〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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カーテンの隙間が気になって仕方がない――私はベッドを降りてカーテンをちゃんと引き直すべきか、この儘薄い夏蒲団を頭から被って朝を待つべきか、もう長い事思案している気がした。尤も、実際には大した時間ではないのは、未だに午前二時過ぎを差している時計の針を見れば解る。ベッドに入ってから未だ五分と経っていない。
寝る前、それもこんな深夜に怖い話なんて聞くんじゃなかったと、後悔しても当然、それは手遅れだった。
カーテンの隙間、部屋の隅、ベッドの下……そこ此処に横たわる闇が何かを内包している様で、いつもの自分の部屋だと言うのに落ち着かない。眠くなるどころか、目は冴えるばかりだった。
これも多恵子の所為だわ――結局ベッドを降りる勇気も出ない儘、私は布団の中で寝返りを打った。ベッドの下は引き出し式の収納になっていたけれど、その下には私の手も入らない程の隙間がある。足を下ろした途端にそこからある筈もない手が……そんな想像が勝手に湧き出でる。
多恵子とはついさっき迄、携帯電話で話をしていた。どうやら彼女は他の友人達数人と肝試しと称して、山の手に残された廃病院に立ち入ったらしい。そして迷惑な事にそれを私に実況してくれたのだった。
いや、私の方も楽しんでいなかったとは言えない。そうでなければ早々に電話など切っていただろう。
多恵子はラジオのレポーターさながらに、病院内の探検の様子を微に入り細を穿って、中継してくれた。私は部屋に居ながらにして、三階建ての病院のロビーの荒れ果てた様子、朽ち掛けた階段の危険な様、残された手術台の一種儀式場めいた、しかし不気味な様子を、逐一聞いていたのだった。
そして時折、他の友人の上げる短い悲鳴が、その雰囲気を盛り立ててくれる。その原因は見間違いだったり、古びた施設へのごく自然な驚きだったり、他愛のないものだった様だ。
破れた硝子窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、床板がぎしり、と音を立てる。圧倒的な闇を掃うには力量不足の懐中電灯は、却って催眠的な効果を、彼等に齎した様だった。徐々に緊迫感が増して行くのが、電話を通しても伝わって来て、私は携帯を持つ手を変えては幾度もその手に滲んだ汗を拭った。
結局、午前二時を前にして、携帯のバッテリーが切れそうだと多恵子が言い出し、私への中継は尻切れとんぼに終わったのだけれど……多恵子達はもう帰途に着いたのだろうか?
私は分け与えられた興奮と不安を抱いた儘、ベッドに潜り込んだ。
そして今、私はなかなか進まぬ時計の針を睨みながら、朝が来るのを待っていた。
何かが、携帯の電波を介してこの部屋に訪れたのではないか――そんな妄想が頭から離れない。ああ、この部屋はこんなに暗かっただろうか?
寝付かれぬ儘、しかし布団から這い出る事も出来ぬ儘、私は闇に目を瞑って、夜を過ごした。
翌朝、いつの間にか眠りについていた私は携帯電話の呼び出し音で起こされた。
「おはよう、奈々子。昨夜はよく眠れた?」多恵子だった。
「何が、よく眠れた? よ」彼女の明るい声にほっとしながらも、私は文句を言った。「多恵子達のお陰で睡眠不足だよ。あれから部屋の隅の暗い所とか、気になって気になって……!」
「よし、成功!」何故か彼女は嬉しそうだった。
「は?」私は訝しく思って訊き返す。
「昨夜のね、私達が作ったラジオドラマだったの。どう? なかなか真に迫ってたでしょ。本当に行くんだったら、奈々子も誘うって」
あっけらかんと笑う多恵子の鼓膜も破れよとばかりに、私が怒鳴ったのは、言う迄もない。
―了―
や、私は怪談聞いた後も平気で寝付きましたが(笑)
寝る前、それもこんな深夜に怖い話なんて聞くんじゃなかったと、後悔しても当然、それは手遅れだった。
カーテンの隙間、部屋の隅、ベッドの下……そこ此処に横たわる闇が何かを内包している様で、いつもの自分の部屋だと言うのに落ち着かない。眠くなるどころか、目は冴えるばかりだった。
これも多恵子の所為だわ――結局ベッドを降りる勇気も出ない儘、私は布団の中で寝返りを打った。ベッドの下は引き出し式の収納になっていたけれど、その下には私の手も入らない程の隙間がある。足を下ろした途端にそこからある筈もない手が……そんな想像が勝手に湧き出でる。
多恵子とはついさっき迄、携帯電話で話をしていた。どうやら彼女は他の友人達数人と肝試しと称して、山の手に残された廃病院に立ち入ったらしい。そして迷惑な事にそれを私に実況してくれたのだった。
いや、私の方も楽しんでいなかったとは言えない。そうでなければ早々に電話など切っていただろう。
多恵子はラジオのレポーターさながらに、病院内の探検の様子を微に入り細を穿って、中継してくれた。私は部屋に居ながらにして、三階建ての病院のロビーの荒れ果てた様子、朽ち掛けた階段の危険な様、残された手術台の一種儀式場めいた、しかし不気味な様子を、逐一聞いていたのだった。
そして時折、他の友人の上げる短い悲鳴が、その雰囲気を盛り立ててくれる。その原因は見間違いだったり、古びた施設へのごく自然な驚きだったり、他愛のないものだった様だ。
破れた硝子窓から吹き込む風がカーテンを揺らし、床板がぎしり、と音を立てる。圧倒的な闇を掃うには力量不足の懐中電灯は、却って催眠的な効果を、彼等に齎した様だった。徐々に緊迫感が増して行くのが、電話を通しても伝わって来て、私は携帯を持つ手を変えては幾度もその手に滲んだ汗を拭った。
結局、午前二時を前にして、携帯のバッテリーが切れそうだと多恵子が言い出し、私への中継は尻切れとんぼに終わったのだけれど……多恵子達はもう帰途に着いたのだろうか?
私は分け与えられた興奮と不安を抱いた儘、ベッドに潜り込んだ。
そして今、私はなかなか進まぬ時計の針を睨みながら、朝が来るのを待っていた。
何かが、携帯の電波を介してこの部屋に訪れたのではないか――そんな妄想が頭から離れない。ああ、この部屋はこんなに暗かっただろうか?
寝付かれぬ儘、しかし布団から這い出る事も出来ぬ儘、私は闇に目を瞑って、夜を過ごした。
翌朝、いつの間にか眠りについていた私は携帯電話の呼び出し音で起こされた。
「おはよう、奈々子。昨夜はよく眠れた?」多恵子だった。
「何が、よく眠れた? よ」彼女の明るい声にほっとしながらも、私は文句を言った。「多恵子達のお陰で睡眠不足だよ。あれから部屋の隅の暗い所とか、気になって気になって……!」
「よし、成功!」何故か彼女は嬉しそうだった。
「は?」私は訝しく思って訊き返す。
「昨夜のね、私達が作ったラジオドラマだったの。どう? なかなか真に迫ってたでしょ。本当に行くんだったら、奈々子も誘うって」
あっけらかんと笑う多恵子の鼓膜も破れよとばかりに、私が怒鳴ったのは、言う迄もない。
―了―
や、私は怪談聞いた後も平気で寝付きましたが(笑)
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Re:無題
はーい(^0^)ノ
平気で寝てました(爆)
箪笥と言えば木目が人の顔に見えたりとかね~。シュミクラ現象、でしたっけ? 点が目、鼻に近いバランスで並んでると、脳が錯覚を起こすみたいな。
平気で寝てました(爆)
箪笥と言えば木目が人の顔に見えたりとかね~。シュミクラ現象、でしたっけ? 点が目、鼻に近いバランスで並んでると、脳が錯覚を起こすみたいな。
こんばんは♪
いやぁ~ドキドキしながら読みました。
夜に怪談話なんか聞かされたら・・・・
脂汗流しながら朝を待ってますネ!(笑)
というか夜は、その手の話はパスしちゃう!
これは、読み始めちゃったので・・・途中でやめたらかえって気になって眠れないから最後まで
読んでしまった!
でも、最後でホッ!としました。
巽さんの恐い話は、どこかしらに優しさがある
から良いなぁ♪
夜に怪談話なんか聞かされたら・・・・
脂汗流しながら朝を待ってますネ!(笑)
というか夜は、その手の話はパスしちゃう!
これは、読み始めちゃったので・・・途中でやめたらかえって気になって眠れないから最後まで
読んでしまった!
でも、最後でホッ!としました。
巽さんの恐い話は、どこかしらに優しさがある
から良いなぁ♪
Re:こんばんは♪
有難うございます(^-^)
怖い話……読後の余韻も味わわないとね♪(←寝た奴が言う)
怖い話……読後の余韻も味わわないとね♪(←寝た奴が言う)
Re:おはよう!
ほほほほ(笑)
や、怖いのは怖いんですよ? 怖くなかったら怪談楽しめませんから(^^;)
でも、平気で寝る(爆)
や、怖いのは怖いんですよ? 怖くなかったら怪談楽しめませんから(^^;)
でも、平気で寝る(爆)
こんにちは
トイレ行ってアチコチ確認して…朝まで起きなくても大丈夫なようにしてから頑張って寝ちゃう~か、明かりつけてテレビ見ちゃうよ。
理由は怖いからだけどねo(><)o
実況中継、よく考えたら電波の関係で無理だよね(笑)
理由は怖いからだけどねo(><)o
実況中継、よく考えたら電波の関係で無理だよね(笑)
Re:こんにちは
山の中~♪ 今、圏外の所ってどの位あるんだろ?
姐さん、結局ラスト迄見てたんですか?(゜゜)
姐さん、結局ラスト迄見てたんですか?(゜゜)
Re:こんばんは♪
年と共に図……いやいやいや(笑)
人生経験っすね♪
人生経験っすね♪