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「遅くなっちゃったね。ごめんね、則子、明るい内に帰りたいって言ってたのに、道草に付き合わせちゃって」両の掌を合わせ、拝む様にして芽衣は詫びた。友人と一緒に街迄買い物に出たのはいいが、ついつい予定外の店迄回ってしまい、その結果、すっかり陽は落ちてしまっていた。
「大丈夫だよ」微苦笑しながらも、則子は言った。「そんなに気にしないで。それにここ迄荷物運んでくれたんだし……助かったよ」
その則子の両手と、芽衣の片手には、買い込まれた画材が下げられている。やや大きめのキャンバスは重さは兎も角、嵩張ってしようがない。
「じゃ、部屋迄持って行ったげるね」芽衣は当然の様にそう言って、エレベーターの方へと歩き出した。勝手知ったる友人のマンション。位置は把握している。横に長い建物の丁度真ん中辺りに突き出す形で、エレベーターホールが作られているのだ。
が、何故か則子はそれを慌てて止めた。
「あ、ご、ごめん! エレベーターはちょっと、その……何か調子悪いみたいでさ。階段で上るから、荷物はその辺置いといてくれたらいいよ。うち、五階だし、そこ迄運んで貰うのは悪いから」
「ええ? エレベーター使えないのぉ?」不満げに言ったものの、芽衣は荷物を下ろしはしなかった。「てか、それなら尚更大変じゃない。階段を五階迄一往復半なんて。それに置いといて盗られても困るし」
大体、今時の若い女の子が一人暮らしをするのに、オートロックでもない、部外者出入り自由のマンションなんて無用心だと、芽衣は常々思っていた。が、金銭的な問題もあり、実家で親の庇護の元にある自分が口を出す事ではないとも、思っていた。
「でも、五階迄往復付き合わせるのも悪いし」と、則子。
「それじゃ、こうしよう」芽衣は言った。「あたしは喉が渇いたので、則子んちでジュースを飲みたい。で、その序でだから荷物を運んであげる。ギブ&テイクなんだから、則子が気にする事はない。ね?」
芽衣の言い様に、一瞬きょとんとした表情を浮かべた則子だったが、直ぐにその頬を緩めた。
「解ったわ。そこ迄言うなら、ジュースでも紅茶でも」
そして、荷物を下げて歩き出した。こっちから行こう、と。
「ん? エレベーターの横にも階段なかったっけ? あっちの方が部屋に近いんじゃあ……?」付いて歩きながらも、芽衣は首を傾げた。
「より喉が乾いた方が、ジュースが美味しくなるわよ」そう笑って、則子は建物の端にある階段を目指した。
因みに、五階迄自力で上った彼女達は、本当に飲み物の美味しさと有難さを体感する事となった。
只、ジュースとお菓子に舌鼓を打っている間も、則子は何かを言いたそうな、それていて言うべきか迷っている様な素振りを見せていた。
そしてそれに気付かない程、芽衣は鈍くはなかった。
「ね、何かあるの? エレベーター」帰り際、玄関先で見送りながらも、やはり先に通った階段を――お菓子食べたんだから運動した方がいいんじゃないの? などと――勧める則子に、芽衣は訊いた。「と言うか、エレベーター近辺?」
則子は、一つ、大きな溜息をついてから、頷いた。
「実は……ね。芽衣は旅行中だったし、大きなニュースにもならなかったから知らないだろうけど、一週間位前の夜にこのマンションで飛び降りがあって……。発見されたのはエレベーターホールからまともに見える位置だったの。それ以来、夜になると時々あの辺りから音が響くのよ」
「音?」
「重いものが落ちた様な……でも、何となく、独特な、音」そう言って、則子は口にした事を後悔する様に、両手で自らの口を塞いだ。
「それは……詰まり、幽霊……?」
肯定したくない、と則子の目は言っていたが、そうなのかも知れないと、頷いた。
「だからね、夜にはあの辺りに近付きたくないのよ」俯いて、彼女は言った。
「それは……そうよね。あたしだってそんな音、聞きたくないし……」
「それもあるけど――音だけかどうか解らないじゃない?」
今の所、誰かが幽霊を見たという話は聞かないらしい。
が――。
「それが偶々誰も通らないから見ていないだけだとしたら……。私、万が一にも見たくない」きっぱりと、則子はそう言った。
当然の事ながら、芽衣は一番遠い階段から、帰る事にした。
―了―
取り敢えず、お祓い?
今は五階以上は必要なんでしたっけ。階段で荷物抱えて五階はきっついなぁ……。
それから先がきつい(笑)
運動の為に下りだけは階段使いますが、上りはどうしてもエレベーターに……(^^;)
隣近所で物を落としたとか、そんなのとはどこか違う、何か胸騒ぎがする様な音……。