〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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陽が暮れるのも早くなったものだと、夕闇迫る空と腕時計とを見比べながら、僕は思った。我知らず、自転車のペダルを漕ぐ脚に力が入る。
早く帰らないと……。
それにしても自転車で片道一時間以上も掛かる高校なんて、我ながら思い切った選択をしたものだ。まぁ、確かに行きたい高校ではあったんだけど、他に近い所だってあったのに。
「……それだけ家から離れたかったのかな……」僕は自問する。一人になると、時々浮上する、その問い。
答えは未だに出ない。
いっそ家を出て下宿したいという思いもあったが、それは現状では無理だ。金銭的な問題もあるし、許しも出ないだろう。
寧ろ、許しが出たら僕の方が焦ってしまうんじゃないだろうか――そう考えて、思わず苦笑した。
そしてふと不安になり、更に自転車を急がせた。
辺りは畑の中に家が点在する田舎道。整備されてはいるけれど、灯は少ない。
早く帰らないと……。
余所の家の夕餉の灯を尻目に、僕は尚暗い一画へと――我が家へと急いだ。
早く帰らないと……。
それにしても自転車で片道一時間以上も掛かる高校なんて、我ながら思い切った選択をしたものだ。まぁ、確かに行きたい高校ではあったんだけど、他に近い所だってあったのに。
「……それだけ家から離れたかったのかな……」僕は自問する。一人になると、時々浮上する、その問い。
答えは未だに出ない。
いっそ家を出て下宿したいという思いもあったが、それは現状では無理だ。金銭的な問題もあるし、許しも出ないだろう。
寧ろ、許しが出たら僕の方が焦ってしまうんじゃないだろうか――そう考えて、思わず苦笑した。
そしてふと不安になり、更に自転車を急がせた。
辺りは畑の中に家が点在する田舎道。整備されてはいるけれど、灯は少ない。
早く帰らないと……。
余所の家の夕餉の灯を尻目に、僕は尚暗い一画へと――我が家へと急いだ。
「ただいま」辛うじて家が宵闇に閉ざされるより早く帰り着いた僕は、庭に自転車を停めて鍵を掛け、続けて家の鍵と扉を開け放ち、暗い廊下に向かって言った。更に急いで、廊下の電気を点ける。
その声に応えて来たのは、とたとたと軽い足音。
未だ小さな僕の妹。迫っていた闇に、今にも泣き出しそうになっている。
「ごめん、遅くなったね。直ぐ夕飯用意するから……。おいで」僕は妹の手を引いて、居間に向かい、電気を点けた。「ほら、此処で待ってて。明るいから怖くないだろ?」
小さく頷いて、妹は畳に脚を伸ばした。大人しく人形遊びを始めた妹を残して、僕は台所に立った。
妹は暗闇を恐れる癖に、自分で電気を点ける事が出来ない。勿論、踏み台や椅子を使えばスイッチに手は届くんだけど――精神的なショックから抜け切れずにいるのだ。
数ヶ月前の真夜中、トイレに起きた妹は母に同行を頼もうとして、声を掛けても答えが無いのと、錆の様なおかしな臭いを不審に思い、両親の寝室の明かりを点けた。
その彼女の目に映ったのは一面の赤。
青黒い顔で首に紫の輪を刻まれて目を見開いた儘の母と、腹に包丁を突き立てた父の姿。
その直後の彼女の悲鳴と号泣は、凄まじいものだった。僕は慌てて直ぐに彼女を寝室から連れ出し、警察と消防に通報した。
無理心中、という事で事件は片付けられた。
しかしそれよりも、僕は妹が心配だった。
朝には落ち着いたものの、先述の様に電気を点けられなくなっていた――フラッシュバックと言うのだろうか。余りのショックに、電気を点けた途端、あの惨状が脳裏に蘇る事もあるかも知れない、そう医師に言われたのだ。妹はそれを恐れ、また自分が灯を点けた為にあの様な事になったのではないかという、子供特有の破綻した考えにも囚われていた。
だから、灯は僕が点けなければならない。あの寝室にも彼女が入らないようにしないといけない。本当は二人でこの家を出てしまうのがいいんだろうけれど、近しい親戚も居ないし、金銭的にも取り立てて困ってはいないけれど、出費は避けなければならない。
友人を裏切る事を繰り返し、然もそれを僕にも自慢していた様な父と母だから、葬儀の席だって閑散としたものだった。僕等に頼れる人は居ない。
だからこそ、僕は早く帰らないといけないのだ。
妹が不安がらないように。
灯を点けなくていいように。
何より彼女は一人にする事を許してはくれないだろう。
それに、フラッシュバックとやらであの現場を幾度も脳裏に再現されては、いずれその記憶の中から見付け出してしまうかも知れないではないか。
あの現場に居た、薄汚い父の返り血を浴びた僕の姿を。
―了―
暗いってば(--;)←自己ツッコミ中。
や、少年期の潔癖感ゆえに両親が憎かったという事で……。
その声に応えて来たのは、とたとたと軽い足音。
未だ小さな僕の妹。迫っていた闇に、今にも泣き出しそうになっている。
「ごめん、遅くなったね。直ぐ夕飯用意するから……。おいで」僕は妹の手を引いて、居間に向かい、電気を点けた。「ほら、此処で待ってて。明るいから怖くないだろ?」
小さく頷いて、妹は畳に脚を伸ばした。大人しく人形遊びを始めた妹を残して、僕は台所に立った。
妹は暗闇を恐れる癖に、自分で電気を点ける事が出来ない。勿論、踏み台や椅子を使えばスイッチに手は届くんだけど――精神的なショックから抜け切れずにいるのだ。
数ヶ月前の真夜中、トイレに起きた妹は母に同行を頼もうとして、声を掛けても答えが無いのと、錆の様なおかしな臭いを不審に思い、両親の寝室の明かりを点けた。
その彼女の目に映ったのは一面の赤。
青黒い顔で首に紫の輪を刻まれて目を見開いた儘の母と、腹に包丁を突き立てた父の姿。
その直後の彼女の悲鳴と号泣は、凄まじいものだった。僕は慌てて直ぐに彼女を寝室から連れ出し、警察と消防に通報した。
無理心中、という事で事件は片付けられた。
しかしそれよりも、僕は妹が心配だった。
朝には落ち着いたものの、先述の様に電気を点けられなくなっていた――フラッシュバックと言うのだろうか。余りのショックに、電気を点けた途端、あの惨状が脳裏に蘇る事もあるかも知れない、そう医師に言われたのだ。妹はそれを恐れ、また自分が灯を点けた為にあの様な事になったのではないかという、子供特有の破綻した考えにも囚われていた。
だから、灯は僕が点けなければならない。あの寝室にも彼女が入らないようにしないといけない。本当は二人でこの家を出てしまうのがいいんだろうけれど、近しい親戚も居ないし、金銭的にも取り立てて困ってはいないけれど、出費は避けなければならない。
友人を裏切る事を繰り返し、然もそれを僕にも自慢していた様な父と母だから、葬儀の席だって閑散としたものだった。僕等に頼れる人は居ない。
だからこそ、僕は早く帰らないといけないのだ。
妹が不安がらないように。
灯を点けなくていいように。
何より彼女は一人にする事を許してはくれないだろう。
それに、フラッシュバックとやらであの現場を幾度も脳裏に再現されては、いずれその記憶の中から見付け出してしまうかも知れないではないか。
あの現場に居た、薄汚い父の返り血を浴びた僕の姿を。
―了―
暗いってば(--;)←自己ツッコミ中。
や、少年期の潔癖感ゆえに両親が憎かったという事で……。
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Re:ん~~
まぁ、金銭面以外でも、未成年者だからねぇ。自分等だけじゃアパートも借りられない(汗)
Re:こんばんは~
思い出したら色んな意味で大変ですなぁ。
然も真犯人を公言すると、一時的にでも本当に一人になってしまうという懊悩が……。
然も真犯人を公言すると、一時的にでも本当に一人になってしまうという懊悩が……。
Re:こんばんは♪
引っ越した所で罪からは逃れられる訳もなく……。
ある意味愛しい時限爆弾な妹さん。
ある意味愛しい時限爆弾な妹さん。
Re:きゃぁ~(>_<)
想像しちゃいましたか。
……ふと思ったけど、もしこの兄妹が引っ越して行ったら、この家、地元で幽霊スポットの噂立てられそうかも。
……ふと思ったけど、もしこの兄妹が引っ越して行ったら、この家、地元で幽霊スポットの噂立てられそうかも。
Re:子供に
子供を作る資格か~。難しいですね。
経済的にはしっかりしてるのに、人間的に非常に遺憾な人とか(--;)
経済的にはしっかりしてるのに、人間的に非常に遺憾な人とか(--;)
こんにちは
う~ん、何ともはや・・・。
そりゃあ、引越しよりも、自首した方が良いんではなかろうか?
でも、それこそ、妹が一人に残されて可哀想かぁ・・・。
しかし、何時までも、精算できないと思うけどねぇ。
時々、何処までも陰惨な物語になるねぇ。(>_<)
そりゃあ、引越しよりも、自首した方が良いんではなかろうか?
でも、それこそ、妹が一人に残されて可哀想かぁ・・・。
しかし、何時までも、精算できないと思うけどねぇ。
時々、何処までも陰惨な物語になるねぇ。(>_<)
Re:こんにちは
時々ブラック(苦笑)
うん、本当なら自首推奨なんだけど、この兄貴が妹を一人残せるか……?
でも、思い出したら思い出したで大変だよねぇ。
うん、本当なら自首推奨なんだけど、この兄貴が妹を一人残せるか……?
でも、思い出したら思い出したで大変だよねぇ。
Re:こんちは。
いつ思い出すかにもよる気がしますねぇ。
只泣き叫ぶか、兄を非難するか、自首を勧めるか……。
いずれにしても傷付くなぁ……(--;)
只泣き叫ぶか、兄を非難するか、自首を勧めるか……。
いずれにしても傷付くなぁ……(--;)
Re:無題
警察はどうしても目が節穴っぽくなりますね(^^;)
まぁ、現実にはもっとしっかりしてる筈……と言うかしっかりしてくれないと困る(苦笑)
自首してしまうと妹が一人になり……。周りの人が彼女をどう受け入れてくれるかですね。後は。
まぁ、現実にはもっとしっかりしてる筈……と言うかしっかりしてくれないと困る(苦笑)
自首してしまうと妹が一人になり……。周りの人が彼女をどう受け入れてくれるかですね。後は。