〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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結局その晩、私は彼と、その家族を招待しなかった。
でも、援助を行う事で、身内という関係へ変化したかった。ええ、迷惑な話だとは重々承知だけれど。
でも、どの途昨日は彼と、動揺する羽目になる筈だったみたい。
あんな事が起こっては。
祖父の還暦祝いのパーティーの夜だった。若くして会社を興し、妻を迎え、子を生(な)し……駆け足で生き抜いて来た祖父。その祖父が還暦を機に、社長の椅子を早々に父に譲り、会長職に退くと言う。その発表の場でもあった。どこ迄も、駆け足な人だ。
そんな事情だから、集まったのは主に会社の人間と取引先の人間。そして数少ない友人達――それもやはり仕事が縁だった様だけれど。
私も友人を呼んでいいと言われたけれど、高校の友達はこんな場には余りに不似合いで、何より彼女等とのパーティーならもっと小規模でも楽しくやりたかった。第一、こんな人の多い所に彼やその家族を呼ぶ訳にも行かないし。ご馳走は一杯あるけれど。
その、招待しなかった筈の彼の姿を見掛けたのは、挨拶攻めに疲れて屋内へと退避した時だった。
でも、援助を行う事で、身内という関係へ変化したかった。ええ、迷惑な話だとは重々承知だけれど。
でも、どの途昨日は彼と、動揺する羽目になる筈だったみたい。
あんな事が起こっては。
祖父の還暦祝いのパーティーの夜だった。若くして会社を興し、妻を迎え、子を生(な)し……駆け足で生き抜いて来た祖父。その祖父が還暦を機に、社長の椅子を早々に父に譲り、会長職に退くと言う。その発表の場でもあった。どこ迄も、駆け足な人だ。
そんな事情だから、集まったのは主に会社の人間と取引先の人間。そして数少ない友人達――それもやはり仕事が縁だった様だけれど。
私も友人を呼んでいいと言われたけれど、高校の友達はこんな場には余りに不似合いで、何より彼女等とのパーティーならもっと小規模でも楽しくやりたかった。第一、こんな人の多い所に彼やその家族を呼ぶ訳にも行かないし。ご馳走は一杯あるけれど。
その、招待しなかった筈の彼の姿を見掛けたのは、挨拶攻めに疲れて屋内へと退避した時だった。
二階の廊下から、窓の外を駆けて行く彼を見たのは、ほんの偶然だった。そして、クライマックスで社長の証として父に渡される筈の琥珀入りの指輪が消えているのを私が発見したのも。
それは祖父の部屋に保管されていた。サイズの直しが必要で、数日前から――そしてその時も――祖父がしていたのはダミーだったのだ。精巧な物だけに、時間が掛かるとの事だった。
私以上にお祝い攻撃を受けていた祖父は、重ねられる祝杯に辟易した様に、一旦、自室に引き取っていた。けれど何と言っても祖父は今夜の主役。そろそろ舞台に戻って貰わないと。端役の私に迄ライトが集中してしまうし――そんな考えもあって、私は祖父の部屋のドアをノックした。
答えは無かった。行き違いになったか、それとも眠ってでもいるのか、私は小首を傾げながらもノブを捻った。
回る。
行き違いで出て行ったとしたら無用心もいい所だ。私はドアを開けた。
そして、祖父がソファにうつ伏せに寝ており、鍵付きのガラスキャビネットに飾られていた指輪が無くなっているのを、発見した。窓からの風が、カーテンを揺らした。
私が――正確には私の悲鳴が――呼び寄せた父達は、事の次第を質そうと、祖父を抱き起こした。呼吸に荒さは見られない。ごく安静に、眠っている様だ。でも、声を掛けても起きないのは果たして酒が回った所為なのか、それとも何かの薬でも盛られたのか……。
掛かり付けの医師が呼ばれ、健康上の問題は無いだろうという診断を下した。取り敢えず外傷は無く、薬物だとしても適量内の睡眠薬だろうと。
キャビネットの鍵は開けられていた。それがクライマックスに向けて取り出そうとして祖父が開けたものなのか、それとも他者が開けたものなのか。それも祖父の意識が戻る迄、判断が付かない。鍵は壊された様子は無く、ちゃんとした鍵で開けられた様だ。
そして開いた窓。
とは言え、窓の外は一階の屋根。勾配は緩やかではあるけれど、ここを素早く移動出来る人間は居ないだろう。
私は――どうしても気になって、直前に見た彼の姿を思い描いた。彼にはパーティーの事は話してある。けれど真逆、彼がこんな事をする筈が……。
ざわつく邸内を出て、私はそっと彼の塒への道を辿った。
「真逆直しから返って来た指輪が偽物だったとはね」
結局指輪の移譲はまた後日、という事になり、警察の事情聴取が順に行われていた自宅に私達が戻ったのはそれから数十分後の事だった。私の手の中には件の指輪と――彼。
何故かこの指輪が気に入ったのか、祖父が無用心にもキャビネットから出した儘、睡魔に敗北してしまったあの部屋から、窓を伝ってこっそり失敬してしまったのだ。そして屋根を走って行く所を、私が偶然目にしてしまったという訳だ。
「またたびの匂いでもしたの?」私は手の中の白猫に尋ねた。勿論、にゃあとしか答えないけれど。
私は塒に帰っていた彼から指輪を取り返し、指輪を調べた警察がそれを贋作と見破ったのだ。そしてそれが何処で本物とすり替えられたかも。
本物は売り払われる前に押収され、後日無事に父への引き渡しは完了した。
そして、偽物の指輪は証拠物件として警察に押収されてしまったけれど……一時期祖父が嵌めていたダミーの琥珀が、今では結局はお手柄となった白猫の首輪を飾っている。我が家の一員の証として。
勿論、その家族――五匹の兄弟もご招待。
―了―
月夜から~☆
「巽と、家族を招待しなかったよ。
でも、援助へ変化したかった。
でも、きのう巽と、動揺するはずだったみたい」
私が動揺したよ。
それは祖父の部屋に保管されていた。サイズの直しが必要で、数日前から――そしてその時も――祖父がしていたのはダミーだったのだ。精巧な物だけに、時間が掛かるとの事だった。
私以上にお祝い攻撃を受けていた祖父は、重ねられる祝杯に辟易した様に、一旦、自室に引き取っていた。けれど何と言っても祖父は今夜の主役。そろそろ舞台に戻って貰わないと。端役の私に迄ライトが集中してしまうし――そんな考えもあって、私は祖父の部屋のドアをノックした。
答えは無かった。行き違いになったか、それとも眠ってでもいるのか、私は小首を傾げながらもノブを捻った。
回る。
行き違いで出て行ったとしたら無用心もいい所だ。私はドアを開けた。
そして、祖父がソファにうつ伏せに寝ており、鍵付きのガラスキャビネットに飾られていた指輪が無くなっているのを、発見した。窓からの風が、カーテンを揺らした。
私が――正確には私の悲鳴が――呼び寄せた父達は、事の次第を質そうと、祖父を抱き起こした。呼吸に荒さは見られない。ごく安静に、眠っている様だ。でも、声を掛けても起きないのは果たして酒が回った所為なのか、それとも何かの薬でも盛られたのか……。
掛かり付けの医師が呼ばれ、健康上の問題は無いだろうという診断を下した。取り敢えず外傷は無く、薬物だとしても適量内の睡眠薬だろうと。
キャビネットの鍵は開けられていた。それがクライマックスに向けて取り出そうとして祖父が開けたものなのか、それとも他者が開けたものなのか。それも祖父の意識が戻る迄、判断が付かない。鍵は壊された様子は無く、ちゃんとした鍵で開けられた様だ。
そして開いた窓。
とは言え、窓の外は一階の屋根。勾配は緩やかではあるけれど、ここを素早く移動出来る人間は居ないだろう。
私は――どうしても気になって、直前に見た彼の姿を思い描いた。彼にはパーティーの事は話してある。けれど真逆、彼がこんな事をする筈が……。
ざわつく邸内を出て、私はそっと彼の塒への道を辿った。
「真逆直しから返って来た指輪が偽物だったとはね」
結局指輪の移譲はまた後日、という事になり、警察の事情聴取が順に行われていた自宅に私達が戻ったのはそれから数十分後の事だった。私の手の中には件の指輪と――彼。
何故かこの指輪が気に入ったのか、祖父が無用心にもキャビネットから出した儘、睡魔に敗北してしまったあの部屋から、窓を伝ってこっそり失敬してしまったのだ。そして屋根を走って行く所を、私が偶然目にしてしまったという訳だ。
「またたびの匂いでもしたの?」私は手の中の白猫に尋ねた。勿論、にゃあとしか答えないけれど。
私は塒に帰っていた彼から指輪を取り返し、指輪を調べた警察がそれを贋作と見破ったのだ。そしてそれが何処で本物とすり替えられたかも。
本物は売り払われる前に押収され、後日無事に父への引き渡しは完了した。
そして、偽物の指輪は証拠物件として警察に押収されてしまったけれど……一時期祖父が嵌めていたダミーの琥珀が、今では結局はお手柄となった白猫の首輪を飾っている。我が家の一員の証として。
勿論、その家族――五匹の兄弟もご招待。
―了―
月夜から~☆
「巽と、家族を招待しなかったよ。
でも、援助へ変化したかった。
でも、きのう巽と、動揺するはずだったみたい」
私が動揺したよ。
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Re:無題
う、解り難かったかな?(汗)
うっかりキャビネットから出した儘寝ちゃったお祖父ちゃんの所から「彼」こと白猫さんが指輪を取って行っちゃって、実はその指輪がサイズ直しの際に預けた業者によってすり替えられた物だった、という話。だから最終的な犯人は、業者☆
その儘何事も無く調べられなかったら気付かなかっただろうって事で、白猫さんは「私」の家に家族ごとご招待されました(苦笑)
うっかりキャビネットから出した儘寝ちゃったお祖父ちゃんの所から「彼」こと白猫さんが指輪を取って行っちゃって、実はその指輪がサイズ直しの際に預けた業者によってすり替えられた物だった、という話。だから最終的な犯人は、業者☆
その儘何事も無く調べられなかったら気付かなかっただろうって事で、白猫さんは「私」の家に家族ごとご招待されました(苦笑)
無題
こんばんわ~(^o^)丿
巽さん・・・
ウマイウマイ ""ハ(^▽^*) パチパチ♪
すごくよかったです~☆
彼がにゃんこだったとは!!
最高に生臭い話なのかと思いきや、
またヤラレタ。
白猫さんの首に琥珀・・・
似合うだろうなぁ、素敵です!
巽さん・・・
ウマイウマイ ""ハ(^▽^*) パチパチ♪
すごくよかったです~☆
彼がにゃんこだったとは!!
最高に生臭い話なのかと思いきや、
またヤラレタ。
白猫さんの首に琥珀・・・
似合うだろうなぁ、素敵です!
Re:無題
有難うございますm(_ _)m
一旦生臭い話になり掛けたけど針路変更(笑)
琥珀はあの蜂蜜の様なウイスキーの様な、深い色合いが魅力ですよね^^
一旦生臭い話になり掛けたけど針路変更(笑)
琥珀はあの蜂蜜の様なウイスキーの様な、深い色合いが魅力ですよね^^
Re:おおっ。
有難うございますm(_ _)m
はい、にゃんこでした♪
だから二階の窓の外を走ってたりする(笑)
それにしてもどんだけ猫出て来るんだ、うち(^^;)
はい、にゃんこでした♪
だから二階の窓の外を走ってたりする(笑)
それにしてもどんだけ猫出て来るんだ、うち(^^;)
Re:こんにちは
はい、またです。にゃんこです(笑)
普通に人間バージョンも考えたんですが、血腥くなりそうだったので(^^;)
普通に人間バージョンも考えたんですが、血腥くなりそうだったので(^^;)
Re:こんにちは
う~む、漢字は大分減らすようにはしてるんですが(^^;)
読み易いお話を心掛けてみます!(^^)ゝ
読み易いお話を心掛けてみます!(^^)ゝ
こんにちは♪
な・なんとぉ~~!
彼って猫だったのかぁ!やられた!
最初の方で、なんか・・・ちょっと変だな?
とは思ったのだけれど・・・・・よもや!まさか!猫だったとは・・・・
でも、白猫さんなの?残念!
彼って猫だったのかぁ!やられた!
最初の方で、なんか・・・ちょっと変だな?
とは思ったのだけれど・・・・・よもや!まさか!猫だったとは・・・・
でも、白猫さんなの?残念!
Re:こんにちは♪
流石に黒猫さんは夜中に屋根の上走ってても、なかなか見掛けられそうにないので(笑)
一瞬立ち止まって目だけがキランというのもアリだったかな? それだと直ぐに猫って判っちゃうか(^^;)
一瞬立ち止まって目だけがキランというのもアリだったかな? それだと直ぐに猫って判っちゃうか(^^;)
Re:んーーー
ふふふ、いい加減「正体は何?」ネタも度重なり、ばれ易くなってきたか☆
お祖父さん、お酒に弱かったという事で(笑)
お祖父さん、お酒に弱かったという事で(笑)
こんばんは☆
彼って誰やねん!って思ったら(笑)
テスト前で雑用に忙殺されているあたし。
理解能力が~(笑)
ご家族共々ご招待でよかった☆
全然関係ないけど、この間の忍メンテ以来巽さんのあし@新着記事情報が来ないよ??
テスト前で雑用に忙殺されているあたし。
理解能力が~(笑)
ご家族共々ご招待でよかった☆
全然関係ないけど、この間の忍メンテ以来巽さんのあし@新着記事情報が来ないよ??
Re:こんばんは☆
もう中間試験ですか? 先生も大変ですね(^^;)
頑張って下さい。
はにゃ? フィードかなんかがおかしくなったのかな? あし@
頑張って下さい。
はにゃ? フィードかなんかがおかしくなったのかな? あし@
Re:猫ちゃんか~^^
はい、ご家族揃ってご招待です(^^)
招待だの援助だのの単語を繋げていくと、何だかまた家族内のごたごたとか軋轢とか、そっちに行っちゃいそうだったので、敢えて路線変更。
この間のありすとも被りそうだったし。
そんな訳で猫登場♪
招待だの援助だのの単語を繋げていくと、何だかまた家族内のごたごたとか軋轢とか、そっちに行っちゃいそうだったので、敢えて路線変更。
この間のありすとも被りそうだったし。
そんな訳で猫登場♪
Re:無題
おお! おめでとうございます!――お祝いの言葉しか出ませんが(笑)
今回は闇夜にくっきり白猫にゃんに登場願いました♪
ねずみ小僧ならぬ白猫小僧(笑)
今回は闇夜にくっきり白猫にゃんに登場願いました♪
ねずみ小僧ならぬ白猫小僧(笑)
Re:初めましてb
初めまして。ご訪問&コメント、有難うございます(^-^)
こういう感じのが多いですが、宜しかったらまたお立ち寄り下さいませ♪
こういう感じのが多いですが、宜しかったらまたお立ち寄り下さいませ♪