〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
芝が色を取り戻し、雪解け水を孕んだ小川の音が林に大きく響き出した頃、私はあの場所へと再び、脚を運んだ。
とは言っても街外れの神社の後ろに広がる林の中。然して馴染みがある訳でも、目立つ目印がある訳でもない。大方この辺り――その程度だ。
それでも頭上に枝を張る木には見覚えがある様な気がするし、雪から突き出していた岩は、やはりその場所で、鎮座していた。
「やっぱり、無いか……」ぽつり、苦笑を交えて呟いた。
冬場にこんな林に入る物好きがそうそう居るとも思えないが、神社や林の管理をする人間は居るだろう。子供の落し物と思って拾ったか、ゴミと思って始末したか……。あるいは林に住まう狸か何かが引いて行ったのかも知れない――食べ物ではないから、その線は薄いとは思うが。
後は……いや、と私は頭を振った。そんな事は考えたくない。
新緑の芝を踏みながら、踵を返した。
一月程前に起こった出来事を思い返しながら。
とは言っても街外れの神社の後ろに広がる林の中。然して馴染みがある訳でも、目立つ目印がある訳でもない。大方この辺り――その程度だ。
それでも頭上に枝を張る木には見覚えがある様な気がするし、雪から突き出していた岩は、やはりその場所で、鎮座していた。
「やっぱり、無いか……」ぽつり、苦笑を交えて呟いた。
冬場にこんな林に入る物好きがそうそう居るとも思えないが、神社や林の管理をする人間は居るだろう。子供の落し物と思って拾ったか、ゴミと思って始末したか……。あるいは林に住まう狸か何かが引いて行ったのかも知れない――食べ物ではないから、その線は薄いとは思うが。
後は……いや、と私は頭を振った。そんな事は考えたくない。
新緑の芝を踏みながら、踵を返した。
一月程前に起こった出来事を思い返しながら。
元々、特に好きでもない日本人形を買ったのは、ほんの気紛れ――その筈だった。どこかの地方の展示即売会で、土産物として売られていた、おかっぱ頭に赤い着物の小さな人形。これ位なら物でごった返している我が家でも、箪笥の上なりに飾れるだろう、そんな思いもあった。
そして家に帰って実際に飾ってみて、私は眉根を寄せた。
お店ではもっと明るい表情で、可愛く見えたんだけど……照明の所為だったのだろうか?
まあいい。彩にはなる。私は一つ頷くと、もうその人形の事は忘れて、日常の雑事に追われる生活へと戻って行った。
そして一週間程が経っただろうか。天気のいい休日の部屋の掃除。箪笥の上にもはたきを掛けていて、私は気付いた。
「ちょっと……そんなベタな……」私は口元を引き攣らせながらも呟いた。「髪が伸びてる……なんて」
肩に届かない程度のおかっぱだった髪の先が、今では肩に届こうとしている。見間違いでも記憶違いでもない。現に綺麗に切り揃えられていた髪は長さがばらばらになっている。
こういうのは確か接着剤として使われた膠を栄養分に伸びるのよね――私は理性を働かせつつ、人形を手に取った。但し、それには人形の髪が人毛で毛根が残っている場合、という条件が付くんだけど……触ってみた手触りは、人毛のそれとは違った。ビニール製なら熱で伸びる事もあると思い直したが、その人形に使われているのは絹糸だった。伸びる訳がない。
気持ち悪くなって、私は慌ててそれを箪笥の上に放り投げる様に戻した。その辺に放り出すのはどこか怖い気がした。
どうしていいか解らず、なるべく見ないようにして一週間。
投げる様に置いた所為で横に転がった儘の人形を、その儘にして置く訳にもいかず、そっと起こして――私はまた顔を引き攣らせた。髪は背中迄、達していた。
「何で!?」私は人形を適当な袋に放り込みながら、呻く。「土産物として売られてた、只の人形じゃない! 何でこんな事……!」
よしんばこの人形に何者かの霊が憑いていたのだとしても、私にはどうする事も出来ない。
ならば――私は人形を伴い、街外れの神社を目指した。この辺りで寺社と言って先ず思い浮かぶのがそこだったのだ。
雪道に苦労しつつ辿り着いた神社は、背後の林に囲まれる様にして鬱蒼と建っていた。本当に、こんな所で大丈夫だったのだろうか。それが第一印象だった。
そしてその印象は間違っていなかった様で、呼び出しに応じてくれた神主さんは、話を聞くなり蒼褪めて、こちらに視線を合わせようともしない。儀礼的な地鎮祭位しか執り行った事も無いのだろう。
それでも心許なげに教えてくれた事には、裏の林にある御神木にそれを供える事が出来たなら、御神木がそれに憑く物を引き取ってくれるでしょう、と。
私はすっかり腰が引けている彼に頭を垂れると、林へと歩き出した。付いて来て貰いたいと思わないではなかったが、この分では私一人で行った方が早い。一刻でも早く、私はこれを御神木とやらに託してしまいたかった。
さく……。積もった雪を踏む音だけが響く林の中、私は神主さんから聞いた御神木を探した。
さく、さく……。
びりっ!
「!?」不意に聞こえた異音に、私はその音のした方を見た。それは、例の人形を放り込んだ布袋からだった。
一部が、僅かに裂けている。
下生えの枝にでも引っ掛けただろうか?――そう思っている間にも、その裂け目は広がり……にゅっと現れたのは、小さな、手。
訳の解らない悲鳴を上げて、私は雪の中に袋を放り出した。
ずるり、身を引き摺る様にして更に手が裂け目から――それ以上を見ていられず、私は今来た道へと駆け出していた。
* * *
それからもう一箇月。
あれから私の身には何も起きていない。この神社界隈でも、特におかしな話は聞かない。
けれど、あの人形は見付からなかった。
結局御神木の元へも辿り着けず、放り出した人形。自ら命を持った様な人形。
あれは、今何処に居るのだろう?
神主さんに尋ねたものの、彼も知らないと頭を振って、蒼い顔をした。
仕方なく帰途に着き、マンションのエレベーターへと足を踏み入れた時、私はその儘、固まってしまった。
大分古びてはいた。けれど間違いない。
エレベーターの床には、あの時の袋の残骸が、何者かが怒りに任せて切り裂いた様に、散乱していた。
以来、部屋に小さな何者かの気配を感じ、碌に眠る事も出来ないでいる。
びりっ!――時折、何かを切り裂く音と、床を擦る絹糸の音が聞こえる時がある。
あの子の髪はどれ程伸びたのだろう?
―了―
お久し振りの(?)人形ネタです(^^)
や、髪が伸びる人形って……我ながらベタだな~☆
そして家に帰って実際に飾ってみて、私は眉根を寄せた。
お店ではもっと明るい表情で、可愛く見えたんだけど……照明の所為だったのだろうか?
まあいい。彩にはなる。私は一つ頷くと、もうその人形の事は忘れて、日常の雑事に追われる生活へと戻って行った。
そして一週間程が経っただろうか。天気のいい休日の部屋の掃除。箪笥の上にもはたきを掛けていて、私は気付いた。
「ちょっと……そんなベタな……」私は口元を引き攣らせながらも呟いた。「髪が伸びてる……なんて」
肩に届かない程度のおかっぱだった髪の先が、今では肩に届こうとしている。見間違いでも記憶違いでもない。現に綺麗に切り揃えられていた髪は長さがばらばらになっている。
こういうのは確か接着剤として使われた膠を栄養分に伸びるのよね――私は理性を働かせつつ、人形を手に取った。但し、それには人形の髪が人毛で毛根が残っている場合、という条件が付くんだけど……触ってみた手触りは、人毛のそれとは違った。ビニール製なら熱で伸びる事もあると思い直したが、その人形に使われているのは絹糸だった。伸びる訳がない。
気持ち悪くなって、私は慌ててそれを箪笥の上に放り投げる様に戻した。その辺に放り出すのはどこか怖い気がした。
どうしていいか解らず、なるべく見ないようにして一週間。
投げる様に置いた所為で横に転がった儘の人形を、その儘にして置く訳にもいかず、そっと起こして――私はまた顔を引き攣らせた。髪は背中迄、達していた。
「何で!?」私は人形を適当な袋に放り込みながら、呻く。「土産物として売られてた、只の人形じゃない! 何でこんな事……!」
よしんばこの人形に何者かの霊が憑いていたのだとしても、私にはどうする事も出来ない。
ならば――私は人形を伴い、街外れの神社を目指した。この辺りで寺社と言って先ず思い浮かぶのがそこだったのだ。
雪道に苦労しつつ辿り着いた神社は、背後の林に囲まれる様にして鬱蒼と建っていた。本当に、こんな所で大丈夫だったのだろうか。それが第一印象だった。
そしてその印象は間違っていなかった様で、呼び出しに応じてくれた神主さんは、話を聞くなり蒼褪めて、こちらに視線を合わせようともしない。儀礼的な地鎮祭位しか執り行った事も無いのだろう。
それでも心許なげに教えてくれた事には、裏の林にある御神木にそれを供える事が出来たなら、御神木がそれに憑く物を引き取ってくれるでしょう、と。
私はすっかり腰が引けている彼に頭を垂れると、林へと歩き出した。付いて来て貰いたいと思わないではなかったが、この分では私一人で行った方が早い。一刻でも早く、私はこれを御神木とやらに託してしまいたかった。
さく……。積もった雪を踏む音だけが響く林の中、私は神主さんから聞いた御神木を探した。
さく、さく……。
びりっ!
「!?」不意に聞こえた異音に、私はその音のした方を見た。それは、例の人形を放り込んだ布袋からだった。
一部が、僅かに裂けている。
下生えの枝にでも引っ掛けただろうか?――そう思っている間にも、その裂け目は広がり……にゅっと現れたのは、小さな、手。
訳の解らない悲鳴を上げて、私は雪の中に袋を放り出した。
ずるり、身を引き摺る様にして更に手が裂け目から――それ以上を見ていられず、私は今来た道へと駆け出していた。
* * *
それからもう一箇月。
あれから私の身には何も起きていない。この神社界隈でも、特におかしな話は聞かない。
けれど、あの人形は見付からなかった。
結局御神木の元へも辿り着けず、放り出した人形。自ら命を持った様な人形。
あれは、今何処に居るのだろう?
神主さんに尋ねたものの、彼も知らないと頭を振って、蒼い顔をした。
仕方なく帰途に着き、マンションのエレベーターへと足を踏み入れた時、私はその儘、固まってしまった。
大分古びてはいた。けれど間違いない。
エレベーターの床には、あの時の袋の残骸が、何者かが怒りに任せて切り裂いた様に、散乱していた。
以来、部屋に小さな何者かの気配を感じ、碌に眠る事も出来ないでいる。
びりっ!――時折、何かを切り裂く音と、床を擦る絹糸の音が聞こえる時がある。
あの子の髪はどれ程伸びたのだろう?
―了―
お久し振りの(?)人形ネタです(^^)
や、髪が伸びる人形って……我ながらベタだな~☆
PR
この記事にコメントする
Re:無題
雇われ神主さんかも(笑)
取り敢えずあの格好して玉串振っとけ~みたいな(罰当たり)
取り敢えずあの格好して玉串振っとけ~みたいな(罰当たり)
こんばんは♪
ひゃぁ~怖いよぉ~~!
人形は絶対に買わないようにしよう!
今時の神主さんはねぇ~チト頼りないよネ!
確かぼくイケメンなんて言ってる方、神社の跡取り息子さんだそうで4代目の神主さんになる予定
だとか?
人形は絶対に買わないようにしよう!
今時の神主さんはねぇ~チト頼りないよネ!
確かぼくイケメンなんて言ってる方、神社の跡取り息子さんだそうで4代目の神主さんになる予定
だとか?
Re:こんばんは♪
た、確かに頼りない(^^;)
あの方の所にこんな人形持ち込んでも……どうなる事やら☆
あの方の所にこんな人形持ち込んでも……どうなる事やら☆
Re:(≧△≦)
(^^;)
むむむ。
私のところには無いですが、実家には日本人形が何体かおりますです。
いや、流石に髪が伸びたりはしてませんけれども(^_^;
むしろ、私の家にいるフクロウ・ミミズクのぬいぐるみたちの方が(私の念が入って)うっかり動いたりしそうで怖いです(笑)。
うちは、親戚を辿ると割と近いところに坊さんも神主さんもいるらしいです……だからうちの母ちょびっと霊感あるのか・・・?!
いや、流石に髪が伸びたりはしてませんけれども(^_^;
むしろ、私の家にいるフクロウ・ミミズクのぬいぐるみたちの方が(私の念が入って)うっかり動いたりしそうで怖いです(笑)。
うちは、親戚を辿ると割と近いところに坊さんも神主さんもいるらしいです……だからうちの母ちょびっと霊感あるのか・・・?!
Re:むむむ。
み~ねこさんちのフクロウ・ミミズクさん達、可愛いですよね~(^^)
近縁にお坊さんや神主さんですか! そしてお母様は霊感持ち?
何か面白い(失礼!)体験はないですか~?o(^-^)o
近縁にお坊さんや神主さんですか! そしてお母様は霊感持ち?
何か面白い(失礼!)体験はないですか~?o(^-^)o
Re:こんにちは
検索したよ(笑)
しかし、大掛かりなどっきりって……(--;)
まぁ、あの番組自体、見ないけど。
しかし、大掛かりなどっきりって……(--;)
まぁ、あの番組自体、見ないけど。
Re:こんばんは☆
髪の毛のある人形不可って(笑)
えーと、小坊主さんとか?(んな訳ない)
博多人形とか焼き物なら大丈夫ですよね。徐々に表情が変わって見えたとしても……気の所為ですよ、きっと( ̄ー ̄)
えーと、小坊主さんとか?(んな訳ない)
博多人形とか焼き物なら大丈夫ですよね。徐々に表情が変わって見えたとしても……気の所為ですよ、きっと( ̄ー ̄)
Re:無題
朝でも怖かったですか(^^;)
デグーさんに限らず小動物、いきなり身体に似合わない音を立てて、驚かしてくれますよね~。
デグーさんに限らず小動物、いきなり身体に似合わない音を立てて、驚かしてくれますよね~。