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閉ざされた襖の僅かな隙間。
そのささやかな空間で、何かが瞬いた気がした。ちらちらと、白に、橙に、緋色に……気紛れに色合いを変えながら。
けれどそれはほんの一瞬で、今そこにあるのは黒い闇。
何だったんだろう、と私の視線はその隙間に釘付けになった。また違う色が見えはしないかと、暫し、じっと見詰める。夜中に喉が乾いて台所に立ったのだが、それも後回しにして、暗い廊下に立ち尽くしていた。
この襖の向こうは仏間だった。仏壇が安置され、床の間が整えられ、祖母が朝夕のお勤めをする以外は殆ど使われる事もない六畳間。小さい頃に遊んでいて怒られた記憶がある所為か、我が家の一室でありながら、私はその和室が苦手だった。
真逆、蝋燭の火が付けっ放しになっているんじゃあ――そう思い掛けて、私は頭を振る。祖母のお勤めは午後六時頃。今は日付も変わって午前二時だ。消し忘れたとしても疾うに立ち消えている。確かに丁度、蝋燭の火の揺らぎにも似ていたけれど。
では一体……?
好奇心を抑え切れず、私はそっと襖に手を掛けた。
思い切って開けた襖の先には、闇に沈んだ仏間があった。いつも通りの――前に見たのはもう随分前になるけれど、その時と全く変わらない。
きちんと閉ざされた仏壇。その前に置かれた祖母の座布団。床の間に設えられた掛け軸に、花器。
廊下からの灯に浮かび上がるそれらの何処にも、異常は見当たらない。
見間違いだったのだろう、と私は苦笑した。寝惚けていたのかも知れない。
私はどこかほっとすると同時に喉の渇きを思い出し、襖を元通りに閉ざすと、台所へ向かった。
それでも、水で渇きを癒した帰りに、またその隙間を窺ってしまったのは、やはり自分でも何か納得していなかったのだろうか。
ちらり、ゆらり……また、何かが瞬いた気がした。
今度は寝惚けてなんかいない。
私は反射的に、襖を開けていた。
と――。
そこに居たのは幾羽かの小鳥。白、橙、緋色……どこか炎の色にも似た燐光を纏った、雀程の大きさの鳥だった。
何処から? いや、それ以前に何故淡くも光っているの?
私が思わず短い悲鳴を上げると、小鳥達は一斉に飛び立ち、床の間へと飛んで行った。その光が一つ、二つと消えて行く。
程なく仏間は元の暗さの中に沈み、私は茫然と、立ち尽くすのみだった。
翌朝、起きて来た祖母に昨夜の出来事を話して、仏間を調べさせて欲しいと頼むと、苦笑いが返ってきた。
「朝美、あんた小さい頃、夜中にあの部屋で遊んでいたの忘れたの? 小鳥を追っ掛けて……。そうっとして置いてお上げなさいって、お祖母ちゃん、言ったじゃない」
その一言で、夜の仏間を、以前いつどんな状況で見たのか、私は思い出した。
そうだ、夜中にお手洗いに起きた時に寝惚けて仏間に迷い込んで……小さな光る小鳥達の姿に思わずはしゃぎ、その後を追っ掛けて捕まえようとしたんだった。一羽たりとも、小さな私の手には掛からなかったけれども。
そして騒ぎに起きて来た祖母に怒られて……癇癪を起こす私を余所に、小鳥達は帰って行ったのだった。
床の間に飾られた掛け軸――その画の中へと。
時折夜中に抜け出しては、あの仏間で文字通り羽を伸ばしているのだろうか。
「そうっとして置いてお上げなさい」祖母はもう一度、そう言って微笑んだ。
―了―
不思議な話で(--)ノ
でも、続きのある記事だと、変な所に表示されるのが困り物かも(汗)
虎さん、見る分にはうっとりものですが♪