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高校の新校舎の屋上――相談があると言う友人との、そこが待ち合わせ場所だった。緑化政策の一端だとかで芝生が敷き詰められて縦横に小道の走った、冷たいフェンスに囲まれた箱庭。
その手入れをする園芸部だからここの鍵も入手し易い、と友人は言った。だから俺に鍵を渡し、ここで待っていてくれと。
それにしてもここにこうして居ると、俺の他には人が居ないみたいだ――もう陽の落ち掛けた空を見上げつつ、そんな寂寥感を一端に感じてみる。部活ももう終わり、生徒は下校の時間だ。下には未だ教師位は居るだろうが。
そう、俺はずっと空を見ていた。
間違ってもフェンスなんて見るもんか。
俺は、高所恐怖症なんだ!
それを知ってか知らずかここを選んだ友人を恨みながら、再び携帯の表示に視線を走らせる。二分しか経っていない。
そもそも、どうして俺に相談なんて……と、またぼやく。
これ以上遅れる様なら帰る――そう決めた途端、重い金属製の扉が開いた。
「悪いな、長友」息せき切って駆け上がって来たらしい奴は片手を上げて、先ずそう詫びた。「ちょっと野暮用に引っ掛かっちまって」
「一言連絡しろよ」俺は携帯電話を掲げて見せた。「幾らメール打っても返答も無ぇし……」
「悪い。携帯、今日忘れて来たんだ」友人――田宮はそう伝えて、両手を合わせて拝む振り。
「何だよ……それで、用事は?」早くここを退去したい俺は、早々に本題に入ろうとした。
が、田宮は息を整えさせてくれと、フェンスに寄り掛かった。俺ならそんな事したら息が整うどころじゃない。
と、肩の上下が穏やかになってきた所で、ふと、田宮はフェンス外側を振り向いた。その視線の先にあるのは向かいの旧校舎の筈だ。この四階建て新校舎より低い三階建て。だから新校舎屋上真ん中に陣取っている俺には見えないし、見たくもない。
「何か……声がしたみたいだったけど」田宮が耳をそばだて、指を差す。「旧校舎の方から」
「真逆」俺は言下に否定した。「あっちは老朽化が激しいから立ち入り禁止だろ?」
「でも……あっ、屋上に誰か居る!」振り返っては状況報告する田宮。
真逆、と俺は奴の背中を見詰めつつ、落ち着かずに携帯を弄る。
「然も二人……何か、争ってるみたいだ……」
そして――遂にフェンスに背を向け、奴は言った。
「一人が落ちた……いや、落とされた!」
「連絡……しなきゃ」俺がやっと言ったのはそれだけだった。そして手の中の携帯に気付き、田宮に差し出した。「お前、頼むわ」
田宮は素直にそれを受け取った。実際そうするしか無い。
110番し、現在地、状況を震えながらも伝えていく口元を、俺は見詰めていた。俺では真似出来ない、と。
「ええ、そうです。***高校旧校舎……もう一人は判りませんが、落ちたのは沼田先生だと……。はい、僕は友人と一緒に新校舎の屋上で……ええと、芝生の世話を……」
やがて通話を終え、田宮は携帯を俺に返した。
「お前……嘘ついたな」俺は携帯をしまいながら言った。
「いや、流石に放課後、屋上に居る理由って……俺なら園芸部だし、長友にも付き合って貰ったって事で……」田宮は苦笑いする。
が、俺は頭を振った。
「そこじゃねぇよ。この暗さ、この距離で、沼田だって判ったのかよ?」
晩秋の午後六時近く。最早上空は闇に沈んでいる。グラウンドを挟んで向かいの旧校舎の屋上の人物など、判別出来よう筈も無い。況して沼田は然程体格的にも特徴の無い、中年男性教師だった。
「声だよ、声」田宮は耳を指差した。「悲鳴だったけど、あれは間違いなく沼田の声だった」
「あ、そうか……」俺は惚けた様に、言った。
「兎に角、ここに居た理由位は、口裏合わせ頼むぜ?」
「解った」俺は頷いた。それだけは約束しよう。
聞き取りの警察官に、俺は携帯電話を差し出した。怪訝な顔をする相手の前で、ボイスレコーダーを再生してやった。田宮が屋上に人が居る、と言い出した直後から作動させていたものだ。
そして通報後の奴とのやり取りを話し、尋ねた。
「沼田先生の声は、本当に入っていますか?」
警官の口元が「いいや」と動くのを、俺は冷たい気持ちで見ていた。あそこに居た理由だけは口裏を合わせてやろう。約束通り。だが、もう一つの嘘に関しては、俺は正直に語った。俺を「相談役」に指名してくれたお礼だ。
結局、田宮は俺をアリバイ作りに利用していた様だ。旧校舎で沼田を突き落としたのは奴。しかし沼田が落とされた時には奴は俺と居た――新校舎の屋上に。
奴の芝居は迫真の演技だったさ。既に落としてきた沼田が、さも今、奴以外の誰かに突き落とされた様に、俺に見せたんだから。
只、俺が無意識の内にも、状況を記録しなければとセットしたボイスレコーダー、そして奴の失言が命取りだった。
高所恐怖症ゆえフェンスに近寄る事も無い、そして何より落ちた音も悲鳴も聞こえない――俺の耳が中学での事故以降、聞こえないからって舐めて貰っては困る。
逆にそのよく動く唇は読めるのだから。
その酷薄な笑み迄も。
―了―
長友君は読唇術で会話していたという事でご理解宜しいでしょうか。
因みに携帯のボイスレコーダー……普通、どんな時に使えと?
今一使わない機能も多い私の携帯。これでもまだvodafoneだよ。
新機種とか変えたら使いこなせるのか? 私(笑)
なまじ相手に聞こえないと思っていたから――だからいちいちオーバーアクションでもあった――言ってしまったのかも。
ボイスレコーダーって、普段の生活では確かに使い道ないですよね。でも、脅迫されたときとか、おれおれ詐欺対策には便利かも(^o^)丿(あ、やっぱり普段の生活じゃないですね)
脅迫された時……滅多に無いと思います!(笑)
ビジネスマンがメモ代わりに使うのかなぁ。通常は。
私はメールをメモ代わりにしてる事はあるけど。勿論脅迫されてませんよ!?
出たわね! ツッコミ姐さん!(笑)
う~ん、似た名前の多用は危険だわ。
夜霧……何を言おうとしたのかしら? 続きを聞きたい様な聞きたくない様な……
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とっさにボイスレコーダーを使うなんて、機転の効く兄ちゃんだ!
モアイネコは、メモリーオーディオのボイスレコーダーならたまに使います。
科学が進歩すると、生活が便利になりますね(^^)
科学が進歩すると……マニュアルが分厚くなりますね(笑)
そして取り敢えず必要な所だけ拾い読みするので、全機能使いこなせない機械音痴の私が居ます。笑ってやって下さい(^^;)
小説は読めるのにマニュアルって何で読めないんでしょう?
![](/emoji/V/81.gif)
人を舐めるとしっぺ返しを食うという事で。
用意周到も機転の利く人にはかないませんね。
頭のよい方だなぁ。
絵日記 無事見れるようになりました!!
ダンナ様に言ったら一瞬で解決しました。。。
私は何がいけなかったのか未だにわかってませんが><
ともあれダンナ様、一発解決なさいましたか。いいなぁ、機械に強い人が居ると……
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夜霧が「自分なんて見るもんか」って……何があったんでしょう!?
これ好き!!!
シンもボイスレコーダーもってるw
昔はよくアイデアためにつかってたんだけど
最近はつかってないなぁ。
まぁ、PCにべったりだからだけど。
ボイスレコーダーファブィ!
これ書いた当時とは、携帯が変わりましたがやっぱりレコーダーは使ってません(笑)