〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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古の昔より「病は気から」と申します。
無論、それだけで片付かない病は数々ございますが、逆に片付く病もまた数多。
だからこその身代わり、形代、移し身……何と呼んでも構いませんが、詰まりは、依り代でございます。
その代表的な物が、ほれ、この人形。
雛人形、市松、ちょっと偏った所では藁人形……いずれも人の姿を映し取り、それを通じて身に降り掛かる災いを転じようとした物。藁人形だけは、方向が逆でございますが……。
人形が難を、疫を引き取ってくれる――そう信じるだけでも人の気は軽くなり、心労の減ったお陰か病も軽くなる。単純な思い込み、そう思われますでしょうが、それでも、未だに流し雛の習慣などは残されておりますな。
それはやはり、どこかそういった心気があるからやも、知れませんな。
ほれ、今年も和紙で作られた依り代が、色んな思いを引き受けて、小さな船で一方通行の旅に出る所です。
……何処に行き着くのでございましょうね? 人々の思いを抱えて。
「ママ、お人形!」川辺で遊ぶ内、幼い少女は川岸に引っ掛かった小船に乗せられた紙人形に気が付いた。「お船に乗ってる! 何処から来たのかな?」
「駄目よ」それ以上川辺に近付かないよう、そしてその人形に触れないよう、母親は少女の手を引いた。「触っちゃ駄目」
「どうして? これ、誰の?」誰のでもないのなら……という幼い期待が瞳に垣間見える。お人形なら一杯ある。けれど、この人形は少女が持つどれとも、違っていた。
「誰かの」母親はきっぱりと言った。正確には誰かの思いの籠もった物、と。
だから触ってはいけない。娘を近付けてはいけない。
雛に託した思いがいいものだけとは限らない。人は難を転ずる為に、雛を流すのだ。
しかし、僅かに手を緩めた瞬間に、娘はその手を振り払っていた。
叱責の声でその脚を止める事は出来ず、少女は川岸に降り立つと、人形を手に取ってしまった。
そして――ふと、泣き出したのだった。
「どうしたの?」慌てて後を追い、母親は尋ねた。娘の手から流し雛を奪い取る。そうしながらも人形と小船を検めるが、特に危険そうな物は無い。「何を泣いてるの?」
それに対し、未だぐずりながらも少女は答えた。
「わかんない」と。
只、それを手に取った瞬間、とても寂しい様な、切ない様な――幼い子供が切なさを訴えるのは甚だ苦労した様だった――泣きたい気持ちになったのだと言う。
「どういう事?」と、母親は首を傾げる。彼女自身は全く、そんなものは感じない。
柔軟な、幼い魂ゆえに感じ取れた想いなのだろうか。
しかし、何がそんなに寂しく、切ないのだろうか?
「誰かがね、ご病気でお外で遊べなくて、だから……」しゃくり上げながらも、少女が感じた事を語る。「このお人形に、代わりに外を見て来てって……。旅行なんてずっと行けないから、代わりに、何処迄でも行って欲しいって……。なのにこんな所で引っ掛かっちゃってて……」
「そう……」しんみりと、思いを託された流し雛を見詰めて、母親は我が子の髪を撫でた。
子供の言う意事がどこ迄本当かは解らない。
本当にそんな誰かが居るのか、確かめようもない。
けれど、もし、本当にそんな想いがこの手の中の人形に込められているのなら……。
「じゃあ、川に戻してあげないとね。無事に旅を続けられるように」
「うん……」少女はこくりと頷いた。
二人して川岸に腰を屈め、なるべく流れの滑らかな場所に下ろす。石に引っ掛かる事のない様に、強い流れに転覆させられる事などない様に。
流れ行く小船を見送る二人は、いつしかそっと手を合わせていた。
顔も名も知らない「誰か」の思いが途絶えず、旅が続きますようにと。
そして、いずれはその「誰か」自身が病を克服し、旅行に出て自らの目でこの景色を見られますようにと。
三人分の想いを乗せて、流し雛は滔々とした流れを、下って行った。
―了―
雛祭本番。
なので一応怖くない路線で考えてみる(^^;)
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「駄目よ」それ以上川辺に近付かないよう、そしてその人形に触れないよう、母親は少女の手を引いた。「触っちゃ駄目」
「どうして? これ、誰の?」誰のでもないのなら……という幼い期待が瞳に垣間見える。お人形なら一杯ある。けれど、この人形は少女が持つどれとも、違っていた。
「誰かの」母親はきっぱりと言った。正確には誰かの思いの籠もった物、と。
だから触ってはいけない。娘を近付けてはいけない。
雛に託した思いがいいものだけとは限らない。人は難を転ずる為に、雛を流すのだ。
しかし、僅かに手を緩めた瞬間に、娘はその手を振り払っていた。
叱責の声でその脚を止める事は出来ず、少女は川岸に降り立つと、人形を手に取ってしまった。
そして――ふと、泣き出したのだった。
「どうしたの?」慌てて後を追い、母親は尋ねた。娘の手から流し雛を奪い取る。そうしながらも人形と小船を検めるが、特に危険そうな物は無い。「何を泣いてるの?」
それに対し、未だぐずりながらも少女は答えた。
「わかんない」と。
只、それを手に取った瞬間、とても寂しい様な、切ない様な――幼い子供が切なさを訴えるのは甚だ苦労した様だった――泣きたい気持ちになったのだと言う。
「どういう事?」と、母親は首を傾げる。彼女自身は全く、そんなものは感じない。
柔軟な、幼い魂ゆえに感じ取れた想いなのだろうか。
しかし、何がそんなに寂しく、切ないのだろうか?
「誰かがね、ご病気でお外で遊べなくて、だから……」しゃくり上げながらも、少女が感じた事を語る。「このお人形に、代わりに外を見て来てって……。旅行なんてずっと行けないから、代わりに、何処迄でも行って欲しいって……。なのにこんな所で引っ掛かっちゃってて……」
「そう……」しんみりと、思いを託された流し雛を見詰めて、母親は我が子の髪を撫でた。
子供の言う意事がどこ迄本当かは解らない。
本当にそんな誰かが居るのか、確かめようもない。
けれど、もし、本当にそんな想いがこの手の中の人形に込められているのなら……。
「じゃあ、川に戻してあげないとね。無事に旅を続けられるように」
「うん……」少女はこくりと頷いた。
二人して川岸に腰を屈め、なるべく流れの滑らかな場所に下ろす。石に引っ掛かる事のない様に、強い流れに転覆させられる事などない様に。
流れ行く小船を見送る二人は、いつしかそっと手を合わせていた。
顔も名も知らない「誰か」の思いが途絶えず、旅が続きますようにと。
そして、いずれはその「誰か」自身が病を克服し、旅行に出て自らの目でこの景色を見られますようにと。
三人分の想いを乗せて、流し雛は滔々とした流れを、下って行った。
―了―
雛祭本番。
なので一応怖くない路線で考えてみる(^^;)
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無題
どもども!
念が篭ってるって時点で、立派に怖かったっすw
色んな思いが込められてる流し雛、下手に触って祟られないとも限りませんからね~。
今回は良かったかもしれませんけど、3人分の思いが篭ってしまった流し雛…誰の手にも触れさせたくないっすね。
念が篭ってるって時点で、立派に怖かったっすw
色んな思いが込められてる流し雛、下手に触って祟られないとも限りませんからね~。
今回は良かったかもしれませんけど、3人分の思いが篭ってしまった流し雛…誰の手にも触れさせたくないっすね。
Re:無題
止めちゃ駄目、みたいな(^^;)
その儘流せばいいけど、止めてしまうと……祟られそう(苦笑)
その儘流せばいいけど、止めてしまうと……祟られそう(苦笑)
ちょっとドキリ!
子供が手に取ったというところでドキリとしました!いろんな穢れを背負い込んでしまうのか?
なんて考えちゃったよぉ!
でも、良かった!ほっとしました。
流し雛って考えたらちょっと哀れだね・・・・
なんて考えちゃったよぉ!
でも、良かった!ほっとしました。
流し雛って考えたらちょっと哀れだね・・・・
Re:ちょっとドキリ!
流し雛……あくまで身代わりとして、厄を引き受け、流される存在ですからねぇ。
今回のはちょっと願いも籠もっていた様ですが。
今回のはちょっと願いも籠もっていた様ですが。
Re:こんばんは
元々人の厄や穢れを移すヒトガタが原型ですからねぇ。
呪いに於いては近しい姿をしたもの程、同一視される……故にどんどん、その造形はリアルになってきた様で。余計怖くなる(^^;)
今みたいに愛玩用になった人形でさえ、どこか怖いもんねぇ。
呪いに於いては近しい姿をしたもの程、同一視される……故にどんどん、その造形はリアルになってきた様で。余計怖くなる(^^;)
今みたいに愛玩用になった人形でさえ、どこか怖いもんねぇ。
Re:こんばんは☆
小船で何処迄行けるか解らないけれどね(^^;)
Re:こんばんわっ
あれ? 怖かったですか?(^^;)
子供の方がやっぱりこういうものには敏感ではないかと……何でだろ?
子供の方がやっぱりこういうものには敏感ではないかと……何でだろ?
Re:いろんな物が・・
灯篭流しとかね~。
椰子の実じゃないけど、遠い所で見付かったらそれはそれで何だかロマンチックかも。
椰子の実じゃないけど、遠い所で見付かったらそれはそれで何だかロマンチックかも。
こんばんは
今回はちょっと毛色が違うね。
冒頭部分で語り部は誰やねんって思っちゃったよ。(笑)
一瞬、カメリアさん? でも雛人形が出てくるのは変かって。
しかし・・・、充分恐いよ~。(>_<)
子供が雛人形を拾い上げた瞬間、色々と想像してしまったよ。(^_^;)
冒頭部分で語り部は誰やねんって思っちゃったよ。(笑)
一瞬、カメリアさん? でも雛人形が出てくるのは変かって。
しかし・・・、充分恐いよ~。(>_<)
子供が雛人形を拾い上げた瞬間、色々と想像してしまったよ。(^_^;)
Re:こんばんは
本当、誰やねん(笑)
迂闊な拾い物はなさりませんように……くっくっく。
迂闊な拾い物はなさりませんように……くっくっく。