〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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電話が鳴っている――それは先程から解っていたが、私には出る事が出来なかった。
例えディスプレイに表示されたナンバーが誰のものであったとしても。
例え本当に、家族や知人の誰かが掛けたものであったとしても。
全ての回線が、あの人に繋がっている様な気がしてしかたがなかったから。
夜は。
やがて鳴り止んだ電話に、私はほっと息をついた。受話器を取りさえしなければ此処に私が居る事も判らない筈なのに、知らず知らず、息を殺していた事にやっと気付く。
うっかり昼の儘、留守番電話にし忘れていた事を後悔しつつ、改めて切り替える。
本当なら電話機ごと、投げ捨ててしまいたい。電話線を引き千切り、壁に投げ付け、粉々にしてしまいたい。
二度と鳴らないように。
あの人に繋がらないように。
けれど家での仕事には電話は必要。それに昼の間は普通に繋がるし……。
ううん、それは言い訳。本当は待ってるのかも知れない。
あの人からの電話を。
懐かしい声と、いつもの言葉を――「会いたいな」……と。
けれどあの人は三十年前にこの世を旅立った。二人が未だ十代の若者だった頃。抱えた悩みの対処法も解らず、それに焦っていた頃。今にして思えばゆっくり、解決すればいい事だったのに、あの頃の私達は駆け足だった。
そしてその駆け足の儘、あの人は、飛んだ。当時街で一番高かったビルの屋上から。
今ではそのビルももう直解体されるらしいけれど。再開発だとかで周囲も一変するらしい。
寂しい様な、ほっとする様な、複雑な想いが胸を占めた。
と、電話のベルが鳴り、私は思わず身を硬くして、立ち竦んだ。
数回、ベルが鳴り、留守番電話に切り替わった。機械的な案内の後にピーッという音。
そして――。
〈さよなら〉
一言で、電話は切れた。
え?――私は慌てて再生ボタンを押した。
しかし、確かに留守録になっていた筈なのに、無音が続くだけだった。
残ったのは私の耳にだけ、囁く様な「さよなら」という言葉。
たった一言だったけれど、間違いない。あの人の声だった。あの頃の儘の、彼の声。
「どうして……?」私は思わず受話器を取り上げ、叫んでいた。「どうして『さよなら』なの? 私に会いたいんじゃなかったの? どうして……会いに来てくれないの……?」
恐れながらも待ち望んでいたのだ――その事を、私はその夜、思い知った。
翌日、花を買って、解体予定のあのビル迄行ってみた。周囲では様々な物の撤去も始まり、大型車が右往左往し、落ち着いてあの人を思う空気ではなかったけれど。
それらのトラックの一台に、撤去された物の一つと思われる、見覚えのあるボックス。既に廃棄処分が決まってでもいるのか、ぞんざいに詰まれていた。
それは、あのビルの前に鎮座していた公衆電話ボックスだった。
もう、掛けてはこられない――だから「さよなら」? そういう事なの?
知らぬ間に涙に頬を濡らしながら、私はそっと花を供えてそこを立ち去った。
会いたい――そう呟いたけれど、私には未だこの世を立ち去る事は出来ない。飛ぶには抱えたものが重過ぎるの。
だから、今度は貴方が待っていてね。私の天寿が尽きるのを。
―了―
怖いと言うより暗い話になったかも……?
本日は曇のち雨~☆
うっかり昼の儘、留守番電話にし忘れていた事を後悔しつつ、改めて切り替える。
本当なら電話機ごと、投げ捨ててしまいたい。電話線を引き千切り、壁に投げ付け、粉々にしてしまいたい。
二度と鳴らないように。
あの人に繋がらないように。
けれど家での仕事には電話は必要。それに昼の間は普通に繋がるし……。
ううん、それは言い訳。本当は待ってるのかも知れない。
あの人からの電話を。
懐かしい声と、いつもの言葉を――「会いたいな」……と。
けれどあの人は三十年前にこの世を旅立った。二人が未だ十代の若者だった頃。抱えた悩みの対処法も解らず、それに焦っていた頃。今にして思えばゆっくり、解決すればいい事だったのに、あの頃の私達は駆け足だった。
そしてその駆け足の儘、あの人は、飛んだ。当時街で一番高かったビルの屋上から。
今ではそのビルももう直解体されるらしいけれど。再開発だとかで周囲も一変するらしい。
寂しい様な、ほっとする様な、複雑な想いが胸を占めた。
と、電話のベルが鳴り、私は思わず身を硬くして、立ち竦んだ。
数回、ベルが鳴り、留守番電話に切り替わった。機械的な案内の後にピーッという音。
そして――。
〈さよなら〉
一言で、電話は切れた。
え?――私は慌てて再生ボタンを押した。
しかし、確かに留守録になっていた筈なのに、無音が続くだけだった。
残ったのは私の耳にだけ、囁く様な「さよなら」という言葉。
たった一言だったけれど、間違いない。あの人の声だった。あの頃の儘の、彼の声。
「どうして……?」私は思わず受話器を取り上げ、叫んでいた。「どうして『さよなら』なの? 私に会いたいんじゃなかったの? どうして……会いに来てくれないの……?」
恐れながらも待ち望んでいたのだ――その事を、私はその夜、思い知った。
翌日、花を買って、解体予定のあのビル迄行ってみた。周囲では様々な物の撤去も始まり、大型車が右往左往し、落ち着いてあの人を思う空気ではなかったけれど。
それらのトラックの一台に、撤去された物の一つと思われる、見覚えのあるボックス。既に廃棄処分が決まってでもいるのか、ぞんざいに詰まれていた。
それは、あのビルの前に鎮座していた公衆電話ボックスだった。
もう、掛けてはこられない――だから「さよなら」? そういう事なの?
知らぬ間に涙に頬を濡らしながら、私はそっと花を供えてそこを立ち去った。
会いたい――そう呟いたけれど、私には未だこの世を立ち去る事は出来ない。飛ぶには抱えたものが重過ぎるの。
だから、今度は貴方が待っていてね。私の天寿が尽きるのを。
―了―
怖いと言うより暗い話になったかも……?
本日は曇のち雨~☆
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Re:こんばんは
真昼間から出る幽霊……って良介君かい?(笑)
都市も移り変わり、時の停まった死者の想いも移り変わる……かな?
都市も移り変わり、時の停まった死者の想いも移り変わる……かな?
Re:朝から
夜の電話にご注意~♪(←おい)
「私」は携帯を持っていなくて未だよかったかも。アレは逃げ場が無い(苦笑)
「私」は携帯を持っていなくて未だよかったかも。アレは逃げ場が無い(苦笑)
Re:う~ん・・・
一先ず「さよなら」でよかったねぇ^^;
う~む、こればっかりは……待たんといて(笑)
う~む、こればっかりは……待たんといて(笑)
Re:こんにちは
真夜中の電話ってドキッとしますよね。
うちも稀にあります。やっぱり一回位で切れる。概ね間違い電話で、掛けた本人が「あっ」と思って切ったんだろうけど、何事かって思っちゃう。と言うか何で丑三つ時に電話してんだ、とツッコミ入れたくなっちゃう(笑)
夜中の急な電話って、やっぱりあんまりいい内容じゃなさそうな気もする……。
うちも稀にあります。やっぱり一回位で切れる。概ね間違い電話で、掛けた本人が「あっ」と思って切ったんだろうけど、何事かって思っちゃう。と言うか何で丑三つ時に電話してんだ、とツッコミ入れたくなっちゃう(笑)
夜中の急な電話って、やっぱりあんまりいい内容じゃなさそうな気もする……。
こんにちはです。
……あれ?怖くないですよ?私。
どっかおかしいのかなやっぱり……。らぶらぶの甘いお話にしか読めないんですケド……。うにゃー(←頭抱えてます)
ん?カップルとは書いてない……すごい脳内変換してますね私…(涙)
どっかおかしいのかなやっぱり……。らぶらぶの甘いお話にしか読めないんですケド……。うにゃー(←頭抱えてます)
ん?カップルとは書いてない……すごい脳内変換してますね私…(涙)
Re:こんにちはです。
確かにある意味らぶらぶかも……(^^;)
死者からの電話を恐れながらも待ってるんやからねぇ。
「さよなら」と言われて「どうして会いに来てくれないの?」と迄言ってるしー。
カップルとも書いてないけど(笑)
死者からの電話を恐れながらも待ってるんやからねぇ。
「さよなら」と言われて「どうして会いに来てくれないの?」と迄言ってるしー。
カップルとも書いてないけど(笑)
Re:こんにちはっ
電話の変な音?(^^;)
然も近所? どんだけ音大きいんでしょう、その電話機(笑)
夜中の電話って何気に不吉な感じがするのかなぁ。
然も近所? どんだけ音大きいんでしょう、その電話機(笑)
夜中の電話って何気に不吉な感じがするのかなぁ。
Re:無題
ひ~(^^;)
憑依しちゃいましたか(笑)
因みに家に掛かってくる電話は殆どが母宛か、何かの宣伝なので……私は滅多に出ません(爆)
憑依しちゃいましたか(笑)
因みに家に掛かってくる電話は殆どが母宛か、何かの宣伝なので……私は滅多に出ません(爆)
こんばんは~♪
十代の頃!その頃に好きな人が死んだりしたら、
かなり引きずるんだろうなぁ・・・・
私、別に死んでないけど、その頃に好きだった人の事は、折に触れて思い出すけど、その後、大人になってから好きになった人の事は、ほとんど思い出さないし、思い出してもフン!って感じ!
幼い思いは案外強いのかもネ!
かなり引きずるんだろうなぁ・・・・
私、別に死んでないけど、その頃に好きだった人の事は、折に触れて思い出すけど、その後、大人になってから好きになった人の事は、ほとんど思い出さないし、思い出してもフン!って感じ!
幼い思いは案外強いのかもネ!
Re:こんばんは~♪
やはり十代の頃の感受性は特別?^^
況して死なれたりすると、残るよねぇ。
況して死なれたりすると、残るよねぇ。
Re:こんばんは
かも知れませんねぇ。
しかしこれ……「さよなら」と言われた「私」の方が「会いたい!」って、後追っちゃったりしたら……寧ろ悪魔の囁き?(^^;)
しかしこれ……「さよなら」と言われた「私」の方が「会いたい!」って、後追っちゃったりしたら……寧ろ悪魔の囁き?(^^;)