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転校して来たばかりの僕に、同級生達は優しく、それでいて何の遠慮もなく話し掛けてきてくれた。御陰でクラスに馴染むのも、この田舎町に馴染むのも、転校前に抱いていた不安とは反して早かった。
だから、同級生のトモ君達が何か楽しそうに談笑している時、僕は何の屈託もなく、話し掛けたんだ。混ぜてくれ、と。
「……ユウ君」その場に居た四、五人が一斉に沈黙し――僅かの間を置いて反応したのはトモ君だった。
「ご、ごめん、何か大事な話だった?」目を瞬かせながら、僕は尋ねた。大切な話の腰を折ってしまっただろうか。余りに普通に談笑していたから、そんな事とは思いもしなかったんだけど。
それに、今迄ごく自然に受け入れられてきたから、こんな反応が返ってくるとも、思っていなかったんだ。
「いや、それ程大事な話じゃあないんだ」と、トモ君。なら、何でそんなぎこちない笑みを浮かべているんだろう?
周りの友達との間にも、普段感じた事のない隙間を覚えた。
と、その中に一人混じっていた下級生、一年生のカズ君が屈託なく、声を上げた。
「神社のお祭りの話だよ」
あ、こらっ――そんな声が周囲の数人の口から漏れる。黙ってろ、と隣に居たケイ君がカズ君の口を塞いだ。
何だろう? 僕には言ってはいけない事だったのだろうか? 気まずい隙間が、ぐっと広がる。
しかし、聞いてしまった以上、矢張り尋ねずにはいられない。
「神社のお祭り? この時期に?」時節は初夏。夏祭りには未だ早いだろう。「僕も一緒に行っていい?」
ぎくしゃくした空気を払いたくて、明るくそう言ったのだが……。
トモ君は少し困った顔をして、皆を見回してから、僕に向き直った。
「ごめん、ユウ君。今回のお祭りは駄目なんだ。この町で――この土地で生まれた人間しか、参加出来ない。そういう決まりなんだって」
参加拒否。
これ迄丸で一緒に育ってきたかと錯覚する位に馴染んできた友達が、急に遠くに行ってしまった様だった。
この田舎町に生まれてからずっと暮らしてきたトモ君達と、転校生の僕。彼我の差があるのは当然なのかも知れない。今迄、トモ君達の接し方の御陰で、そんな寂しさには気付かずに来られたけど……。此処に来て、初めての拒否に遭うなんて。生まれがこの土地か否かなんて、今からじゃあもうどうしようもないじゃないか。
「そ、そうなんだ。昔からの決まり事じゃ仕方ないよね」些か無理して、僕は笑った。たった一度の拒否で、何のお祭りかさえ訊くのも憚られる気分になるなんて、我ながら情けないけど。
「ごめん! 夏祭りにはきっと誘うから」トモ君はそう言って、頭を下げた。
数日後、町の北側の神社の方角からお囃子が風に乗って流れて来たけれど、うちの家族は誰一人、そちらへ行く事はなかった。転勤に付き合わされる事が多い分、家族サービスに力を入れていた父も、遊びに行こうとは言わなかったから、もしかしたら父は父で、何か聞いていたのかも知れない。母はそういったものに余り興味を持たない人だった。
そんな事があったけれど、その後もトモ君達との付き合いは何ら変わりなく……ほんの少しの疑念が、僕の中に蟠りを残しただけだった。
只、約束した夏祭りには、結局行けなかった。元々転勤族だった父に、次の辞令が下ったんだ。
夏休みに入って直ぐ、僕は引っ越す事になった。
引越し当日、トモ君がお別れに来てくれた。
多分、もう此処に来る事はない――そう思ったら、今訊いて置かなければいけない気がして、僕は口を開いた。あの時の祭りは、何だったのかと。
暫しの逡巡の後、トモ君ももう僕が帰らない事を悟ったのだろう、教えてくれた。
「あの神社では、数年置きに住人の――この町に生まれた住人の――登録を更新している。此処が村だった頃、周囲の山賊や夜盗に悩まされた歴史があったらしくて……その所為だろうな。村の守り神として祀られたあそこの神様は、此処に生まれた以外の人間を認めない。もし余所で生まれた人間が祭の場に居たりしたら……」
居たりしたら――どうなるんだ?
尋ねる僕の視線に、トモ君は俯いた儘、ぽつりと答えた。
「町の入り口、幹線道路に出る手前の大きな樫の木に、ぶら下がる事になる――見せしめとして」
あの夜、過度の好奇心を発揮しなかった事を、僕は幸運に思いつつ、町を後にした。
件の樫の木の横を通り過ぎる一瞬、首元に何か長いものが掛かった様な感触を覚えたけれど。
―了―
ん~?
普通に打てるな。何だったんだ?
本当にあったら……あったらどうしよう?(^^;)
後は、ガス抜き。今みたいに休日とか昼休みという考え方はなかったからね。(朝・夜の2食の生活だったとか)
閉鎖的で新奇なものがあっても不思議じゃないかもね。
どこだったかな? 『黒猫祭』なんか、今でこそ猫好きな人も楽しめるけど、事の起こりは……(--メ)
うちの登場人物、幽霊に対する反応おかしいからなぁ(笑)