、問題の女子は美術部やったんやな」
「それがどうかしたか?」京、話を促すなら穏便にしようよ。
「いや、普段夜霧がおったり、私物置いたりしてる美術準備室にも入り易いなぁ、と思うて。美術室や準備室におっても夜霧に質問があって来たんや、言うたら怪しまれへんし」
「……それは、詰まり、良からぬ目的があって美術準備室に出入りしていた、という事か?」京の目が険しくなる。
「まぁ、何かを盗る心算やったんか、ほんの悪戯の心算やったんか解らへんけどな。夜霧は罪や言うたんやろ? そして夕方彼女を捕まえて何かを返せと言うてた。せやったら彼女が何かを盗んで行ったんやないかと……」
僕と京は顔を見合わせた。男子寮の纏め役たる京も女子は管轄外とは言え、同じ学校の生徒が盗みなど……。
「只なぁ」栗栖の声は僕達の深刻な表情とは打って変わって軽妙だった。「夜霧は表沙汰にせずに一人で捜してたんやろ? あの夜霧が騒ぎもせずに、一人で」
「確かに、もし金品だったらもっと大騒ぎしていたかも知れないな」京が唸る。「そうなったらプライバシーだの何だのといった大人としての配慮は頭からすっぽ抜けそうだからな、夜霧は」
同感だけど、酷い言い草だね、京。
「という事は、彼女が盗って行った物があったとして、金品ではない?」僕は首を傾げる。「でも夜霧は懸命に捜してた。という事は一体……?」
「プライバシーにも関わる事、言うたんやったな、夜霧は」と、栗栖。「その瀬尾麻由美のプライバシーやのうて、夜霧自身のプライバシーに関わる事やったんやないか? 写真とか、手紙とか、携帯のメールとか」
「……確かに彼女のプライバシーとは言ってなかったな」京は目を眇める。「夜霧……やはりいい所があるなどと思ったのは間違いだったか」
うーむ、と僕達は唸ってしまった。
後日、風の噂では問題の瀬尾麻由美はほぼ連日美術室に呼び出され、懇々と説教を受ける羽目となったらしい。
その原因となった物が何だったのかは未だに不明で、僕達も好奇心を刺激されはするのだが……。
取り敢えず、彼女と同じ目には遭いたくない、という思いの方が強かった。
それでも京は何と、麻由美に訊こうとしたらしいのだが――話を持ち出した途端に、ごめんなさいを連呼された挙句に泣き出され、流石に話にならなかったそうだ。
夜霧の教育……個人的には受けたくはないものだと、僕達は身を震わせた。
―了―
怖いよ~、怖いよ~☆
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Re:おはようございます(^^)
ふっふっふっ、それを追求すると……大変ですよ?(^^;)
Re:こんにちは♪
然も夜霧のお説教です。
京の説教とどっちがしつこいかと、校内では噂されているとか、いないとか(笑)
京の説教とどっちがしつこいかと、校内では噂されているとか、いないとか(笑)
こんにちは
自分が創作の中で作った他作品の中のキャラが、新キャラとして登場する。(笑)
・・・二度と出番が無いかもしれんけど。(笑)
みんな突っ込んで聞いたら可哀想だよ~。
恐らく、そこまで細かく設定してないよ~。
・・・というよりしたくない、多分。(笑)
・・・二度と出番が無いかもしれんけど。(笑)
みんな突っ込んで聞いたら可哀想だよ~。
恐らく、そこまで細かく設定してないよ~。
・・・というよりしたくない、多分。(笑)
Re:こんにちは
恐らく出番はもう無いでしょう(笑)
夜霧のプライバシーは……考えるだに恐ろしい(--;)
夜霧のプライバシーは……考えるだに恐ろしい(--;)
Re:無題
ぎくっ(笑)
まぁ、誰かからの手紙でも何でも設定は出来るんですが……下手をするとまた登場人物が増えるじゃないですか!(爆)
まぁ、誰かからの手紙でも何でも設定は出来るんですが……下手をするとまた登場人物が増えるじゃないですか!(爆)