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美世子、というのがこの部屋の主、詰まり今回の酒宴の主賓だった。
「ああ、それ? 勿論あたしのじゃないわよぉ」既に酔いが回りつつあるのか、妙に間延びした声で彼女は答えた。「そんな古いの、持って来る筈無いじゃなぁい」
「じゃ、これは? 元からあったの?」私は訊いた。
「だとしても何でそんな物が掛けっ放しなんですか?」大学の後輩、千佳が首を傾げる。
「いいじゃないの、別に」
「でも、前の住人の残した物なら、次が入る前に不動産屋かオーナーが処分するものじゃないんですか? 普通」
「んー、それ、外しちゃ駄目なんだってぇ。あ、捲るのも駄目だよぉ?」
「……何? その怪しい条件」私は眉を顰めて、やはり不審げな千佳と顔を見合わせた。
「ここに入居する時にねぇ、そう言われたのぉ。それさえ守ればなぁんとも無いからってぇ」
「何とも無いって何ですか? 守らなかったら何があるって言うんですか?」千佳が常識的に突っ込む。
美世子は両手の甲をこちらに向けて揃えた。舌迄出して、お化けのポーズ。
「千佳ちゃん、こいつ相当酔ってるよ」私は頭を抱えた。
「そうみたいですね。さやか先輩」深く頷いて私に調子を合わせる千佳。
「本当だもの」
「それらしき理由は聞いたの? 自殺者が出たとか……。そういうのは説明責任があるんでしょ?」私は問い質す。
「聞いたよぉ。やっぱり自殺だってぇ。その年の十二月、ここに一人で住んでた女の子が窓から飛び降りてぇ……」美世子は事細かに聞いたのか、南向きのベランダの付いた窓を指差した。四階建ての最上階。此処から落ちたのなら、即死だったろうか、それとも……? 微妙な所だ。「だからぁ、角部屋なのにすっごく安いのぉ」
「大体、何でそんな話を聞かされて、此処に入る事にしたの?」私は呆れる。
「安かったんだもぉん。この部屋に出るって知られたら、他の部屋にも入居する人が減るからぁ、口止め料分、毎月の家賃も負けてくれるって言うしぃ」
私達は呆れ顔で彼女を見るしか無かった。
「だぁいじょうぶ! あたし、そういうの信じてないもぉん!」
「でも、薄気味悪くないんですか?」千佳は眉を顰める。
「酷いな」
「私も信じちゃいないけど、やっぱりいい気はしないわよね」私はまた、千佳と顔を見合わせる。
「貴女が住む訳じゃ無いじゃない」
「でも、美世子、あんたの好奇心で、これを捲らずにいられるの?」私はちょっと、茶化す様に言った。そういう私も好奇心が疼いている。酔いも手伝ってか、指先がカレンダーの端に掛かっている。
「捲っちゃ駄目」
一月毎のカレンダーは残り一枚。一九九X年の十二月の儘。
「駄目だよぉ? 捲っちゃぁ」美世子は呂律が回らないながらも言う。「信じてはないけどぉ……何かあったら嫌じゃなぁい」
「はいはい」やっぱり気味が悪いと思ってるんじゃない、と内心苦笑しながら、私は手を放した。
その飲み会の翌朝――結局私達は美世子の部屋に泊まったのだ――私達は何と無く回していたビデオを見直して、顔色を失くした。
私、千佳、そして美世子以外の知らない声の入ったビデオ。
「カレンダーを捲らなくても大丈夫じゃないじゃない!」二日酔いの頭を抱えながらも、美世子は怒鳴った。
家賃を更に下げさせようか、それとも別の部屋を用意させようかと悩んでいる彼女を余所に、私と千佳ちゃんは件のカレンダーを見に行った。
一旦顔を見合わせ、せーので捲る。美世子には転居を勧める心算だ。
薄い紙の捲り上げられた後には、このマンションの角部屋だけに存在する小さな窓。この外側には非常階段が壁を這っている筈だ。
どうしてこれを隠していたのだろう?――そう思った次の瞬間、千佳がひっと息を呑み、私もそれに気付いた。
窓に、張り付く様に両手を広げた女の影に。
それは強化硝子に染み付いた様に、それでいて生々しく、私達を睨み据えていた。
どうやら、彼女は即死ではなく、苦しみながら此処迄上り詰め、そして息絶えたらしい。助けを求めたのか、それとも只、帰る事しか傷付いた頭には無かったのか……そこ迄はその影は教えてはくれなかった。
だが、そのどちらだったとしても……。
「生きたかったんでしょうに……」私は言い様のない憤りを噛み締めた歯の間から絞り出し、思わずカレンダーを毟り取った。「死を目の前にしなきゃ、本当の自分の望みが解らないなんて、人間って……つくづく、バカね。例え一人でも、此処が家だったんでしょう? 此処で生きたかったんでしょう?」
でも、此処はもう死者の居るべき場所じゃない。
だから――。
「そこでそんな姿晒してないで! さっさと成仏でも何でもしちゃいなさい! 生きて此処に帰って来なさいよ!」
生まれ変わりがあるものだとしても、何処に生まれるのか、いつになるのか、此処を覚えているのか、そしてその時此処はあるのか……全ては未定だけれど。
一九九X年、十二月。そこで留まっているよりはずっといい。
結局美世子はビデオを盾に別の部屋を格安で用意させ、転居。
だから部屋へ行く事はもう無くなったけれど、引っ越しの手伝いの日、カレンダーという目隠しを失った影は、少し、薄くなっていた気がした。
* * *
そして二十年後、大学生になった私の娘はあのマンションの、あの部屋への入居を望んでいる。
大丈夫。今度は一人にしないからね。
―了―
幽霊マンション(元?)
皆様、去年のカレンダーはもう残っていませんか?(笑)
何故か怖い話を見聞きした時って条件反射みたいな感じで後を振り返ってしまうもんだね!
怖がりなんだけど好きなんだわぁ~!
カレンダーは古いのは全部、処分したと思う。
しかし今夜、夜中にトイレに行きたくなったら
どうしよう・・・・・・
家には去年一年間ずっと捲られる事のなかったカレンダーが二冊程ありました!(笑)ずーっと、一月!
どんだけずぼらやねん(--;)
彷徨ってた彼女は、さやかさんのようなお友達が欲しかったのかも。だから、こうして…?
それにしても、このマンション、築何年になるのやら(笑)。
古いカレンダーをいつまでも掛けとくもんじゃないよ、って言われたことがありますが、まさかこういうことじゃないよね…?
ビデオは何とな~く回してて、翌日見返したら声が――所々誰が喋ったとも書いてない台詞がありましたよね?――入っていた、という話。特に霊感体質でもない……と思う。
古いカレンダー……まさかね(^^;)
でも、四階迄昇れるのかな?
それだけ必死だったのかしら?何故部屋に執着したのか?そこら辺が少し気になった。
四階まで階段昇る体力が有るなら、助けを呼べば助かったのかも…と思う。
ラストに出て来た娘さんは無事に幸せの内に部屋を後に出来ると良いね。それとも意味が解らずとも部屋に居続けるのかな?
かなり入居時には老朽化してるだろうけど、若い娘がそこら辺気にしないのかな…やっぱり
等と、ごちゃごちゃ考えてしまった。
まとまりがなくてゴメン(___)
自殺した彼女は部屋=生きる場所と捉えていたので、いざ死を前にして……という事です。
ラストの娘さんは大丈夫でしょう(^^)
さやか母さんが付いてますから。
んー、じゃあ、ありうべからざるモノに睨まれてもビビるよりも憤ったさやかさんのオトコマエな剛毅な姿ってことで(笑)。説得?で成仏したらしい女性は、でもやっぱり嬉しかったんやと思う。というより、カレンダーなんかで隠してないで、誰かに叱って欲しかったんやないかなと私は受け取りました。
叱って欲しかった――そうかも知れません。でも普通の人はやっぱり怖い、気味悪いが先に立ってしまうので……。これ迄叱ってくれる人が居なかったんでしょうね。
オトコマエでないと☆
カレンダーは誰の?
前入居者の女性が非常階段からの目隠しをかねて、窓の所にかけてたのを大家がそのままにしたの?
大家は何か別の物で窓を塞ぐ事さえためらった跡…。
そんな部屋を貸したらあかんでしょう。
…なんて事言ったら、小説にならないね。へへへ…
幽霊の存在って実証されてはいない以上、気味が悪い染みがあるから隠すけど、それさえ無ければ部屋自体には問題無い、と判断したんでしょう。実際美世子さん、信じないから気にしない人だったし、オーナーも自殺者が出たという、こちらは説明責任が生じる事項は伝えてある。安くもしてあるし。
流石に幽霊の声がビデオに入る、なんて事迄はどちらも知らなかったんだけど。
せっかくの格安物件。しかも、そんな跡があったのなら、もっと値切れそうな(笑
カレンダーは部屋に付けなくなった。
まったくみないからw
去年の夏頃に一昨年とその前のつけっぱなしのカレンダーも処分した(笑
カレンダーファブィ
うちも自分の部屋にはカレンダー、無い(笑)
マンションとかだと迂闊に釘も打てないという事もアリ。
さやかさん付いてるし。
カレンダーの裏、気になりませんか~?
朝なのに、怖いんですけどー!!!
女の影とかやめてぇ~(>_<)
家の実家も建て直す前すっごく古くって、昔の大工さんの手あかが天井ににじみ出てきてたんですよ。それを夜見ると怖くって。。。夜は妹にトイレ付き合ってもらってました。あと、箪笥の木目がヒトの形に見えるのとかも怖い~。
でも、カレンダーは昨日かけなおしたから大丈夫☆
大工さんの手垢、然も天井……それは知らずに見たら、怖い……☆
何かの裏が妙に気になります(笑)
![](/emoji/D/225.gif)
吸い込まれるように読んでしまいました
![](/emoji/D/168.gif)
でも、20年後はいらないな。あたし的に。
ちなみに、去年のカレンダーどころか1992年のカレンダーが張られてる我が家って・・・
![](/emoji/D/225.gif)
もしかして、なんかの魔よけ???
![](/emoji/D/284.gif)
![](/emoji/D/284.gif)
捲ってみたら?(どきどき……笑)
汚い壁を隠すために貼られているであろう
カレンダーは、オカンが張りまくり
しかもカレンダーの上にカレンダー(まったく意味無いよな
![](/emoji/D/197.gif)
![](/emoji/D/284.gif)
帰ったら捨ててやる~
![](/emoji/D/198.gif)
![](/emoji/D/225.gif)
退けてみたら変な染みが無い事を祈る~(-人-)
死んだ娘の生まれ変わりは、いや~ん。
今日、夜霧が俳句読んだ!!!!!
「あの人が設置されたる小物だね」
今から師匠って呼ぶように・・・(`・ω・´)
一応季節も解るし、なかなか?(^^)
入学式風景って感じ♪ 緑化高校の……?(え)
うちも角部屋、2階立てなのですが、下の部屋の入れ替わりが激しくて…なんかあんの!?
ガラス系はそれっぽい影が残ってたりするって聞いたことあります…飼ってたペットの影とか…。
下の部屋……何か居る?(←脅すな)
今度は老朽化が怖いとか。
この逞しくて頼りがいのある美代子さんに
死者すら縋り付いてしまった?
美代子さんの子は この自殺した女性の生まれ変り
同じ部屋で 美代子さんに見守られながら 遂げられなかった人生を全うする。。。なんて^^
そんな風に感じました
美世子さんは飲んだくれて呂律も怪しくなってましたから(笑)
逞しいのは逞しいかも知れません。ビデオを盾に新しい部屋を用意させてましたから☆
自殺志願者って、本当に自らの消滅を望んでるのは僅かだと思うんですよ。死を目の前にしたら、やっぱり生きたいんじゃないかと……。
今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
カレンダー、旅行中は不可抗力よね~。