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昨日、長年の禁を破って迄、飲酒したかったのが嘘の様に、私は酒に興味を失っていた。
尤もかつて友人に勧められて一度飲んだ切り、酒から離れた私にとっては既に今が常態で、昨日の酒への渇きが異常だったのだ。
ワイン、ブランデー、日本酒、焼酎……何でも構わなかった。兎に角「酒が飲みたい!」と強く思ったのだ。どうにか、堪えたけれど。
目の前にずらりと酒が並んでいた訳でもない。無論、匂いさえ嗅いでもいない。
だのに、一体何が引き金となったものか、私は酒を欲したのだ。
危うくもう少しで母にあの忌まわしい言葉を言う所だった。
それを言いたくない――言う様な男になりたくなくて、付き合いの悪い奴と言われつつも酒を断ったのに。
「酒を買って来い!」それが父の口癖の様なものだった。所謂アル中で、仕事から帰れば酒、そして酒が切れると機嫌が悪くなる。かと言って飲んでいれば酒乱のどうしようもない男だった。母や私は昼夜を問わず、酒を買いに走らされ、彼の暴力に怯えていた。
そんな彼は反面教師でもあったのだろう。
早く父の元から母を伴って離れる事を目標に私は勉学に励み、就職した。
母はそれでも父を一人にする事をかなり渋っていたが、私はそれを説き伏せて、安アパートではあったが心安らかに過ごせる新居へと、二人で移った。
父を捨てて。
そんな人間が居た事さえ忘れようとする様に、私は仕事に励み、母と共に幸福な暮らしを享受した。
だのに、私の中には確かにあの男の遺伝子が潜んでいたらしい。
若い頃、友人に誘われて飲んだ酒の席で、私は醜態を晒してしまったのだ。尤も、あろう事か正体を失くしてしまい、私自身は覚えさえなく、翌日の周囲の冷めた目と、友人からの忠告で知ったのだが。酒には気を付けた方がいいぞ、と。
以来、私は酒を断った。
少し位なら、とは友人達も言ってくれたのだが……私にとっては、あの男の様になる事は最も忌むべき事態だった。例え一夜の事であっても。
そう、あれ以来、私は酒への興味を失くした。
元々父への反感があり、父を狂わせる酒への反感もあった所為だろう、私には禁酒は容易かった。
その私が何故今になって……。
そう、首を捻っている私に、母が朝の挨拶もそこそこに――友人から聞いた話だけれど、と前置きしつつ――告げた。
昨日、父が死んだ、と。昔、三人で住んでいたあの家で。
偶々訪ねた友人氏が遺体を発見し、通報してくれたそうだ。死亡推定時刻は、昨日私が酒を欲したのと同じ頃合いだったと言う。
「そうか……。父さんが……」私は茫然と呟いた。
言葉にし切れない、この心の中にあるのは何だろう? 完全に縁が切れたという安堵? 彼を捨てた事への後悔? 一人寂しく死んだであろう父への嘲り? それとも憐み?
そして……恐怖?
出席そのものは断った葬儀の日、私は納骨も済み、人影の去った墓所で、父の墓に酒を供えた。
「あの日……あの酒への欲求は父さんのものだったのか? 俺を依り代にして、未だ酒を飲む心算だったのか? 俺を……自分みたいな男にしたかったのか?」
父の墓を前にしての蔑みの声音。私だとて、たった一人の父の墓前なのだ、もっと別の事を話したい。だが、碌な思い出がないのも事実だった。何より、あの日のあれは……。
「俺は父さんにはなれない。代わりに飲む事も出来ない」私はきっぱりと告げた。「さようならだ、父さん」
そうして背を向けた私の耳に、ぽつり、と届いた言葉が一つ。
〈最期に一度だけ、お前と飲みたかったなぁ……〉
一瞬だけ立ち止まり、しかし私は振り返る事なく墓所を後にした。
それ以来、酒への欲求はまた完全に私の中から去った。
しかし……最後の最後迄、彼に応える事の出来なかった私は親不孝者だろうか?
―了―
暗い?(--;)
こんなこといったら偏見みたいだけど、
おやじみたいにはなりたくないって
いってた人に限って、どこかで足を踏み外すと
おやじの二の舞になっちゃうことが多いんですよね。
私も母みたいになりたくないって思ってたのに
どんどん似てくるしーw
寧ろ自分にも親に似た所があるから、余計に無意識の内に二の舞になりたくないと思うのかも?
う~ん、それ言われると弱いねぇ~、
で一緒に酒を酌み交わしたら豹変してしまって、
あぁ~飲ませなけりゃ良かったって事になりそう
だしねぇ~!
私は酒乱ではないけど記憶が途切れた経験がある
もので怖いです。
酒は百薬の長とも言いますけど、やっぱり何事も程々☆
↑これ、どう読むの?
またしても、これは私のことか?(笑)
実は、私の父も、酒に溺れた人で・・・。
荒れてはいなかったけどね。
一緒に旅行したこともなければ、外食したことも無い。
キャッチボールもしたことが無い。
二十歳の時に死んだので、一緒に飲んだこともありません。
でも、特に禁酒はしてないけどね~。
割りと酒には強いし。
ただ一度だけ、正体を失って、家まで担ぎ込まれたことがある。
以来、過度の飲酒は断っておりまする~。
助詞が抜けてる(汗)
>またしても……。
あれ~?(^^;)
過度の飲酒は酒乱の気がなくてもお控え遊ばせ~☆
うちは女ばかり、然も父は殆ど飲まない人だったので私にもよく解りませんが(笑)
大事な席でやらかしたら、翌日以降の周囲の目が痛かろうし(笑)