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夜、遅くなったからと言って駅からの近道に、その公園を通ってはいけない――引っ越して来たマンモス団地に、代々伝わっていると言うタブーを聞いて、真智子は首を傾げた。
確かに団地から駅への道はその公園を迂回する様に延びている。中を突っ切ってしまえば一番の近道だろう。現に朝の通勤通学時間など、皆よくそこを利用している様だ。
なのに、夜は通ってはいけない、とは。
「どうして?」当然の疑問を、同じ高校に通っている縁もあって、直ぐに仲良くなった隣室の美春に投げ掛けた。彼女も、このタブーを教えてくれた中の一人だった。
「私も小さい頃からそう教えられてて、通らないようにしてたから……」美春も首を傾げた。「お母さんは『やっぱり一人歩きは危険だから』とか言ってたけど……周りの道だって、大差ないわよね?」
こくり、と真智子は頷いた。寧ろ、公園の方が街灯があって、明るい位だ。
「変質者でも出るの?」
「そういう話は聞かないわね。もう長い事、誰も夜には通らないみたいだし」
「徹底してるんだ」真智子は目を丸くした。「なのに、理由は解らないの? 何なのかしら?」
さあ? と美春は肩を竦めた。彼女は幼い頃からこの団地に住んでいて、周りの大人達からそう教えられ続けてきたからか、もう、それが当たり前になっているらしい。
だが、越して来たばかりの真智子には、不思議でならなかった。部屋の窓から件の公園を見下ろし、木々の樹冠の下、小さな子供達が元気に遊び回る様を、首を傾げて見るばかりだった。
だが、転校して来て始めた部活で遅くなった日、彼女は公園横の道を辿りながら、迷っていた。
この儘道なりに進めば団地に着く。マンモス団地だけに、その敷地内に入ってからも彼女の家のある棟迄は未だ未だ歩かなければならないのだが。
部活で疲れてもいるし少しでもその距離を縮めたい、と思うのは当然の心理ではあった。
だが、どういう理由かははっきりとはしないものの、夜に通ってはいけないと言われ続けているのだから、それを破るのも躊躇われた。
美春も一緒であれば迷わずに真っ直ぐに道を進むのに、と真智子は独りごちた。元々、部活も彼女に誘われて入ったものだったのだが、今日は用事があるからと、美晴は先に帰ってしまったのだ。
走って突っ切っちゃおうか――そんな考えがちらりと頭をよぎった。
例えば昔、変質者や通り魔が出て、丁度自分みたいに帰り道を急いでいる少女が奇禍に遭遇したとか。
あるいは此処は元々墓地か何かで、その霊が夜になると彷徨い出るとか。
それとも、実は皆で、越して来たばかりの自分を担いでいるとか?
夜の公園を駆けながら、真智子は想像を逞しくしては、更に足を速めていた。
変質者や通り魔だとすれば、少なくとも美春が知っている十数年以上もの間誰も通らない公園を活動範囲にし続けているとも思われない。もしかしたら、もう捕まったかも知れないし。
元墓地だとしたら、慰霊碑とか何かしらあるものではないだろうか。
美春を始めとした団地の住人に担がれている?――ふと、真智子の足が鈍った。
今の所、何も危険な事もおかしな事も起こらない。確かに街灯の明かりが頼りで、朝通るのと違って心細くはあるが、それを言うなら周囲の道だって大差ない。
何か、嫌われる様な事でもしただろうか? 皆にからかわれる様な事でも?
普通にご近所に挨拶して、普通に決まりは守って……余計な事はしていない筈だ。
なのに、何故?
疑心暗鬼に囚われ始めた時、公園の団地側の出入り口から、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「真智子! 未だ帰ってないって聞いてもしかしたらと思ったら……!」美春だった。「何で公園を通っちゃったのよ? 駄目だって言ったのに!」
「……何も、起こらなかったよ?」不貞腐れた様子で、真智子は答えた。「何で? 何で通っちゃいけないの? 本当に通っちゃいけないの? 私を皆してからかってるんじゃないの?」
美春は頭を抱えんばかりの様子で、天を仰いだ。
「真智子……。いい? 貴女は真智子なのよ。先ず、それだけを頭に思い浮かべて」
「何よ、それ?」真智子は怪訝な思いで眉を顰める。「そんな解り切った事、何で今更……。やっぱりからかってるの?」
「じゃあ、貴女の部屋番号は?」
「さっきから何を言ってるの?」
「いいから。部屋番号は?」
「……二〇三」
「やっぱりね」美春は得心が入った様に頷いた。「真智子、この儘、お寺に行くよ」
「何でよ? 私は帰るの!」
「二〇三に帰っても誰も居ないよ。真智子の部屋はそこじゃないんだから。そして貴女が帰る所ももう、そこじゃないの。気になって昔から住んでるお婆さんに聞いて来たの。昔、心を病んで、周りの人が全て信じられなくなって、この公園で自殺した女の子が居たって。そして此処を夜に通ってはいけない理由は、その子に、知らず知らずの内に取り憑かれるからだって」
「……」茫洋とした瞳で美春を見詰め、真智子は自分の中に冷ややかな存在が居る事を否定しようとする。そんなの、嘘だ、と。
だが。
「真智子。貴女の本当の部屋は私のお隣、九〇五よ。思い出して。貴女の部屋で公園の話をした時、人がとても小さく見えてなかった? 二〇三……二階からじゃ絶対、そんな風には見えないでしょ?」
その瞬間、真智子の脳裏に蘇ったのは鮮やかな陽光の下、駆け回る小さな子供達、風に揺れる木々の樹冠――それは確かに高層階の、彼女の部屋からの眺め。
「美春……お寺はいいみたい」呆然とした儘、それでも真智子は言った。「何か抜けって行った……感じがした」
それでも美晴は彼女を近くの寺に連れて行き、祈祷を頼んだ。念の為、と。
「表立ってうらめしや~って出て来るのより、知らない間に忍び込むものの方が厄介なんだって」美晴はそう言って苦笑した。
真智子はもう、その言葉に疑わしさは感じなかった。
「あの霊はどうなったの?」
「それは……未だあそこに居るんでしょうね。お寺に来た時にはもう完全に抜けていたみたいだったし。だから……」
「うん」
『二度と夜にあの公園は通らない』二人は声を揃えて、そう確認した。
―了―
遅くなった遅くなった☆
昔から言われてる事には何か有るんだろうけど、理由が解らないと、やっぱり破りたくなっちゃうよね~
一つ…
「抜けっていった…」
は、オロオロとしてる主人公を表現してるの?かな?
後…
タブーって題名で「ちょっとだけよ、あんたも好きね~」って台詞を思い出す私はドリフ世代(笑)
ありゃ、抜けて行った筈なのにちっちゃい「っ」が抜けてない(笑)
おろおろ(・・=・・)
直接何かを見たとかいうのがないから逆に団地の自治会とかも動き難いかも?
只、自覚しない儘、誰にも気付かれない儘に取り憑かれてると……逆に手が打ち難いかもね~。
何度も開いたのに更新されてないし、そのままクエストに突入しちゃったもんで来れなかったっすw
夜の公園ってだけで不気味なのに、幽霊を登場させるなんて非常識っすよ!!
お陰で夜中にトイレにいけなくなりそうだし、今夜は朝まで釣りしなくっちゃw
クエストお疲れ様でした♪
確かに(笑)
夜霧ー、近道するなってば(^^;)
自覚がないから対処のしようがないものね~。