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多忙さを言い訳に年賀状を放置していたツケは、年末の最も忙しい時期に回って来た。
「だから早くした方がいいよって言ったのに」そう言って、それでなくても焦る気を更に急かしてくれるのは、既に書き終え、投函も済ませたと言う妹だった。
ええい、煩い。僕は半ば本気で、耳栓を買いに行こうかと思った。が、今はそんな時間も惜しい。
親戚に友人や会社の付き合い、ざっと見積もって五十枚といった所か。例年ならそれでも大した数ではないのだが……。
「よりによって、プリンターが故障するなんてね。ついてないね」
そう。プリンターの故障により、現在手作業なのだ。幸いなのは表面印刷済みの葉書を買い求めてあった事か。竹林に雄々しく佇む白虎が、ほぼこの時期だけ意識する、来年の干支を教えてくれている。
勿論、プリンターは修理に出しているが、日数が掛かると言われてしまった。更に忙しくなるであろう年末に、これ以上この仕事を持ち越したくないと、半ば勢いで書き始めたのだが……。
普段持つ事のない筆ペンは使い難く、持ち前の悪筆が更に作業を困難にしていた。
「お前、プリンターの具合悪いの、気付かなかったのか?」八つ当たり気味に、妹に問う。「先に使ったんだろ?」
「使ってないよ」あっけらかんと、妹は言った。「私は手書きだもん。兄さんのみたいに出来合いじゃないもんね」
「出来合いの印刷済みで悪かったな。お前とは出す数が違うんだよ」
「口より手を動かしたら?」
ああ言えばこう言う。僕は妹との言い合いを止めて、作業に集中する事にした。
その甲斐あって、日付が変わる前に、宛名書きは終了したのだが……。
明くる年。
僕が出した内の誰からも、年賀状は来なかった。
友人達からさえも。
「皆、随分付き合いが悪くなったんだなぁ」些か寂しい思いで、僕は呟いた。炬燵の天板に二十枚程の色鮮やかな年賀状を並べている妹を横目に。
「兄さん、ちゃんと差出人の住所、氏名、書いた?」妹が笑う。
「当たり前だろう」馬鹿な事を言うなとばかりに、僕は嘆息した。「それ以前にお互いに知ってるんだから、僕の年賀状が着くより先に書いて投函してるだろう。投函が遅くて、配達が遅れてるのかな?」
「皆が皆?」
「それもおかしいよな」
笑っていた妹も、流石に笑みを納めて不審げな顔で自分の手元と、何も無い僕の手元とを見比べていた。
ところが、その日の午後、友人から妙な電話が入った。
〈お前、年賀状来てたけど……。去年の暮れに家族全員が事故で亡くなったからって、欠礼葉書が来てなかったっけ? だから出さなかったんだけど……〉
おいおい、馬鹿な事言うなよ――僕は茫然と、言い返すでもなく呟いていた。
亡くなった? 家族全員が?
じゃあ……じゃあ、今目の前に居るのは誰なんだ?
そう思ったと同時だった。妹の姿が空気に解け、彼女宛の色鮮やかな年賀状も、共に消えて行った。
僕は家族を失った寂しさの為に、幻覚を見ていたのか? 口煩くも生き生きとした、妹の幻影を?
いつしか、乾いた笑いが僕の喉から漏れ出していた。電話の向こうから、心配げな友人の声がする。それをも無視して笑い続ける僕に、控え目な慰めの言葉を寄越して、数分後、電話は切れた。
〈一人で大丈夫か?〉との言葉を残して。
やがて僕は笑いを収め――葬儀の準備や親戚とのやり取りに忙殺されていた年末を思い出した。
そうだった。プリンターは、大量の欠礼葉書を印刷した後に、僕が壊したんだった。
皆が年賀状のデザインに苦慮する時期に僕の周りを閉ざす白と黒の葉書が、余りに忌まわしくて。
それを吐き出したプリンターへの、子供じみた八つ当たりに過ぎなかったけれど。
―了―
書いてる途中またいきなりPC再起動!(--;)
一時保存機能付いてて助かった!
一人だけ生き残ったんだね。
いっそのこと、全員死んだ話の方が面白かったかも。
年賀状如きで、さ迷ってないで、はよ、天国行け!って。(笑)
年賀状、苦労して書いた後に急死して、ああ、死んでも死に切れない! とか(苦笑)
一人だけ生き残るってのは辛いよね、
気の毒に・・・・・
あぁ~年賀状、印刷は済んでいるんだけど、
一言くらいは手書きを添えようと思って
積み上げてあるの!
いやぁ~どうしよう・・・そろそろやらねば!
ちょこちょこっとでも、手書きで一言、あると貰った方も嬉しいもんですよね(^-^)
でも認めないと先に進めない……。
そう、目の前にある白いものも、認めてしまわなければ……しまわなければ……う~む(苦笑)
だのに……。
何故なんでしょうねぇ!?(^^;)