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「誰?」おずおずとノックされたドアの向こうに、私は静かに声を掛けた。
尤も、今し方三時の時報が鳴った所でもあり、大体の予想はついていた。
「亮君? 今日も来てくれたの?」
「……うん」照れ臭いのか、こっそりとドアを開ける気配。少年の軽やかな足音が近付いて来る。「学校、終わったから」
「そう。元気に学校通ってるのね」私は笑って頷いた。
亮君は殆ど毎日、学校の帰りに私を訪ねてくれる。生まれ付き身体が弱くて、学校に通えない、私の病室を。
「はい、これ。今日の」亮君はそう言って、私の掌に小さな紙細工を乗せた。
折鶴だ。彼は来る度に一羽ずつ、折鶴をくれる。普通、千羽集まってからくれるものじゃないの、と私は以前笑ったけれど、彼はやっぱり、一羽ずつ、持って来る。
実は彼も先月迄はこの病院に居て――具合のいい時には暇潰しを兼ねて、よく話し相手になってくれていたけれど――危険な状態の時もあったのだ。
だから、彼が一羽一羽を持って来てくれる理由も、何となく解る。
明日には居ないかも知れない――お互い、そう案じていたから。
完治の上の退院ならそれでもいい。けれど、もし逆の理由でこの病院から居なくなったのだとしたら……。私達は度々会いながらも、常に一期一会を覚悟していた。
だから彼が退院すると聞いた時は、それを素直に祝いたい気持ちと、置いて行かれる様な寂しさとが入り混じり、自分でも訳も解らず涙を零したものだった。慌てて慰めてくれた彼の声が、今でも耳に残っている。
そんな事もあって、彼は来てくれているのだろう。
けれど……私は鶴を弄ぶ手を、ふと止めた。
「ねえ……?」
「何?」
「亮君は元気……なのよね? また具合が悪くなったりしてないよね?」
「どうしてそんな事訊くの?」
私は鶴を持ち上げて、その首を撫でた。
「これ、亮君のじゃない。亮君は……言っては悪いけど、こんな小さな折り紙で、こんなに綺麗には鶴の首を折れないもの。指先が太くて丸いから細かい事は苦手だって、自分でも言ってたもの。触ってみればよく判るわ。昨日迄のと違う……! それに……同じ声だけど、貴方、誰!?」
暫しの沈黙の後に、彼は失敗した、と呟いた。
「丁寧に作り過ぎたか……。あいつが循環器疾患の所為でばち状指なの考えに入れてなかった。毎日、一生懸命、丁寧に丁寧に折ってたから……つい、真剣に作ってしまったよ」
そして、彼は亮君の双子の兄と名乗った。
「亮は昨日、学校で具合が悪くなって、此処の病院に検査入院する事になったんだ。どうやら大した事はなさそうだから、安心して。でも、あいつ、君に心配掛けたくないからって、頼まれたんだ。それにしてもよく判ったね」
「目が見えないのに……って?」生まれ付き見えない目を閉ざした儘、私は苦笑する。「甘く見ないでね。見えない分、声や音の聞き分けには自信があるんだから」
その、閉ざした目から、我知らず涙が零れ落ちる。
「お、おい……」亮君そっくりの、慌てた声が何故か可笑しい。
「亮君は大丈夫なのよね? また、会えるのよね?」
「大丈夫。元気な声が聞かせられるようになったら、直ぐにでも自分で訪ねて来るから」彼は受け合ってくれた。
その彼に、私は一つ二つ、頼み事をした。
先ず、売店で折り紙を買って来てくれる事。
そして、私が指の感触だけを頼りに折った、多分不恰好な鶴を、亮君の枕元へ、毎日届けて下さい、と。
翌日からは亮君自身は未だ病室を出られなかったけれど……どこか不器用な作りの小さな鶴が、互いの病室の間を飛び交う事となった。
お互いの快癒の祈りと共に。
―了―
や、昼間母に付き合って久し振りに、鶴折ったもので……(^^;)
不思議と折り方、忘れないものですね。折鶴。
実はもう亮の魂は頂いたんだよ、とでも言いそう(^^;)
冒頭ですぐに病院だろう事は分かったけど、私もひょっとしたら三時とは、午前三時で幽霊が訪ねてきているのかと。(笑)
病気で長期入院って、精神的にも辛いよね。
無駄に時間を過ごしている気がして。
一卵性双生児だと先天性の病気は罹る確率高そうな気がするし(原因にもよるだろうけど)
長期入院……退屈だよ~?
それに……「折鶴の出来の差異で気付く」というのが使いたかったので!(笑)
一瞬、不治の病なのか?死んでしまったのか?
幽霊か?と、いろいろ気を回してしまったので、
ホッ!としました。
長期入院って辛いですよねぇ~!
早く良くなって退院出来ますように!
や、幽霊が人の身体を借りて訪ねて来る、というネタも考えたのは内緒(笑)
やっぱり具合も悪いし、周りも病人さんばかりで、気を遣うというのもあるし。下手に世間話に参加すると、病気自慢に巻き込まれるし(^^;)