〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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独り暮らしの狭いワンルームから、久し振りに里帰りした実家には、例年に倣って広間に雛壇が設えられていた。
我が家に代々受け継がれてきたもので、今は一人娘の私の為に、母が用意しては見においで、と里帰りに誘う。七段にも及ぶ雛壇を飾り付けるのは、決して容易ではないだろうに。父は壇を形作ったら、後は母任せだ。
丁寧にしまわれている雛人形を傷付けないよう、細かな細工にも気を配って飾り付ける。昔からそれは母の仕事で――そしていずれは私の仕事になるのだろうかと、母を遠巻きに見ながら、子供心にも思っていたものだった。
漠然とした不安の様なものを抱えながら。
代々受け継がれてきたお雛様は丁寧に扱われてはいても経てきた年月は隠し難く、造られた当時の主流だったのかどうか、お顔も優しくはない。細い目、きりりとした唇、高みから見下す様なその表情。
友達を呼んで雛あられや子供用の甘酒を楽しんでいても、どこかで、その威圧的な視線を感じていた。
人形は雛壇の上、私は小さい。当然見上げる形になった。だからそう感じるのだろうと、当時は自分に言い聞かせていたのだけれど……大学に入り、独り暮らしを始める頃になっても、それは変わらなかった。
それは気品というものよ――私が十歳の頃に亡くなった祖母はそう言っていた。気品ある雛人形。それは受け継いできた彼女にとっても自慢だったのだろう。幼い私は「新しいのがいい」と駄々を捏ねて困らせたりもしたけれど。その翌年、祖母は急死した。人形店のパンフレットに突っ伏す様にして。
「ひな、今夜は泊まって行けるんでしょう?」母が訊いた。
「うん、大丈夫だけど……何?」
「お雛様。明日にはもう片付けるから、手伝って貰おうと思って。ひなだってちゃんとした仕舞い方とか、そろそろ覚えて貰わないとね。お母さんだってもう歳だし」そう言って母は苦笑いする。見た所具合が悪そうでもないけれど……不安が顔に出たのか、母は慌てて頭を振った。「ああ、別に死期を悟ったからなんて言うんじゃないからね。未だ未だ死ぬ気無いもの」そう言って、笑う。
私はほっとすると同時に、とうとうこの時期が来たのかと、やはり不安になる。
あの雛人形を、私が仕舞い、そしていずれは飾り付け……。
「緊張するなぁ」気を紛らわそうと、私は笑って言う。「時代のあるお雛様だもんねぇ。傷でも付けたら祟られそう」
馬鹿な事を言うもんじゃありませんよ――そう言って苦笑してくれる筈だった母は、しかしさも当たり前の様にこう言った。
「そうそう、だから気を付けてね?」
「……」私は黙って頷く事しか出来なかった。
かつて、私が困らせてしまった祖母。もしかして死の間際に彼女が見ていたパンフレットは、私の為の新しい雛人形の品定めだったのだろうか?
そして……だから……?
翌日、私は――丸で神事を行なう様に厳かな母の所作を、その一挙手一投足を注視した。
決して、傷など付けないように……。
無事にお焚き上げでもしてくれる寺社が見付かる迄は。
怖いけれど、大好きだった祖母の急死に関わっているとしたら……私は雛人形の細い目を、そっと、それでも目を逸らす事無く見返した。
―了―
雛祭前日に何でこんな話やねん(^^;)
でも、時代のある雛人形って……怖くないですか!?
我が家に代々受け継がれてきたもので、今は一人娘の私の為に、母が用意しては見においで、と里帰りに誘う。七段にも及ぶ雛壇を飾り付けるのは、決して容易ではないだろうに。父は壇を形作ったら、後は母任せだ。
丁寧にしまわれている雛人形を傷付けないよう、細かな細工にも気を配って飾り付ける。昔からそれは母の仕事で――そしていずれは私の仕事になるのだろうかと、母を遠巻きに見ながら、子供心にも思っていたものだった。
漠然とした不安の様なものを抱えながら。
代々受け継がれてきたお雛様は丁寧に扱われてはいても経てきた年月は隠し難く、造られた当時の主流だったのかどうか、お顔も優しくはない。細い目、きりりとした唇、高みから見下す様なその表情。
友達を呼んで雛あられや子供用の甘酒を楽しんでいても、どこかで、その威圧的な視線を感じていた。
人形は雛壇の上、私は小さい。当然見上げる形になった。だからそう感じるのだろうと、当時は自分に言い聞かせていたのだけれど……大学に入り、独り暮らしを始める頃になっても、それは変わらなかった。
それは気品というものよ――私が十歳の頃に亡くなった祖母はそう言っていた。気品ある雛人形。それは受け継いできた彼女にとっても自慢だったのだろう。幼い私は「新しいのがいい」と駄々を捏ねて困らせたりもしたけれど。その翌年、祖母は急死した。人形店のパンフレットに突っ伏す様にして。
「ひな、今夜は泊まって行けるんでしょう?」母が訊いた。
「うん、大丈夫だけど……何?」
「お雛様。明日にはもう片付けるから、手伝って貰おうと思って。ひなだってちゃんとした仕舞い方とか、そろそろ覚えて貰わないとね。お母さんだってもう歳だし」そう言って母は苦笑いする。見た所具合が悪そうでもないけれど……不安が顔に出たのか、母は慌てて頭を振った。「ああ、別に死期を悟ったからなんて言うんじゃないからね。未だ未だ死ぬ気無いもの」そう言って、笑う。
私はほっとすると同時に、とうとうこの時期が来たのかと、やはり不安になる。
あの雛人形を、私が仕舞い、そしていずれは飾り付け……。
「緊張するなぁ」気を紛らわそうと、私は笑って言う。「時代のあるお雛様だもんねぇ。傷でも付けたら祟られそう」
馬鹿な事を言うもんじゃありませんよ――そう言って苦笑してくれる筈だった母は、しかしさも当たり前の様にこう言った。
「そうそう、だから気を付けてね?」
「……」私は黙って頷く事しか出来なかった。
かつて、私が困らせてしまった祖母。もしかして死の間際に彼女が見ていたパンフレットは、私の為の新しい雛人形の品定めだったのだろうか?
そして……だから……?
翌日、私は――丸で神事を行なう様に厳かな母の所作を、その一挙手一投足を注視した。
決して、傷など付けないように……。
無事にお焚き上げでもしてくれる寺社が見付かる迄は。
怖いけれど、大好きだった祖母の急死に関わっているとしたら……私は雛人形の細い目を、そっと、それでも目を逸らす事無く見返した。
―了―
雛祭前日に何でこんな話やねん(^^;)
でも、時代のある雛人形って……怖くないですか!?
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Re:無題
特に日本人形は怖い感じが……(((゜Д゜;)))
市松人形とかね~。元々身代わりとして厄を引き受けて貰う為のものだから……入り易いのかもね?(何が?)
市松人形とかね~。元々身代わりとして厄を引き受けて貰う為のものだから……入り易いのかもね?(何が?)
Re:こんばんは
うちも飾ってないっす(^▽^)
と言うか、ちゃんとした雛人形って、無い(゜△゜∥)
二人も娘が居ながら……うちの親って……(--;)
と言うか、ちゃんとした雛人形って、無い(゜△゜∥)
二人も娘が居ながら……うちの親って……(--;)
人形かぁ
日本人形は怖いですよね^^;雰囲気はありますが……いや、あるからかな?
でも、アンティークのビスクドールのほうがもっと怖いです←お前
どこを向いても所狭しと人形が並んだ館に入ったことがあるんですが、まだまだ小さかった私は、怖くて泣きそうでした……何かトラウマです。。
あ、それでも創作人形とかは好きなんですよ? えぇ勿論←説得力無し
でも、アンティークのビスクドールのほうがもっと怖いです←お前
どこを向いても所狭しと人形が並んだ館に入ったことがあるんですが、まだまだ小さかった私は、怖くて泣きそうでした……何かトラウマです。。
あ、それでも創作人形とかは好きなんですよ? えぇ勿論←説得力無し
Re:人形かぁ
人形は……やはり器ですからねぇ。何が入るか、入っているか解らない感が……(^^;)
所狭しと人形が並んだ館! それはホラーの舞台にもミステリーの舞台にも使えそうな(わくわく)
実際その場に居たら、怖いでしょうねぇ。
所狭しと人形が並んだ館! それはホラーの舞台にもミステリーの舞台にも使えそうな(わくわく)
実際その場に居たら、怖いでしょうねぇ。
うん、怖い気がする。
実家にも古いお雛様あったけど・・・捨てる事もなく、飾られる事もなく・・
それこそ、可哀想やし、怖い感じ(>_<)
女の子の節句なんやから、ファンタジーで今度はお願いしたいなぁ~☆
それこそ、可哀想やし、怖い感じ(>_<)
女の子の節句なんやから、ファンタジーで今度はお願いしたいなぁ~☆
Re:うん、怖い気がする。
お雛様、古くなっても捨てる訳にも行かないですよね(^^;)
人形供養してくれるお寺にでも奉納するか……。
境内に人形がずらりと並んでるお寺っていうのも、怖いけど☆
人形供養してくれるお寺にでも奉納するか……。
境内に人形がずらりと並んでるお寺っていうのも、怖いけど☆
こんにちは
ちょうどさっき、そんなような話をしてました。
もう10年も出してないから、開けるのが怖いと。虫食いにあってるんじゃ……という意味でも、そのためにこれみたいに祟られそう……という意味でも、って(苦笑)
我が家は3姉妹ですが、大きな雛壇はありません。こじんまりと、お内裏様とお雛様の置物だけ。
子どもの頃はやっぱり大きいものが欲しかったのですが、あとあと考えると小さくてよかったなぁと思います。
もう10年も出してないから、開けるのが怖いと。虫食いにあってるんじゃ……という意味でも、そのためにこれみたいに祟られそう……という意味でも、って(苦笑)
我が家は3姉妹ですが、大きな雛壇はありません。こじんまりと、お内裏様とお雛様の置物だけ。
子どもの頃はやっぱり大きいものが欲しかったのですが、あとあと考えると小さくてよかったなぁと思います。
Re:こんにちは
虫食いも怖いですね(--;)
大きな雛壇、手入れが大変だろうなぁ。それこそ出すのも億劫になりそうだし(苦笑)
大きな雛壇、手入れが大変だろうなぁ。それこそ出すのも億劫になりそうだし(苦笑)
こんにちは
うち、これだわ。(笑)
昭和初期の頃に作られたのだと思う。
うちって、昔は大臣とかが来るような立派な料亭だったそうで、骨董が一杯あった。
戦争なんかで没落したんだけどねぇ。
雛人形は姉貴が持っていったけど、どうしてるのかなぁ?
売っちゃったかも。
五月人形も残っているけど、こっちのは不完全で、普通のじゃなくて、加藤清正とか特定の人物を象った物らしくって、お金をかけた立派なものだったので、欲しいって言われて、何かのお祝いとかに、良く人に上げたりしていたらしい。
共働きで、殆ど家に人が居た事の無い家だったんで、殆ど飾られたこと無いんだけど、一度我侭言って飾ってもらったことがあったかな。
結構、痛んでたよ。
うわぁ~、なんか怖くなってきたぞ。(汗)
昭和初期の頃に作られたのだと思う。
うちって、昔は大臣とかが来るような立派な料亭だったそうで、骨董が一杯あった。
戦争なんかで没落したんだけどねぇ。
雛人形は姉貴が持っていったけど、どうしてるのかなぁ?
売っちゃったかも。
五月人形も残っているけど、こっちのは不完全で、普通のじゃなくて、加藤清正とか特定の人物を象った物らしくって、お金をかけた立派なものだったので、欲しいって言われて、何かのお祝いとかに、良く人に上げたりしていたらしい。
共働きで、殆ど家に人が居た事の無い家だったんで、殆ど飾られたこと無いんだけど、一度我侭言って飾ってもらったことがあったかな。
結構、痛んでたよ。
うわぁ~、なんか怖くなってきたぞ。(汗)
Re:こんにちは
ほほぉ。なかなか由緒ある御家だったのですね。
骨董品……やっぱり何だか色々と謂れがありそうで……面白そうですね♪
骨董品……やっぱり何だか色々と謂れがありそうで……面白そうですね♪
Re:こんばんは☆
付喪神……確かに古いモノには憑いていそう(^^;)
雛人形を仕舞った押入れの奥からお囃子が聞こえてきたりしませんか……?(←おい)
雛人形を仕舞った押入れの奥からお囃子が聞こえてきたりしませんか……?(←おい)
Re:こんばんは♪
リアル過ぎる人形も怖い。雛人形ってお顔を見るとそんなにリアルな訳でもないんだけど……やっぱり怖い(^^;)
猫のぬいぐるみは和みますね~♪
猫のぬいぐるみは和みますね~♪