〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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あの塔にはどうやったら辿り着けるのだろう――早くも暮れの緋色を帯び始めた頭上の木々を見上げて、男は思った。先程小高い丘から見た空には一対の双塔が、影濃く伸び上がっていたのだ。
男はそこを目指していた。何故と言ってそこしか目に付く人工物が無かったから。
辺りは深い森。しかし思いの他下生えは少なく、それだけに、人の手の入っていない、打ち捨てられた森という印象を受ける。間引きや伐採される事の無い森は樹冠が発達し過ぎ、地面迄日光が届かないのだ。
急がなければ、と男は脚を速める。日の光も満足に届かない森の事、夜にもなればあえかな星の光など、何の頼みにもならない。
下生えの少ないのを幸いと考え、男はこちらと見定めた方向に小走りに駆け出した。
塔を目指して。
男はそこを目指していた。何故と言ってそこしか目に付く人工物が無かったから。
辺りは深い森。しかし思いの他下生えは少なく、それだけに、人の手の入っていない、打ち捨てられた森という印象を受ける。間引きや伐採される事の無い森は樹冠が発達し過ぎ、地面迄日光が届かないのだ。
急がなければ、と男は脚を速める。日の光も満足に届かない森の事、夜にもなればあえかな星の光など、何の頼みにもならない。
下生えの少ないのを幸いと考え、男はこちらと見定めた方向に小走りに駆け出した。
塔を目指して。
それにしても奇妙な森だった。鳥の声はするのだが、余程警戒心が強いのか姿は見えない。他の小動物にしてもそうだった。樹上を駆け回るリス位居そうなものだが。
何より、どうして自分は此処に居るのか思い出せない――それが男を不安にさせていた。気が付いた時には、周囲の森を見下ろす小高い丘の上に寝転がっていたのだ。その前には……何をしていたろう? 確かある作家の家に取材に行って……。話を伺いながら出された珈琲で喉を湿らせて、それから……。それからの記憶が無い。
一服盛られたと考えるのが妥当だろうか。しかし何の為に。それに訪ねた作家の仕事場は都心部だった。こんな何処とも知れない森に連れて来るには何時間掛かった事だろう? その間誰にも見られず? 彼が目覚める心配は無かったのか?
そもそも、何故?
只取材に行っただけの彼に危害を加える必要がどこにある? そもそも、彼を此処に放り出す事にどんな理由がある?
兎に角、此処が何処なのか、どうすれば帰れるのか、そういった事を確かめる為にも、見える限りの唯一の人工物、あの塔へ向かってみるしか無かった。あの塔が何なのかも判らないが。
頭が疑問符だらけでも脚は動くらしいという事を確認しながら、男はいつしか、目指す塔の下に着いていた。
辿り着いたはいいが、此処でまたもや男は茫然とする事となった。
大き過ぎる。
双塔を備えた館は天高く聳え、そしてそれは各部分部分が大きいが為らしかった。丸で巨人の城かとばかりに、重厚な扉は大きく、180センチの長身を誇った彼でもドアノブに手を掛けるのがやっと。ぐるりを回ってみても――回るのも大変だったが――窓も高く、到底届かない。
どうなっているんだ、と男は恐慌を来たした。何なんだ、この馬鹿でかい館は!
此処に果たして、今の彼の助けとなってくれる様な人間が住んでいるのだろうか。
確かめなければと思う頭とは反対に、脚は後ずさりを始める。こんな所にまともな人間が住んでいよう筈も無いじゃないか!
と、塔よりも遥か上空から、聞き覚えのある様な声が降ってきた。
「ううん、ちょっとバランスが悪かったかしら。森迄はよかったと思ったんだけど……」
何だ? 何を言っている?――男は上空を見上げて声の発生源を探した。塔よりも上、それは天空ではないか。何故そんな所から声が? 然もこの声は……。
「雪坂先生!? その声は雪坂先生じゃありませんか!」自分が訪ねた作家の名を、彼は呼ばわった。「何処にいらっしゃるんです? 此処は何処なんですか!?」
「見て解らない?」面白がっている、そしてやや自慢げな女の声。「ね、森は完璧だったでしょう?」
「完璧って何が……」問う内、男の頭にとんでもない想像が去来する。「真逆此処は……先生が造った……箱庭? ではこの建物は……!」
彼の慌て様が可笑しいのか、笑い声が降ってくる。
「どうやって!? それ以前に何故、こんな事を……!?」その反応に苛立たしげに男は声を張り上げた。
「だって、私の造り上げた世界に半端な人形では物足りなくなったのよ。どれだけ人間に似せてはあっても所詮は人形じゃない。私はリアルを追及しているのよ? だったら……此処に飾られるべきもリアルでないと……。そして最高のリアルはやはり……」
男は作家の考えに、ぞっと背筋を寒くした。
「でも今回は失敗ね。ちょっと大きめの家での『人形』の冒険の情景を描きたかったのに、ドアを開ける事も出来ないんだもの。リアルじゃないわ」
リアルを追求する新進女流作家――それが記事のタイトルとなる予定だった。無論、取材が無事に遂行出来ていればの話だが。それに男はタイトルを変えようとも考えていた。
リアルを追求する執念は人をも小さな人形とする――彼女にとっては皮肉ではなく、寧ろ賞賛の言葉と映るかも知れない。
雪坂はその方面では名の知れたドールハウス作家だった。
―了―
その後彼を見た者は居ないとか何とか蛇足は止めときます☆
何より、どうして自分は此処に居るのか思い出せない――それが男を不安にさせていた。気が付いた時には、周囲の森を見下ろす小高い丘の上に寝転がっていたのだ。その前には……何をしていたろう? 確かある作家の家に取材に行って……。話を伺いながら出された珈琲で喉を湿らせて、それから……。それからの記憶が無い。
一服盛られたと考えるのが妥当だろうか。しかし何の為に。それに訪ねた作家の仕事場は都心部だった。こんな何処とも知れない森に連れて来るには何時間掛かった事だろう? その間誰にも見られず? 彼が目覚める心配は無かったのか?
そもそも、何故?
只取材に行っただけの彼に危害を加える必要がどこにある? そもそも、彼を此処に放り出す事にどんな理由がある?
兎に角、此処が何処なのか、どうすれば帰れるのか、そういった事を確かめる為にも、見える限りの唯一の人工物、あの塔へ向かってみるしか無かった。あの塔が何なのかも判らないが。
頭が疑問符だらけでも脚は動くらしいという事を確認しながら、男はいつしか、目指す塔の下に着いていた。
辿り着いたはいいが、此処でまたもや男は茫然とする事となった。
大き過ぎる。
双塔を備えた館は天高く聳え、そしてそれは各部分部分が大きいが為らしかった。丸で巨人の城かとばかりに、重厚な扉は大きく、180センチの長身を誇った彼でもドアノブに手を掛けるのがやっと。ぐるりを回ってみても――回るのも大変だったが――窓も高く、到底届かない。
どうなっているんだ、と男は恐慌を来たした。何なんだ、この馬鹿でかい館は!
此処に果たして、今の彼の助けとなってくれる様な人間が住んでいるのだろうか。
確かめなければと思う頭とは反対に、脚は後ずさりを始める。こんな所にまともな人間が住んでいよう筈も無いじゃないか!
と、塔よりも遥か上空から、聞き覚えのある様な声が降ってきた。
「ううん、ちょっとバランスが悪かったかしら。森迄はよかったと思ったんだけど……」
何だ? 何を言っている?――男は上空を見上げて声の発生源を探した。塔よりも上、それは天空ではないか。何故そんな所から声が? 然もこの声は……。
「雪坂先生!? その声は雪坂先生じゃありませんか!」自分が訪ねた作家の名を、彼は呼ばわった。「何処にいらっしゃるんです? 此処は何処なんですか!?」
「見て解らない?」面白がっている、そしてやや自慢げな女の声。「ね、森は完璧だったでしょう?」
「完璧って何が……」問う内、男の頭にとんでもない想像が去来する。「真逆此処は……先生が造った……箱庭? ではこの建物は……!」
彼の慌て様が可笑しいのか、笑い声が降ってくる。
「どうやって!? それ以前に何故、こんな事を……!?」その反応に苛立たしげに男は声を張り上げた。
「だって、私の造り上げた世界に半端な人形では物足りなくなったのよ。どれだけ人間に似せてはあっても所詮は人形じゃない。私はリアルを追及しているのよ? だったら……此処に飾られるべきもリアルでないと……。そして最高のリアルはやはり……」
男は作家の考えに、ぞっと背筋を寒くした。
「でも今回は失敗ね。ちょっと大きめの家での『人形』の冒険の情景を描きたかったのに、ドアを開ける事も出来ないんだもの。リアルじゃないわ」
リアルを追求する新進女流作家――それが記事のタイトルとなる予定だった。無論、取材が無事に遂行出来ていればの話だが。それに男はタイトルを変えようとも考えていた。
リアルを追求する執念は人をも小さな人形とする――彼女にとっては皮肉ではなく、寧ろ賞賛の言葉と映るかも知れない。
雪坂はその方面では名の知れたドールハウス作家だった。
―了―
その後彼を見た者は居ないとか何とか蛇足は止めときます☆
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Re:おぉ読めましたよ
読まれたか(笑)
どうやって入れたんでしょうねぇ?(爆)
不条理系?
どうやって入れたんでしょうねぇ?(爆)
不条理系?
Re:執念…
ホラー風味と言うか奇妙な話風味ですね。
最高のリアルを追い求めてしまった人。
やはり何事も程々に!(笑)
最高のリアルを追い求めてしまった人。
やはり何事も程々に!(笑)
無題
クレイジーのなにものでもないな
その女流作家
頼むから元に戻す薬も与えてやってくれぇ
リアリティーを追求するあまり、そんな薬まで開発したのだろうか?そっちのが金になりそう
えっ?金のためじゃない?
![](/emoji/D/229.gif)
![](/emoji/D/227.gif)
頼むから元に戻す薬も与えてやってくれぇ
![](/emoji/D/734.gif)
リアリティーを追求するあまり、そんな薬まで開発したのだろうか?そっちのが金になりそう
![](/emoji/D/237.gif)
![](/emoji/D/734.gif)
Re:無題
小さくなる薬……買う?(笑)
今なら戻る薬とセットで大特価! とか言ったら買う人も居るかも
但し、効果の程、そして安全性は保証致しません(爆)
今なら戻る薬とセットで大特価! とか言ったら買う人も居るかも
![](/emoji/D/232.gif)
但し、効果の程、そして安全性は保証致しません(爆)
Re:この作家は…
取り敢えずドールハウスは造りませんよ?(^^)
凝りだしたらどこ迄凝るか解らんけど(笑)
凝りだしたらどこ迄凝るか解らんけど(笑)
Re:う~![](/emoji/D/197.gif)
![](/emoji/D/197.gif)
私も要らん(笑)
や、もう昨日になったけどブログペットのテーマが「ミニといえば?」みたいな奴だったんで、こんな話になったのだ(笑)
や、もう昨日になったけどブログペットのテーマが「ミニといえば?」みたいな奴だったんで、こんな話になったのだ(笑)
無題
こんばんわ(^o^)丿
大人目線で見るとこわーい話だけど、
別の書き方したら童話にもなりますね~(^^)
子供のころ、シルバニアファミリーっていう、動物のお人形とかお家とか集めてたときのこと思い出しちゃいました♪あんなに大切にしていたのに、どこ行った・・・・?
大人目線で見るとこわーい話だけど、
別の書き方したら童話にもなりますね~(^^)
子供のころ、シルバニアファミリーっていう、動物のお人形とかお家とか集めてたときのこと思い出しちゃいました♪あんなに大切にしていたのに、どこ行った・・・・?
Re:無題
ありますよねー、子供の頃あれだけ大事にしてたのに、いつの間にか行方不明って事(>_<)
捨てた記憶は無いからどこかにある筈、と思ってもそのどこかが思い出せない(苦笑)
捨てた記憶は無いからどこかにある筈、と思ってもそのどこかが思い出せない(苦笑)
こんにちは♪
ドールハウスも箱庭も大好きでぇ~す♪
小さくなれる薬と元に戻る薬がセットになってたら即!買います!
もし小人さんがいたら良いのになぁ!なんてよく想像したものです。
自分の作った箱庭の中で小人さんが動き回ってくれたら?!私も小さくなって、一緒に遊べたら?!なんてね・・・・・・・
高橋克彦さんのドールハウスを題材にしたものは、不気味だったけど・・・・こちらは怖いけど不気味ではないから良いなぁ♪
小さくなれる薬と元に戻る薬がセットになってたら即!買います!
もし小人さんがいたら良いのになぁ!なんてよく想像したものです。
自分の作った箱庭の中で小人さんが動き回ってくれたら?!私も小さくなって、一緒に遊べたら?!なんてね・・・・・・・
高橋克彦さんのドールハウスを題材にしたものは、不気味だったけど・・・・こちらは怖いけど不気味ではないから良いなぁ♪
Re:こんにちは♪
自分の状況が解っていて、戻れるのなら楽しいかもね^^;
やっぱりよく出来たミニチュアって、使ってくれる者が欲しくなる!?
やっぱりよく出来たミニチュアって、使ってくれる者が欲しくなる!?
Re:こんちはっ
おちゃちゃん、充分小さい様な気もしますが(笑)
デグーさんはお喋りなの?^^
それとも回し車?
ハムの回し車は「ゴーーーッ!」っていう(笑)
デグーさんはお喋りなの?^^
それとも回し車?
ハムの回し車は「ゴーーーッ!」っていう(笑)
Re:無題
人間の思い込みというのは時に恐ろしい結果をもたらします。
何事も程々が一番?
何事も程々が一番?
Re:こんばんは
超リアルな人形を造るとか(笑)
こないだありすの話に出て来た人形作家と一緒に極めてみれば?(爆)
こないだありすの話に出て来た人形作家と一緒に極めてみれば?(爆)