〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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今日は、この屋敷の東南の塔と物陰や塀沿いに設置した防犯カメラのデータも用意する心算だったのだろうか?
でも、東南の塔の番人と、正門の見張り番も、佐倉氏から相談を受けたものの、それについては約束しなかったよ、と頭を振った。
「どうしてですか?」大袈裟な身振りも交えて、憤った様に佐倉氏は彼等に詰め寄った。「この屋敷への侵入者の存在を確認し、その正体を明白にする為にも、それらのデータが必要だと、お願い申し上げたでしょう?」
確かに確約は頂けませんでしたが、と些か恨みがましく付け加える。
彼が言うのも尤もだろう。
ここ数週間、この屋敷では謎の侵入者の痕跡が幾つも発見されている。
家人の誰もが触らないと言うのに小物が移動していたり、誰も外出していないと言う雨の日に、廊下に湿った泥が残されていたり。
極め付きは屋敷の主のコレクションが収められた東南の塔。屋敷とは二階部分の渡り廊下一本で繋がれ、更に入って直ぐの部屋には番人が常駐していると言うのに、その彼に気付かれずに侵入し、品物の幾つかの場所を摩り替えて行った者が居ると言うのだ。彼でさえコレクション室には滅多に入らないと言うのに。
但し、何れの場合も、どれ程調べても盗難の痕跡はなかった。場所が変わってはいても、品物は全てその場にあり、傷付けられてもいない。それだけに侵入者の意図が解らず、家人揃って首を傾げていた。実質的被害は無いに等しい為に警察に届けるのも躊躇われ、主は結局、探偵社の者を呼び付けた。
それが佐倉氏だったが――彼の捜査は前途多難そうだ。
でも、東南の塔の番人と、正門の見張り番も、佐倉氏から相談を受けたものの、それについては約束しなかったよ、と頭を振った。
「どうしてですか?」大袈裟な身振りも交えて、憤った様に佐倉氏は彼等に詰め寄った。「この屋敷への侵入者の存在を確認し、その正体を明白にする為にも、それらのデータが必要だと、お願い申し上げたでしょう?」
確かに確約は頂けませんでしたが、と些か恨みがましく付け加える。
彼が言うのも尤もだろう。
ここ数週間、この屋敷では謎の侵入者の痕跡が幾つも発見されている。
家人の誰もが触らないと言うのに小物が移動していたり、誰も外出していないと言う雨の日に、廊下に湿った泥が残されていたり。
極め付きは屋敷の主のコレクションが収められた東南の塔。屋敷とは二階部分の渡り廊下一本で繋がれ、更に入って直ぐの部屋には番人が常駐していると言うのに、その彼に気付かれずに侵入し、品物の幾つかの場所を摩り替えて行った者が居ると言うのだ。彼でさえコレクション室には滅多に入らないと言うのに。
但し、何れの場合も、どれ程調べても盗難の痕跡はなかった。場所が変わってはいても、品物は全てその場にあり、傷付けられてもいない。それだけに侵入者の意図が解らず、家人揃って首を傾げていた。実質的被害は無いに等しい為に警察に届けるのも躊躇われ、主は結局、探偵社の者を呼び付けた。
それが佐倉氏だったが――彼の捜査は前途多難そうだ。
「折角防犯カメラという物があるのに、何故そのデータを生かそうとしないんですか?」佐倉氏は嘆息する。無理もないだろう。何度もこの屋敷に足を運び、現場を調査しては主に報告をせっつかれ……そんな事を繰り返しながら、家人の一人から防犯カメラの事を聞かされたのも、つい先日なのだ。「もう少しご協力頂きたいものですね!」
しかし、この部屋に集まった人々――屋敷の主、その長男夫婦、次男、長女、そして東南の塔の番人と正門の見張り番――は然して悪怯れた様子もなく、方々で勝手に話などしている。因みに番人の居ない正門と塔の入り口は厳重に施錠されている。
「本当にこの件を解決したいとお思いなのですか!?」堪らず、佐倉氏は声を上げた。
勿論、とやはり悪怯びれた風もなく頷いたのは長男だった。
「只……カメラのデータをお見せするのは……。何分、プライバシーの問題がありますので」
「部外者の私には見せられないという事でしょうか?」流石に佐倉氏もむっとした様子を見せた。「でしたら、ご家族の方だけで見て頂いて、怪しい箇所があればその部分だけをお見せ頂く、という訳には参りませんでしょうか?」それでも最大限の譲歩、とばかりにそう申し出る。
ええっ、と驚きと否定の入り混じった声を上げたのは長女。主にとっては遅くなって出来た娘、そして幼くして母を亡くした娘だけに、かなり甘やかされて育っている。
「嫌です」彼女はきっぱりと言った。「カメラは何処に仕掛けられているか、私達も全ては知らないんですのよ? うっかりどんな姿が映っているか……。兄さん達や義姉さんに見られたくはありません」年頃の娘としてはまぁ、無理もないだろう。無論、個人の部屋などには仕掛けられてはいないだろうが。
そうは言っても、それでは何の為の防犯カメラなのかと、佐倉氏は頭を抱える。
「兎に角ご主人、こう非協力的では、事件の捜査にも支障を来たします」一縷の望みをかけて、彼は主に進言した。「ご主人からもどうか……」
「致し方ありませんな」深い息をついて、主は言葉を吐き出した。「この件は、これでお開きという事に致しましょう」
「何ですって!?」佐倉氏は素っ頓狂な声を上げ、目を白黒させるばかりだった。
捜査に掛かった必要経費、そして通常よりは多いだろうキャンセル料を掴まされて、佐倉氏は屋敷を後にする事となった。殆ど放心状態の儘、小切手を渡され、ご苦労様でしたと体よく門番達に連れられて正門へ。
と、正門を一歩出た所で振り返ると、彼は共に来た塔の番人に向かって言った。
「ところで、あの塔のコレクションは大したものですが、傷付けないようにさせるのは大変でしたでしょう? もっと大っぴらに遊べるようにして上げたら如何ですか? 世界各国のコレクションとは言え、猫の玩具なんて猫が遊んで幾らでしょう」
番人二人は目を丸くして顔を見合わせると――二人して苦笑を浮かべた。
「探偵さんも人が悪い。ええ、御主人様方にもお伺いを立ててみますよ。あの分なら、家族の方達も既にご存知みたいですしね。タマの事は」
「タマ?」門番の言葉に番人が眉を顰める。「相変わらずセンスないな、お前さん。猫って言えばタマだと思ってるんだからな。ありゃあ、ベルだ、ベル」
二人してタマだベルだと騒ぐ二人を余所に、佐倉氏は門を後にして行った。
そう。小物を移動させたり、雨の日に泥の跡を残したり、塔の玩具で遊ばせて貰って――滅多に入らないが為に元の置き場が判らなくて場所がずれた言い訳に――結果的に番人に嘘の証言をさせたのは、このボクだ。
タマとかベルとか、ミーとかフェルとか……屋敷の人数分の名前を持っているけれど。
因みに時々遊んでくれる長女によると、此処の主は猫好き過ぎて、独占するのでボクの事は教えたくないのだそうだ。
他の人に教えたくない、ボクを自分だけの○○ちゃん、にして置きたいって言うんだから――似たもの家族、だよね?
でもいい加減、これを機に呼び名は統一して欲しいな。
―了―
う~む、猫じゃ猫じゃ(笑)
しかし、この部屋に集まった人々――屋敷の主、その長男夫婦、次男、長女、そして東南の塔の番人と正門の見張り番――は然して悪怯れた様子もなく、方々で勝手に話などしている。因みに番人の居ない正門と塔の入り口は厳重に施錠されている。
「本当にこの件を解決したいとお思いなのですか!?」堪らず、佐倉氏は声を上げた。
勿論、とやはり悪怯びれた風もなく頷いたのは長男だった。
「只……カメラのデータをお見せするのは……。何分、プライバシーの問題がありますので」
「部外者の私には見せられないという事でしょうか?」流石に佐倉氏もむっとした様子を見せた。「でしたら、ご家族の方だけで見て頂いて、怪しい箇所があればその部分だけをお見せ頂く、という訳には参りませんでしょうか?」それでも最大限の譲歩、とばかりにそう申し出る。
ええっ、と驚きと否定の入り混じった声を上げたのは長女。主にとっては遅くなって出来た娘、そして幼くして母を亡くした娘だけに、かなり甘やかされて育っている。
「嫌です」彼女はきっぱりと言った。「カメラは何処に仕掛けられているか、私達も全ては知らないんですのよ? うっかりどんな姿が映っているか……。兄さん達や義姉さんに見られたくはありません」年頃の娘としてはまぁ、無理もないだろう。無論、個人の部屋などには仕掛けられてはいないだろうが。
そうは言っても、それでは何の為の防犯カメラなのかと、佐倉氏は頭を抱える。
「兎に角ご主人、こう非協力的では、事件の捜査にも支障を来たします」一縷の望みをかけて、彼は主に進言した。「ご主人からもどうか……」
「致し方ありませんな」深い息をついて、主は言葉を吐き出した。「この件は、これでお開きという事に致しましょう」
「何ですって!?」佐倉氏は素っ頓狂な声を上げ、目を白黒させるばかりだった。
捜査に掛かった必要経費、そして通常よりは多いだろうキャンセル料を掴まされて、佐倉氏は屋敷を後にする事となった。殆ど放心状態の儘、小切手を渡され、ご苦労様でしたと体よく門番達に連れられて正門へ。
と、正門を一歩出た所で振り返ると、彼は共に来た塔の番人に向かって言った。
「ところで、あの塔のコレクションは大したものですが、傷付けないようにさせるのは大変でしたでしょう? もっと大っぴらに遊べるようにして上げたら如何ですか? 世界各国のコレクションとは言え、猫の玩具なんて猫が遊んで幾らでしょう」
番人二人は目を丸くして顔を見合わせると――二人して苦笑を浮かべた。
「探偵さんも人が悪い。ええ、御主人様方にもお伺いを立ててみますよ。あの分なら、家族の方達も既にご存知みたいですしね。タマの事は」
「タマ?」門番の言葉に番人が眉を顰める。「相変わらずセンスないな、お前さん。猫って言えばタマだと思ってるんだからな。ありゃあ、ベルだ、ベル」
二人してタマだベルだと騒ぐ二人を余所に、佐倉氏は門を後にして行った。
そう。小物を移動させたり、雨の日に泥の跡を残したり、塔の玩具で遊ばせて貰って――滅多に入らないが為に元の置き場が判らなくて場所がずれた言い訳に――結果的に番人に嘘の証言をさせたのは、このボクだ。
タマとかベルとか、ミーとかフェルとか……屋敷の人数分の名前を持っているけれど。
因みに時々遊んでくれる長女によると、此処の主は猫好き過ぎて、独占するのでボクの事は教えたくないのだそうだ。
他の人に教えたくない、ボクを自分だけの○○ちゃん、にして置きたいって言うんだから――似たもの家族、だよね?
でもいい加減、これを機に呼び名は統一して欲しいな。
―了―
う~む、猫じゃ猫じゃ(笑)
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Re:こんばんは
いやぁ、もうばれたら大っぴらに飼い始めたりして。
一人一匹(笑)
一人一匹(笑)
Re:こんにちは
意外にアナログ警備(笑)
防犯カメラ、実は要らんかったり(^^;)
防犯カメラ、実は要らんかったり(^^;)
Re:こんにちは♪
一人一猫(笑)
そして皆他人の猫を好きな名前で呼ぶ(^^;)
そして皆他人の猫を好きな名前で呼ぶ(^^;)
Re:巽が用意するの?
何を?
Re:セコム
大運動会を開催されたら、小物が少し移動位じゃ済まないかもね(^^;)
Re:無題
家族全員がそれぞれに猫ブログ立ち上げたりして(笑)
そして勿論、皆タイトルが違います。『うちのタマ』『ベルの囁き』とか(爆)
そして勿論、皆タイトルが違います。『うちのタマ』『ベルの囁き』とか(爆)
Re:ネコ~。
あはは、いつの間にか呼び名と言うか、あだ名が出来ちゃうんですよね(^▽^)
昔飼ってたハムスター、何か顔がタヌキっぽかったんで……ずっとタヌキって呼んでたなぁ(^^;)
昔飼ってたハムスター、何か顔がタヌキっぽかったんで……ずっとタヌキって呼んでたなぁ(^^;)
無題
わかる~!!
うちの猫じゃなくって、私の猫であってほしいんですよね♪
そういえば、知人のお家は逆で、子猫が産まれると、それぞれ担当者(しもべ?)が決まります。「これはおねえちゃんの子!この子は私の
」って。ただ、子猫達が懐くのはたいていいつも同じ人(笑)
うちの猫じゃなくって、私の猫であってほしいんですよね♪
そういえば、知人のお家は逆で、子猫が産まれると、それぞれ担当者(しもべ?)が決まります。「これはおねえちゃんの子!この子は私の
」って。ただ、子猫達が懐くのはたいていいつも同じ人(笑)
Re:無題
知人さんの家は一人一猫っすか?(笑)
お世話係が決まってるのね~。
やっぱり自分の猫、欲しいですよね~(´▽`)
お世話係が決まってるのね~。
やっぱり自分の猫、欲しいですよね~(´▽`)