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「どうだった? お姉ちゃん」
私がドアを開けた途端、廊下で所在なげに立ち尽くしていたのだろう、真奈はそう尋ねた。
「誰も、何も居なかったよ」苦笑しつつ、私は答えた。中学二年生にもなって、怖がり屋な妹に。折角旅行に来たって言うのに、ホテルの部屋には誰かに確かめて貰わないと入れないなんて。「それより、窓からの景色、なかなかいいよ。入って見てごらん」
怯ず怯ずと頷いて、真奈は部屋のドアを潜った。
クリーム色を基調とした落ち着いた装飾の室内にはベッドが二台。テーブルと椅子が一揃い。それ程広くはないけれど、感じのいい部屋だと思う。何より窓からは海辺の景色が眼下に一望出来る。
暫くきょろきょろと室内を見回していたけれど、やがて落ち着いたのか片方のベッドに手荷物を置いて、窓に歩み寄った。
窓には安全を考慮してかストッパーが付いていて、全開には出来ないけれど、僅かに開けただけでも心地よい海風が入ってくる。
と、暫くその風に長い髪を靡かせていた真奈が、不意にぴしゃりと窓を閉めた。
「ど、どうかしたの?」着替えを出していた私は驚いて尋ねた。
真奈はくるりと振り返ると、意を決した様にこう言った。
「あたし、お姉ちゃんとは二度と旅行に来ないからね」
「何よ、それ?」流石に、私は顔を顰めた。「うちは自営業で両親共働きだし、折角の夏休みでも旅行にも行けないなんて詰まらないだろうと思って――実際あんた位の頃、私はそう思ってたし――こうして時々誘って上げてるんじゃない。何が不満な訳?」
真奈はばつが悪そうに俯いたけれど、やがて顔を上げて言った。
「お姉ちゃんが私の為にこうやって旅行とか遊びに連れて来てくれるのは、嬉しいし有難うって思ってるわ。只……偶然なのか何なのか解らないんだけど、お姉ちゃんが選ぶ所って何故か……居るのよ」
「居るって……?」
「……さっきも、窓の外から叫び声が聞こえて……」
「えっと……海ではしゃいでる人達の声とかじゃなくて?」
真奈は頭を振った。聞き間違えようがない、と。
それに何より、そんな声は私には聞こえなかった。
「聞き間違いじゃあないの? 私にはそんな声聞こえなかったわよ?」
「お姉ちゃん、こういうの、鈍いじゃない」盛大に、溜息をつかれてしまった。
「もしかして、今迄の所でも……?」
「色々居たわ」
「何でもっと早く言わないのよ? 今迄だって、何も言わなかったじゃない」
「迂闊に話をするとね、寄って来ちゃうのよ」じっと、私の背後を見詰めて、真奈は言った。「本当はね、今だってここでこんな話はしない方がいいんだけど……」
何故私の背後を見るのか、そこに何があるのか、確かめたい気持ちと確かめたくない思いが鬩ぎ合う。
「取り敢えず……」真奈は言った。「外、出ようか。この部屋自体には居ないみたいだし。後、帰る迄はこの件には触れないようにね」
あんたが言い出したんじゃない、と突っ込む余裕もなく、私はこくこくと頷いた。
結局、海で半日遊んで、夕食に舌鼓を打ってと、旅行を満喫していると、そんな事を言われたのが笑い話かの様に、何事も起こりはしなかった。そう、これ迄の旅行だって、何もおかしな事なんて起こらなかった。
きっと真奈は思春期特有の、繊細な時期なのだろう。
それとも、私をからかってる?
翌朝、帰り支度を整えながら、私は苦笑しながら真奈に言った。
「何も起こらなかったじゃない」
「…………」真奈は何も言わず、ふいっと顔を逸らして、ぼそっと呟いた。「まぁ、いっか」
やがて私達は無事、家に帰り着き、両親にただいまの挨拶をしに、家から渡り廊下を伝って――我がお寺の本堂に行った。
そこでいつになく数時間、父の読経を聞かされたのだけど……私達――あるいは私?――変なお土産でも持って帰ってたのかしら?
「やっぱり、お姉ちゃんとは二度と旅行に行かない」痺れる足に顔を顰めながら、真奈は言った。
―了―
そんなおみやは要りません(--;)
寝る時にはベッドの四隅にお札で結界張るとか(^^;)
霊に敏感な妹と、霊に鈍感だけど思い切り呼んでしまう姉の組み合わせですね。姉妹でなぜそこまで違うのか?
どっちか選べと聞かれたら妹の方が役に立ちそうですな(笑)
まぁ、本人全く気付きもしない癖に呼びまくる人と旅に出るのは……お札必携?(^^;)