〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「最近、悪い夢ばかり見るんだ……」憂鬱そうに枕を抱えて、荘太は言った。僕より一個下、小学六年生の従弟だ。
正月だから、と集まった父方の祖父の家。古い家だけれど、マンションの部屋なんかより、一部屋一部屋がずっと広い。僕の家も叔父の家も子供は一人だけ。だから「偶には子供は子供同士で」なんて言って僕達に一部屋あてがわれたんだ。ま、僕は大人達が遅く迄部屋に戻らずに呑む口実なんじゃないかと思ってるけどね。だって、父さんは「此処なら枕投げして遊んでもこっちには聞こえないぞ」なんて煽る様な事を言ってたけど、それって逆に向こうで騒いでても聞こえないって事じゃないか。
それは兎も角、二枚の布団が敷かれた部屋で、枕投げをするでもなく持って来たゲームをしたり、本を読んだりしてたんだけど、そろそろ眠くなったから……と言った所でさっきの荘太の発言だった。
正月だから、と集まった父方の祖父の家。古い家だけれど、マンションの部屋なんかより、一部屋一部屋がずっと広い。僕の家も叔父の家も子供は一人だけ。だから「偶には子供は子供同士で」なんて言って僕達に一部屋あてがわれたんだ。ま、僕は大人達が遅く迄部屋に戻らずに呑む口実なんじゃないかと思ってるけどね。だって、父さんは「此処なら枕投げして遊んでもこっちには聞こえないぞ」なんて煽る様な事を言ってたけど、それって逆に向こうで騒いでても聞こえないって事じゃないか。
それは兎も角、二枚の布団が敷かれた部屋で、枕投げをするでもなく持って来たゲームをしたり、本を読んだりしてたんだけど、そろそろ眠くなったから……と言った所でさっきの荘太の発言だった。
「悪い夢? 寝言ででも騒いでれば起こしてあげるよ」いい加減眠くなっていた僕はそう言って苦笑した。どんな夢か気にならなくはなかったけど、眠気を吹き飛ばす程には好奇心を擽られなかった。「電気消すよ?」
けど、消灯後も荘太は布団の上に半身起こした儘、音を抑えてゲームをしている。煩くはないけど小さい画面からの明かりでも、暗い中では結構目立つものだな。
「荘太、寝ない心算か?」少し苛付いて、僕は半身を起こした。
「だって……最近ずっとなんだよ。それに今日はお正月だし……初夢で悪い夢なんか見たら、縁起悪いじゃないか」
縁起担ぎかよ。子供の癖に。いや、一個しか違わないけど。
「どんな夢なんだよ」僕は溜め息をついて、遂にそう訊いた。「そんな縁起悪い夢って。お化けにでも追っ掛けられるのか?」
「お化けじゃないよ」僕の声に揶揄の響きを感じ取ったか、口を尖らせて荘太は言う。「追っ掛けて来るのは……赤鬼みたいになったお父さん……」
「は?」僕はぽかんと口を開けてしまった。
よくよく聞けば、赤鬼の様に顔を真っ赤にした叔父が荘太達を追い掛けて来る、と言うのだった。
荘太達――詰まり、荘太と叔母、そして何故だか僕達も居たと言う。
「何で僕達迄そんな夢に……出演料取るぞ?」
冗談を言っても、荘太はやはり浮かない顔で頭を振るばかり。
「それで? 最後にはどうなるんだ?」
「解らない。いつの間にかまた深く眠ってしまうのか、追い掛けられて……暗い部屋に追い詰められた所から、全く覚えが無いんだ。何回も見てるのに……」
暗い部屋、と聞いて何気無く僕はこの広くて暗い部屋を見回してしまった。
僕達が揃っていて、暗い部屋があって――確かに何だか、縁起が悪い。
いつの間にか眠気がどこかへ行ってしまっていた。
「け、けど、只の夢だろ? 叔父さん優しい人だし、赤鬼みたいになるなんて……」それでも笑い飛ばそうという努力はする。
「でも、お酒を沢山飲むとちょっとした事でも怒って……」
そう言い掛けた時だった。廊下の先の座敷の方から、何かが引っ繰り返る様なけたたましい音が聞こえてきたのは。
僕達は思わず顔を見合わせた。ここ迄聞こえるっていう事は、かなりの音だ。詰まり、例えおっちょこちょいの母さんが湯飲みをひっくり返したとしても、こんな音にはならない。
足音を忍ばせつつ、僕達は廊下に面した襖に走った。そっと開けてみると、音は未だ続いている。怒鳴り声も、混じっている様だ。
「真逆……正夢って事ないよな?」荘太を振り返るけど、従弟は自分でも解らないと激しく頭を振るばかりだ。
その間にも、音はこちらに近付いてくる様だった。どたどたという遽しい、数人の足音と共に。
見れば廊下の角を、母さんと叔母、祖父や祖母が父さんに庇われながら駆けて来る。
そしてその後から現れたのは――真っ赤な顔をした、叔父。いつもの優しい表情は何処へやら、柳眉を逆立て、歯を食い縛り、その顔は確かに赤鬼の様。
母さんと叔母は僕達を庇う様に部屋に押し込み、祖父達が転がり込み、殿を勤めた父さんはその儘盾になってやるとばかりに、襖の前に立ちはだかった。
僕は母さんに抱きすくめられながらも、父さんに赤鬼と化した叔父が掴み掛かるのを見た。
これは荘太の見た夢? 正夢だったって言うのか?
ああ、いっそこれが夢なら……夢だったら……。
悪夢なんて……。
「獏にでも食われてしまえ!」
そう怒鳴った直後だったろうか、僕は意識を失った。
翌朝、僕は荘太に身体を揺すられて起こされた。
「慶兄ちゃん、怖い夢でも見たの?」起きるなり、笑い混じりにそう訊かれた。「昨夜、何だか怒鳴ってたよ? よくは解らなかったけど」
僕はぽかんとして、昨夜と何の変わりも無い部屋を見回した。僕達の寝相の悪さから来る布団の乱れ以外、争った跡も無い。
「荘太……僕達、昨夜……いや、叔父さん達は?」
「さぁ? さっきお母さんが起こしに来たけど……どうかしたの?」荘太は小首を傾げる。
「いや、お前昨夜夢の話とかしてなかったか?」
「したけど……あれ? いつの間にか寝ちゃったみたいだね」
昨夜の「事件」は覚えてないのか? それともそれ以前の「悪夢」とごっちゃになっているのか?
それとも――昨夜のアレが、夢だったのか?
釈然としない儘、僕は寝具を畳んだ。
と、枕の下からひらりと紙が舞った。見れば余り上手とは言えない絵で、何かの動物らしいものが描かれている。
「何だ? これ」
「ああ、それ、お祖母ちゃんがお布団敷いてくれた時にお呪いだって。昔は悪夢除けに獏の絵を枕の下に忍ばせたんだよって言ってた」
僕は獏だと言うその絵を見詰めた。
夢の中で思わず怒鳴った言葉が蘇る。
「もしかして……お前が食ってくれたのか?」
そんな呟きに、そいつは答えてはくれなかったけれど。
―了―
皆様、よい夢を~( ̄ー ̄)
けど、消灯後も荘太は布団の上に半身起こした儘、音を抑えてゲームをしている。煩くはないけど小さい画面からの明かりでも、暗い中では結構目立つものだな。
「荘太、寝ない心算か?」少し苛付いて、僕は半身を起こした。
「だって……最近ずっとなんだよ。それに今日はお正月だし……初夢で悪い夢なんか見たら、縁起悪いじゃないか」
縁起担ぎかよ。子供の癖に。いや、一個しか違わないけど。
「どんな夢なんだよ」僕は溜め息をついて、遂にそう訊いた。「そんな縁起悪い夢って。お化けにでも追っ掛けられるのか?」
「お化けじゃないよ」僕の声に揶揄の響きを感じ取ったか、口を尖らせて荘太は言う。「追っ掛けて来るのは……赤鬼みたいになったお父さん……」
「は?」僕はぽかんと口を開けてしまった。
よくよく聞けば、赤鬼の様に顔を真っ赤にした叔父が荘太達を追い掛けて来る、と言うのだった。
荘太達――詰まり、荘太と叔母、そして何故だか僕達も居たと言う。
「何で僕達迄そんな夢に……出演料取るぞ?」
冗談を言っても、荘太はやはり浮かない顔で頭を振るばかり。
「それで? 最後にはどうなるんだ?」
「解らない。いつの間にかまた深く眠ってしまうのか、追い掛けられて……暗い部屋に追い詰められた所から、全く覚えが無いんだ。何回も見てるのに……」
暗い部屋、と聞いて何気無く僕はこの広くて暗い部屋を見回してしまった。
僕達が揃っていて、暗い部屋があって――確かに何だか、縁起が悪い。
いつの間にか眠気がどこかへ行ってしまっていた。
「け、けど、只の夢だろ? 叔父さん優しい人だし、赤鬼みたいになるなんて……」それでも笑い飛ばそうという努力はする。
「でも、お酒を沢山飲むとちょっとした事でも怒って……」
そう言い掛けた時だった。廊下の先の座敷の方から、何かが引っ繰り返る様なけたたましい音が聞こえてきたのは。
僕達は思わず顔を見合わせた。ここ迄聞こえるっていう事は、かなりの音だ。詰まり、例えおっちょこちょいの母さんが湯飲みをひっくり返したとしても、こんな音にはならない。
足音を忍ばせつつ、僕達は廊下に面した襖に走った。そっと開けてみると、音は未だ続いている。怒鳴り声も、混じっている様だ。
「真逆……正夢って事ないよな?」荘太を振り返るけど、従弟は自分でも解らないと激しく頭を振るばかりだ。
その間にも、音はこちらに近付いてくる様だった。どたどたという遽しい、数人の足音と共に。
見れば廊下の角を、母さんと叔母、祖父や祖母が父さんに庇われながら駆けて来る。
そしてその後から現れたのは――真っ赤な顔をした、叔父。いつもの優しい表情は何処へやら、柳眉を逆立て、歯を食い縛り、その顔は確かに赤鬼の様。
母さんと叔母は僕達を庇う様に部屋に押し込み、祖父達が転がり込み、殿を勤めた父さんはその儘盾になってやるとばかりに、襖の前に立ちはだかった。
僕は母さんに抱きすくめられながらも、父さんに赤鬼と化した叔父が掴み掛かるのを見た。
これは荘太の見た夢? 正夢だったって言うのか?
ああ、いっそこれが夢なら……夢だったら……。
悪夢なんて……。
「獏にでも食われてしまえ!」
そう怒鳴った直後だったろうか、僕は意識を失った。
翌朝、僕は荘太に身体を揺すられて起こされた。
「慶兄ちゃん、怖い夢でも見たの?」起きるなり、笑い混じりにそう訊かれた。「昨夜、何だか怒鳴ってたよ? よくは解らなかったけど」
僕はぽかんとして、昨夜と何の変わりも無い部屋を見回した。僕達の寝相の悪さから来る布団の乱れ以外、争った跡も無い。
「荘太……僕達、昨夜……いや、叔父さん達は?」
「さぁ? さっきお母さんが起こしに来たけど……どうかしたの?」荘太は小首を傾げる。
「いや、お前昨夜夢の話とかしてなかったか?」
「したけど……あれ? いつの間にか寝ちゃったみたいだね」
昨夜の「事件」は覚えてないのか? それともそれ以前の「悪夢」とごっちゃになっているのか?
それとも――昨夜のアレが、夢だったのか?
釈然としない儘、僕は寝具を畳んだ。
と、枕の下からひらりと紙が舞った。見れば余り上手とは言えない絵で、何かの動物らしいものが描かれている。
「何だ? これ」
「ああ、それ、お祖母ちゃんがお布団敷いてくれた時にお呪いだって。昔は悪夢除けに獏の絵を枕の下に忍ばせたんだよって言ってた」
僕は獏だと言うその絵を見詰めた。
夢の中で思わず怒鳴った言葉が蘇る。
「もしかして……お前が食ってくれたのか?」
そんな呟きに、そいつは答えてはくれなかったけれど。
―了―
皆様、よい夢を~( ̄ー ̄)
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初夢
いつ見たモノなのかはっきり知らなくて…
検索してみてもどれ、って確定できないんだね(^_^;
この2日は余り良い夢を見ていない(ような気がする)ので
今夜は良い夢が見たいな~♪
巽さんも良い夢を(^_-)-☆
検索してみてもどれ、って確定できないんだね(^_^;
この2日は余り良い夢を見ていない(ような気がする)ので
今夜は良い夢が見たいな~♪
巽さんも良い夢を(^_-)-☆
Re:初夢
年越して初めて見る夢だとか、一日の夜から二日の朝に掛けてだとか、諸説あるみたいですね、初夢。
私は夢、滅多に見ない(覚えてない?)からねぇ(^^;)
つきみぃさんもよい夢を♪
私は夢、滅多に見ない(覚えてない?)からねぇ(^^;)
つきみぃさんもよい夢を♪
Re:こんばんは~
ドキドキしてくれましたか~(^-^)
姐さんもね~。
姐さんもね~。
こんにちは
どこから夢だったんだろう?
冒頭からかな?(笑)
獏に食われた瞬間から、他の人の記憶からは消えたのか~。(笑)
う~ん、そういえば、私も最近、夢見がよくないなぁ。
良く人に追いかけられる夢は見るね。子供の頃から。
必死になって逃げるんだけど、寝てる所為か、足が重くて動かない設定が多くて、必死に這って逃げたりするの。
汗かいている時も~。(苦笑)
冒頭からかな?(笑)
獏に食われた瞬間から、他の人の記憶からは消えたのか~。(笑)
う~ん、そういえば、私も最近、夢見がよくないなぁ。
良く人に追いかけられる夢は見るね。子供の頃から。
必死になって逃げるんだけど、寝てる所為か、足が重くて動かない設定が多くて、必死に這って逃げたりするの。
汗かいている時も~。(苦笑)
Re:こんにちは
私は追われる夢とかは見た事無いんですよね~。
落ちる夢は昔よく見てたけど。階段から落ちるとか。妙に落下感がリアルなの。最近は見ないな~。獏に食べられてるのかな(笑)
落ちる夢は昔よく見てたけど。階段から落ちるとか。妙に落下感がリアルなの。最近は見ないな~。獏に食べられてるのかな(笑)
こんにちは♪
家では何故か、2日の夜に見る夢が初夢だとか?
子供心に何でだろう?と不思議でしたがねぇ!
だって元旦が年の初めの第一日目なら、その晩に
見るのが初夢だよねぇ~!
ま、それはともかく何も夢は見ませんでしたぁ!
猫サマ達のおかげで夢さえ見ずに熟睡?のよう
です。(笑)
子供心に何でだろう?と不思議でしたがねぇ!
だって元旦が年の初めの第一日目なら、その晩に
見るのが初夢だよねぇ~!
ま、それはともかく何も夢は見ませんでしたぁ!
猫サマ達のおかげで夢さえ見ずに熟睡?のよう
です。(笑)
Re:こんにちは♪
諸説ありますね~、初夢。
私も夢、見なかったなぁ。見たけどまた熟睡して忘れたのかも知れないけど(^^;)
私も夢、見なかったなぁ。見たけどまた熟睡して忘れたのかも知れないけど(^^;)
Re:無題
帯紐? 何故に?(^^;)
夢ってやっぱり不思議ですね☆
夢ってやっぱり不思議ですね☆