〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜霧が出ていたけれど、彼はカーブでも殆ど減速しなかったよ――未だ激しく打つ鼓動を鎮めながら、僕は駆け付けて来た友人達に語った――停めろと何度も言ったけれど、ブレーキを踏まなかった、と。
僕達の前では崖下に転落した車から上がる炎と煙が、白くたゆたう霧を掻き乱し、妖しげな色合いに染め上げている。僕達はそれを茫然と見詰めるしかなかった。
幽霊が出ると噂されるこの峠に、こんな真夜中に出掛けようと言ったのは誰だったか……。
高校の同級生で、今ではそれぞれに進学したり、職に就いたりといった面々――その懐かしさに、すっかり高校生の頃のお気楽な気分に浸ってしまったのだろうか、明日が休みという事もあり、僕達は特に誰一人反対する事もなく、二台の車に分乗して出発した。
散々居酒屋で騒いだ後ではあったが、勿論、ハンドルを握った二人は飲酒していない。元々、下戸だと言う二人に近くの駅迄送って貰う事で話もついていた為でもある。
そうして走る事、小一時間。
走る程に減って行く商店や民家、疎らになっていく街灯……夜の景色の中に尚黒々と迫って来る、山。道路は整備されているものの、両脇から覆い被さる木々の影は濃く、更に湧き出した霧が視界を遮り始めた。
幽霊が出るにはお誂え向きじゃないか――強がりとも取れる言葉を吐いたのは僕が乗った車のハンドルを握る、向井だった。
この頃にはすっかり酔いが醒めつつあった僕は、曖昧に笑って頷いた。来るんじゃなかった――やっと後悔するだけの理性が戻って来た。勿論、時既に遅し、だが。
この車には後一人、この辺に詳しいと言う奴が乗っていた。奴は道案内役として助手席に座っていた。
と、不意に後続車からクラクションとハイビームが浴びせられた。ライトは霧に拡散してはいたけれど、何度もローと切り替えられる灯に、僕はそれが何かの合図なのだと気付いた。
「おい、向井、後ろの連中が何か言いたいみたいだけど」後部座席から身を乗り出して、僕は言った。「ちょっと停めてみようぜ」
だが、向井はスピードを緩めなかった。助手席の奴も、こちらを振り返りもしない。
後ろからは未だ、クラクションとハイビームが続いている。
「おい、向井ってば!」僕は少し、声を張り上げた。
この霧に視界を塞がれた夜の山道で、殆どアクセルを緩めようともしない向井の運転にも、些か不安感を抱きつつあった。奴は呑んでもいない筈なのに……。
と、ぐん、とGが掛かり、僕は後部座席に押し付けられた。
詰まり、車は更に加速したのだ。
「な、何やってんだよ、向井!」どうにか身を起こし、僕は怒鳴った。「停めろって言ってんのに、何でアクセル踏むんだよ!?」
答えはない。前の二人はじっと前方だけを注視して、こちらを振り向こうともしない。
車窓から辺りを見回せば、白い闇の中から時折近付いて来る木々の影が、丸で件の幽霊の様だった。いつしか舗装された道から外れたのか、ごつごつとした感触がタイヤを通して伝わって来る。車体が揺れた。時折向井が切る急ハンドルに従って、車体は更に左右に振られ、その都度、僕は後部座席を転がった。
「おい!」思わず出した声は、情けなくも悲鳴の様だった。
どうにかシートの端を捉え、運転席に迄身を乗り出した僕は、一瞬切れた霧の隙間から、見た。
車の鼻先に迄迫った、ガードレールとその先にぽっかりと広がる黒い穴――いや、崖下の森を。
どうやって逃げ延びたのか、自分でも覚えていない。兎に角必死に後部のドアに取り付き、ロックを外したんだろう。転げ降りた所は運良く、柔らかい草叢だった。
それでも、車がガードレールを突き破る音は転落の衝撃に掻き消された。猛スピードの車から飛び降りたのだから、無理もないだろう。
痛む身体でどうにか顔を上げた時には、崖下からはもうもうと煙が湧き上がっていた。
そして僕は、程なくやって来た後続車の仲間達に救助されたのだった。
向井の葬儀の日、集まった僕達の話題は自然と、あの夜のドライブの事になった。
「向井の奴……あんな山道でスピード出し過ぎてると思ったから、後ろから合図したのに、益々アクセル踏みやがって……」そう慨嘆したのは後続車のハンドルを握っていた奴だった。
「あ、あれ、やっぱりそういう意味だったんだ」と、僕。
「ああ。気付かなかったのか?」
「真逆。僕は気付いてたし、向井にも何度も言ったよ。停めろって。なのに……」
「向井……真逆――真逆とは思うが――自殺って事は……?」
「止せよ! あの車には僕も居たんだぜ? 巻き添えにする気だったって言うのかよ? もう一人の奴だって居たし……」
「もう一人って……?」一様に目を丸くして、友人達は首を傾げた。
は……?――茫然とするのは僕の方だ。
「もう一人……何だっけ、名前思い出せないけど、居ただろう? 道案内を買って出た、奴だよ!」皆の顔を見回して、僕は言った。「そう言えば、奴の葬儀は? 誰か、家族から連絡受けてるか?」
誰もが首を横に振った。それどころか、誰も、奴を知らない、と。
「……奴は……向井を何処に、案内したんだ……?」
薄々気付いてはいても、誰一人、それを口にする事はなく、只沈鬱な表情で頭を振るだけだった。
―了―
カーブは充分な減速を!
僕達の前では崖下に転落した車から上がる炎と煙が、白くたゆたう霧を掻き乱し、妖しげな色合いに染め上げている。僕達はそれを茫然と見詰めるしかなかった。
幽霊が出ると噂されるこの峠に、こんな真夜中に出掛けようと言ったのは誰だったか……。
高校の同級生で、今ではそれぞれに進学したり、職に就いたりといった面々――その懐かしさに、すっかり高校生の頃のお気楽な気分に浸ってしまったのだろうか、明日が休みという事もあり、僕達は特に誰一人反対する事もなく、二台の車に分乗して出発した。
散々居酒屋で騒いだ後ではあったが、勿論、ハンドルを握った二人は飲酒していない。元々、下戸だと言う二人に近くの駅迄送って貰う事で話もついていた為でもある。
そうして走る事、小一時間。
走る程に減って行く商店や民家、疎らになっていく街灯……夜の景色の中に尚黒々と迫って来る、山。道路は整備されているものの、両脇から覆い被さる木々の影は濃く、更に湧き出した霧が視界を遮り始めた。
幽霊が出るにはお誂え向きじゃないか――強がりとも取れる言葉を吐いたのは僕が乗った車のハンドルを握る、向井だった。
この頃にはすっかり酔いが醒めつつあった僕は、曖昧に笑って頷いた。来るんじゃなかった――やっと後悔するだけの理性が戻って来た。勿論、時既に遅し、だが。
この車には後一人、この辺に詳しいと言う奴が乗っていた。奴は道案内役として助手席に座っていた。
と、不意に後続車からクラクションとハイビームが浴びせられた。ライトは霧に拡散してはいたけれど、何度もローと切り替えられる灯に、僕はそれが何かの合図なのだと気付いた。
「おい、向井、後ろの連中が何か言いたいみたいだけど」後部座席から身を乗り出して、僕は言った。「ちょっと停めてみようぜ」
だが、向井はスピードを緩めなかった。助手席の奴も、こちらを振り返りもしない。
後ろからは未だ、クラクションとハイビームが続いている。
「おい、向井ってば!」僕は少し、声を張り上げた。
この霧に視界を塞がれた夜の山道で、殆どアクセルを緩めようともしない向井の運転にも、些か不安感を抱きつつあった。奴は呑んでもいない筈なのに……。
と、ぐん、とGが掛かり、僕は後部座席に押し付けられた。
詰まり、車は更に加速したのだ。
「な、何やってんだよ、向井!」どうにか身を起こし、僕は怒鳴った。「停めろって言ってんのに、何でアクセル踏むんだよ!?」
答えはない。前の二人はじっと前方だけを注視して、こちらを振り向こうともしない。
車窓から辺りを見回せば、白い闇の中から時折近付いて来る木々の影が、丸で件の幽霊の様だった。いつしか舗装された道から外れたのか、ごつごつとした感触がタイヤを通して伝わって来る。車体が揺れた。時折向井が切る急ハンドルに従って、車体は更に左右に振られ、その都度、僕は後部座席を転がった。
「おい!」思わず出した声は、情けなくも悲鳴の様だった。
どうにかシートの端を捉え、運転席に迄身を乗り出した僕は、一瞬切れた霧の隙間から、見た。
車の鼻先に迄迫った、ガードレールとその先にぽっかりと広がる黒い穴――いや、崖下の森を。
どうやって逃げ延びたのか、自分でも覚えていない。兎に角必死に後部のドアに取り付き、ロックを外したんだろう。転げ降りた所は運良く、柔らかい草叢だった。
それでも、車がガードレールを突き破る音は転落の衝撃に掻き消された。猛スピードの車から飛び降りたのだから、無理もないだろう。
痛む身体でどうにか顔を上げた時には、崖下からはもうもうと煙が湧き上がっていた。
そして僕は、程なくやって来た後続車の仲間達に救助されたのだった。
向井の葬儀の日、集まった僕達の話題は自然と、あの夜のドライブの事になった。
「向井の奴……あんな山道でスピード出し過ぎてると思ったから、後ろから合図したのに、益々アクセル踏みやがって……」そう慨嘆したのは後続車のハンドルを握っていた奴だった。
「あ、あれ、やっぱりそういう意味だったんだ」と、僕。
「ああ。気付かなかったのか?」
「真逆。僕は気付いてたし、向井にも何度も言ったよ。停めろって。なのに……」
「向井……真逆――真逆とは思うが――自殺って事は……?」
「止せよ! あの車には僕も居たんだぜ? 巻き添えにする気だったって言うのかよ? もう一人の奴だって居たし……」
「もう一人って……?」一様に目を丸くして、友人達は首を傾げた。
は……?――茫然とするのは僕の方だ。
「もう一人……何だっけ、名前思い出せないけど、居ただろう? 道案内を買って出た、奴だよ!」皆の顔を見回して、僕は言った。「そう言えば、奴の葬儀は? 誰か、家族から連絡受けてるか?」
誰もが首を横に振った。それどころか、誰も、奴を知らない、と。
「……奴は……向井を何処に、案内したんだ……?」
薄々気付いてはいても、誰一人、それを口にする事はなく、只沈鬱な表情で頭を振るだけだった。
―了―
カーブは充分な減速を!
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この記事にコメントする
今日は私はベットへと誘導されます><v
がんばって、ブログを更新したのだぁ。。。。
ほめてくれぇぇぇぇぇ~~~~~(T_T) ウルウル
モ、モウダメ…(ノ ̄Д ̄)ノ~ ミ☆(o_ _)ozzzZZZZZ
ほめてくれぇぇぇぇぇ~~~~~(T_T) ウルウル
モ、モウダメ…(ノ ̄Д ̄)ノ~ ミ☆(o_ _)ozzzZZZZZ
Re:今日は私はベットへと誘導されます><v
お疲れ様(^^;)
Re:カーブって…なん
意味解らんと、投稿しとるんかい!
や、そうだとは思ってたけど!
や、そうだとは思ってたけど!
Re:無題
助手席、もっと積極的に動いた方がいいっすかね。
ゆらりと振り向いて「これでいいんですよ……」って、笑うとか(^^;)
ゆらりと振り向いて「これでいいんですよ……」って、笑うとか(^^;)
Re:こんばんは
や、運転手は飲んでないんですけどね(^^;)
場の雰囲気に酔うって事はあるかも知れませんが★
場の雰囲気に酔うって事はあるかも知れませんが★
改めて読んだら怖かった(T_T) ウルウル
私も車運転するんだけど、たまに、夜、会社から帰るとき(車で通勤してるのだぁ)
バックミラーに誰かが写ったら。。。やだぁー(T_T) ウルウルって、なって、後部座席を念入りに調べたりしますwwwwwwwww
いや、幽霊じゃなくて、本物の人間の方が怖いんだけどね><;;;;;www
夜の山道は怖いよ;;
高速で遠くから帰ってくるときに、田舎って高速でも街灯?付いてないのね( ̄□ ̄;)ガビィーン
しりませんでしたorz
真っ暗な中、ヘッドライトだけの世界。。。
怖くて;;
またもや、アニメソング、大音量で流しながら&歌いながら運転して帰りましたwwwwww
オタクでスマンです(T_T) ウルウル
バックミラーに誰かが写ったら。。。やだぁー(T_T) ウルウルって、なって、後部座席を念入りに調べたりしますwwwwwwwww
いや、幽霊じゃなくて、本物の人間の方が怖いんだけどね><;;;;;www
夜の山道は怖いよ;;
高速で遠くから帰ってくるときに、田舎って高速でも街灯?付いてないのね( ̄□ ̄;)ガビィーン
しりませんでしたorz
真っ暗な中、ヘッドライトだけの世界。。。
怖くて;;
またもや、アニメソング、大音量で流しながら&歌いながら運転して帰りましたwwwwww
オタクでスマンです(T_T) ウルウル
Re:改めて読んだら怖かった(T_T) ウルウル
暗くて、自分しか居ない筈の車内を映すミラー、そこに何者かの影があったら……生きてても死んでても、ヤダ( ̄▽ ̄;)
アニソンはノリのいいのは好きです♪
アニソンはノリのいいのは好きです♪