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一緒に帰ろ 一緒に帰ろ
一人は危ない 一緒に帰ろ
節を付けて歌う様にそう言い、道の先に佇む女の子は僕をこう呼んだ。
「かおるちゃん」
転校して来たばかりの小学校の帰り道。今時こんな所があるんだと感心する程の、竹林に囲まれた細い道。丸で周囲を囲む竹の様に真っ直ぐで、見通しはいいんだけど、時折風に揺らぐ枝葉がざわざわと音を立てるだけで、車の音はしない。多分、入っても来られないんだろう。都会育ちの僕にはちょっと、寂しくて怖い。
未だ一緒に帰る程親しい友達も居なくて、ちょっと早足で通り抜けようとしていた時に、その女の子は突然、道の先に現れたのだった。見た所僕と同じ、小学校三年生位。
そして明らかに僕に呼び掛けた。
一緒に帰ろ 一緒に帰ろ
一人は危ない 一緒に帰ろ
でも、と僕は頭を振った。
「僕は『かおる』なんて名前じゃないよ。人違いしてるんじゃないの?」
僕の名前は二宮陽太。新しい学校でもちゃんと自己紹介したよ? 尤も、この女の子を学校で見た覚えはない。
だけど、女の子は聞いているのかいないのか、やっぱりさっきの節を繰り返す。
一緒に帰ろう、かおるちゃん、と。
「だから、かおるちゃんじゃないってば」何となくその様子に不審なものを感じ、声に焦りが出る。「君、誰?」
答えはない。
やっぱり僕を見詰めて、かおるちゃん、と呼び掛ける。
僕は気味悪くなって、思わず後退りした。女の子は僕を見ている――けれど、本当に僕を見ているのか? 何か、違うものを見ているのじゃないか?
この脇道も無い竹林に囲まれた一本道で。
と――。
「何してるの?」
「うわぁ!」
背後から声を掛けられて、思わず僕は飛び上がった。相手も僕の驚き様に吃驚して、きゃっ、とか声を上げている。それでも直ぐに微苦笑を浮かべて、驚かせてごめんと、彼女は言った。
彼女――確か同じクラスの……。
「山下さん」僕は肩の力を抜いた。「こっちこそごめん。山下さんもこっちなんだ?」
「うん。それより、どうしたの? 道の真ん中で一人でぼうっと突っ立って」
一人? 彼女の言葉に、僕は首を傾げてしまう。さっきも言った様にこの道は真っ直ぐで見通しはいい。やや距離はあっても、僕の前に立つ女の子が見えない訳はないのに。
そう思いながら振り返った道の先に、しかしさっきの女の子の姿は無かった。
狐に摘まれた気分で、僕は目を丸くした。真っ直ぐの道の先は未だ続いている。このやり取りの間に駆け抜けてしまったと言うのだろうか?
「どうしたの?」訝しげな顔をする山下さんに、僕は先程の事を話して聞かせた。
「ああ、その子」一通り話を聞き終えて、山下さんは事も無げにそう言った。
「知ってるの? やっぱりうちの学校の子?」
「相手しちゃ駄目よ。もう、死んでるから」
え……?
茫然とする僕に、彼女はかつてこの道であった事を話してくれた。
「昔、うちの学校にとっても仲のいい女の子と男の子――かおる君って子が居たんですって。二人はいつも一緒にこの道を通って登下校していた。けれどある日、女の子が学校の用事で遅くなって、かおる君一人で帰ったの。そして……この道に入る所迄は近所の人に目撃されていたそうよ。だけど、その先を見た人は居ないの。行方不明になっちゃったのよ」
ざわざわ……葉擦れの音だけが響く道の真ん中で、僕は周囲を見回した。視界の殆どを占める竹林。上を見ても真っ直ぐ伸びたそれらが押し被さってくる様で、不安を煽る。
「この辺りの竹林を中心にかなりの捜索がされたんだけど、結局かおる君は竹林の奥深くで、遺体で見付かったそうよ。何でもちょっとした洞窟があって、その中に居る時にそれが崩れたらしいって。女の子にさえ秘密の場所だったみたいで、中には彼の宝物や、彫り掛けの木のブローチがあったそうよ――もしかしたら、女の子へのプレゼントを、こっそり作っていたのかもね」
そうか、だから仲のいい女の子を待つ事もせずに、先に学校を出たんだ。
でも、それはもう三十年も前の話、と彼女は言った。
「女の子はそれでも登下校の度にこの竹林で彼の姿を捜して……。心配した親御さんがこの街から離れた方がいいだろうって、転校させたんだけど、その先で病気で亡くなったそうよ」
それ以来、この道では一人で帰る子供が居ると、時折ああして現れるのだそうだ。
「一緒に帰ろう……って、一緒に行ったら、どうなるの?」
「……消えちゃうって言われてるわ。幸い、私の知っている限りでは誰も付いて行った人は居ないけれど」
ごくり、と僕は息を飲んだ。
「だから」山下さんはふと、僕を見て微笑んだ。「一緒に帰ろう?」
以来、僕はこの道を一人では通らないようにしている。
―了―
どっちと一緒に帰るかは貴方次第!?(^^;)
はずれだけど当たり(笑)
身を案じて現れる幽霊なら、付いていっても大丈夫そうな気もするけどな。
でも、そんな事件があったら、竹林が大規模に伐採されそうなもんだが。
今時の親なんて、自分の子供のことしか考えてないしなぁ。(笑)
GPS携帯持たすとか、一緒だと思うけど。
常に肌身離さず持っていられるなら兎も角、却って、下手に安心して、事件に巻き込まれかねない。
そしてそのつけがいつか子供達に回って来るのです(笑)
景色としては清々しくていいんだけど、時に……☆