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「ええっ? 本当に覚えてないの? この小夜お姉ちゃんの事」
三年振りに会った従姉だという少女にそう言われ、啓太は途惑いがちに頷いた。
親戚同士が集まったこの日、以前にお年玉をくれた伯父や伯母、遊んでくれた従兄弟達の顔はそれとなく覚えているのだが……目の前の少女の顔だけは、記憶になかったのだ。
「酷いなぁ。三年前のお正月、御節に飽きたってごねる啓太君にホットケーキ作ってあげたじゃない。覚えてないの?」苦笑しながら、その女性――父方の伯父の娘で、小夜と名乗った――は言い、啓太の頭をわしわし撫でる。「薄情者ぉ」
「ごめんなさい」取り敢えず、謝る啓太。
「まぁ、いいわ。あの頃は六歳だったっけ? 啓太君。大きくなったわねぇ。私が年取る筈だわ」そう笑うが、彼女も未だ中学に上がる前だと言う。
という事は三年前当時は八、九歳か――啓太は知り合いのお姉さんの顔をつらつら思い出してみるが、やはりその中に彼女と思しき顔はなかった。しかし確かに、駄々を捏ねて、誰かにホットケーキを作って貰った覚えはあるのだ。それが美味しかったか、そして作ってくれたのが誰だったのかがまた、思い出せないのだが。
自分は薄情なのだろうか、と啓太は唸る。幼い頃の事とは言え、多分迷惑を掛けただろうに、覚えていないなんて。
どうにか思い出そうと首を捻っていると、小夜は冷たい手で啓太の頬を両側から挟んで彼の目を正面から捉えて、言った。
「無理に思い出さなくていいのよ、啓太君。寧ろ、思い出しちゃ駄目」
じっ……と、瞬きさえも止めて、彼女は啓太の目を見詰める。
どこか異様な色を帯びたその目に、啓太はたじろいだ。そして、以前にもこの目を見た様な気がする、と思った。だとすればやはり彼女とは会った事があるのか。そして今の様に見詰められていた……?
しかしもう少しで思い出そうかという時、彼女はふっと啓太から手を放した。視線が、逸れる。
「思い出さない方がいいのよ」そう、呟く様に言って、彼女は離れて行った。
夜になって、夕食を終えると大人達は思い出話に花を咲かせながら酒を飲み始めた。
子供は寝る時間だぞ、と伯父の一人が笑いながら言ったが、小学生の啓太を除き、他の従兄弟達は未だ未だ寝る心算はない様だったし、父達も黙認する様だった。仕方なく、就寝の挨拶をして、啓太は宛がわれた部屋に引き取った。
「今年は平和な正月だなぁ」伯父の、そんな言葉を背にしながら。
今年は平和、という事は平和じゃないお正月もあったんだろうか――湯たんぽで温められた布団に潜りながら、啓太は考えた。寝ろと言われて寝られるものでもない。
此処に来るのは三年振り、そしてその時には何もなかった筈だが……何も、なかった? 本当に?
昼間の、小夜の目がちらついて眠れない。
思い出さない方がいい? 何を?
「僕は何を……? 僕の記憶の中に何が……?」我知らず、啓太は呟いていた。
思い出しちゃ駄目――小夜の声が耳に蘇る。
彼女は何かを隠しているのだろうか。そしてそれを、啓太は知ってしまったのだろうか。だからこそ啓太は――忘れたのだろうか? 彼女に関する全てを。
しかし一体何を……?――考える内、啓太は眠りに就いていた。
そして翌日、思い出した。
昨夜、寝室に行くよう言われた子供は自分一人だった事を。小学生――中学に上がる前だと言っていた、小夜は? 彼女はいつの間にか、居なくなっていたのだ。
彼女の父に当たる伯父は居た。伯母も。
訝しく思って、啓太は母に尋ねた。小夜は何処に行ったのかと。
「啓太……」困り顔で、母は言った。「あんた……思い出したの? 小夜ちゃんの事」
「思い出せないんだ。だから聞きたいんだよ」
「……小夜ちゃんは三年前に、あんたにホットケーキを作るんだって言って、コンロを使っていて……」
焦げ臭い臭いを、嗅いだ様な気がした。それは幻だったのか、記憶から生じたものだったのか。
だが、それが判然とする前に、不意に傍らの電話が鳴り、啓太は母と共に飛び上がってしまった。
その驚き様が気恥ずかしかったか、微苦笑しながら、母は話を中断して受話器を取った。だが、直に不審気に眉を顰める。
「おかしいわね。何も言わないわ。悪戯電話かしら?」そう言いながら、彼女は受話器を置いた。
しかし、離れていたにも拘らず、啓太の耳にははっきりと、声が残っていた。
「思い出しちゃ駄目」と言う、小夜の声が。
―了―
寒い寒い☆
取り敢えず啓太君が駄々捏ねた所為っていうのは、忘れていいよ、と。
う~ん、イマイチ釈然としないなぁ。
思い出させたかったのか、出させたくなかったのか?
目の前に現れなければ、思いだしようも無かった訳だし・・・。
ところで、生けていれば、今年は高校に上がる前ぐらいってことかな?
啓太の我が儘の所為で自分が……というのは、幼い啓太の為に忘れて欲しかったみたいだけど。
あ、今回は普通に(?)成長する幽霊さんです(^^;)
幽霊の目撃談でも成長していたり、していなかったり色々なので……本当の所、どうなんでしょうね?
ちょっと解り難かったですね☆