〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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近付いてはいけない所。
溜め池、雨で増水した川、神社の裏山……やまの屋敷。
夏休みを前にして浮かれる僕達に、大人達は事ある毎に、それを口にした。去年も聞いたから解ってるって言うのに。
やまの屋敷――山の中腹にあるから「山の屋敷」なんだとか、今はもう読み取れないけれど元々は山野という表札が掛かっていたから「山野屋敷」なんだとか、名前の由来は色々聞いている。
そしてそこで昔何があったのかも、大量の憶測も入り混じって、色々聞いている。
男が奥さんを殺して自分も自殺したのだとか、夫婦共に流れ者に惨殺されたのだとか、突然何の痕跡も残さず、居なくなったのだとか……。詳しく聞こうとしても、昔の事で、当時生きていたのはお祖父ちゃん達の年代だ。お祖父ちゃんはそんな事を子供が知らなくてもいい、と取り合ってくれない。だから、お父さんお母さんもはぐらかすばかりだ。
でも、隠すから余計に知りたくなるんだよね。
溜め池、雨で増水した川、神社の裏山……やまの屋敷。
夏休みを前にして浮かれる僕達に、大人達は事ある毎に、それを口にした。去年も聞いたから解ってるって言うのに。
やまの屋敷――山の中腹にあるから「山の屋敷」なんだとか、今はもう読み取れないけれど元々は山野という表札が掛かっていたから「山野屋敷」なんだとか、名前の由来は色々聞いている。
そしてそこで昔何があったのかも、大量の憶測も入り混じって、色々聞いている。
男が奥さんを殺して自分も自殺したのだとか、夫婦共に流れ者に惨殺されたのだとか、突然何の痕跡も残さず、居なくなったのだとか……。詳しく聞こうとしても、昔の事で、当時生きていたのはお祖父ちゃん達の年代だ。お祖父ちゃんはそんな事を子供が知らなくてもいい、と取り合ってくれない。だから、お父さんお母さんもはぐらかすばかりだ。
でも、隠すから余計に知りたくなるんだよね。
だから隣の満君は行っちゃったんだ。
「大丈夫。今は誰も居ない只の空き家なんだから」そう言って誘いに来た満君と、止めようとした僕は喧嘩してしまった。奇しくも、お互いの最後の言葉は同じだった――「分からず屋!」
どんな事件であれ、起こったのは昔の事。今はもう主も殺人鬼も居ない。だから安全だって言う満君。
それでも屋敷はもう古くて傷んでいるし、何者かが住み着いていないとも限らないじゃないかと、僕。
「何者かって?」満君はどこか小馬鹿にした様に笑った。
「それこそ流れ者とか……」
「幽霊とか?」明らかに馬鹿にした笑い。「そんなもん信じて、怖がってるのか? 哲哉」
「そんな事ないよ!」
「いいっていいって、じゃ、怖い土産話を持って帰ってやるから。尤も、あれば、だけどな」
そして同じ言葉をぶつけ合い、終始嫌な笑みを顔に貼り付けた満君と僕は別れた。
それが夕方の事だった。今はもう、とっぷりと陽が暮れ……隣のおばさんが蒼い顔で僕を訪ねて来た。うちの満が遊びに来てない? と、その可能性に縋る様に。
子供は素直だ、とよく大人は言う。
けれど小学三年生ともなれば、知恵もあるし、子供同士の付き合いってものもある。やまの屋敷に行ったなんて言ったら、帰って来るなり満君はどやされるだろう。それが解っていて大人に言い付けたりしたら、僕は……。だから満君が出掛けた事はそれ迄黙っていた。
けれど、帰って来ないなんて……。
僕は蒼くなっておばさんに訳を話した。
何でもっと早く言わないんだと、お祖父さんは怒ったけれど、今はそれ所じゃないと車を出しに行った。満君のおじさんは帰りが遅いんだ。
僕とお母さんを家に残し、お祖父さんとお父さん、そして隣のおばさんはやまの屋敷へと向かった。
お母さんのお小言を食らいながらも、僕は時計と窓の外を見比べていた。もう無事に帰って来るだろうか。きっと皆に怒られて、泣きながら帰って来るんだろうな、満君。早く……早く帰っておいでよ。
そんな思いに気付いてくれたんだろう、お母さんはもう何も言わず、只、僕の肩を抱いて揺すってくれた。
まんじりとも出来ない儘、夜が更けていく。
なのに車は未だ帰らない。満君は未だ見付からないんだろうか? もしかして行き違いになったんじゃあ? でも、それなら今度はおばさんが居ないと満君がうちに訊きに来そうなものだ。それに屋敷迄は一本道だ。
と、不安で膨らんだ風船に針を刺す様に電話が鳴り、僕達は文字通り飛び上がった。
お母さんが急いで飛び付くと、それはお父さんからだった――満君は見付かった。けれど、四人共、暫く帰れない、と。
暫くの入院生活の後に満君が語った事によると、あの日、彼はやまの屋敷で、古いガラス瓶の並ぶ部屋を見付けた。何かの標本みたいだけれど、中の物はもうどろどろで、それが何かは解らなかったと。そして興味本位でその一本の蓋をずらしてみた時、その余りの腐臭の凄さに彼は慌てて瓶を放り出して廊下へと駆け出し――腐った床板を踏み抜いて動けなくなってしまっていたのだ、と。
そして夜になり、途方に暮れていると、僕のお祖父さん達が捜しに来てくれて助かった、と。
只、満君の話を聞いたお祖父さんは件の部屋と瓶を調べ、そしてうちへの前に、消防署に電話を掛けたのだそうだ。そして四人共、異様に厳重な扱いを受けて、病院へと搬送されて行ったのだと……。
床を踏み抜いた時に掠り傷を負っていた満君は兎も角、何故四人全員だったのかと首を傾げる僕達に、お祖父さんは言った。
「あの屋敷は元々、どこぞの細菌やウイルスの研究所だった。閉鎖されたのも、資金難だとは言っていたが、実際には研究員に奇妙な病が流行ったからだと聞いておるよ。しかし、あれだけのものが未だ残っていたとは……。四人共、厄介なものに感染していなくて何よりだったよ」
じゃあ、噂は全部間違いだったの?――そう目を丸くする僕達に、お祖父さんは苦笑した。
「そうだな。そもそも、あの屋敷は『山の屋敷』でも『山野屋敷』でもない。『やまいの屋敷』だよ」
―了―
や、物騒な屋敷になりました(^^;)
「大丈夫。今は誰も居ない只の空き家なんだから」そう言って誘いに来た満君と、止めようとした僕は喧嘩してしまった。奇しくも、お互いの最後の言葉は同じだった――「分からず屋!」
どんな事件であれ、起こったのは昔の事。今はもう主も殺人鬼も居ない。だから安全だって言う満君。
それでも屋敷はもう古くて傷んでいるし、何者かが住み着いていないとも限らないじゃないかと、僕。
「何者かって?」満君はどこか小馬鹿にした様に笑った。
「それこそ流れ者とか……」
「幽霊とか?」明らかに馬鹿にした笑い。「そんなもん信じて、怖がってるのか? 哲哉」
「そんな事ないよ!」
「いいっていいって、じゃ、怖い土産話を持って帰ってやるから。尤も、あれば、だけどな」
そして同じ言葉をぶつけ合い、終始嫌な笑みを顔に貼り付けた満君と僕は別れた。
それが夕方の事だった。今はもう、とっぷりと陽が暮れ……隣のおばさんが蒼い顔で僕を訪ねて来た。うちの満が遊びに来てない? と、その可能性に縋る様に。
子供は素直だ、とよく大人は言う。
けれど小学三年生ともなれば、知恵もあるし、子供同士の付き合いってものもある。やまの屋敷に行ったなんて言ったら、帰って来るなり満君はどやされるだろう。それが解っていて大人に言い付けたりしたら、僕は……。だから満君が出掛けた事はそれ迄黙っていた。
けれど、帰って来ないなんて……。
僕は蒼くなっておばさんに訳を話した。
何でもっと早く言わないんだと、お祖父さんは怒ったけれど、今はそれ所じゃないと車を出しに行った。満君のおじさんは帰りが遅いんだ。
僕とお母さんを家に残し、お祖父さんとお父さん、そして隣のおばさんはやまの屋敷へと向かった。
お母さんのお小言を食らいながらも、僕は時計と窓の外を見比べていた。もう無事に帰って来るだろうか。きっと皆に怒られて、泣きながら帰って来るんだろうな、満君。早く……早く帰っておいでよ。
そんな思いに気付いてくれたんだろう、お母さんはもう何も言わず、只、僕の肩を抱いて揺すってくれた。
まんじりとも出来ない儘、夜が更けていく。
なのに車は未だ帰らない。満君は未だ見付からないんだろうか? もしかして行き違いになったんじゃあ? でも、それなら今度はおばさんが居ないと満君がうちに訊きに来そうなものだ。それに屋敷迄は一本道だ。
と、不安で膨らんだ風船に針を刺す様に電話が鳴り、僕達は文字通り飛び上がった。
お母さんが急いで飛び付くと、それはお父さんからだった――満君は見付かった。けれど、四人共、暫く帰れない、と。
暫くの入院生活の後に満君が語った事によると、あの日、彼はやまの屋敷で、古いガラス瓶の並ぶ部屋を見付けた。何かの標本みたいだけれど、中の物はもうどろどろで、それが何かは解らなかったと。そして興味本位でその一本の蓋をずらしてみた時、その余りの腐臭の凄さに彼は慌てて瓶を放り出して廊下へと駆け出し――腐った床板を踏み抜いて動けなくなってしまっていたのだ、と。
そして夜になり、途方に暮れていると、僕のお祖父さん達が捜しに来てくれて助かった、と。
只、満君の話を聞いたお祖父さんは件の部屋と瓶を調べ、そしてうちへの前に、消防署に電話を掛けたのだそうだ。そして四人共、異様に厳重な扱いを受けて、病院へと搬送されて行ったのだと……。
床を踏み抜いた時に掠り傷を負っていた満君は兎も角、何故四人全員だったのかと首を傾げる僕達に、お祖父さんは言った。
「あの屋敷は元々、どこぞの細菌やウイルスの研究所だった。閉鎖されたのも、資金難だとは言っていたが、実際には研究員に奇妙な病が流行ったからだと聞いておるよ。しかし、あれだけのものが未だ残っていたとは……。四人共、厄介なものに感染していなくて何よりだったよ」
じゃあ、噂は全部間違いだったの?――そう目を丸くする僕達に、お祖父さんは苦笑した。
「そうだな。そもそも、あの屋敷は『山の屋敷』でも『山野屋敷』でもない。『やまいの屋敷』だよ」
―了―
や、物騒な屋敷になりました(^^;)
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そうよ!
隠そうとすればするほど、知りたくなるのが人間の性
危険な場所ならなおさら理由をちゃんと教えるべきですよね!
だいたい、立派な理由があるんだからさ隠す必要なんかないんだから。
しかし、みんな無事でなにより
危険な場所ならなおさら理由をちゃんと教えるべきですよね!
だいたい、立派な理由があるんだからさ隠す必要なんかないんだから。
しかし、みんな無事でなにより
Re:そうよ!
立ち入り禁止の立派な理由……実は戦時中の軍が関係してたりして……(ぼそっ)
Re:おはよう!
裏歴史があったりして(笑)
それ以前に行政に掛け合って、安全に撤去願うべきでしょうな(^^;)
それ以前に行政に掛け合って、安全に撤去願うべきでしょうな(^^;)
こんにちは♪
いやぁ~危なかったねぇ~!
変な細菌に感染していなくて何よりでした。
そういう建物をほったらかしにしておいちゃ、
いかんよねぇ~!
子供と言うものは好奇心が強いからねぇ!
そして抵抗力がないから強力な細菌に感染
したら大変だよねぇ~!
変な細菌に感染していなくて何よりでした。
そういう建物をほったらかしにしておいちゃ、
いかんよねぇ~!
子供と言うものは好奇心が強いからねぇ!
そして抵抗力がないから強力な細菌に感染
したら大変だよねぇ~!
Re:こんにちは♪
下手な細菌放置しておくと、どんな変異を起こすかも解らないしね~。
Re:無題
勝手にどうぞ♪っすか(爆)
子供には「何でもないよ」は「何かあるぞ」に聞こえるんでしょうね(笑)
子供には「何でもないよ」は「何かあるぞ」に聞こえるんでしょうね(笑)
Re:かなり…
あったら物騒ですよね~(^^;)
病原菌なんて下手すると悪用され兼ねないし。
病原菌なんて下手すると悪用され兼ねないし。
Re:こんばんは
いけませんと言われると気になるのが人情だよね~(^^;)
Re:人間って
幽霊が見えるのと、見えない病原体と……どっちが怖いですかね?(笑)