〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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花見ってぇのは本来、春先に流行る病を運んで来る疫病神を宥め、鎮める為の祀りだったんだってねぇ。今じゃ只の酒飲みの口実と化してるけど。
陽気に浮かれ騒ぐ事で、陰の気を祓おうって昔の知恵だったのかねぇ。
そんな事を語る上司に適当に相槌を打ちながら、貴子は早くお開きにならない物かと、内心溜め息をついていた。気の合う友人同士ならば楽しかろうが、今夜は会社主催のお花見。本音は遠慮したい所ではあったが、新入社員の彼女に拒否権があろう筈もない。親交を深める為にも、と引っ張り出されてしまったのだ。
とは言え大きな会社でもなく、参加しているのは他の部署を含めても二十人そこそこ。巧く口実を作って逃げ出した人も居るのだろうな、と貴子はまた、溜め息。
公園の桜は散り際を迎え、用意してきたオードブルや酒盃にも、はらはらと薄紅の花弁が舞い落ちる。それはそれで風流なのだが……その下で浮かれ騒ぐ人間達に風雅を求めるのは酷というものだろうか。
辺りにはやはり同じ様なグループがシートを広げ、縄張りを主張しながらも、嬌声はその枠を簡単に逸脱してくる。カラオケセットなんか持ち込むな、と貴子は舌打ちした。
顔を朱に染めて上機嫌の上司のグラスに更にビールを継ぎ足しながら、早々に切り上げるいい口実は無いものかと、貴子は思いあぐねる。
騒音、酒の所為もあってか甲高い調子っ外れの歌声、無礼講とは言われても気を遣わずにはいられない上司の相手、酒臭い息……それらが総出で彼女を憂鬱な気分にしてくれていた。
と、そんな彼女の顔色を窺って、上司がぽつり、言った。
「上宮? こういうの嫌いか?」
「あ、いえ……」貴子は慌てて愛想笑いを浮かべた。頬の辺りが正直に引き攣ったのが、自分でも解る。
「そうか……」上司はやや残念そうに言った。「まぁ、無理もないな。私だって若い頃はこういう付き合いに何の意味があるんだ? って思いながら、それでも社内での立場を考えて、参加してたからなぁ」
皆通る道だよなぁ――妙に年寄り臭く、達観した様子でそう言う上司に、貴子は思わずくすりと笑みを漏らした。
「そう、そうやって笑ってなさい」ふと、そう言った上司の声はいやに低く、酒の気が抜けた様だった。
え?――と貴子が見遣ると、その顔からも好々爺地味た笑みが消えている。
と、彼は再び相好を崩して、へらへらと笑って言葉を続ける。
「陰の気を祓うべき花見の席で、陰の気を溜め込むのは御法度だよぉ?」
「は、はぁ……」釣られて愛想笑いが貴子の顔に浮かぶ。
「そうそう、笑う角には福来る。面が笑っている内に、心も楽しいって錯覚するもんさ」
無茶苦茶な理屈だ。だが、その言い種に、貴子は吹き出し、笑い出してしまった。確かにこうして笑っていると、周囲の雑音もさっき程には気にならないから不思議だ。
彼女の父親位の年代なのに面白い人だ、と上司を見た貴子は、その顔から再び笑みが消えている事にはっとする。
彼がじっと見詰めるのは照明の灯された花見会場を囲む、外の闇。丸でそこに居る何かを見張るかの様な鋭い視線に、貴子は不安を覚えた。
が、彼女が見ている事に気付いたか、それとも見張る必要が無くなったのか、ふと頬を緩めて貴子を振り返ると、彼はグラスを差し出して言った。
「陽気に行こう、陽気に――そうすりゃ奴等は寄って来れないから」
奴等が何なのか、果たして上司にそれが見えていたのか、貴子は訊こうとはしなかった。
噂をすれば影が差す。
陰が訛った言葉が鬼だとも聞く。そんなものに寄って来られては適わない。
今宵は陰の気を祓う祭りなのだから。
―了―
や、お花見(酒宴?)シーズンですね(^^;)
陽気に浮かれ騒ぐ事で、陰の気を祓おうって昔の知恵だったのかねぇ。
そんな事を語る上司に適当に相槌を打ちながら、貴子は早くお開きにならない物かと、内心溜め息をついていた。気の合う友人同士ならば楽しかろうが、今夜は会社主催のお花見。本音は遠慮したい所ではあったが、新入社員の彼女に拒否権があろう筈もない。親交を深める為にも、と引っ張り出されてしまったのだ。
とは言え大きな会社でもなく、参加しているのは他の部署を含めても二十人そこそこ。巧く口実を作って逃げ出した人も居るのだろうな、と貴子はまた、溜め息。
公園の桜は散り際を迎え、用意してきたオードブルや酒盃にも、はらはらと薄紅の花弁が舞い落ちる。それはそれで風流なのだが……その下で浮かれ騒ぐ人間達に風雅を求めるのは酷というものだろうか。
辺りにはやはり同じ様なグループがシートを広げ、縄張りを主張しながらも、嬌声はその枠を簡単に逸脱してくる。カラオケセットなんか持ち込むな、と貴子は舌打ちした。
顔を朱に染めて上機嫌の上司のグラスに更にビールを継ぎ足しながら、早々に切り上げるいい口実は無いものかと、貴子は思いあぐねる。
騒音、酒の所為もあってか甲高い調子っ外れの歌声、無礼講とは言われても気を遣わずにはいられない上司の相手、酒臭い息……それらが総出で彼女を憂鬱な気分にしてくれていた。
と、そんな彼女の顔色を窺って、上司がぽつり、言った。
「上宮? こういうの嫌いか?」
「あ、いえ……」貴子は慌てて愛想笑いを浮かべた。頬の辺りが正直に引き攣ったのが、自分でも解る。
「そうか……」上司はやや残念そうに言った。「まぁ、無理もないな。私だって若い頃はこういう付き合いに何の意味があるんだ? って思いながら、それでも社内での立場を考えて、参加してたからなぁ」
皆通る道だよなぁ――妙に年寄り臭く、達観した様子でそう言う上司に、貴子は思わずくすりと笑みを漏らした。
「そう、そうやって笑ってなさい」ふと、そう言った上司の声はいやに低く、酒の気が抜けた様だった。
え?――と貴子が見遣ると、その顔からも好々爺地味た笑みが消えている。
と、彼は再び相好を崩して、へらへらと笑って言葉を続ける。
「陰の気を祓うべき花見の席で、陰の気を溜め込むのは御法度だよぉ?」
「は、はぁ……」釣られて愛想笑いが貴子の顔に浮かぶ。
「そうそう、笑う角には福来る。面が笑っている内に、心も楽しいって錯覚するもんさ」
無茶苦茶な理屈だ。だが、その言い種に、貴子は吹き出し、笑い出してしまった。確かにこうして笑っていると、周囲の雑音もさっき程には気にならないから不思議だ。
彼女の父親位の年代なのに面白い人だ、と上司を見た貴子は、その顔から再び笑みが消えている事にはっとする。
彼がじっと見詰めるのは照明の灯された花見会場を囲む、外の闇。丸でそこに居る何かを見張るかの様な鋭い視線に、貴子は不安を覚えた。
が、彼女が見ている事に気付いたか、それとも見張る必要が無くなったのか、ふと頬を緩めて貴子を振り返ると、彼はグラスを差し出して言った。
「陽気に行こう、陽気に――そうすりゃ奴等は寄って来れないから」
奴等が何なのか、果たして上司にそれが見えていたのか、貴子は訊こうとはしなかった。
噂をすれば影が差す。
陰が訛った言葉が鬼だとも聞く。そんなものに寄って来られては適わない。
今宵は陰の気を祓う祭りなのだから。
―了―
や、お花見(酒宴?)シーズンですね(^^;)
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Re:無題
いやいや、うちの父は滅多にお酒飲みませんでしたから。
でも、薀蓄好き(笑)
でも、薀蓄好き(笑)
Re:花見
やっぱりどうせ飲むならねぇ(苦笑)
夜桜の下の人達は……花より団子?(笑)
夜桜の下の人達は……花より団子?(笑)
こんにちは
ほっほ~、そんな謂れがあるんですか?
そんじゃ、なっちさんのブログに恥ずかしいコメントしちゃったな。(^_^;)
それにしても、お花見とは名ばかりの宴会ばっかりだよねぇ。
私もそういうの苦手な方だ。
酒を飲むなら、気のあった人となら兎も角、一人で静かに飲んだ方が美味くないかい?
そんじゃ、なっちさんのブログに恥ずかしいコメントしちゃったな。(^_^;)
それにしても、お花見とは名ばかりの宴会ばっかりだよねぇ。
私もそういうの苦手な方だ。
酒を飲むなら、気のあった人となら兎も角、一人で静かに飲んだ方が美味くないかい?
Re:こんにちは
そうそう、どうせ飲むならね~(^^;)
一応付き合いで参加はするけど~な感じ(笑)
やっぱり季節の変わり目でもあるし、病伏せの意味もあったみたいですよ。
一応付き合いで参加はするけど~な感じ(笑)
やっぱり季節の変わり目でもあるし、病伏せの意味もあったみたいですよ。
Re:こんにちは♪
只の薀蓄好きのおやじかも(笑)
不思議と昼間の公園の方が静か~にお花見出来る様な気がします(^^;)
人間、実は夜行性?(笑)
不思議と昼間の公園の方が静か~にお花見出来る様な気がします(^^;)
人間、実は夜行性?(笑)
Re:おにはらいかぁ
や、うちはやっぱり花より団子っす(笑)
花見は近場で済ませました~♪
花見は近場で済ませました~♪