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「特に……何も起こらないよね?」闇が訪れた周囲をそろりと見回して、紗枝は囁いた。
カーテンの隙間から控え目に差し込む月光と街灯の明かりだけが、今この部屋にある光源だった。完全な闇には程遠いが、それでも車座に並んだ友人達の表情を窺い知る事は出来ない。
だが、互いの緊張は空気に溶け込み、大きな動きは勿論、声を出す事さえ憚られた。
皆の中心では未だ、吹き消されたばかりの蝋燭の煙が、ゆらりとたゆたっている。それも直に空中に解け、動きを見せるものはなくなった。
百の怪を語れば、怪至る――百物語を、彼女達は行っていたのだ。
流石に百本もの蝋燭や灯心を用意する訳にも行かず、かなり略式にアレンジされたものではあったが。
三分だろうか、五分だろうか。実際にはもっと短い時間だったに違いないが、全ての動きが止まった様な時間が流れ、どうやら何も起こる気配がない様だと、彼女等の緊張は徐々に解れてきた。
「何だ、やっぱり何も起こる訳ないじゃん」ほっと息を吐いて、京香が――それでも未だ囁く様な声で――言った。
「そうだよね。百物語なんて、やっぱり只のお話だよね」と、美智花。緊張の反動からか、引き攣った様な笑みを含んだ声音。
「それか略式だったから、駄目だったのかなぁ?」この会の提案者でもある貴子の声は物足りなさそうだ。「怖い話も本で掻き集めた様なものだったし。あんまり怖くないのもあったし」
「それは仕方ないよ」紗枝は言った。「私達の実体験なんて無いに等しいんだから」
「そうそう、たった四人だし。てか、実体験で百話なんて無理だよね」美智花は肩を竦めている。
「そろそろ電気点けよう? 何も無いんなら、こんな暗い所で話す事もないじゃん」京香が天井から下げられた紐の影に手を伸ばした。
が――。
「あ、そうね」そう言って、手元に用意していたリモコンで灯を点けたのは部屋の主である紗枝だった。ピッ、という軽い電子音と共に、室内に明かりが満ちる。
「え……?」手を伸ばした儘の姿勢で、京香が固まった。
てっきり電灯のスイッチだと思っていた、月明かりに浮かんでいた細長い紐の影は無くなっていた。
そしてそんな物はこの部屋には始めから無かった事京香は思い出した。つい、先入観でそれを電灯の紐と思ってしまったのだが……。
「あの影……何だったの……?」
その問いには、美智花の甲高い悲鳴が答えてくれた。
「かっ、髪……! これ! 髪!?」
四人の中心、紐が下がっていた筈のその下の床には、消えた蝋燭に絡み付く様に、此処に居る誰のものでもない長い黒髪が、じっとりと、とぐろを巻いていた。
―了―
取り敢えず、そんな部屋ではもう寝られないと思う(--;)
どんどん怪しいものの吹き溜まりに……(汗)
遺髪とか、そういうイメージがあるからですかねぇ? 何か「死」と直結したイメージ……。