〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜に墓地で待ち合わせなんかするもんじゃないと、僕は心底思った。
確かに人目にはつかないし、これから心霊スポットに行こうと言うのだから雰囲気満点ではあるけれど、意外と薮蚊も多いし、何より薄気味悪い。心霊スポットに遠出する迄もないんじゃないか?
おまけに相手は遅れて来た癖に謝りもせず、僕が約束と違う場所で待っていたからだと難癖をつけてきた。
「何でだよ、夜の十一時に墓地南側の楠の所って、確認し合ったじゃないか」眉を顰めて、僕は文句を言った。「もう十一時半だぞ? 三十分もこんな所で待たせやがって」
「何言ってんだよ、お前……」相手は呆れた様にぽかんと口を開けた。「確認しといて何でこんな所で待ってるんだよ? 携帯にも出ないし。こちとら気味の悪い墓地の中、探し回ったんだぞ?」
「はぁ?」僕はやはり呆れ顔で彼を見返してやる。「こんな所って……何寝惚けてんだよ? お前」
僕の傍らにはかなりの樹齢を誇るのだろう、大きな楠が枝葉を広げて、ざわざわと風に木の葉を揺らしている。勿論、これが墓地南側の楠だ。これが目に入らないとでも言うのか?
「それに携帯はずっと電源入れてあったけど、全然鳴らなかったぞ? 間違って他の誰かに掛けたんじゃないのか?」僕は携帯を取り出して、着信履歴を確認する。やはり、彼の番号があるのは今日の夕方、待ち合わせの場所と時間を確認した時が最後だ。
「寝惚けてるもんか!」相手はむっとした様子で怒鳴った。「お前こそさっきから訳の解らない事ばかり言いやがって。見てみろよ」
取り出された彼の携帯の発信履歴には、確かに今夜十一時台に三度、僕の携帯への発信が記録されていた。おかしい。
「記録は消す事は出来るけど、掛けてもいない発信記録を残せる訳はないもんな」鼻を鳴らして、彼は言う。「お前、もしかして今夜の心霊スポットに怖気づいてこうやって時間を稼いで行かなくて済む様にしようなんて考えたんじゃないのか?」
「何を!?」僕はいきり立った。それは確かにこんな街中の墓地でさえ薄気味悪がっている僕だけれど、嫌なら嫌で、そんな姑息な手を使わずに断るさ!「お前こそどうにかして記録残して、俺を怖がらせようとでも企んでるんだろ! そんな手に乗るもんか!」
「どうやって残すってんだよ! 本当に掛けたから記録が残ってるんだろうが!」
「知るかよ! 何か手があるんだろう!?」
「何かって何だよ! 子供じゃあるまいし!」
僕はむっとして、口を噤んだ。確かに、発信履歴が残っているという事は――何らかのトリックを講じてでもいない限り――彼が僕の携帯に掛けたという証になる。対して、着信履歴の無い僕の携帯は……消去したのだと言われてしまえば、そんな事はしていないという証拠も提示出来ない。
けれど間違いなく携帯は鳴らなかったし、僕が履歴を消去した事も無い。
どうなっているんだ?――僕は気味の悪い思いで手の中の携帯を見詰めた。
「兎に角、そういう心算なら何時になったって、行くからな。心霊スポット」僕が黙った事で勢いを得たのだろう、口元を歪めて彼は言った。
完全に、僕が怖気付いたのだと思っているその様子に、僕は思わずかっとなってその胸倉に掴み掛かった。
「序でに幽霊どもに仲間入りさせてやろうか?」そう、唸る様に言った僕の声は、後に彼が地の底から響く様だったと言った程、陰鬱だった。
そして、こんな言葉が出るなんて、と僕は僕で自分自身に衝撃を受けていた。
幽霊に仲間入りさせる――それは、詰まり……。
「ご、ごめん!!」彼の形相も険悪になり、やれるものならと言い掛けたのと、言葉の意味に気付いた僕が謝罪を口にして彼から手を放したのとは同時だった。
彼はきょとん、として僕を見る。振り上げようとした拳のやり場に困った様に。
確かに今夜の彼はおかしい。けれど、口にしていい言葉と悪い言葉はある。僕は最悪の言葉を吐いてしまったのだ。だから、謝る。
「お、おう……」やはり呆然とした儘、しかし彼は頷いた。「俺も悪かったよ。ちょっと意地が悪かった。けど、怖気付いたんでもなければ、何でこんな所で待ってたんだ?」
「だからこんな所って……」またそこに戻るのかよと溜め息をつきつつ辺りを見回した僕の目に、先程迄とは違う光景が映った。「此処……は……? 楠は!?」
あの大きな楠が無い。いや、それ以外にも、此処はこんな古びた墓ばかりだったか? 墓石も欠け、苔生し、到底長年手入れもされていない様な……無縁墓? 嘘だろう、楠の辺りは比較的新しい区画で、手入れ行き届いた墓が整然と並んでいた筈なのに。
彼が訝しげに顔を顰めた。
「此処は墓地の北側。反対側で待っててもいつ迄も来ないから、俺が捜しに来たんだろうが……お前、お化けか狐にでも化かされたのか?」
そうだったのかも知れない。
思えばお互いにこんなにカリカリしたのも、妙だった。二十分や三十分、遅れたり待たされたり……そんな事、日常的だった筈なのに、携帯が繋がらず、その辻褄も合わなかった所為で……。もしやこの携帯の行き違いも某かの物の怪の仕業だったのだろうか?
何しろその瞬間、僕の耳、いや頭には、こんな声が響いていたのだから。
『ちっ、殺し合いになるかと思ったのに……』
―了―
幽霊の悪戯?
悪戯にしちゃ、質悪いか(^^;)
確かに人目にはつかないし、これから心霊スポットに行こうと言うのだから雰囲気満点ではあるけれど、意外と薮蚊も多いし、何より薄気味悪い。心霊スポットに遠出する迄もないんじゃないか?
おまけに相手は遅れて来た癖に謝りもせず、僕が約束と違う場所で待っていたからだと難癖をつけてきた。
「何でだよ、夜の十一時に墓地南側の楠の所って、確認し合ったじゃないか」眉を顰めて、僕は文句を言った。「もう十一時半だぞ? 三十分もこんな所で待たせやがって」
「何言ってんだよ、お前……」相手は呆れた様にぽかんと口を開けた。「確認しといて何でこんな所で待ってるんだよ? 携帯にも出ないし。こちとら気味の悪い墓地の中、探し回ったんだぞ?」
「はぁ?」僕はやはり呆れ顔で彼を見返してやる。「こんな所って……何寝惚けてんだよ? お前」
僕の傍らにはかなりの樹齢を誇るのだろう、大きな楠が枝葉を広げて、ざわざわと風に木の葉を揺らしている。勿論、これが墓地南側の楠だ。これが目に入らないとでも言うのか?
「それに携帯はずっと電源入れてあったけど、全然鳴らなかったぞ? 間違って他の誰かに掛けたんじゃないのか?」僕は携帯を取り出して、着信履歴を確認する。やはり、彼の番号があるのは今日の夕方、待ち合わせの場所と時間を確認した時が最後だ。
「寝惚けてるもんか!」相手はむっとした様子で怒鳴った。「お前こそさっきから訳の解らない事ばかり言いやがって。見てみろよ」
取り出された彼の携帯の発信履歴には、確かに今夜十一時台に三度、僕の携帯への発信が記録されていた。おかしい。
「記録は消す事は出来るけど、掛けてもいない発信記録を残せる訳はないもんな」鼻を鳴らして、彼は言う。「お前、もしかして今夜の心霊スポットに怖気づいてこうやって時間を稼いで行かなくて済む様にしようなんて考えたんじゃないのか?」
「何を!?」僕はいきり立った。それは確かにこんな街中の墓地でさえ薄気味悪がっている僕だけれど、嫌なら嫌で、そんな姑息な手を使わずに断るさ!「お前こそどうにかして記録残して、俺を怖がらせようとでも企んでるんだろ! そんな手に乗るもんか!」
「どうやって残すってんだよ! 本当に掛けたから記録が残ってるんだろうが!」
「知るかよ! 何か手があるんだろう!?」
「何かって何だよ! 子供じゃあるまいし!」
僕はむっとして、口を噤んだ。確かに、発信履歴が残っているという事は――何らかのトリックを講じてでもいない限り――彼が僕の携帯に掛けたという証になる。対して、着信履歴の無い僕の携帯は……消去したのだと言われてしまえば、そんな事はしていないという証拠も提示出来ない。
けれど間違いなく携帯は鳴らなかったし、僕が履歴を消去した事も無い。
どうなっているんだ?――僕は気味の悪い思いで手の中の携帯を見詰めた。
「兎に角、そういう心算なら何時になったって、行くからな。心霊スポット」僕が黙った事で勢いを得たのだろう、口元を歪めて彼は言った。
完全に、僕が怖気付いたのだと思っているその様子に、僕は思わずかっとなってその胸倉に掴み掛かった。
「序でに幽霊どもに仲間入りさせてやろうか?」そう、唸る様に言った僕の声は、後に彼が地の底から響く様だったと言った程、陰鬱だった。
そして、こんな言葉が出るなんて、と僕は僕で自分自身に衝撃を受けていた。
幽霊に仲間入りさせる――それは、詰まり……。
「ご、ごめん!!」彼の形相も険悪になり、やれるものならと言い掛けたのと、言葉の意味に気付いた僕が謝罪を口にして彼から手を放したのとは同時だった。
彼はきょとん、として僕を見る。振り上げようとした拳のやり場に困った様に。
確かに今夜の彼はおかしい。けれど、口にしていい言葉と悪い言葉はある。僕は最悪の言葉を吐いてしまったのだ。だから、謝る。
「お、おう……」やはり呆然とした儘、しかし彼は頷いた。「俺も悪かったよ。ちょっと意地が悪かった。けど、怖気付いたんでもなければ、何でこんな所で待ってたんだ?」
「だからこんな所って……」またそこに戻るのかよと溜め息をつきつつ辺りを見回した僕の目に、先程迄とは違う光景が映った。「此処……は……? 楠は!?」
あの大きな楠が無い。いや、それ以外にも、此処はこんな古びた墓ばかりだったか? 墓石も欠け、苔生し、到底長年手入れもされていない様な……無縁墓? 嘘だろう、楠の辺りは比較的新しい区画で、手入れ行き届いた墓が整然と並んでいた筈なのに。
彼が訝しげに顔を顰めた。
「此処は墓地の北側。反対側で待っててもいつ迄も来ないから、俺が捜しに来たんだろうが……お前、お化けか狐にでも化かされたのか?」
そうだったのかも知れない。
思えばお互いにこんなにカリカリしたのも、妙だった。二十分や三十分、遅れたり待たされたり……そんな事、日常的だった筈なのに、携帯が繋がらず、その辻褄も合わなかった所為で……。もしやこの携帯の行き違いも某かの物の怪の仕業だったのだろうか?
何しろその瞬間、僕の耳、いや頭には、こんな声が響いていたのだから。
『ちっ、殺し合いになるかと思ったのに……』
―了―
幽霊の悪戯?
悪戯にしちゃ、質悪いか(^^;)
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Re:こんばんは♪
夜に墓地で待ち合わせる時点で既に充分、肝試しですな(笑)
遊び半分でそんな所に近付いたら……ねぇ( ̄ー ̄)
遊び半分でそんな所に近付いたら……ねぇ( ̄ー ̄)
Re:おはようございます♪
ちょっとした諍いの筈がどんどんエスカレートして……。
そんな時は何かが居るのかも知れません。
あなたの後ろに……(脅すな)
そんな時は何かが居るのかも知れません。
あなたの後ろに……(脅すな)
こんにちは
おいらも嫌だ!(^_^;)
墓地じゃなくても、そんな時間に待ち合わせなんて。
しかし、流石にに、殺し合にまでは発展しないのでは?(笑)
もうちょっと、外国っぽい話にした方がよかったかな?
悪魔の仕業って事で。
墓地じゃなくても、そんな時間に待ち合わせなんて。
しかし、流石にに、殺し合にまでは発展しないのでは?(笑)
もうちょっと、外国っぽい話にした方がよかったかな?
悪魔の仕業って事で。
Re:こんにちは
まぁ、普通嫌ですな(笑)
外国っぽい外人墓地では? ゾンビが出て来そうな(笑)
にに♪
外国っぽい外人墓地では? ゾンビが出て来そうな(笑)
にに♪
Re:再び(笑)
先のコメント読んでツッコミ入れたろ♪ と思ってたら、自分で気付いたか……ちっ(笑)
にに♪
にに♪
Re:お久です。
おお~、ぴぴさん、ご無沙汰してます(^^)
お元気ですか~♪
悪戯狐が居ますか?(^^;)
お元気ですか~♪
悪戯狐が居ますか?(^^;)