〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜の海には近付いちゃ駄目だよ――幼い頃から幾度も祖母に言われた言葉だ。
その祖母ももう、その海の向こうに行ってしまった。西の海の果てにあると伝えられた、極楽浄土へと。
だから僕は時折、遠くから海を眺める。
大好きだった祖母への郷愁と夜の海への好奇心、そして祖母の忠告を守らねばという心理的な制約を、同時に満たせる場所。
生まれ育った街を眼下に見下ろす、ハイウェイの展望台――僕のお気に入りの場所だった。
今夜も満天の星空の下、僕は穏やかにたゆたう海を見ていた。黒い海原は月明かりや星の瞬きを映している。
梅雨末期の蒸し暑さはあるものの、穏やかな夜だった。
と、海の遥か遠くに、ぽつりと青白い灯が点った。
船の灯だろうか? この近くに漁港などは無いし、こんな夜中に漁をする時期だっただろうか? それにそんなに眩しい灯でもない。
それに船の灯にしてはたった一つしか……いや、二つ、三つ、それはどんどん数を増やしていった。
「何なんだ?」僕は更に目を凝らした。
漁船の灯ならば数は知れているし、場所も定まっている。多少の揺れはあっても灯同士の間隔そのものは変わらないから、直ぐにそれと判る。
しかしこの灯は一つ一つがばらばらで……。
「鬼火?」かつて祖母から聞いた昔話が脳裏に蘇る。
鬼火、不知火、七人みさき、船幽霊……そんな魑魅魍魎が僕の頭を舞台に跋扈する。
そんな馬鹿な。きっと漁船の灯が海への反射や何かで怪しげに見えているだけなのだ。僕はそう、自分を納得させようとする。
けれど、灯の一つが――たった一つが――群れを離れ、海岸へと急接近を始めた。船ではあり得ないスピードで。然もそれは丸で僕を一直線に目差しているかの様で……。
僕は慌てて踵を返した。道路際に停めたバイクへと急ぐ足は、しかし情けない事に震えが来ていて、思う様に走れない。
足をもつらせながらもどうにかバイクに取り付いた時――ぱぁっと、背後が明るくなった。
真逆、と振り向いた僕の目の前には、青白い灯と……その中心で、怒った様な困った様な顔で僕を見詰める、祖母の顔。真夜中に此処に居る事、海を見ていた事を怒っている様な、険しくも僕への心配が窺える、懐かしい顔。
「お……祖母ちゃん……?」呼び掛けた僕に、今一度険しい一瞥を投げて、祖母の顔の灯はまた、海へと飛んで行ってしまった。
周囲が再び夜の闇に埋め尽くされ、海上の灯も一つ、二つと消え失せると、僕はのろのろとバイクを走らせて、帰宅した。
そしてまんじりとも出来ぬ儘、夜を明かし――窓の外が明るくなり、母が我が家の一日を動かし始める物音が聞こえると、取り掛かったのは例年なら両親に任せ切りのお盆の支度。
「珍しいわねぇ」色んな意味を込めて母が声を上げた。こんな時間に起き出した事も、盆の行事に積極的に参加しようとした事も、僕自身、珍しいどころか初の快挙じゃないかという気がする。
そう、いつもならこんな行事、形だけじゃないかと蔑ろにしていた。
けれど――。
「お祖母ちゃん達が帰って来るからね。年に一度、遥々帰って来るんだから、ちゃんと迎えてあげないと」走馬灯の灯を点しながら、僕はそう言って笑った。
そう、あの暗い海を越えて帰って来るのだから、迷わないように灯を――。
―了―
暑い~。眠い~。
皆様、夜は安眠出来てますか?(--;)
その祖母ももう、その海の向こうに行ってしまった。西の海の果てにあると伝えられた、極楽浄土へと。
だから僕は時折、遠くから海を眺める。
大好きだった祖母への郷愁と夜の海への好奇心、そして祖母の忠告を守らねばという心理的な制約を、同時に満たせる場所。
生まれ育った街を眼下に見下ろす、ハイウェイの展望台――僕のお気に入りの場所だった。
今夜も満天の星空の下、僕は穏やかにたゆたう海を見ていた。黒い海原は月明かりや星の瞬きを映している。
梅雨末期の蒸し暑さはあるものの、穏やかな夜だった。
と、海の遥か遠くに、ぽつりと青白い灯が点った。
船の灯だろうか? この近くに漁港などは無いし、こんな夜中に漁をする時期だっただろうか? それにそんなに眩しい灯でもない。
それに船の灯にしてはたった一つしか……いや、二つ、三つ、それはどんどん数を増やしていった。
「何なんだ?」僕は更に目を凝らした。
漁船の灯ならば数は知れているし、場所も定まっている。多少の揺れはあっても灯同士の間隔そのものは変わらないから、直ぐにそれと判る。
しかしこの灯は一つ一つがばらばらで……。
「鬼火?」かつて祖母から聞いた昔話が脳裏に蘇る。
鬼火、不知火、七人みさき、船幽霊……そんな魑魅魍魎が僕の頭を舞台に跋扈する。
そんな馬鹿な。きっと漁船の灯が海への反射や何かで怪しげに見えているだけなのだ。僕はそう、自分を納得させようとする。
けれど、灯の一つが――たった一つが――群れを離れ、海岸へと急接近を始めた。船ではあり得ないスピードで。然もそれは丸で僕を一直線に目差しているかの様で……。
僕は慌てて踵を返した。道路際に停めたバイクへと急ぐ足は、しかし情けない事に震えが来ていて、思う様に走れない。
足をもつらせながらもどうにかバイクに取り付いた時――ぱぁっと、背後が明るくなった。
真逆、と振り向いた僕の目の前には、青白い灯と……その中心で、怒った様な困った様な顔で僕を見詰める、祖母の顔。真夜中に此処に居る事、海を見ていた事を怒っている様な、険しくも僕への心配が窺える、懐かしい顔。
「お……祖母ちゃん……?」呼び掛けた僕に、今一度険しい一瞥を投げて、祖母の顔の灯はまた、海へと飛んで行ってしまった。
周囲が再び夜の闇に埋め尽くされ、海上の灯も一つ、二つと消え失せると、僕はのろのろとバイクを走らせて、帰宅した。
そしてまんじりとも出来ぬ儘、夜を明かし――窓の外が明るくなり、母が我が家の一日を動かし始める物音が聞こえると、取り掛かったのは例年なら両親に任せ切りのお盆の支度。
「珍しいわねぇ」色んな意味を込めて母が声を上げた。こんな時間に起き出した事も、盆の行事に積極的に参加しようとした事も、僕自身、珍しいどころか初の快挙じゃないかという気がする。
そう、いつもならこんな行事、形だけじゃないかと蔑ろにしていた。
けれど――。
「お祖母ちゃん達が帰って来るからね。年に一度、遥々帰って来るんだから、ちゃんと迎えてあげないと」走馬灯の灯を点しながら、僕はそう言って笑った。
そう、あの暗い海を越えて帰って来るのだから、迷わないように灯を――。
―了―
暑い~。眠い~。
皆様、夜は安眠出来てますか?(--;)
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Re:お盆
迎え火で「お帰り、待ってたよ」
送り火で「また来年ね」
直接話せないけど、思いは通じますよね♪
送り火で「また来年ね」
直接話せないけど、思いは通じますよね♪
Re:こんにちは
眠り……時間よりも質が大事と言いますが、なかなか良質の眠りというのも得難く……。眠いっす(笑)
こんにちは♪
私も子供の頃は祖母と一緒に迎え火や送り火を
焚いたけど最近は全然してないなぁ・・・・
今年はちゃんとやろうかなぁ!
熟睡はしているみたいなんだけど、相変わらず
夜更かしをしているもので・・・・寝不足です。
焚いたけど最近は全然してないなぁ・・・・
今年はちゃんとやろうかなぁ!
熟睡はしているみたいなんだけど、相変わらず
夜更かしをしているもので・・・・寝不足です。
Re:こんにちは♪
最近は火を焚く場所もなかなか無いですしねぇ。
取り敢えずお仏壇なりに灯を点しましょうか。
取り敢えずお仏壇なりに灯を点しましょうか。
こんにちは
東京のお盆は無事終了。
毎年毎年提灯だして組み立てて…が面倒くさくて、今年は簡単に済ませちゃった(^-^;
でも、線香は欠かさずつけたよ~
来月は田舎で墓掃除です…。しんどいよ~(>_<)
毎年毎年提灯だして組み立てて…が面倒くさくて、今年は簡単に済ませちゃった(^-^;
でも、線香は欠かさずつけたよ~
来月は田舎で墓掃除です…。しんどいよ~(>_<)
Re:こんにちは
お疲れ様でした(^-^)
東京は一箇月早い……のも考え物ですね。一仕事済んだと思ったらまた来月か~☆
でも、大事な行事だものねぇ。
東京は一箇月早い……のも考え物ですね。一仕事済んだと思ったらまた来月か~☆
でも、大事な行事だものねぇ。
Re:深海は怖い
初めまして。
ご訪問&コメント有難うございます(^-^)
高校生がヨットで世界一周ですか~。凄いですね!
夜の暗い海なんて漂ってたら引き込まれそうで怖いです☆
ご訪問&コメント有難うございます(^-^)
高校生がヨットで世界一周ですか~。凄いですね!
夜の暗い海なんて漂ってたら引き込まれそうで怖いです☆