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それで、私がその止む事なき好奇心の対象としたのは冬休み中の我が中学校。春には卒業だって言うのに、未だ見た事の無い部屋が結構あるし……。
そして私は担任の三沢先生との裏取引きに成功し――宿題をお正月迄に済ませるという難業を達成する代わりに――今日の朝から、校内に入れる事になったの。
三が日は先生達も殆ど居ない。三沢先生が辛うじて、居る位。だから先生もこの日がよかったし、私も人の居ない校内に興味津々だった。
「え? 先生も付いて来るの?」カメラを構えながらも、私は訊いた。
「当たり前や」関西から赴任して来た先生は、関西弁を使う。私達は時々面白がって真似してるんや。
「別に写真撮るだけですよ? 教室の物にも悪戯なんかしませんよ?」
「解ってるて。せやけど、校内に生徒がおる以上、その安全を確保する責任は先生にあんねん」未だ若い先生は真剣な顔で言った。「な? 解ってぇな、木之下」
仕方ないか、と私――フルネーム、木之下明美は頷いた。本来立ち入り禁止の所を譲歩して貰うのだ。こちらも譲る所は譲らねば。何より、責任感のある先生なのは、よく知っている事だもの。
「じゃ、校内一週ツアー、出発!」先ずは苦笑している三沢先生を写真に収め、私は号令を掛けた。
鉄筋コンクリートの三階建て校舎。造りはとってもシンプルで、よく言えばさっぱり、悪く言えば味気無い。
でもそれだけに、内包した各生徒や教師の個性が浮き出てくる。
一年生の教室の中には要領よく最低限の物しか持って帰っていない子の机や、本当に子供っぽい落書きのしてある机。
同じ落書きでも二年生の教室では、何だか内容がピリピリしてるものもある。メモ代わりの数式だったり、ストレス溜まってるのかぐしゃぐしゃっとした円だったり。そうかと思えば相合傘だったり。
三年生の教室ともなると、もっとピリピリした空気が、誰も居ないのに感じられる程だった。やっぱり受験生、ストレス溜まってるのね。って、私もだけど。
中には眉を顰める様な落書きもあった――所謂虐め的なもの。これは現像したら先生に渡す心算。
その先生は呆れ顔ながらも、私に付いてきてくれている。
続いては各移動教室。そしてその準備室。
七不思議の名所、音楽室に生物室。昼間の明かりの元で見ると、それ程怖くもない。それでも生物準備室の薄気味悪い標本の数々に、私は三沢先生に声を掛けた。
「先生、こういうの平気ですか?」
「ん? いや、正直苦手やわ」はにかむ様に苦笑する。「蛙とか、嫌やろ?」
社会科の準備室は地図や年表が一杯、とても几帳面に整理されていた。
「先生の部屋もこんなに綺麗に整頓されてます?」
「え、いやぁ……。片付けなあかんとは思うてるんやけど……ゴミが溜まるんやわ。時々捨ててるんやけどなぁ」
美術室は絵の具や木の匂い。机の落書きもカラフルだわ。準備室には先生が描き掛けてるのか、静物画。
「先生は絵とか描かないんですか? 趣味は?」
「昔から絵は苦手やわ。赤と黒ばっかり使うてしもうて子供の落書きみたいになるんや」
家庭科室はミシンにも布が掛けられ、机にはチャコペンの落書きと、針で突いたのかぷつぷつと、穴。
「先生、独身ですよね? お裁縫とかどうしてるんですか?」
「自分でするで。ほつれた物縫う位やったら」
「へぇ。じゃ、お裁縫道具とか持ってるんですね」
「そうや。マチ針とかも色々揃うてんで」
私は苦笑してしまった。
普段は当然入れないし、余り近寄りたいとも思わない校長室。矢鱈と飾られた表彰状や盾が、在校生である私にさえ、威圧的に見えた。
「何や落ち着かへんなぁ」先生迄、そんな事を言い、私はまた笑う。
「先生でも?」
「先生やから」
教師と言えども、只生徒の学力アップや精神面だけ考えていればいい訳ではないらしい。
そんな会話を続けながらも、校内を一渡り、回ってしまう。カメラはデジカメだから、未だ余裕があるんだけど――もう、写す場所は無い。
これ迄のショットを確認しながら撮り残しが無いか、思案する私の背後から、先生がカメラをひょいと覗き込む。私は慌てて、撮影モードに戻した。
「何や、見せてくれへんのか?」
「後で! ちゃんとプリントしてから見せようかと……」私は慌ててそう口走る。
でも、本当は先生に見せる気なんて無い――見せられない。
だって、どのショットにも、それとなく先生が入っている。その様に撮ったのだもの。今回の企画自体、好奇心の儘に色んな先生を撮って、色んな事を質問して、話して……それが目的だったんだもの。
約束さえしてしまえば、先生が断る事は無い事も、責任感の強い先生が私一人で校内をうろつかせない事も解っていた。
だから――でも、思っていた事の半分も、私は訊き出せずにいた。
蛙の死体、生ゴミ、趣味の悪い落書き、大量のマチ針――それらが関わった、私のクラスメートへの虐めの事。それに先生が関わっているのかどうか。
特に仲がいい訳でもない、只のクラスメート。
でも、ある日校庭から放課後の教室を何気無く写した写真に、三沢先生が彼女の机に教卓にあった筈の花を供えている姿が刻まれていた。それ以来、私は先生を疑っている。
先程確かめたショット、その殆どには、先生の酷薄な笑みが収められていた。私が写しているとは思っていない、あるいは彼の本当の顔が。
それを見て、私は好奇心だけで動いた事を後悔していた。
若手で人気のある先生の意外な歪んだ横顔。でも、好奇心で追い掛けるにはそれは冷た過ぎて、そしてクラスメートに申し訳なかった。
私は先生に礼を述べて、学校を出た。
プリントした写真は一筆を添えて、あの放課後の写真と共に、先ずは校長先生へと送り付けた。三沢が落ち着かないと言った部屋の主。
彼がどうにかしてくれなかったら?
……私の手元には未だ未だ、写真がある。
これを表に出せば、私がやった事も三沢にばれるだろうけれど……好奇心――面白半分に関わった代償と思えば、残りの二箇月なんて安いものだわ。
そう、春には卒業だもの。見ているだけも、卒業します。
―了―
相変わらず夜霧の話は訳が解りません(--;)
好奇心っぽい開放って何じゃい!?
良識のある校長先生ならいいけど。。。
何箇月かの講習を受けて復帰……とかって、それで性根が治るとも思えないけど。何より復帰を望む時点で反省が見えないと思う。
校長は……自分の学校を誇りに思っているだけに厳しい先生ですよ~(^^)
かめちゃん、この間は亀井君にしたからねぇ(^^;)
うー、生徒間とイジメだけでもつらいのに、先生までが加担していると悲惨の一言ですよね。
明美ちゃんの卒業試験、校長先生が受け止めてくれるといいな。何よりの卒業証書ですよね。
淡い恋心、考えなくもなかったけど、どっか行った(笑)
夜霧、やっておしまい(笑)
首の代わりに先生上げるから、好きにしていいよ(黒)
虐めって、なくならないね、先生までそれに加担してるなんて最悪だよね!
後、見て見ぬふりする先生も困ったものだよね、
保身に走らない校長先生であって欲しいですネ!
卒業を前に、憧れの先生と思い出を写真に焼き付けて……なんて可愛い展開には私の脳内ではなる筈も無く(笑)
大丈夫、校長の所には夜霧を派遣しといたから(^^)
ちゃんと片を付ける迄、魘されまくるよ?
moonさん、ごめんなさーい(-人-;)
ふふふ、そういう人間には勿論天罰を……
先生裏話は色々あるけどどっちかというとひいきとかってのが多いからなぁ聞こえてくるのは…
担任って一国一城の主、みたいなところがあるし、権力あるように「勘違い」してる輩が多い(▼▼メ)
なぁんて…私が言って良いのだろうか??(^◇^;)
コレで解決されて、このイヤなヤツが罰せられる結末を祈ります(^^)
自分にその生徒の感覚が見えないからって「お前は無責任やな」とか、生徒達の前で堂々とのたまった〈ベテラン〉教師も居ましたよ。そういうのも虐めの元になるっちゅうねん!
勘違いでも生徒には影響力あるんだから、それこそ自分の言動には責任持って頂きたいものですねぇ。
これは現実世界の校長一般の信用度が低いという事かな?
どっかのお役所みたいに体面だけ気にして、臭い物には蓋――そんなイメージなのね。
全国の校長先生! 情けないぞ!?
学校怪談物語か? そんなワケないかぁ~^^
なにぃ~ 先生が着いてくるぅ~ 彼女の操が危ない!!とか 一杯想像しながら読みました
結末は 想像をはるかに超えたものでしたけどね・・・さすがぁ 巽さん
「了」の文字を見たとたん この続きを読みたくなりました
校長も信用無さげ。
こんな所に現代の世相が表れてるよ~(大袈裟)
先生じゃなくても虐めに加担しちゃいかんぜよ!
先生だったら最悪、最低ですが(--;)
子供は言う事聞かないし。
文部科学省の教育方針はころころ変わるし。
ほんと、今の世の中いったいどうなってるんですかね
まさか校長先生まで「見てみぬふり」するとかいう展開にならないですよね?
握り潰そうなんてしたら、彼女、徹底抗戦しちゃいますよ(^_^;)
それ以前に校長、夜霧に脅される?