忍者ブログ
〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin Link
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 電車を降りると、潮の匂いが鼻をついた。
 小さな駅舎の向こうは道路と僅かな区画を挟んで、砂浜に続いている。海からの風が、この匂いを運んで来るのだろう。
 急ぐ用もなかった僕は何となく、そちらに足を向けた。桜が咲き始めたばかりのこの時期、海なんて眺めても寒々しいだけかも知れないけれど。

 生憎の鈍色の空を映した、鈍色の海。白い波がその表面に泡を作る。打ち寄せる波を吸い込んだ砂はじっとりと重く、暗い色が更に周囲を侵食していく。
 夏に見る青く輝く海とは別物の様だ。
 勿論、辺りに人は居ない。こんな冷たい海に来る物好きなど、そうそう居ないという事か。
 いや――やや沖合いに目を転じた僕は、眉を顰めた。
 ボート?
 更に目を凝らしても、間違いはなかった。波に揺られながら、一艘の小さなボートが浮かんでいる。
 ボートだけが。
 櫂は固定されている様だが、それを操るべき人が居ない。何かの具合でボートだけが流されたのか、それとも……?
 後者だったら大変だ、と僕は駅舎に取って返した。警察か消防に通報するべきか、いや、海難事故なら118か……? 
 海から運ばれた砂に足を取られながらも駅に辿り着き、僕は駅員に訴えた。ボートだけが浮かんでいる、もし事故だったらどうしよう、と。
 すると駅員は、ああ、と頷いてこう言った。

「未だ寒い時期でよかったですね。夏だとよくあるんですよ。確かめよう、あるいは救助しようと慌てて飛び込んで……あの辺りの深みに引き摺り込まれる人が」

 聞けば、あのボートは時折、ああして姿を見せるのだそうだ。そしてまたいつの間にか、何処へとも知れず姿を消す。
 時には、助けに飛び込んだ誰かを乗せて……。

                      ―了―
 こんな寒いのに海なんか行かねーよ(--;)

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
駅員って…なんだ
駅員って…なんだろう…?
BlogPetの夜霧 URL 2010/03/29(Mon)15:13:34 編集
Re:駅員って…なんだ
駅に勤務する人。
巽(たつみ)【2010/03/29 22:27】
ゾゾ~!
夏でも様子を見になんか行かないぞぉ~~!
幽霊船なんて嫌だぁ~!
クーピー URL 2010/03/31(Wed)13:22:11 編集
Re:ゾゾ~!
泳ぎに自信のある人程、近付いちゃいそうな罠かも(^^;)
巽(たつみ)【2010/03/31 21:57】
お迎えに?
誰を迎えにくるのやらw
駅員さん、先に教えてあげてよ〜(^^ゞ
つきみぃ URL 2010/03/31(Wed)15:14:28 編集
Re:お迎えに?
駅に張り紙しましょか。
「幽霊船注意」(笑)
巽(たつみ)【2010/03/31 22:00】
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
フリーエリア
プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

ブログランキング・にほんブログ村へ
ブログ村参加中。面白いと思って下さったらお願いします♪
最新CM
☆紙とペンマーク付きは返コメ済みです☆
[06/28 銀河径一郎]
[01/21 銀河径一郎]
[12/16 つきみぃ]
[11/08 afool]
[10/11 銀河径一郎]
☆有難うございました☆
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
(04/01)
(03/04)
(01/01)
(12/01)
(11/01)
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
メールフォーム
何と無く、付けてみる
フリーエリア
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]