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妹が幼くして死んだのは自分の所為だと、一番上の兄は常々、口にしていた。
ほんの僅かとは言え、、目を離した自分がいけなかったのだと。
家の裏の貯水池に浮かぶ小さな妹を見付けた時の、狂わんばかりの悲嘆の声が今も記憶に残る。小さな身体の周りを何処から流れ来たのか、小花がくるくると舞い、流れていた、あの光景と共に。あれからもう五十年も経つと言うのに。兄の心はずっと、あの悲鳴を上げ続けているのだろう。
下に六人の弟と、四人の妹を抱える、十一人兄弟の一番上。それだけに責任感も人一倍、強かったのだろう。そして弟や妹達の面倒を見なければという義務感も。
共働きで家計を支え、それだけに家事が手薄になりがちな両親からの信頼も厚かった。
なのに、一番下の妹、正美を亡くしてしまった。
でも、そんなに自分を責めないで欲しいと、私はずっと、伝えたかった。
上の方の兄や姉は何くれとなく協力していたけれど、私を含めた未だ幼い子達はそんな苦労も知らぬ顔で、はしゃぎ回っていた。死んだ妹だって、近付いてはいけないと言われた貯水池に行ってしまったのだ。
現に兄の所為だと、責める者も一人も居ないではないか。皆、解っているのだ。
なのに、そんな声も兄には届かない。
自分で自分に背負わせた罪に、潰されそうになっていると言うのに。
けれど、その兄も、最近痴呆の兆候が見えてきた。未だ軽いものだけれど、いずれは私達の事も解らなくなるのだろうか?
そして、事故の事も忘れる日が来るのだろうか?――兄嫁や甥達には悪いが、それで兄が重荷から解放されるのなら、忘却も救いになるだろうか?
もしかしたら、忘却は余りに自らを責め続ける兄への、神仏からの免罪符なのかも知れない。
只……時折、記憶の退行や混濁を起こす兄が口にする一言が、少し、気に掛かる。
「正美、ほら、花飾りだよ。どこかに映して見ておいで。皆には内緒だよ?」目を細め、小さな子供に言う様に、誰にともなく言うのだ。
でも、当時、悪戯盛りの子供が居る我が家では、兄弟は鍵の掛かる部屋にしまわれて、母が出入りするだけになっていたし、昼間は雨戸も開け放っていたから硝子戸も鏡の代用はしてくれなかった。
だから私達女の子は、行ってはいけないと言われつつも、裏の貯水池を鏡代わりにしていたのだ……。
兄さん、貴方はそれを知っていたの?
知っていて、私達には内緒で、下の妹に花飾りを上げたの?
私の脳裏に、妹の遺体の周りに舞い散っていた小花が、浮かぶ。あれは、兄が与えたものだったのか?――妹を、池に行かせる為に?
妹を亡くす前から、兄の精神は重圧に歪み始めていたのか……?
今、問い掛けても兄は何も答えてはくれない。
只、時折目を細めて、繰言を言うだけだ――皺に囲まれたその目は、よく見れば笑っていないけれど。
―了―
や、何か暗くなりましたよ?(--;)
そして前頭葉が衰え、理性という箍が外れ易くなってくると、ひた隠しにしてきた事を口にしてしまったり……。
そうかも。
日頃は体面だとか理性で覆い隠しているけれど……。
でも、同時に善いものも住んでいるから、人間は得体が知れない。
たぶん兄は級友たちから事ある毎に投げかけられる「兄弟でサッカーチーム作れよ」という身勝手な要求に耐え切れなくなって……うーん(^^;
今だとそれだけ居たら、テレビ出られるかも!?(笑)