〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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する事も無く退屈だからと嘯いて、美春は家族を残して宿を出た。山の中は日暮れが早いから、遠くに行かないようにと言う母の声に、適当に頷き返して。
適当に突っ掛けて出た靴を改めて履き直し、彼女は今出て来た宿を振り返った。昔ながらの茅葺き屋根の民家を生かした民宿だとかで、若い彼女から見れば昔話に出てきそうな建物だった。位置的には山の中腹の森に囲まれた場所にあり、周囲には経営者夫婦が栽培しているのだろう、自家菜園が広がっていた。きっとここで供される料理にも、使われているのだろう。
確かに自然豊かな場所なのだが……最寄り駅から迎えの車に揺られて小一時間。その間、あったのは小さな商店が何軒かと自動販売機、交番位のものだった。出掛けたからと言って買い物に行く場所も無い。
さりとて、部屋に居ても映るテレビは国営放送と、民放がたった一局。
勿論、ネットに繋げるパソコンも無い。それどころか、今時、携帯の電波さえ、場所によっては危うい。
やはり旅行先の選択の際に、もっとごねていればよかったなぁ――美春は今更ながら、溜め息をついた――偶にはのんびりしたいと言う、両親を優先してみれば、これだ。
高校生の彼女には、此処の風景は懐かしさを覚えるものでも、子供っぽい好奇心を呼び覚まされるものでもなかった様だ。
しかし、そんな場所だから、退屈だからと宿を出て来ても、行く所も無い。
仕方なく宿の周りを、虫だの蛇だのが飛び出て来ないかとおっかなびっくり、散策してみる。上から何か落ちて来やしないかと帽子を被り、草叢を避けて。
と、そんな彼女の様子をいつから眺めていたものか、縁側で微笑む老婆の姿。はたと目が合って、美晴はばつの悪い思いで視線を逸らした。
「お客さんかい?」柔らかい声で、老婆が話し掛けてきた。経営者夫婦とは迎えの車で主人と、此処の玄関先で細君と顔を合わせている。きっとどちらかの母親なのだろう、と美晴は推察した。夫婦二人だけで営んでいると言っていたが、御隠居が居たのだと。
人見知り気味の美晴は帽子を被った儘、ぺこりとお辞儀をする。
「そう。珍しい、若いお客さんだねぇ」気にした風もなく、老婆は微笑む。「此処はどう? 退屈じゃないかい?」
「いえ、そんな事は……」一応そう言ったのは、勿論社交辞令だ。
が、それは老婆にはあっさり見抜かれた様で、彼女は目尻の皺を深くして言う。
「遠慮しなくていいんだよ。此処にはもう長い事、お嬢ちゃんみたいな若い子は来た事ないんだから。やっぱり、詰まらないんだろうねぇ……」
「それは……うん……」何と無く、誤魔化すのは悪い気がして、美晴は頷いていた。老婆の手招きに従い縁側に腰を下ろし、並んで話をする。「テレビもケータイもあんまり使えないし、お店も無いし……。お母さん達がのんびりしたいって言うから、此処に来たけど、私は大型のテーマパーク近くのホテルがよかったなぁ……。あ、ごめんなさい」
「いいんだよ――それでも此処に来てくれたのは、お嬢ちゃんが優しいからだろうねぇ」
「そんな事ないです。お母さん達に任せて置きながら、結局こうして愚痴ってるんだし……。今だってあてつけみたいに部屋を出て来ちゃったし」膝を抱え、足先を見詰める。「いつもこうなの。折角の家族旅行なんだからって思うのに、思い通りにならないとつい……。子供だよね」
「それがちゃんと解ってるんなら、やっぱりお嬢ちゃんは優しい子だよ」老婆は目を細め、美春の髪を優しく撫でる。頭を撫でられるのなんて何年振りだろう、そう微苦笑しながらも、美晴は悪い気分ではなかった。
「有難う。自分でも自分にそう言い聞かせてみる。そうしたら……あれ?」
いつしか、髪を撫でる温かい手の感触が消えていた。それどころか、横に座っている筈の老婆の気配も。慌てて顔を上げるが、縁側から延びる廊下にも、目の前の庭にも――呆気に取られる彼女の視界の何処にも、老婆の姿は微塵も無かった。
「足……めちゃめちゃ速いのかな……?」真逆と思いつつもそう呟く彼女の耳に、老婆の声が届いた――様な気がした。お母さん達が心配しているよ、部屋にお戻り、と。
辺りを見回し、首を捻りつつも、美晴は素直に表玄関から、部屋へと戻って行った。
彼女の姿を見て安堵した風の母親と、先程会った老婆の話をしていると、父親が不思議そうに言った。
此処の主人は友人で、五年程前に脱サラして、夫婦二人切りでこの家を買い取り、民宿を開いたのだと。二人共に早くに親を亡くし、子供も独立した為、自由にしたいからと言っていた、と。
「じゃあ、あのお婆さん……誰?」美晴は目を丸くした。
老婆の足でやって来られそうな場所には民家は――少なくとも目に付く限り――無い。
ならば一体何処から来た、誰なのだ?
その問いには、宿の主人が微笑みながら答えた。
「ああ、きっと元々のこの民家に住んでいたお婆さんでしょう。私等が此処を買い取る直前に亡くなったそうなんですが……。話し好きなお婆さんで、今でも時々、現れてはお客さんの話し相手なんかを勤めてくれてるみたいでねぇ。結構助かってますよ」
美晴はあっけらかんとした主人の様子にも呆れたが――それでいて、何と無くリピーターになりそうな予感が、した。
撫でられた髪は、今でもほんわりと、温かい感じがした。
―了―
座敷童子ならぬ座敷婆?(^^;)
仕方なく宿の周りを、虫だの蛇だのが飛び出て来ないかとおっかなびっくり、散策してみる。上から何か落ちて来やしないかと帽子を被り、草叢を避けて。
と、そんな彼女の様子をいつから眺めていたものか、縁側で微笑む老婆の姿。はたと目が合って、美晴はばつの悪い思いで視線を逸らした。
「お客さんかい?」柔らかい声で、老婆が話し掛けてきた。経営者夫婦とは迎えの車で主人と、此処の玄関先で細君と顔を合わせている。きっとどちらかの母親なのだろう、と美晴は推察した。夫婦二人だけで営んでいると言っていたが、御隠居が居たのだと。
人見知り気味の美晴は帽子を被った儘、ぺこりとお辞儀をする。
「そう。珍しい、若いお客さんだねぇ」気にした風もなく、老婆は微笑む。「此処はどう? 退屈じゃないかい?」
「いえ、そんな事は……」一応そう言ったのは、勿論社交辞令だ。
が、それは老婆にはあっさり見抜かれた様で、彼女は目尻の皺を深くして言う。
「遠慮しなくていいんだよ。此処にはもう長い事、お嬢ちゃんみたいな若い子は来た事ないんだから。やっぱり、詰まらないんだろうねぇ……」
「それは……うん……」何と無く、誤魔化すのは悪い気がして、美晴は頷いていた。老婆の手招きに従い縁側に腰を下ろし、並んで話をする。「テレビもケータイもあんまり使えないし、お店も無いし……。お母さん達がのんびりしたいって言うから、此処に来たけど、私は大型のテーマパーク近くのホテルがよかったなぁ……。あ、ごめんなさい」
「いいんだよ――それでも此処に来てくれたのは、お嬢ちゃんが優しいからだろうねぇ」
「そんな事ないです。お母さん達に任せて置きながら、結局こうして愚痴ってるんだし……。今だってあてつけみたいに部屋を出て来ちゃったし」膝を抱え、足先を見詰める。「いつもこうなの。折角の家族旅行なんだからって思うのに、思い通りにならないとつい……。子供だよね」
「それがちゃんと解ってるんなら、やっぱりお嬢ちゃんは優しい子だよ」老婆は目を細め、美春の髪を優しく撫でる。頭を撫でられるのなんて何年振りだろう、そう微苦笑しながらも、美晴は悪い気分ではなかった。
「有難う。自分でも自分にそう言い聞かせてみる。そうしたら……あれ?」
いつしか、髪を撫でる温かい手の感触が消えていた。それどころか、横に座っている筈の老婆の気配も。慌てて顔を上げるが、縁側から延びる廊下にも、目の前の庭にも――呆気に取られる彼女の視界の何処にも、老婆の姿は微塵も無かった。
「足……めちゃめちゃ速いのかな……?」真逆と思いつつもそう呟く彼女の耳に、老婆の声が届いた――様な気がした。お母さん達が心配しているよ、部屋にお戻り、と。
辺りを見回し、首を捻りつつも、美晴は素直に表玄関から、部屋へと戻って行った。
彼女の姿を見て安堵した風の母親と、先程会った老婆の話をしていると、父親が不思議そうに言った。
此処の主人は友人で、五年程前に脱サラして、夫婦二人切りでこの家を買い取り、民宿を開いたのだと。二人共に早くに親を亡くし、子供も独立した為、自由にしたいからと言っていた、と。
「じゃあ、あのお婆さん……誰?」美晴は目を丸くした。
老婆の足でやって来られそうな場所には民家は――少なくとも目に付く限り――無い。
ならば一体何処から来た、誰なのだ?
その問いには、宿の主人が微笑みながら答えた。
「ああ、きっと元々のこの民家に住んでいたお婆さんでしょう。私等が此処を買い取る直前に亡くなったそうなんですが……。話し好きなお婆さんで、今でも時々、現れてはお客さんの話し相手なんかを勤めてくれてるみたいでねぇ。結構助かってますよ」
美晴はあっけらかんとした主人の様子にも呆れたが――それでいて、何と無くリピーターになりそうな予感が、した。
撫でられた髪は、今でもほんわりと、温かい感じがした。
―了―
座敷童子ならぬ座敷婆?(^^;)
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こんばんは
何となく、心温まるような話だね~
そんな不便な場所で民宿としてやっていけてるとしたら、お婆さん幽霊の御蔭でしょうね~
で、その、お話好きのお婆さんは、タダ働きなの?
主人ずるくないか?(笑)
そんな不便な場所で民宿としてやっていけてるとしたら、お婆さん幽霊の御蔭でしょうね~
で、その、お話好きのお婆さんは、タダ働きなの?
主人ずるくないか?(笑)
Re:こんばんは
お水とお花位は供えてくれてるかも?(^^;)
本人も多分楽しんで話してるから、OKだったり(笑)
本人も多分楽しんで話してるから、OKだったり(笑)
Re:ユーレイ☆
そうかも(笑)
そう言えばもう随分前の事、とある民宿に家族で泊まった時、夜中に見知らぬお婆さんが来て話し込んで行った事が……。もしかして?(笑)
そう言えばもう随分前の事、とある民宿に家族で泊まった時、夜中に見知らぬお婆さんが来て話し込んで行った事が……。もしかして?(笑)
こんにちは
>嘯いて
多分、「うそぶいて」だよね。
カナ振った方がよくないかい?
今時のゆとり世代、携帯依存世代だと、こうなのかなぁ?
偶には、携帯もテレビも、時計も無い生活をした方が良いのに。(笑)
因みに、山に登ると電灯も無いので、如何に自分たちが普段、無駄の多い、贅沢な生活をしているかを、思い知らされる。(^_^;)
>冬猫さん
ずるくないよ~。
だって本人は、人が遊びに来てくれるのが楽しみで、気が向いたら出てくるだけだもん。
お腹も減らないし、お金貰っても困るだろうしね~。(笑)
多分、「うそぶいて」だよね。
カナ振った方がよくないかい?
今時のゆとり世代、携帯依存世代だと、こうなのかなぁ?
偶には、携帯もテレビも、時計も無い生活をした方が良いのに。(笑)
因みに、山に登ると電灯も無いので、如何に自分たちが普段、無駄の多い、贅沢な生活をしているかを、思い知らされる。(^_^;)
>冬猫さん
ずるくないよ~。
だって本人は、人が遊びに来てくれるのが楽しみで、気が向いたら出てくるだけだもん。
お腹も減らないし、お金貰っても困るだろうしね~。(笑)
Re:こんにちは
そそ、うそぶいて、だよ~。
幼い頃からテレビやゲームが身近にある世代だからねぇ。野山に親しんでない分、楽しみ方もイマイチ解らなかったりして。
山の夜は暗いよね~。代わりに天気が良ければ星空が拝めるけど♪
幼い頃からテレビやゲームが身近にある世代だからねぇ。野山に親しんでない分、楽しみ方もイマイチ解らなかったりして。
山の夜は暗いよね~。代わりに天気が良ければ星空が拝めるけど♪
こんにちは♪
優しいお婆さんの霊で良かったよねぇ!
こんな幽霊なら皆歓迎しちゃうよネ♪
髪振り乱して出刃包丁握ったお婆さんだと
ギャ~で2度と来たくなるけどね、
こういうお婆さんなら又、来たくなるよネ♪
こんな幽霊なら皆歓迎しちゃうよネ♪
髪振り乱して出刃包丁握ったお婆さんだと
ギャ~で2度と来たくなるけどね、
こういうお婆さんなら又、来たくなるよネ♪
Re:こんにちは♪
髪振り乱して……それ、山姥!(爆)
それだと二度と来たくない以前に、早く逃げないと……(・・;)
それだと二度と来たくない以前に、早く逃げないと……(・・;)
Re:無題
ほのぼのお婆ちゃんの霊は好きですか?(笑)
どうです? 一宿に一人、和み系幽霊(爆)
どうです? 一宿に一人、和み系幽霊(爆)