〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
解っていたのよ、私も姉様も。
あの子は一目会っただけで、あの方を魅了してしまうだろうって。
だから絶対に会わせては駄目と、姉様は言った。まぁ、あの子の現状からして、あの方にお目通り願う機会なんて、ありはしないでしょうけれどね――そう笑いながら。
あの子は私達の義理の妹に当たるけれど、血の繋がりは無い。母様があの子の父親と再婚した、それだけの間柄。そして義父が亡くなった今、母様も姉様も、そして私も、あの子を家族としてなんて見ていなかった。
毎日の残り物で働いてくれる、ていのいい召使い。義父の生前、綺麗に梳られ輝いていた亜麻色の髪も、埃を被ってくすんでいる。ブルーの眼は私達の仕打ちを恐れて伏し目がち。服だって私達が散々着古した物。それも埃に塗れて色褪せて、見る影もない。
それでも、私達同様に着飾れば……私なんて足元にも及ばないのは解っていたわ。
だから街の娘達に城への誘いが掛かったあの日、母様と姉様は態と面倒な仕事ばかり言い付けて、仕事が終わらない内は外に出ては駄目と言い渡した。だって、普段の格好で城に行かせる訳にはいかないし、かと言って着飾らせて……あの方の目に留まったら……。母様だってどうせ目に留まるのならあの子より、実の娘である私か姉様、どちらかの方がいい、と。
けれど私は、それでも不安だった。この夜を逃せばあの子が城に上がる機会なんて、先ず永遠に無い。そう解っていても。
だって、あの子もあの方に憧れている事を、知っていたから。
だから私は、姉様達とは別に一計を講じたのだった。
贅沢に大理石が使われた大広間。壁に飾られた絵画も緞帳も、全てが夢の様に美しく、バルコニーから眺める夜空は、格別だった。饗された料理も素晴らしく、全てが洗練されていた。
この儘ずっと此処に居たいわね――こっそりと姉様に耳打ちしたら、笑われたわ。羽付きの扇子で口元を隠してお上品を装っていたけれど、きっと口元は朗らかな笑みとは縁遠く歪んでいる。
あんたがあの方の目に留まる奇跡があればね――そう言う姉様だけれど、その視線には余裕が無い。
だって、私達の前、大広間の中央では、あの方が踊っているのだもの。
あの子と――姉様達はその正体に気付いていない様だけれど。
私達の物より上質の、ふんわりとしたドレス、結い上げられた亜麻色の髪を飾るティアラ、そして生まれついての上品な物腰。薔薇色に高潮した頬には優雅な笑み。そして綺麗なブルーの瞳はあの方を見詰め――その瞳をあの方が見詰め返す。
やっぱり……。解っていた事だったのに、私は力が萎えるのを感じた。精一杯着飾って此処に居る自分が道化に思えた。酷く、惨めな気分だった。いっそ此処から立ち去ってしまいたいとさえ思ったけれど……それでは講じた手が無駄になる。そう、それをよすがに、私は広間に留まった。
今だけよ。今だけ……最後にいい思いをする位は許してあげるわ。そう思ったからこその計画でもあるんだから。
それにしても、いつ迄踊っている心算? 貴方にはもう時間が無いのよ?――大時計を見遣って苛立ち始めた頃、やっとあの子もその事に気付いた。
二本の針は共に真上を差そうとしている。
慌ててあの子は身を翻した。あの方の制止の声を名残惜しそうに振り切り、城の大階段へと駆ける。途中、カランと冷たい硬質の音を残して姿を消したあの子を、私は冷ややかに見送った。
後には何かを拾い上げて茫然と佇むあの方――あの二人に割り込めずにいた姉様がいそいそと近付いて行く。勿論私も、あの子の事なんて、さっぱりと忘れて。
だって、あの子は今頃、私が魔女に仕掛けさせた毒で、何処かでのたれ死んでいる筈だもの。
年老いた魔女は言っていた――この毒は時間と共に効力を表す、と。やや高めの体温で気化し、皮膚から侵入して、跡も残らないと。
あれだけ踊っていたのだもの。条件は充分。そして効き目を逃さない為に、衣類よりも密着の度合いの高い靴に仕込むと、老婆は言っていた。
そしてそれが効き始めるのが十二時頃――帰り道のどこで死んでいたって、私には不在証明がある。まぁ、毒殺だと判るかどうかも怪しいものだけれど。あの子の身元、そして今夜現れた一夜限りの姫だと判った所で、私に不利は無い。寧ろ、幻の姫の死を悼むあの方と見せ掛けの悲しみを共有し、少しでも近付ける……。
それが私の計画だった。
なのに――やっと効力を発し始めたばかりだろう、その靴を落として行くなんて! 何て事なの!?
帰宅した私は悪霊を見る気分で、あの子を見る他なかった。
生きているのなら件の姫が此処に居る事を表沙汰には出来ない。もしあの方の耳にでも入ったら――けれど、その懸念は向こうから歩み寄って来たのだった。
後日、街中の娘達の嫉妬と憧れの対象となった靴は私達の家にも齎された。
私は、幾人もの体温を集めてきた靴を前に、あの子を押し退けた。
その靴が――あの方があの子を妻と認める場面など、見たくはなかったのだ。例え、一瞬であったとしても。
そう、血に塗れても、のたうち苦しむ事になったとしても……そんなの、もう私にとっては何程の事でもないわ。
私は不敵な笑みを口元に浮かべて、華奢な硝子の靴に足を差し入れた……。
―了―
はい、元ネタは勿論『シンデレラ』です。
何でこんな話になったんだろう?(笑)
この儘ずっと此処に居たいわね――こっそりと姉様に耳打ちしたら、笑われたわ。羽付きの扇子で口元を隠してお上品を装っていたけれど、きっと口元は朗らかな笑みとは縁遠く歪んでいる。
あんたがあの方の目に留まる奇跡があればね――そう言う姉様だけれど、その視線には余裕が無い。
だって、私達の前、大広間の中央では、あの方が踊っているのだもの。
あの子と――姉様達はその正体に気付いていない様だけれど。
私達の物より上質の、ふんわりとしたドレス、結い上げられた亜麻色の髪を飾るティアラ、そして生まれついての上品な物腰。薔薇色に高潮した頬には優雅な笑み。そして綺麗なブルーの瞳はあの方を見詰め――その瞳をあの方が見詰め返す。
やっぱり……。解っていた事だったのに、私は力が萎えるのを感じた。精一杯着飾って此処に居る自分が道化に思えた。酷く、惨めな気分だった。いっそ此処から立ち去ってしまいたいとさえ思ったけれど……それでは講じた手が無駄になる。そう、それをよすがに、私は広間に留まった。
今だけよ。今だけ……最後にいい思いをする位は許してあげるわ。そう思ったからこその計画でもあるんだから。
それにしても、いつ迄踊っている心算? 貴方にはもう時間が無いのよ?――大時計を見遣って苛立ち始めた頃、やっとあの子もその事に気付いた。
二本の針は共に真上を差そうとしている。
慌ててあの子は身を翻した。あの方の制止の声を名残惜しそうに振り切り、城の大階段へと駆ける。途中、カランと冷たい硬質の音を残して姿を消したあの子を、私は冷ややかに見送った。
後には何かを拾い上げて茫然と佇むあの方――あの二人に割り込めずにいた姉様がいそいそと近付いて行く。勿論私も、あの子の事なんて、さっぱりと忘れて。
だって、あの子は今頃、私が魔女に仕掛けさせた毒で、何処かでのたれ死んでいる筈だもの。
年老いた魔女は言っていた――この毒は時間と共に効力を表す、と。やや高めの体温で気化し、皮膚から侵入して、跡も残らないと。
あれだけ踊っていたのだもの。条件は充分。そして効き目を逃さない為に、衣類よりも密着の度合いの高い靴に仕込むと、老婆は言っていた。
そしてそれが効き始めるのが十二時頃――帰り道のどこで死んでいたって、私には不在証明がある。まぁ、毒殺だと判るかどうかも怪しいものだけれど。あの子の身元、そして今夜現れた一夜限りの姫だと判った所で、私に不利は無い。寧ろ、幻の姫の死を悼むあの方と見せ掛けの悲しみを共有し、少しでも近付ける……。
それが私の計画だった。
なのに――やっと効力を発し始めたばかりだろう、その靴を落として行くなんて! 何て事なの!?
帰宅した私は悪霊を見る気分で、あの子を見る他なかった。
生きているのなら件の姫が此処に居る事を表沙汰には出来ない。もしあの方の耳にでも入ったら――けれど、その懸念は向こうから歩み寄って来たのだった。
後日、街中の娘達の嫉妬と憧れの対象となった靴は私達の家にも齎された。
私は、幾人もの体温を集めてきた靴を前に、あの子を押し退けた。
その靴が――あの方があの子を妻と認める場面など、見たくはなかったのだ。例え、一瞬であったとしても。
そう、血に塗れても、のたうち苦しむ事になったとしても……そんなの、もう私にとっては何程の事でもないわ。
私は不敵な笑みを口元に浮かべて、華奢な硝子の靴に足を差し入れた……。
―了―
はい、元ネタは勿論『シンデレラ』です。
何でこんな話になったんだろう?(笑)
PR
この記事にコメントする
Re:こんばんは
親切な魔法使いのお婆さんが、毒使いの魔女に!(爆)
や、朝っぱらから何故か意地悪姉さんの方から見たらどうなるかな~なんて考えてて、こんなんなりました(笑)
や、朝っぱらから何故か意地悪姉さんの方から見たらどうなるかな~なんて考えてて、こんなんなりました(笑)
無題
どもども!
初めの方でシンデレラだとは思いましたが、途中から怪しい雰囲気になって来ましたね~w
どうせならガラスの靴に強引に足をねじ込んで、破壊してしまうって落ちに出来なかったんでしょうか?(爆)
初めの方でシンデレラだとは思いましたが、途中から怪しい雰囲気になって来ましたね~w
どうせならガラスの靴に強引に足をねじ込んで、破壊してしまうって落ちに出来なかったんでしょうか?(爆)
Re:無題
ザ・証拠隠滅ですね!(笑)
元々の原作では意地悪な義姉のどっちだったかが、足の指を切り落として迄、靴を履こうとした、なんていう怖い描写も……(((゜Д゜;)))
元々の原作では意地悪な義姉のどっちだったかが、足の指を切り落として迄、靴を履こうとした、なんていう怖い描写も……(((゜Д゜;)))
こんにちは
童話って、色々亜流があるから、私が知る話とどれくらい一致しているのか分からないけど。
義妹が美しくて、間違いなく王子を魅了するって分かっているなら、会わせた方が得策ではないかなぁ。
辛く当たったところで、自分たちが選ばれる保証は無いわけだし、それなら義妹でも、お城に上がれば、その家族は、無視できない存在になるわけだし、血の繋がらない妹を、親切にしていたってことで、美談にすることも出来たんじゃないかと。
個人的には、この家族はもっと盲目なアホ集団だったっていう方が、スッとするんだけど。
この話はあんまり好きでない。←ゴメン(^_^;)
義妹が美しくて、間違いなく王子を魅了するって分かっているなら、会わせた方が得策ではないかなぁ。
辛く当たったところで、自分たちが選ばれる保証は無いわけだし、それなら義妹でも、お城に上がれば、その家族は、無視できない存在になるわけだし、血の繋がらない妹を、親切にしていたってことで、美談にすることも出来たんじゃないかと。
個人的には、この家族はもっと盲目なアホ集団だったっていう方が、スッとするんだけど。
この話はあんまり好きでない。←ゴメン(^_^;)
Re:こんにちは
御伽噺通りの典型的意地悪姉さんの方がよかったっすか?(^^;)
確かに童話ってこういう行動を取った方がいいのに、みたいな場面、ありますよね~。
楽な暮らしをしたいだけなら、義妹を差し出す手もあるんだけど……やっぱり嫉妬もあるかと?
確かに童話ってこういう行動を取った方がいいのに、みたいな場面、ありますよね~。
楽な暮らしをしたいだけなら、義妹を差し出す手もあるんだけど……やっぱり嫉妬もあるかと?
Re:こんにちは♪
はい、意地悪姉さん側から見てみました(^^;)
もうちょい意地悪な方がよかったかも?
もうちょい意地悪な方がよかったかも?
こんばんは、かな?
「魔女に仕掛けさせた毒~」というところで、『白雪姫』とのミックスかな? と思いましたが、そうじゃなかった!
身体張ってるなぁ、継姉の妹ちゃん。
そもそもの『シンデレラ』は、継母と継姉が死んじゃうんでしたっけ。
一時期は「本当は怖いグリム」って流行りましたね。
身体張ってるなぁ、継姉の妹ちゃん。
そもそもの『シンデレラ』は、継母と継姉が死んじゃうんでしたっけ。
一時期は「本当は怖いグリム」って流行りましたね。
Re:こんばんは、かな?
流行りましたよね~。『本当は怖い童話』みたいの。
時代によって変遷を重ねてるけど、元々の話は案外残酷だったり……(>_<)
『眠り姫』なんかも目が覚めてめでたしめでたし……の後、全然めでたくない続きがあったりするし~☆
時代によって変遷を重ねてるけど、元々の話は案外残酷だったり……(>_<)
『眠り姫』なんかも目が覚めてめでたしめでたし……の後、全然めでたくない続きがあったりするし~☆
Re:こんばんは!
嫉妬は怖いですよ~☆
魔法使いのお婆さんがすっかり怖い人に……(^^;)
魔法使いのお婆さんがすっかり怖い人に……(^^;)
Re:お姉様
切り口、ざっくりと変えてみました(笑)
結局義姉にはハッピーエンドにはならないんだけど☆
結局義姉にはハッピーエンドにはならないんだけど☆