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はらり……窓際の文机に開いた儘置かれた本のページが一枚、風に捲られた。
風は時折、窓から吹き込んでは、更に二枚、三枚とページを捲って行く。
丸で透明人間が本を読んでいるみたいだ、と床に伏せった儘、香夏子は思った。そして、ああ、しまった、栞を挟んで置くんだった、と。これでは続きを捜すのに手間取りそうだ。
しかし、読書中に襲ったいつもの発作の苦しさに、助けを呼ぶのに必死で、それどころではなかったのも事実。
幸い、今日一日安静にしていれば回復出来そうだ――それが自分でも解る程に、慣れてしまっていた。
はらり……更にページは捲れる。
窓の外の竹林を通して差し込む和らいだ日差しと、静かな中に時折流れるその音に誘われる様に、香夏子は眠りに落ちて行った。
夕方、冷えるからと窓を閉めに来た母の気配に、香夏子は目を覚ました。
具合はどうかと尋ねる母に、大分気分がいいと、半身を起こして答える。そしてふと、目をやると、文机の上の本はすっかり終わり迄、捲れてしまっていた。
本を取って欲しいと頼むと、母は苦笑しつつもそれを手渡してくれた。程々にしなさいよ、と言いつつ。
あら?――と香夏子は目を丸くした。倒れる前に読んでいた辺りに、栞が差し挟まれている。開いてみると、やはり見覚えのある文章と、その先に続く未知の文章。
あの時、栞を挟んで置いてくれたのかと母に訊くと、彼女は首を横に振った。それどころじゃなかった、と。
けれどあれ以来この部屋に来たのは、掛かり付けの医師位。文机に近付きさえしていなかった筈だ。
首を傾げる彼女に、母は何かの思い違いでしょうと微苦笑し、後で夕飯を持って来るから大人しく寝ていなさいと言い置いて出て行った。
母の言葉に頷きつつ、香夏子はこっそりと床を抜け出し、文机迄両手両膝で這って行く。
文机の前に敷かれた座布団に手を突いてみると、仄かに、温かかった。
本当に読書好きの透明人間でも居たのかも知れない、と香夏子は微笑した。そう言えばあの時、ページを捲る程の風があったにしては、窓外の竹林はざわりともしていなかった。
栞はささやかなお礼なのかも知れない。
―了―
遅くなったので短めに~☆
しかし、うちの登場人物、怪異に慣れ過ぎだ(←自分で突っ込んどく)
保護色とか、目の錯覚とかで気付かれ難く擬態する事は出来るかも?